街が、人々の心が、悲しみと絶望に包まれる。
ひよこのウルトラの母と感応して借りる力は、ウルトラマンを蘇らせる力は、そう何度も乱発できない。前回使ってもうその分の力が残っていない。今ゼアスを強化させた分で一杯一杯だ。
ならば、ウルトラマンゼアスの命は完全に失われたということだ。
ひよこは屋上で呆然としていた。砕けたカラータイマーを凝視していた。
「ゼアス……」
ひよこの体は震えていた。
「ゼアス、死なないで……」
少女は嘆願した。懇願した。大切な巨人が生きることを強く願った。
「ゼアス!!!!」
病室の窓に張り付いてゼアスを見ていた優日は、膝から崩れ落ち床に手を突いた。
「ゼアス、どうして……」
赤く長く綺麗な髪が、空しく床に広がる。
「どんな敵にだって負けない。強いヒーローなのに」
赤い瞳に、熱いものが溜まって。
「どうして」
涙が、流れ落ちる。
「負けないでよ……」
憧れに負けないで欲しかった。自分がなりたい理想の存在でいてほしかった。そんな理想が死んでしまったことが、少女は悲しくて仕方がなかった。
ひよこは屋上から走り去り、ゼアスの元へと走った。
絶望が浸食する街を突っ切って、ひよこはゼアスの元へ辿り着いた。
「ゼアス。立ち上がってください」
ゼアスの死体に縋り、どれだけ祈っても、願っても、前回のように蘇りはしない。
ファイヤーゼットンは破壊活動に移行した。ベンゼン星人はゼアスへの徹底的な復讐を望んでいる。本人の死のみならず、ゼアスの大切なもの全てを破壊したい。ゼアスの命を破壊し殺した今、人間と地球を破壊することへ目標を変えた。鎌の一撃がビルを破壊し、大地に炎の剣が突き立てられ破壊されていく。
「ゼアス、負けないでください……」
今までウルトラマンゼアスを信じ切って、何があっても涙を流さなかったひよこの瞳が潤んだ。視界が滲んでいくのを少女は理解した。翡翠色の綺麗な瞳から涙が溢れる。我慢しようとしても、自らの意思で抑えられるようなものではなかった。
ゼットンに終わらされたウルトラマンは、自力で立ち上がることができないから。
そして、ここには誰もウルトラマンゼアスを助けられる存在がいないから。
否応なく絶望を突き付けられて、少女は泣いた。
「ゼアスっ……ゼアスっ!」
涙が、赤き巨人の肌に落ちる。死体は何も応えない。
人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う。何人が死んだのだろうか。それともまだ死人は出ていないだろうか。避難はされているだろうか。
ひよこは誰にも死んでほしくなかった。ウルトラマンが守り切る優しい結果が好きだった。
ひよこはゼアスのそばから離れず、涙を流しながら光の力を送ろうと振り絞る。それでも光の巨人を復活させるほどの力は出せなかった。どれだけ頑張っても、自らの命尽きてもいいからと覚悟をしても、巨人は光を取り戻さない。されど少女はゼアスの復活を願い続ける。聞き分けのない子供のように。ウルトラマンを信じ続ける子供のように。
一人の子供が、泣きそうな顔をして母親に訊いた。
「ねえ、ウルトラマン死んじゃったの……?」
「……あ、えっと、ね……」
母親は答えられなかった。母親は子供がいるから、強くあろうとして泣かなかったが、泣きそうなほど絶望していたから。
「ねえ、お母さん」
「大丈夫よ」
母親は子供を抱きしめるしかなかった。
「う、うううううううううう」
子供はついに泣き出し。
「ウルトラマン……!」
ただ、信じるヒーローの名を呼ぶだけだった。
ギリギリまで頑張って。ギリギリまで踏ん張って。全ての力を出し尽くし奇跡も起こした。
それでもどうにもならない。
邪悪な願いがすべてを叩き潰す、残酷な現実だけがそこに在る。
世界が、絶望に包まれてしまう。
本来なら、ここで終わりなのだ。
救われることなんてなくて、誰も救ってなんてくれなくて。
現実に潰され、終わっていく。
でも。
でも、それはあまりにも悲しいことだと、そんな闇から全力で人を守りたいと、大声で主張する者がいたとしたら。それを可能にする力を持つ存在がいたとしたら。
もしも、そんな奇跡のような、光の存在がいたとしたら。
そのいたとしたらを、現実にしてくれるのが。
そんなとき、手を伸ばしてくれるのが。
――――ウルトラマンなんだ。
闇に包まれた空を裂いて、光が差した。
巨人が降りてくる。
「え……?」
ひよこは空を見上げた。光の巨人を見上げた。
「ウルトラマン……?」
降りてくる巨人の肌は、銀色を基調とし、赤色が走っている。胸に青色のカラータイマーがある。
優日が空を見上げる。
