デジモンエタニティ   作:LOST

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到着!ここは一体どこなんだ!? Bパート

ふと、草木の香りがした。湿った土の匂いもする。

 

濃厚な自然の臭いだ。

 

閉じた瞼の向こうから木々が葉を揺らす音が聞こえてくる。目に入り込もうとしてくる光は木漏れ日のようだ。

 

そういえば、昔キャンプ場に家族4人で行ったこともあったっけ。

まだ、母さんが生きていて、英雄(ひでき)もまだ小さかった。

今となれば良い思い出だ。

家に帰ったら久々にアルバムでも見返してみようかと太河は思った。

 

だが、そこまで考えて太河はふと疑問を感じた。

 

あれ?僕はなんで寝ているんだろうか?

 

太河はゆっくりと目を開けた。

 

「……」

 

太河は森の中にいた。

何度か瞬きを繰り返す。

景色は変わらない。

 

「……え?」

 

そして、起き上がろうとして、自分の上に何かが乗っかっているのに気が付く。

 

「……」

 

ピンク色の球体。驚いたことにその球体には目と口があった。

 

「……」

「……」

 

目が合う。球体の上部についた耳のような触手が風に揺られていた。

 

「……たいが…」

「え?」

「たいが~!たいが!たいがだぁぁ!」

 

そしてその球体は笑顔で太河の顔に飛びついてきた。

顔がマシュマロのような肉感に包まれる。

 

「うぶっ!」

「たいが!たいが~!ずっと待ってたんだよ!!」

「うぐぐっ!」

 

太河は顔にくっついたその球体をなんとか引き離す。その球体は確かな重みと生き物のぬくもりがあった。

 

「たいが~!!」

「えっ!?なんで、僕の名前、しかも待ってたって……え!?」

「うん。ぼく、ずっとたいがが来るのを待ってた」

「いや、えっ?待ってた?ちょっ、ちょっと、待ってくれよ!」

 

太河は混乱する頭でなんとか状況を整理しようとする。

とりあえず、太河はこんな森に来たことはない。そして、この生き物にも会ったことはない。

今日は織原の聞き込みに出るつもりで、学校帰りで、喧嘩に巻き込まれて、なんか降ってきて、そして気がつけばここにいた。

 

「ダメだ……わけわかんねぇ……」

 

頭を抱える太河。

大河は自分の隣で見上げてくる生き物へと目を向けた。

 

とにかく、意思の疎通ができるなら何か情報が得られるかもしれない。

 

「……えと……きみの名前は?」

「ぼく?ぼくコロモン。たいがのパートナーだよ!」

「コロモン?パートナー?」

「うん!たいがに会うのずっと待ってた」

 

見たことも聞いたこともない生き物だ。というより、なんでこの子日本語をしゃべってるのだろう?

 

「えと……コロモン」

「なにっ?」

「はじめまして」

 

そう言うと、コロモンはまた嬉しそうな顔になって太河の顔に向かって飛びついてきた。

コロモンの身体が柔らかいので痛くはないのだが、口と鼻が塞がれて苦しい。

 

「コロモン、ちょっ、ギブ、ギブ!」

「あっ、ごめん」

 

コロモンを引き離し、小脇に抱える。

コロモンは肘と腰の間に挟まる丁度良いサイズで、すっぽりと太河の体に密着した。

 

反対側の手でその頭を撫でる。コロモンの手触りは綺麗に磨かれた餅のようで、なかなかに撫でごごちがいい。

 

「へへへ……」

 

太河に撫でられ、コロモンは気持ち良さそうに目を細める。

とにかく、この摩訶不思議で奇妙奇天烈な生き物は太河に心を許しており、危害を加えてくる様子はなかった。

 

太河はひとまず周囲を見回してみる。

 

周囲は明るい森の中だ。だが、目に見える範囲に太河のよく知る植物は生えていなかった。

南国風の巨大な花をつけた大きな植物や、歪な形の葉を茂らせる植物があちこちに生えている。

 

そんな木の隙間に太河は見覚えのある鞄を見つけた。

 

「あっ、鞄!」

 

慶風学園指定の学生鞄。まだ買ったばかりで新品同様の鞄に太河は駆け寄った。

太河がまず最初に確認したのは大事な御守りである水泳用のゴーグルだった。

こんなものを盗んだりする人はいないだろうが、彼にとっては大事なお守りだ。

 

太河はゴーグルを鞄から外して自分のベルトに縛りつける。

これなら、失くすことはないだろう。

 

そんな時、森の中から声がした。

 

「おっ、太河じゃねぇか」

「シャオ!」

 

