デジモンエタニティ 作:LOST
砂浜を何かないか探索していた太河達。
彼等は不思議なものを見つけていた。
「遠くから見るとただの岩礁かと思ってたけど……これ……」
岩礁かと思われていたそれは、黒く巨大な『箱』が無数に積み上げられてできたゴミ山だった。
その『箱』はこの世界に来る前にも時々目にすることのある『箱』ではあった。だが、砂浜というこの場には決してマッチしない『箱』であった。
「これって、あれだよね?スパコンって奴?」
太河がそう言うと渚沙がコクリと頷いた。
「……だと思う……テレビで見たことある……」
「だよね……なんでこんなものが……それにこんなにたくさん」
太河達の目の前にあるのは一つ一つが小型自動車程もありそうな巨大な『スパコン』であった。それらのスパコンはテトラポットのように砂浜の上に積み上げられ、そのまま桟橋のように海の方へと突き出ていた。
それは誰かが意図的に積み重ねたといゆよりも、本当に『流れついた』かのような無秩序な『箱山』であった。
太河はそのスパコンの岩礁に足をかけ、その上に登っていく。
「おい、大丈夫なのか?」
下からレオルモンが心配そうな声をあげる。
太河はスパコンの上に乗って、何度かその場で足踏みをして強度を確かめてみた。
スパコンの側面を踏むとプラスチックがしなるような感覚があったが、踏み抜いてしまいそうな脆さは感じなかった。
「大丈夫みたいだよ。渚沙も登ってきて」
「……うん」
渚沙は目の前のスパコンに手をかけ、ゆっくりと身体を持ち上げていく。
太河は彼女の足取りが安定しているのを見届けてさらに上へと登っていく。
「たいが、まってよ!う~~~ん」
「はい、アグモン、つかまって」
「ありがと、たいが」
太河はよじ登ろうとしているアグモンに手を貸して上に引っ張り上げた。
その後ろでは渚沙がレオルモンに手伝ってもらいながら上がってくる。
彼女を手伝っても良かったのだが、渚沙もゆっくりとだが順調に登ってきているので太河は先に進んで安全を確認することを優先した。
太河はスパコンに手をかけて体重を乗せ、引っ張ったり押し込んだりしながらルートを確保する。
そしてそのコースを辿るように渚沙も続いてくる。
そして、太河はついにスパコンの『岩礁』の上にまで登り切った。
岩礁の向こう側にはこちらと同じように砂浜が続いているだけで民家の1つもない。
「まぁ、そう簡単にはいかないよね……」
一山越えればまた別の世界が広がっているんじゃないかというわずかな希望。
太河もそれが本当に僅かな確率であると予想していたのだが、やはり落胆はある。
海という場所ならば人がいるかもしれない。
人がいるなら織原の手がかりが掴めるかもしれない。
そう思っていたのだが、世の中そう簡単にはいかない。
だが、そんな気持ちを太河は胸の中に押し込んだ
なにせ今は『喜ぶべき瞬間』なのだ。
この『箱山』を上り切った渚沙は頬を興奮で赤く染めながら自分達が踏みしめているスパコンに触れていた。
「……やっぱり、これ……本物のコンピューター」
太河も彼女の気持ちが高揚するのもわかる。
なにせこれはこの世界に来て初めて目にする機械文明の痕跡なのだ。
「うん、間違いなくコンピューターだ。壊れてるとは思うけど」
「……でも……一応、この世界に人間がいる証拠になる……これだけの量のスパコンを生産できるなら……必ず工場に製作ラインがある……」
渚沙は鼻息を荒くしながらそう言った。
推理小説が好きだと言った彼女はこういった、摩訶不思議な存在に非常に興味をそそられるのだろう。
「……私……向こうも見てくる」
渚沙はそう言ってスパコンの上を次々と飛び移って海の方へと向かって行った。
「渚沙!気を付けてよ!」
一応、声をかける太河であるが彼女はもうスパコンを調べることしか頭にないのか、一切振り返らなかった。
そんな彼女に代わり、片手をあげたのは常に一緒にいるレオルモンの方だった。
「安心しろ!落ちそうなら私が捕まえておく!」
「頼んだよ!」
手を振って見送る太河。
そんな太河を見ていたアグモンがふとした疑問を口にした。
「たいがって面倒見がいいねぇ」
「まぁね。一応、弟がいたから。って、渚沙を妹扱いしたら怒られるよ」
「『冗談』……で、いいんじゃない?」
「確かに」
太河はアグモンとクスクス笑い合う。
それにしても、アグモンと渚沙は会って数日のはずなのに、彼女のキャラが既に『冗談キャラ』として確立しかけているのはいかがなものなのだろうか。