「ウルトラマン……」
人々が空を見上げる。
「ウルトラマン」
「ウルトラマンだ」
「ウルトラマン!」
初代ウルトラマンが、希望そのものとなって、絶望の大地に降り立つ。
次元の向こうに消えたゼアスを、援護しに探していたウルトラマンが、ようやく、このタイミングで奇跡的に辿り着いたのである。
それは更に起こった奇跡であり、ウルトラマンが起こす必然。ウルトラマンゼアスが憧れた、初代ウルトラマンだ。
「ウルトラマン!」
泣きじゃくっていた子供が、嬉しそうに笑顔を浮かべて呼んだ。
それは総称としてのウルトラマンではなく、正しくその光の巨人の名前だった。
初代ウルトラマンが、ゼアスのカラータイマーに光を送った。
ウルトラマンは光の力で活動する。ならば、強い、とても強い光を与えられたウルトラマンはどうなるか。
活動を再開する。
死の状態であっても、復活するのだ。ウルトラマンにとって死とは状態の一つに過ぎないのだから。
強過ぎる光に、ヒカルの命だけではなく、ゼアスの意識すら復活した。
ゼアスの砕かれたカラータイマーが修復され、光が取り戻される。両腕が形を成していく。ゼアスの瞳に夕日色の光が再び灯った。
ヒカルは復活した意識の中で、最初に初代ウルトラマンの背中を見た。
『ウルトラマン……?』
『ウルトラマンさん!』
ゼアスがとても嬉しそうに初代ウルトラマンを呼んだ。憧れの存在が助けてくれて、ゼアスの心は高揚していた。
『でも、どうしてここに初代ウルトラマンが?』
『話はあとだ。今は、戦おう』
初代ウルトラマンが力強くも優しい声音で言った。
『ヒカル、行こう』
『うん』
ヒカルは、ウルトラマンゼアスは、再び立ち上がった。
かくして二人の巨人は並び立つ。
憧れる者とそれを受ける者、されど師弟にあらず、ウルトラの仲間が並び立つ。
ひよこは、その光に満ち溢れた光景を見上げる。
「ゼアス、よかったです」
少女は嬉し涙を流しながら、満面の笑みを浮かべる。
「ああ、こんな光景が見れるなんて」
初代ウルトラマンとゼアスが二人で並ぶのは、これが初めてだ。
ひよこはこの光景に興奮し、高揚し、とても心がはしゃいでいた。
優日が病室の窓に張り付いて、ゼアスと初代ウルトラマンを期待と憧れの瞳で見ていた。
「ウルトラマン、頑張れ」
少女は自分の目標である希望に、理想の存在であってほしかった。自分勝手だとわかっていても、ウルトラマンにはそうあってほしかった。
「絶対に負けないで」
優日は信じて、並び立つ光の巨人を見つめる。
「初代ウルトラマンだと?」
ベンゼン星人が月の裏側で動揺していた。
「殺せ。ファイヤーゼットン、ウルトラマンゼアスと初代ウルトラマンを破壊し尽くし殺せ」
けれど目的は変わらない。破壊する相手が増えただけだ。
ファイヤーゼットンが動く。
一兆度の火球を垂れ下がった角の間に形成し、放った。
初代ウルトラマンは
それは卓越した技巧どころではない。ゼットンに負けたウルトラマンが修練の末に会得した技だ。
幾度も放たれる一兆度、されどその全ては初代ウルトラマンが空へと弾いていく。
ファイヤーゼットンが瞬間移動し、初代ウルトラマンの背後に現れた。大鎌が振り下ろされる。
ウルトラマンは予測していたように反応し、鎌の側面を叩き払い、腕を掴み、投げ飛ばした。
ファイヤーゼットンが強大であることは変わらない。されど、一撃必殺の攻撃も、当たらなければ意味をなさない。
初代ウルトラマンは、戦いの技量が神域へと達している。
(なんて、強さだ)
ヒカルは初代ウルトラマンに途轍もない頼もしさを感じる。憧れのヒーローを見る瞳をしていた。
設定にあるデータ上は、初代ウルトラマンよりもゼアスのスペックの方が全体的に高い。飛行速度に至ってはウルトラマンがマッハ5、ゼアスが19,9だ。
しかし基本スペックがゼアスの方が勝っていたのは過去のウルトラマンとの比較でしかない。初めてウルトラマンが一つの地球に下り立ち、戦い抜いてから長い年月が経っている。それ以降も宇宙のどこかで、平和を脅かす者達と戦ってきた。己の研鑽を疎かにせず、強くなってきた。
原初の、伝説のウルトラマンは強い。
攻撃を避け攻撃を加え投げ飛ばす。一連の攻防を何度かウルトラマンはした。
それでも、ファイヤーゼットンが硬過ぎることは変わらない。大したダメージは入っていない、だが相手の攻撃も当たらない。
ヒカルも隙を見て戦線に入る。
初代と共に拳を放つ。ファイヤーゼットンがたたらを踏む。一緒に蹴りを命中させる。。ファイヤーゼットンが怯む。だが大した傷を負っていない。
鎌がゼアスに振り抜かれる。
(やばっ……!)