木々の陰から見知った顔が見えて、安堵の息が溢れる

いくらコロモンが無害そうでも、こんな森の中で変な生き物と二人っきりなのはさすがに不安だった。

 

そんなシャオは太河に怪我がなさそうなのを確認し、視線をコロモンへと移した。

 

「で、お前も丸いの連れてるんだな」

「う、うん。コロモンっていうんだと」

「ほぉん…」

 

シャオは膝を曲げてしゃがみ込み、コロモンに視線を合わせた。

 

「お前がコロモンか?」

「うん。僕コロモン!」

「なるほどな……パグモンの言ったことは本当だったってわけだ」

 

シャオが自分の足元に声をかけていた。

太河が視線を下げると、シャオの足下から紫色の体毛に覆われた生き物が現れた。頭の両側にはウサギのような耳がついており、その口元もウサギに似ている。だが、細い目元が悪戯を企む猫を思わせた。

 

「オイラが嘘つくわけねぇだろ。ここにはオイラ達みたいなのがいっぱいいるんだ」

「みたいだな」

 

シャオは顔を上げ、目を丸くしている太河を見上げて苦笑いを浮かべた。

 

「こいつはパグモン……よくわかんねぇけど。俺のパートナーらしい」

「おっす!オイラ、パグモン!よろしくな!」

 

パグモンはハキハキとした喋り方でそう言った。

パグモンにコロモン。このわけのわからない生き物のことも疑問だったが、太河はそれよりも先に聞いておかなければならないことがあった。

 

「シャオ、ここは一体どこなんだ?」

「さぁな。少なくとも慶風学園の敷地内じゃねぇことは確かだ」

 

シャオはそう言って腰を伸ばし、辺りを見渡す。その顔には軽薄な笑顔は見られない。彼の顔に走る強張りが緊張感を伝えてきていた。

 

「横浜周囲は割と歩き回ってるが、こんなデカイ森もねぇしな…マジでわけワカンねぇ。俺は夢でも見てんのかよ」

 

太河もそれは思ったが、ここまで鮮明に匂いや色を感じる夢を太河は見たことがない。白昼夢みたいなものかとも期待したが、コロモンを抱えた腕の感触が脳が見せている幻影とはとても思えない。

もし、自分達がファンタジー小説のようにどこか別の場所に飛ばされたというのなら、思い当たる節は一つしかない。

 

「ねぇ、シャオ。あの時のこと…覚えてる?」

「あの時って…体育館裏で雷が落ちて、水柱みてぇのがあがって、そこに吸い込まれて、気がついたら森の中…」

 

シャオと太河の記憶は一致している。

そして、思い至った結論も同じものだった。

 

「おいおい、まさかあそこにいた連中が全員この森に飛ばされて来てるってか?」

「その可能性は高いと思う。だったら出来るだけ合流した方がいいと思う」

 

太河の意見にシャオはあからさまに顔をしかめる。

 

太河はシャオがそういう態度を取るかもしれないとなんとなく予想していた。彼は集団行動を取るよりも、一人で自由きままに動くことの方が好きなのだ。だが、シャオはすぐにため息を吐きだして、あっけらかんと言ってのけた。

 

「しゃなない。さっさと探した方が良さそうだ」

「え、あ、うん。そうだね」

「なんだよ。何驚いてんだ?」

「あ、いや……反対するかと思ってたから。ほら、あそこにいたのってロバートとか士ノ道さんとか……」

「そうだな……まぁ、あいつらのことはあんまり好きじゃねぇのは確かだ」

 

シャオは盛大に鼻を鳴らした。

 

「だけど、この異常事態で選り好みするほど馬鹿じゃねぇよ。下手したらこの森でサバイバルだぞ。一人でなんでもこなせるわけがねぇ」

 

『サバイバル』

 

シャオに改めてそう言われ、太河は息を飲む。

 

この森がどれだけ広大なものなのかわからない。人がいる場所にたどり着けるまで、何日かかるかわからない。

水は?食料は?寝る場所は?

