月の裏側にある四次元空間内。
「クックックックック」
頭部からガス抜きをするベンゼン星人が哄笑していた。
そう、全くの動揺もなく、笑っているのだ。
「あんなものは小手調べだ。覚悟しろウルトラマン達よ」
先のディグローブ含めた十三体の襲撃。あれが小手調べでしかなかった。ヒカル一人なら何とかならなかったかもしれない戦力が、その程度のものだったのだ。
ベンゼン星人が今生み出そうとしている、強大な闇が形作られる力の、本の余剰で呼び出された戦力でしかない。
ベンゼン星人は、幾ら怪獣を倒されても、ゼットンという最強を倒されても、一切余裕を崩していなかった。
※
その日、優日の病室にはヒカルとひよことハヤタが集まっていた。四人、いや、ゼアスを入れれば五人だ。
ハヤタはヒカルが連れてきた。優日は賑やかなのを好むと知っていたし、最近ウルトラマンに興味を持っているのも知っていたから、正体を明かさないにしても会わせてあげたいと思ったのだ。
「このおじさんだれ?」
優日が首を傾げ赤髪を揺らす。
「僕の……なんだろう、師匠で仲間?」
「なんで疑問形なの」
「ワタシはヒカルくんの仲間で友達だよ」
「仲間で友達らしい」
「らしいって」
優日はハヤタの方を見る。
少女とウルトラマンの目が合う。
(……っ。なんか。なんかこのおじさん、すごい感じがする)
優日はよくわからない感覚を覚えた。無理矢理言葉で例えるのなら、暖かで力強く優しい光のようなものを感じた。
優日は、ウルトラマンに対して、実際に目を合わして、何か、感じるものがあった。
それは、普通の人間には、稀にしか感じられないものだ。
「ワタシはハヤタだ。よろしく」
「あ、優日です。よろしくお願いします」
ウルトラマンに手を差し出されて、少女は握った。
(暖かい……)
ただ体温が暖かいだけではない。もっと、優しくて大きいものだと優日は思う。
「おじさんおじさん」
ひよこがハヤタの肩を叩いた。二人の挨拶は病室に来るまでに済んでいる。
「なんだい?」
おじさんはひよこに振り返る。
「スペシウム光線!」
ひよこが腕を十字に組んで叫んだ。
「スペシウム光線」
ハヤタも腕を十字に組んだ。ポーズをしただけなので何も出ない。
「これでおじさんもスペシウム光線の友です」
そのスペシウム光線の第一人者だよ。
「ほら、優日ちゃんも、スペシウム光線!」
「スペシウム光線!!!!!!!!!!!!!!!」
(えぇ……)
優日はヒカルが少し引くくらい、嬉々としてテンション高くノリノリで腕を組み叫んだ。
(優日、最近興味持ち始めたのは知ってたけど、そんなにウルトラマン好きになったんだ)
ひよこはそれを見て嬉しそうにニコニコと笑っている。ハヤタも穏やかに微笑んでいた。
「これであたしもスペシウム光線の友になれたかな!」
「なれましたよ!」
二人の少女は手を取り合ってはしゃいでいる。
「ヒカルさんもやりましょう。もうここはスペシウム光線の友の集会ですよ」
「集会とな」
「スペシウム光線!」
「スペシウム光線!」
「スペシウム光線」
ひよこ、優日、ハヤタが腕を十字に組む。
「す、スペシウム光線!」
四人が輪になって腕を十字に組んでいた。
「みんな、スペシウム光線の友です!」
(なんだこれは)
閑話休題。
優日は病室でいつも一人、ヒカルが来る時ぐらいしか仲のいい誰かと過ごす時間がなかった。
両親はいるが、仕事で海外にいる両親は優日の病室に来れない。
ヒカルといる時以外はいつも一人の優日に、ひよことハヤタという新しい友達ができた。