渚沙は気にしないどころか、誇らしげな顔をするような気もするが。
「とりあえず、ここまで来たんだし向こう側にも降りてみようっか。もしかしたら、何か発見があるかもしれない」
「うん!」
そして、太河とアグモンは次のスパコンへと足をかけた。
だが、その『スパコン』は固定が悪かったのか、軽く傾いて『ガタン』と大きな音をたてた。
「うおっと。やっぱり不安定だな」
「僕が先に行こうか?」
「そうした方がいいかな」
もし何かあった時に、手足の長い太河の方がアグモンを助けやすい。
「アグモン、気を付けてね」
「うん」
アグモンはスパコンの端に腰かけ、次の足場に恐る恐る足を乗せていく。
太河は念のためにアグモンの手をいつでも握れるように構えていた。
そして、アグモンがゆっくりとスパコンの『岩礁』を降りる。
だが、再びスパコンが『ガタン』と音を立てた。
その振動はスパコンの『岩礁』を伝達し、海面にわずかに泡を立てる。
その時だった。
突如、海辺から巨大な魚影が躍り上がった。
水面から高々と跳ねたその魚影は岩礁の山よりも遥かに高く跳躍し、太河とアグモンを眼下に捉えた。
その魚影は間違いなくシーラモンのものだった
「『ヴァリアブルダーツ』」
シーラモンは狙うべき的を定め、鋭いダーツを飛ばす。
「たいが!危ない!」
いち早く気づいたアグモンが太河の前に飛び上がった。
アグモンの爪はダーツを的確に弾き落とした。だが、アグモンは相手の攻撃を防ぐだけで精一杯であった。
シーラモンは空中で捻りをくわえながら再び海面へと着水した。
「な、なんだ!?」
太河が海を見ると、水面の間に紅い目が見えた。
「あれはデジモン!?アグモン!見えてる!?」
「うん!!見えて……あ、あれ?どこ行った?どこいっちゃった!?」
「くそっ、潜られたか!」
太河とアグモンが目印にした蘭々と光る紅色の瞳は波間の奥へと消えていた。
太河は海面から遠い『岩礁』の上で敵を見つけることは困難だと判断した。太河は海辺に降りる為に隣のスパコンへと飛び移った。その衝撃でスパコンが揺れる。
「『ヴァリアブルダーツ』」
「えっ!?」
再び水中から飛んできたダーツ。それは完全に太河を狙い撃ちにしていた。
「たいが!こっち!!」
アグモンが太河を引き寄せ、スパコンの隙間に身を滑り込ませた。
お陰で間一髪のところで『ダーツ』を回避できた。
「あっぶね。アグモンありがと」
「どういたしまして、たいがはそこにいて!僕がなんとかする!」
アグモンが反撃とばかりに隙間から飛び出す。
相手は既に水中であるが、牽制の為に攻撃をしかけようと口を開いた。
「『ベビー・・・ふれいむ』・・・あれ?」
しかし、口から出たのは火の粉のような燃えカスだけ。
隙だらけのアグモン。それを逃すシーラモンではなかった。
「『ヴァリアブルダーツ』」
「あわわわわ・・・」
「アグモン!何やってんだ!!」
今度は太河がスパコンの隙間にアグモンを引きずり込んだ。
太河は隙間の薄明りの中でアグモンの身体を確かめる。
「アグモン、どうしたんだ?どこか怪我でもしたのか?」
「ごめん……おなかすいて……力が出ない」
「えっ!?それじゃあもしかして進化も……」
「できないよ……」
そんな話をしている間にも太河達が隠れている場所に向けて次々とダーツが放たれていた。
「『ヴァリアブルダーツ』『ヴァリアブルダーツ』」
「くそっ!これじゃ、出るに出られない」
太河達のいる場所からでは敵がどの方向からどのタイミングで攻撃をしてきているのかまるでわからない。
だが、このままここに留まるのも危険だった。
今のところ、シーラモンのダーツはスパコンに阻まれて弾かれてはいる。だが、その中の何本かはスパコンのプラスチックの側面を打ち抜き、内部の配線を引きちぎって火花を散らせている。ダーツがスパコンの防壁を突き破り、太河達に突き刺さるのも時間の問題だった。
密閉された空間。そこに迫る攻撃。そんな場に留まり続けることは恐怖以外の何物でもない。
太河にかかるプレッシャーは半端ではなかった
こんな場所にはいられない。一刻も早くここを出たい。
そんな酷い焦燥感が太河に襲い掛かる。
ともすればパニックに陥りそうな状況だった。それでも、太河は精神力を総動員してその場で身を縮こまらせた。
今、外に飛び出せば間違いなく
相手がデジモンであるなら、疲れもするし、隙も見せる。チャンスを待つんだ。
太河はダーツが突き刺さる音のタイミングを計り、ベストな瞬間を探ろうとする。
その時だった。
一際大きな水飛沫が沖の方であがった。