太河の胸にこれから起こるかも知れない不安の数々が具体的な形となって浮かびあがってきていた。

 

「たいが」

 

突然名前を呼ばれ、太河の身体がビクリと動く。

 

「たいが」

「コロモン…どうしたの?」

 

太河が脇に抱えたコロモンを見下ろす。

そこではコロモンが大きな顔で満面の笑みを作っていた。

 

「たいがは1人じゃないよ!たいがには僕がついてるんだから!」

 

太河は一瞬呆気にとられる。

だが、コロモンの言葉は思った以上にすんなりと太河の身体に浸透していった。

太河はいつの間にか強張っていた肩の力が抜けていくのに気が付いた。

 

「そうだったな。コロモンは僕のパートナーだもんな」

「うん!!」

 

元気よく返事をするコロモンの頭を撫でる。

 

こんな小さな身体の変な生き物の言葉を信じるなんてどうかしてる。

 

太河は頭の片隅でそんなことを思っていた。

 

だが、コロモンに『僕がついてる』と言われたときに、胸の内に広がった心地よい温もりは決して錯覚ではない。理屈では計れないない何かがコロモンのことを信じるに足ると訴えていた。

 

そして、それは太河だけに限ったことではないようだった。

 

「シャオ!シャオにはオイラがついてるんから、そんな心配そうな顔すんなって」

「なんだよそれ、お前が頼りになんのか?」

「おうともさ!大船に乗った気でいてくれぃ!」

「はは、そうか。そいつはまぁ……ありがとよ」

 

シャオはしゃがみ込んでパグモンの頭を撫でている。

その顔にはいつのまにか穏やかな苦笑が浮かんでいた。

 

だが、そのホッとした空気もつかの間だった。

 

「ねぇ、なんか、変な音しない?」

「え?」

 

コロモンにそう言われ、太河とシャオは耳を澄ませた。

聞こえてきたのは木々が大きく揺れる音だった。それと同時に鳥が羽ばたくような音がして、頭上を鳥の影が幾つも飛んでいく。

それはまるで、何かから逃げているかのような飛び方だった。

 

「何か来んのか?」

 

シャオがその場で身構えた。

太河は頭の中で北海道で暮らした時の熊と接触した時の行動を思い浮かべていた。

 

「シャオ、いつでも走れるようにしておいた方がいいかも」

「ああ、俺もその方がいい気がしてきた……」

 

迫り来る足音は木々の揺れる音に飲まれて方向が絞れない。

どこから何が飛び出してくるかわからない緊張感が漂う。

 

そして、不意にコロモンとパグモンが何かに気づいて青ざめていた。

 

「あわわわわ…」

「うああああ…」

 

その様子にただならぬ気配を感じた太河は二人に声をかけた。

 

「どうした?二人とも」

「ご、ご、ご…」

「ご?」

「ゴリモンだぁぁ!!」

「え?」

 

刹那、森の奥から雄叫びがあがった。

 

「うぉぉおおおおおぉぉおぉ!!」

 

それと同時に、木々をなぎ倒しながら白い体毛のゴリラが現れた。普通のゴリラと違うのはその右腕に大砲のような機械がくっついてること。どう見ても、危険な生き物だった。

 

「うおぉぉぉおおおおぉぉ!!」

 

その大砲が夏希とシャオを捉えた。砲塔が不気味な唸り声をあげ、砲口に赤い光が収束していく。

 

「『エネルギーカノン』!!」

 

そして、砲塔の先から赤い光が飛び出した。

 

「危ない!」

 

コロモンが瞬時に肘から抜け出して太河に向けて飛びつく。

 

「避けろ!」

 

パグモンも同じようにシャオに体当たりする。

 

間一髪。

 

コロモンとパグモンが二人を押し倒した直後、二人が立っていた場所をエネルギー弾が通過していった。放たれたエネルギーは森の中を駆け抜け、一本の木の幹に着弾する。その直後、直径30cmはあった木が赤い光が閃光となって弾け飛んだ。猛烈な熱量が嵐のように吹き荒れ、衝撃波が砂利や木片と共に襲い掛かってくる。二人は目を腕で覆った。エネルギー弾の余波が収まり、二人が顔をあげると、エネルギー弾が直撃した木が跡形もなく消し飛んでいた。

 

二人にゾクリと肌が粟立つ感覚が走った。背筋に嫌な汗が一筋流れ落ちていた。

 

「たいが!に、逃げよう!」

「う、うん!」

 

太河はコロモンに急かされるように立ち上がり、走り出す。

隣ではシャオも駆け出していた。行く先などわからない。二人はただコロモンとパグモンが進む方向に走り出した。

 

「走って、早く!!」

「こっちだこっち!」

 

コロモンとパグモンの先導を頼りに森の中を走る。その後ろを木々をなぎ倒しながらゴリモンが疾走してくる。

 

一際大きな音が響いた。

 

後ろを振り返るとゴリモンが巨大な岩を粉々にしたところだった。

 

太河は走りながらコロモンに呼びかける。

 

「なんであいつは僕らを襲うんだ!?」

「わかんないよ。ゴリモンは気性が荒いんだ。嫌なことでもあったんだと思う」

「八つ当たりかよ!!」

「頑張って!もう少しで……そこ!そこの木の裏!」

 