優日が好きな、楽しく賑やかな空間が、無機質だった病室に作り出されている。
こんな時間が続けばいい。ヒカルはそう思った。心の底から、そう願った。
「これからも、さ」
優日が言葉を零す。
「ウルトラマンゼアスと、初代ウルトラマンさえいれば、大丈夫だよね」
期待を込めて、少女は微笑み、口にした。
優日は自分がウルトラマンのようになりたいと思って、それでも病気が邪魔をして絶対になれないことに苦悩していたが、今は考えても仕方がないと、無理矢理考えないようにしていた。
代わりに、その希望を口にしたのである。
自分がなれなくても、ウルトラマンがいれば大丈夫と。
大切な兄を支える存在なら、自分以外にもいると。考えたかった。
「うん。絶対、大丈夫だよ」
ヒカルは即答した。妹の期待に応えないで、彼は兄を名乗れない。
「ああ、その通りだ」
ハヤタも力強く、そう在るのが、子供の希望で在らなければならないのが自分だと宣言するように言う。
「そうです。ウルトラマンを信じていれば、安心なんですよ」
胸に両手を当てて、落ち着いた笑みをひよこは浮かべていた。
※
あくる日の夜。
ヒカルとハヤタは、就寝前にテレビでニュースを流し見ていた。寝る前に天気予報を確認したい、くらいの軽い気持ちでいる。
『最近、金品が盗まれる事件が相次いでいます』
そんなニュースが流れても、物騒だな、ぐらいは思うが、よくある事件の一つでしかないと大して記憶に残らない。
ニュースが終わり天気予報のコーナーになった。明日は晴れらしい。なら傘はいらないな、と思いながらヒカルはテレビを消そうとした。
コッ、テン、ポッ、ペ。
ビードロの音色のように、そんなふうに音が聞こえた。
『この音は』
ゼアスが警戒心を露わに反応する。ヒカルとゼアスは、この音を知っていた。
「敵だな」
「はい」
二人は家を出た。
外に出ると、夜空から一体の怪獣が降り立つところだった。
金色の角が頭に一本、頭の横に一本ずつで二本、更に肩に強靭な角が生えて、計五本の角を持つ、二足歩行の怪獣。肌は暗い色で覆われ、瞳が深紅に光る。
コッ、テン、ポッ、ペ。
これは、こいつの鳴き声だ。
ベンゼン星人の慢性ガス過多症を抑えるために、特効薬となる金を集める宇宙怪獣だ。
吸金爆獣、金が盗まれるニュース、そしてひよこの大切な髪飾りの紛失。
「そうか、吸金能力」
ひよこちゃんの大事な髪飾りは、あいつに吸われたんだ。
許してはならない。ヒカルは奮起した。
『行こう、ヒカル』
「うん」
ヒカルは白い電動歯ブラシ型の神器、ピカリブラッシャーを取り出す。
ハヤタは円筒型の神器、ベータカプセルを取り出す。
ヒカルはスイッチを押してピカリブラッシャーを起動させる。歯に当て、口内を浄化していく。そして、変身アイテムを天高く掲げた。
ハヤタもベータカプセルを勢いよく掲げて、スイッチを押した。
光が二人を包み、光の巨人へと変える。
コッテンポッペの前に、二人のウルトラマンが土埃を巻き上げながら降り立った。
ヒカルは構えながら考える。
(コッテンポッペぐらいなら、ハヤタさんがいればスムーズに倒せるはずだ)
だが、奴の体は全身が地球をも吹き飛ばすほどの強力な生体爆弾原子で構成されている。
地球で倒したら、星と人類ごと超巨大爆発に巻き込まれ消滅してしまう。
それをヒカルはハヤタに説明した。
『それならワタシが何とか防いでみよう』
『わかりました』
ヒカルはハヤタを信じた。初代ウルトラマンができるというのなら、本当にやってしまうのだろうと思えたから。
それなら原作と違って爆発を心配する必要はない。