「なんだ!?」
太河がスパコンの隙間から外の様子へと目を向ける。
スパコンの桟橋の先端。そこでスパコンの一つが海中に落下していた。
相手の攻撃かと思ったが、シーラモンは今もこちらにダーツを放ち続けている。
ということは、自然落下か、それとも渚沙がスパコンの均衡を崩してしまったのか。
その渚沙とレオルモンは岩礁の先の方で沈んでいくスパコンを見下ろしていた。
とりあえず、2人に怪我はなさそうだ。
ホッと息をつく太河。
その時、太河は外の攻撃が止まっていることに気が付いた。
「たいが!攻撃がやんでる!僕が先に出るから、後から来て!!」
「うん!!」
アグモンが足をばたつかせながらスパコンの外に這い出ようとする。
だが、短い手足で苦戦しており、太河はアグモンおお尻を持ちあげて外へと押し出した。
「ありがと、たいが」
「いいから!外はどうなってる!?」
「うん、大丈夫だよ。奴は……あれ?シーラモンはどこ行ったんだ!?」
太河も隙間から這いだし、海面へと目を向ける。
だが、先程の紅色のギラつく瞳がみつからない。
深く潜ったのだろうか?それとも別の場所に移動したのだろうか?移動するならどこだ?
太河は必死に頭を巡らせる。
この状況で『最悪』な展開になるとするなら敵がどう動いた場合だ?
「……まさか!」
太河は目線を沖合の方へと滑らせる。
そして、太河が思いついた『最悪』が現実になりかけていることを悟った。
シーラモンの魚影が渚沙達のいる沖合へと向かっていたのだ。
「まずい!渚沙ぁあああ!逃げろぉおおおお!!」
だが、海風と波の音が太河の声を攪乱する。
渚沙はわずかに聞こえた声に反応して振り向きはしたが、その意味までは聞き取ることができずにいた。
渚沙は大きく手招きする太河の方を見て首を傾げる。
「……なんだろ?……なんだと思う?レオルルモン」
「うむ……わからん。だが、なんだか焦っているな。緊急事態かもしれん今すぐ戻った方が良さそうだ」
「……うん……私もそう思う」
帰る意志を伝える為に手を振り返す渚沙。
だが、そんな悠長なことをしている時間はないのだ。
太河は再び声を張りあげた。
「下だぁ!したを見ろぉおおお!」
「……え?……下?」
渚沙が自分の足元を見た直後、スパコン岩礁が大きく揺れた。
「……うわ……おっと」
バランスを崩す渚沙をレオルモンが咄嗟に支えた。
「なんだ!?海になにかいるのか!」
その時、再び強烈な衝撃が岩礁を襲った。スパコンを支えていた土台が打ち崩れ、積み重なっていたスパコンが崩壊する。大量のプラスチックの塊が轟音と共に土石流のように海へと流れ落ちていく。渚沙とレオルモンはその流れの真っ只中にいた。
「くっ!これは!!」
「……まずい」
この状況では岸に戻ることなど不可能に近い。
かといって、このままではスパコンの雪崩に巻き込まれて怪我では済まない。
もはや一刻の猶予もない。
ならば逃げ道は一つしかない。
レオルモンは海を指差した。
「渚沙!海に飛び込め!雪崩に巻き込まれないようできるだけ遠くにだ!」
「……う、うん」
腹を括っている時間すら惜しみ、渚沙はレオルモンに言われるがまま全力で海へと跳躍した。
その直後、渚沙が今まで立っていたスパコンが海に向かって滑り落ちていく。まさに危機一髪。渚沙とレオルモンは十分に離れた位置に着水する。その背後では次々とスパコンが落下していって海面に白波を立てていた。一歩でも逃げ遅れてたら、あれに巻き込まれていた。
シャオと善久が海辺に戻ってきたのはその直後だった。
2人は砂浜を見渡し、すぐさまシーラモンが攻撃をしかけてきていることを悟った。
その2人を見つけ、太河が声を張り上げた。
「2人共!渚沙が海に落ちた!」
その情報にシャオと喜久がほぼ同時に歯を食いしばった。
「シャオ!あそこだ!」と、善久が岩礁を指刺しながら走る。
「ああ、わかってるよ!」と、シャオが加速する。
二人は息を整える暇もなく、砂浜を一直線に走りながら服を脱ぎ捨て、そのまま海へと飛び込んだ。
「ま、待ってくれよ~・・・」
ガジモンが遅れてやってくるが、シャオは立ち止まらない。
怪我をしているガジモンを海に連れ込んでも足手まといにしかならないと思っていたのだ。
善久はパートナーのいないシャオに声をかけ、岩礁の方を指差した。
「シャオは木村さんを!僕はシーラモンをなんとかする」
「わかった!無茶すんなよ!」
渚沙が飛び込んだ方向へ泳いでいくシャオ。
彼女はまだ海面に浮かんで来ていない。
あいつ、泳げたっけ?