太河達の左手に見えてきたのは巨大な倒木だった。

今でこそ枯れ果て、朽ちていくだけの倒木。だが、その大きさからはかつては凄まじい大樹であったことが伺えた。

横幅だけでも太河の身長を遥かに超え、あまりに巨大すぎてその全容が視界に収まらない。ただ、見えてる範囲から推測するに相当の長さがありそうだった。

 

だが、今の太河達にその巨木をつぶさに観察している時間はなかった。

 

太河達はコロモン達に急かされながら、木の裏に滑り込んだ。

そこには一人分ギリギリ入れそうな小さな隙間が開いていた。

 

「ここ!急いで!」

 

その隙間にコロモンが身体をねじ込み、太河とシャオが後に続いた。

倒木の中はウロになっており、広い空間が広がっていた。腐葉土と木材の匂いが合わさり強い森の香りがしたが、風通しが良いのか不快な感じはない。冷んやりとした乾いた空気の中、ところどころの隙間から日の光が差し込む光景は幻想的とも言えた。こんな状況でなければ、この秘密基地のような場所にトキメキを覚えたかもしれない。

 

だが、そんな素晴らしい場所にいようよ危険が迫っていることを忘れさせてはくれなかった。

 

太河とシャオの後からパグモンも身体を滑り込ませてくる。

 

「みんな!静かにしてて!」

 

コロモンに言われるまでもなく、太河もシャオも息を殺していた。

静まりかえった倒木の中。遠くからゴリモンの唸り声が聞こえる。

 

声はどんどん近づいてくるが、ある時を境に徐々に小さくなっていった。

ゴリモンが何かを破壊していく音も遠ざかり、そしてついには聞こえなくなる。

 

「行ったの……か?」

 

シャオが小さな声でそう呟いた。

 

「待ってて、オイラがみてくる」

 

パグモンがそう言って倒木の割れ目から頭だけを出して周囲を伺う。パグモンが首を振るたびにそのお尻がフルフルと揺れた。

パグモンは周囲に危険がないことを確認し、「うんしょ」という掛け声と共に頭を引き抜いた。

 

「もうだいじょうぶだ。ゴリモンはいっちまった」

「そっか、あんがとな」

 

シャオは戻ってきたパグモンを抱え上げ、躊躇いなく外へと出て行った。

その行動に太河は少なからず驚いた。いくらパートナーの言葉があったからと言って先程まで危険に満ち溢れていた場所に平然と足を踏み出していくことができる肝の太さ。大胆で大雑把なだけなのかもしれないが、少なくとも太河にはなかなか出来ない。

 

「おい、太河。何してんだ?出てこいよ」

「あ、うん」

 

シャオに急かされるように太河も外に出る。

倒木の外には何の変哲もない森が広がっていった。ただ、ゴリモンが通った場所だけが戦車にでも踏み荒らされたかのように無残な姿を晒していた。その元凶であるゴリモンの姿はどこにもなく、破壊音が微かにに響いてくるだけで周囲に危険はなさそうだった。

 

だが、危険が去ったからと言って根本的な問題が解決した訳ではなかった。

 

「ったく、ほんと、どうなってんだよ」

 

シャオが頭をかきながらボヤく。

 

「なぁ、太河、マジで俺たちは何処にきちまったんだ?白いゴリラは大砲ぶっ放してくるし、このちっこい生き物は俺たちのこと知ってるし。もう、わけわかんねぇよ」

「だね……」

 

もちろん太河にだってわかるはずがない。

 

人によってはパニックになってしまいそうな程の状況。

 

だが、不思議と太河は落ち着けていた。

 

「とにかく、わかんないから聞いてみようよ」

「聞く?誰に?」

「そりゃ……」

 

太河は足元のコロモンを見下ろした。

 

「ん?なぁに?たいが」

 

見上げてくるコロモンのつぶらな瞳。そんなコロモンと視線を出来るだけ合わせるために太河は膝を折った。

 

「あのさ、コロモン。ここはどこで、君達は一体なんなんだ?」

 

その質問にシャオの目も引き寄せられる。

コロモンは自分が注目されていることなどまるで気づいた様子もなく、さも当たり前のように答えた。

 

「ここはデジタルワールドのファイル島だよ。そして僕達は……」

 

その続きはコロモンだけでなく、パグモンも声をそろえて答えた。

 

「デジタルモンスター。略してデジモン」

「デジ……モン?」

「そうだよ、僕達デジモン」

 

デジモン?デジタルワールド?ファイル島?

 

新しいワードの登場。太河の疑問は解決などせず、謎は一向に溜まるばかりだった。

 

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