筆者は病気ですね。
そしてあまり知られていないウマ娘の話なので、気が向いた方が読んでくだされば嬉しいです。
タンタンタンタンタンタン。
乾いた拍手というか手拍子は室内トレーニングルームに、その音と同じく淡白な響きを延々と続けている。
時計の針が秒を刻む、まさにそれを手を打って教える。
石造りの壁に高い天井、薄暗い中を開かれた天窓から入り込む光。
埃が煌めきの砂粒のようにキラキラ舞い、室内に敷かれた木の床の上を複数の脚がステップを踏む。
先生は厳しかった。
田舎娘ばかりのウマ娘たちらバレエの基礎から教え、ドレッサージュの基本を徹底的に学ばせた。
これができれば集団舞踊ができ、極めれば女優にもなれた。
だから先生はいつも厳しかった、厳しくも優しい人だった。
優しかったからこそ、妥協せず自分を舞踊の隊列には加えてくれなかった。
「……あなたにこの世界は狭すぎるのよ」
優しくも悲しい目で舞台を追われたあの日、悲しくて泣きながら走ったのを良く覚えている。
あの日、華やかな世界を夢見た自分は仲間と同じ道を行く事はなかったけど、あの人に出会ったのだから。
春うららの今日、学長室で桜を見る目は耳に届く学生たちの嬌声に目を細め、かつて自分もそうだった事を思い出しながらうつらうつらと揺れていた。
「学長!! ウラヌス学長!!」
インテンショナルマークがでる程の声ではなかった、ただ耳に近くてくすぐったくて椅子の上で背筋がピンッとなった。
薄く目は開いていたが、春の心地にすっかり風呂上がりぐらい気持ち良くなっていた。
「はいはいっ、起きてますよアスコットさん」
鼻っ柱からずり落ちた眼鏡、ダラしなく半開きになっていた口では言い訳も立たない。
ウラヌスの顔を見るアスコットは「困った人」を見る目で笑を堪えながら白磁のカップに見た板アップルティーを前に出した。
「新入生2人が来ますから、ラフケットスタイルもいいですけどシャンとしたところを見せてくださいよ」
白のブラウスに椅子に引っ掛けた大きめのストール。
ロングスカートに組んだ足と踵の高いハイヒール、学長と言われるのに随分とおしゃれな姿。
型にはまった学長像である地味目のパンツスーツは着ない、髪はアップでまとめるという基本も無し。
高身長な彼女に黒一色は君悪い、カラフルでシックなフォークロアが良く似合っているのだから文句は言いにくい。
それ故に精錬された外見とは幾分グレードの低い中身の残念さを指摘するのがいつもの挨拶のようなもの。
「わかってますよ。うんうん背筋はシャンとねっ」
「はいはい綺麗ですよ」
手慣れた秘書官のアスコットは栗毛の髪を揺らしてソファに座る。
2人の前には置かれたティーと、用意していたファイル。
この春馬事公学園は傷ついた2人のウマ娘を迎え入れる。
1人はケイエスミラクル。
もう1人はサンエイサンキュー。
去年怪我をしてレースの世界に復帰は難しいと言われたケイエスミラクルは積極的とは言えないがリハビリもこなしこの春からここに編入する。
もう1人のサンエイサンキューは少し重症だった。
体の方もそうだったが、信じていたトレーナーの無謀とも言えるオーバーワーク&レースチューンで心を大きく傷つけていた。
走る事の意味を大なり小なり見失った2人を受け入れるのは大変な事だったが、ウラヌスはあっけらかんとして喜んだ。
「ここからよ、ここからもう一度始めればいいのだから」と。
悲嘆する2人に手を広げ招いていた。
今日この学園に迎える、新しい出会いを嬉しいと。
「ていうか……2人が来るのって11時でしょう。こんな早くに呼びに来る必要ありあり?」
自分のちょっとばかりルーズなところは知っている。
だから早く呼びに来たのではと勘ぐったウラヌスにアスコットは思い出したように立ち上がった。
「ああそうでした!! 実は急な話なんですけど昨日連絡があって大陸からお客さんが……」
「大陸から……交換留学生の件は先月まとめなかった? うん違う感じ?」
大陸やエウロパから学園に訪れる人は基本的に交換留学や新トレーニングにリハビリの意見交換などがほとんど、突然来たりはしない。
「ええ違うみたいです、個人的にウラヌス学長にお会いしたいということで……もう来てらっしゃるんですよ」
「ええ!! お待たせしてるの!!」
「あー……えーっとご本人が南の旧校舎の方で待ちたいと言われましたので……」
「南の……旧校舎? ……大陸から……」
アスコットは不可思議と首をかしげるも、ウラヌスは何かに気がついたかのように目を開く。
「春だから……かしら」
言うやスッと立ち上がる、パレリーナのようにしなやかにつま先までをピンと貼り付けた姿勢は少しの風に髪を揺らすと、遠い目を見せる。
「春なのね、そう……そうかなぁ、そうなのかな」
滑るように歩き出すつま先は学長席から外につながるバルコニーへと。
あの夏は暑かった。
空はすごく青くて、雲は幾重にも重なる波等を見せていた。
草木の香りより、硝煙とくすぶる火種が帝都を覆った最後の年。
ここの芸亭も少なく、走っているウマ娘もほどんどいなかった。
南の校舎は煉瓦造りの2階建、当時は最新の学び舎だった。
「あの人」が声をかけて作った学び舎。
「世界に通じるウマ娘の育成をする!!」と。
風が舞い、髪が踊る。
『ウラヌス!!』
「はい!! 私はここにおります!!」
そうだあの夏も暑かった。
島国が新帝の御代になってまだ若々しい1桁台のころ。
欧州六角生まれ、アペニンへと舞踊者となるため家を出たウラヌスは島国からきたトレーナーと初めて出会った。
衝撃的な出会い、あの日の空も青かった。
これを書かずには......そういうウマ娘多すぎません?
本当困る。
でも好きだから仕方ない。
ちなみに保私の作品のウマ娘さんは「長寿」です。
だってエルフに似た種族なんだから、人と違ってそれがいいのです。
なので原作とは違いますこと悪しからずです。