「はひー、ほんなに広いんか。うちも一回行ってみたいなキーウィ」
暗かった部屋の中に間接照明を一つ、その明るさよりずっと弾けた明るい声が響く。
寂しくて仕方ないホーリックスの口から出る話は故郷キーウィのことばかりだったが、見たことのない他国の話を聞くタマモクロスにとっては目を輝かすものばかりだった。
「山から谷間でずっーと誰もいない草原なの、でもでもたまに鹿が出てきて怖かったりするの」
「ごついなー、この写真のあっちの方まで家あらへんのか?」
「ないよ、真夏でも朝は寒くって10度いかないぐらいだけど走るのにはちょうどいいんだよ!! 気持ち良いの!!」
「ええなぁ」
ホーリックスが見せたのは封筒に詰めた故郷の写真だった。
綺麗に整理してファイリングする時間がなかったのか、2つある封筒にキーウィの山や川、その峰に咲く花、友達との写真と文字取りあふれんばかりの思いをつめた写真を次から次えとタマモクロスに見せては説明していた。
「ずっと山と谷と……ずっーと走れるの、ずっーとずっとあったかくって柔らかくって広くって、どこまでも走りたくなっちゃうの」
思い出した遠いまなざしに、タマモクロスは目を輝かせる。
「はぁぁぁええなぁうちも行ってみたいなぁ」
「タマモンおいでよ!! 大歓迎だよ!! キーウィはとっても良いところなんだよ……だからレースが終わったら……一緒に……」
弾んだ会話が細く途切れる、故郷を語りすぎた。
唇をかんだ顔がタマモクロスの隣で静かにうなだれる。
「やっぱり……さびじいよぉ……さみじぃ……」
思い出してしまえば、知らないこの土地はやっぱり寂しい。
一度は止まった涙が懲りもせず溢れる顔にタマモクロスはタオルを前に出した。
「寂しいよなぁ、実家離れるのは寂しい。うちもわかるで」
タマモクロスは嬉々として故郷を語るホーリックスを見て実感していた。
涙のホーリックスに優しい笑みを見せると強く手を握り返した。
「うちもそうやったで、実家からここに来る時……めっちゃ寂しかったわ」
「タマモンも?」
「そうや、ここよりずっと田舎でな。ホーリックスんとこみたいにひろない、ちっちゃい商店街とおっちゃんやおばちゃん達と、なんもない田舎や。せやけどそこが一番好きなんや」
大好きな故郷、互いが同じ思いを持っていたことで顔をあわせた。
トレセン学園では郷愁を語ることのないタマモクロスだったが、今日は素直に話していた。
話す理由もわかりやすい、目の前で泣いている海外から来たウマ娘が故郷恋しいというのだから、「情けないこと言うな」なんて言葉は出ない。
あんなに泣いていた、本当に寂しいと理解できるから。
いっときでも離れるのが寂しい故郷を、そこを背にしてここに来た。
夢の舞台に上がるために慣れ親しんだ街を後にした。
海を越えるというのは寂しさも倍増だろう、まして言葉もしれない人で溢れる土地での疎外感は強烈なものだ。
「わたしもキーウィ好き……応援してくれるみんなのために一生懸命走るの……でもわたしを応援してくれる人はこの国はいないの……すごく怖いの……」
「えっ怖いってなんでや?」
寂しいはわかったが怖いというのは理解の外だった。
タマモクロスはキョトンとした目でホーリックスを見たが、その表情に嘘は見えなかった。
ただ泣いている顔というよりも瞳の奥にある怯えは本物で思わず両手を取った。
「うちが応援したるで!! 寂しいもないし怖くもないで!!」 「でもタマモンはこの国のウマ娘でしょう、地元の子を応援してあげないといけないでしょう」
言われて気がつく寂しさの根源。
遠い遠い故郷、海を渡って大きな大きな大会にやってきた。
トレーナーとていう味方はいるだろうけど、レース場に入れば孤独な戦い。
自分を呼ぶ声がなかったらという恐怖は手に取るようにわかる。
だからわかるように取った手で立ち上がって宣言した。
「約束する!! うちはホーリックスだけを応援するで!!」と。
「悪いな、うちは今度レース……ホーリックス応援することにしたから」
はぁ?
中グラウンドに集まったイナリワン、スーパークリーク、オグリキャップは目の前で仁王立ちにて宣言したタマモクロスを見ていた。
夕暮れ時のグラウンドはすでに暗がりの幕を広げている。
冬の野外レーニングは早く切り上げるものだが、ここに揃ったメンツは今度のレース、ジャパンカップに出場するトレセン側のメンバーだ。
「えーと、タマちゃん、ホッリックスさんって大陸から来るウマ娘さんですよね?」
タオルをかぶって汗を拭くスーパークリークは口から煙を吐くほどの運動をこなしていた。
「ちゃうわ!! もうきとるよキーウィからきとるんよ」
とぼけた顔のクリークにタマモクロスも今しがた知った存在を語るも、私なりに立つイナリワンは口をへの字に曲げて間を割る。
「なんでいなんでぃタマ公。あたいらが出るのに無視すんのか? ああん自分でられんからて敵を応援するのか!!」
「敵とか言うなや!! 遠いところから……1人きりでこの国まできてんねん、誰かが応援してやらんと寂しいやんか!!」
「それで応援すると決めたのか?」
汗だくつゆだくで白いオーラをまとっているようにも見えるイナリとクリーリの中、一人だけ呼吸も静かなオグリキャップはいつものとぼけた声で聞いた。
「せや、わかるやろオグリ」
真面目なタマモクロスの顔にオグリキャップはただ「うん」と頷いた。
みんなわかっている、クリークもイナリも軽く頷く。
1人できた挑戦者に冷たく当たることを快いとは思わない仲間達。
「タマ公がそう思うなら力一杯応援したれ!!」
「タマちゃん、わたしたちも応援するよ!! 同じレースを走るものとして励ましまて!!」
くる大会に島国勢は地元であることを考えれば応援は十分にある。
海を渡ってきた同じウマ娘を「寂しくないように」応援したいというタマモクロスの思いは十分に伝わった。
2リッターの水を一気飲みしたオグリキャップは笑顔で、そして決意を込めて返事していた。
「タマ、いっぱい応援してあげろ、でもレースは譲らないわたしが勝つから」
オグリの決意にイナリワンが吠えてクリークが笑う。
「てやんでぇい!! あたいだって勝ちに行くからな!!」
「わたしもですよ!!」
「おおう!! みんながんばれ!! ホーリックス応援する!! でもみんなのことも期待しとるで!!」
違いが気合で振りあげる拳。
ジャパンカップ、その日は迫っていた。
松の内にできることをして勘を取り戻したたいのです。
あと1わでホーリックスは終わりかな。