シャオは焦ったように周囲を見渡した。
その直後、背中に渚沙を乗せたレオルモンが浮かんできた。
「ぷは!」
「おい!大丈夫か!?」
「……海水飲んだ……気持ち悪い」
いつもの無表情でそう言った渚沙。
どうやら、怪我は無いらしかった。
「ったく……とにかく陸に行くぞ!泳げるか!?」
「……バタ足ならできる」
「……」
「……冗談じゃないよ」
「だぁ!くっそ!レオルモンは!?」
「犬かきならできる」
「お前どう見てもネコ科だろ!!」
本当に助けに来てよかったと心から思ったシャオだった。
シャオは渚沙とレオルモンを背中に捕まらせ、平泳ぎで陸を目指した。
「……シャオ……泳ぐの遅い……」
「てめぇ後で覚えてろよ!」
海辺では岩礁から降りてきた太河が大きく手招きしていた。
「シャオ!急いではやく!敵が来るよ」
シャオにはシーラモンがどこにいるか確認している余裕はない。
シャオにできることはは言われるがまま、大きなストロークで水をかくことだけだった。
そして、一人でシーラモンの注意を引く為に残った善久。
善久は水面を何度も手で叩いてシーラモンを挑発する。
「きしゃあぁっぁ!」
案の定、シーラモンが水面から飛び出した。
「待ってたよ!」
次の瞬間、善久の背中から飛び出す影。
ベタモンだ。
「『電撃ビリリン』」
直撃だった。電撃の直撃を受けたシーラモンが海面に大きな音をたてて落ちる。
だが、一発程度では効果がないことは既に知っている。
それでも、シャオが渚沙を連れて海に向かう時間ぐらいは稼げたはずだった。
役割を終え、陸に向かおうとする善久。
善久が砂浜に顔を向けると、ちょうどシャオ達が岸にたどり着いたところだった。
「……よかった」
皆が善久に向かって手招きする。
善久は了解の意を伝えるために片腕をあげた。
その直後だった。
善久はすさまじい力で海中に引き込まれた。
陸の上で悲鳴があがる。
「善久!!」
善久を追いかけて海に潜ったベタモン。
ベタモンはその時、恐ろしいものを見た。
先ほどのシーラモンを真正面から見たのだ。
シーラモンの目は脅威を覚えるほどに爛々と輝き、半開きの口から漏れる泡は狂気さえも感じ取れる。
そして何より、全身に電撃を受けた焼け焦げを残しながら、それでもなお一切動きが鈍っていない。
まるで自分の身体のことなど考えていないかのようだった。
そのシーラモンは爪のような胸ビレで善久の足を掴み、海中に沈めていた。
「選ばれし子供……コロス!」
海中でその声を聞いたベタモン。
『選ばれし子供』の意味はわからない。だが、そこに含まれる殺意は間違いなく本物だった。
「やめろぉぉ!!」
ベタモンはシーラモンに向けて突っ込む。
「『ヴァリアブルダーツ』」
水中を突き進んでくるダーツ。
それは、空中を飛んできた時の数倍の速度を持っていた。
ベタモンは反応すらできず、あっけなく迎撃されてしまう。
「う……あ……」
善久の息はもう続かない。
「……ベタ……モン」
善久が海面を見上げると、ひっくり返って水面に浮かんで行くベタモンが見えた。
伸ばした手はもう届かない。
明るい水面が徐々に遠ざかる。善久は暗い海底へと沈んでいった。
「……よ、よしひさ……よしひさ……善久!」
ベタモンの身体が動かない。もう声をあげることしかできない。
「善久!善久!よしひさぁーーー!!」
「ベタ……モン……」
その時、海底の暗闇を大きな光が切り裂いた。
【ベタモン・・・進化ーーーーーー】