確実に首を落とされる一撃だった。
ウルトラマンが鎌にアッパーを当てかちあげた。必殺の鎌が首を落とすことなく通り過ぎていく。
『ありがとうございます!』ヒカルがテレパシーで言う。
『構わないさ』
どこからともなく現れファイヤーゼットンの右手に握られた炎の剣が初代ウルトラマンに振り降ろされる。ウルトラバリアーを手の先に出現させ、角度を変え上手く利用し逸らした。
まだ、ファイヤーゼットンにダメージを与えられない。
奴の表皮は、途方もないほど堅い。
「ウルトラマン、頑張れ!」
それは誰の言葉だったのか。
ひよこか、優日か、子供か、他の誰かか。
『合体光線だ』
初代ウルトラマンが言った。
『合体光線?』
『一緒に光線を撃ってぶつかり合わせるんだよ』
ゼアスがヒカルに説明する。
『わかった』
初代ウルトラマンがファイヤーゼットンを投げ飛ばし、僅かな隙ができた。
『今だ!』
ゼアスが声を上げると同時、ヒカルはポーズを取りエネルギーを溜める。
初代ウルトラマンは両腕を十字に組んだ。それはウルトラマンの代名詞と言える必殺光線。
その鏡合わせに、ヒカルは腕を十字に組む。遠い昔、ゼアスが初代ウルトラマンに憧れて、鏡の前で何度も練習した技こそ、この必殺光線なのである。
『スペシュッシュラ光線!』
『スペシウム光線!』
対角線上に、赤いレーザーサイトが混ざった青色の光線と青白い光線が放たれ、衝突した。
二つの光線は反発することなく 混ざり合い、一つの必殺光線と化していく。
スペシュッシュラ光線とスペシウム光線の合体光線。
名付けるのなら、そう。
『『スペシュラウム光線!!』』
二つの必殺光線の威力が何十倍にもなった光線が、ファイヤーゼットンに直撃した。
光線吸収を問答無用で無効化するほどの威力がぶつけられていく。
光線吸収機関が徐々に罅割れていく。
奇跡を起こした一撃すら効かなかった無敵の表皮が、亀裂を広げていった。
そうして。
撃ち砕く。
光線がファイヤーゼットンを貫き、跡形も無く爆散させる。
ウルトラマンは、ウルトラマン達は、勝つ。勝ったのだ。
「なま合体光線です……」
ひよこは二人のウルトラマンを眺めながら感動している。
「やったあ!」
優日は病室でガッツポーズを取っていた。ウルトラマンが勝つことが嬉しくて仕方がなかった。
『ゼアス、そしてゼアスと身を共にするものよ、ワタシもベンゼン星人の脅威が解決するまで滞在する。共に戦おう』
『はい』
『光栄です』
とても心強かった。伝説が仲間になってくれるのだ。
初代ウルトラマンは飛び去っていく。
去っていくウルトラマンの姿は、正に光の戦士。人類の希望だった。
『もう、大丈夫だよね。あんなに凄いウルトラマンがいるだけで安心なのに、さらに僕も頑張れば』
なにがあっても、なんとかなると思えた。
『ああ、君も頑張るって心を失っていないなら、大丈夫だね。ボクも微力ながら手助けさせてもらうよ』
『微力なんかじゃないよ』
ゼアスがいなければ、ヒカルはここまでこれなかっただろう。
そうして、彼は巨人への変身を解いた。