ヒカルは先陣を切った。走り、コッテンポッペに肉薄。ゼアス・キックを繰り出した。体内の全パワーを集めた足で繰り出す連続キック。ストレートキックや回し蹴り、後ろ蹴り、延髄蹴りを浴びせていく。
瞬間、コッテンポッペにゼアス・キックを返され蹴り飛ばされた。
『は』
ヒカルは倒れ転がされたまま、理解できない状況に呆けた声を上げる。
コッテンポッペが、ヒカルに、体内の全パワーを集めた足で繰り出す連続キック。ストレートキックや回し蹴り、後ろ蹴り、延髄蹴りを浴びせたのだ。
宇宙怪獣が、ゼアス・キックを、繰り出したのである。
ヒカルは全く予想もしていなかった攻撃に、対応できなかった。さらに。あの体形の怪獣が、あんな滑らかな蹴り技の動きをするとは完全に想定していなかった。あの瞬間、完全にコッテンポッペの関節はおかしくなっていた。ゼアス・キックと同じ動きをする刹那の間だけ、足の関節も長さも奇々怪々と化していたのである。
『なんだ。あのコッテンポッペは』
ヒカルは認識の乖離に戸惑う。
(僕の知っている奴と違う……映画で見た奴と違う)
ハヤタが八つ裂き光輪を投げる。
コッテンポッペはそれを吸収し、八つ裂き光輪を投げた。
『――っ』
それをハヤタは避けた。
ヒカルは八つ裂き光輪の応酬がされている内に、必殺光線のポーズを取りエネルギーを溜めていた。
腕を十字に組み、スペシュッシュラ光線を放つ。
原作では、スペシュッシュラ光線を吸収など、コッテンポッペはできないはずだった。そのレベルのエネルギーは吸収できない程度の能力だった。
されど青色の必殺光線は吸収される。
スペシュッシュラ光線を、コッテンポッペが撃ち放った。
ヒカルは間一髪、体を捻らせ跳び、避ける。
完全に、完膚なきまでに、スペシュッシュラ光線を使われた。劣化コピーではない。必殺光線の威力そのままだった。
(これは……)
二人のウルトラマンの脳裏には、一体の怪獣が浮かんでいた。ヒカルは、特撮ウルトラマンマックスで見た怪獣を。ハヤタは、ウルトラマンマックスから直接伝え聞いた怪獣を。
『ヒカル、合体光線だ』
『はい!』
吸収するというのなら。規格外の一撃をぶつけ、その能力ごと粉砕せしめてみせればいい。
実際原作ではスペシュッシュラ光線の威力を吸収することはできない存在だったのだ。このコッテンポッペはそれを吸収するが、それなら、それ以上を叩き付ければいいだけのこと。
二人は鏡合わせの如く、腕を十字に組んで必殺光線を対角線上に撃ち放った。衝突点で混じり合い、合体光線へと昇華されていく。
『『スペシュラウム光線!』』
青色と青白色が奇跡的に混ざり合った必殺光線が一直線に放たれる。二人で出せる最大火力。この場でこれ以上の一撃などないといえる、ウルトラマンゼアスと初代ウルトラマンによる最強光線。
ベンゼン星人が月の裏側で吼え猛る。
「馬鹿め! ウルトラマンゼアス、そいつはなあ、全ての攻撃を吸収し己の者とするのだ! そう――――全てだ!」
どのような攻撃も。
このコッテンポッペは、吸収し自分の力にする。
スペシュラウム光線は吸収された。
呆気なく。無慈悲に。何の感慨もなく。ただ、吸収されるという事象だけが為った。
そして、二人の巨人の絆が合わさった最強最大の必殺光線は――
あっさりとコピーされた。
コッテンポッペの口からスペシュラウム光線が放たれる。
光の巨人の、希望の光などその程度だと、絆の力などその程度だと、語らずに言葉とするかのように。
二人は左右に跳んで避けた。ヒカルは、僅かに間に合わなかった。
ハヤタは助けようとスペシウム光線を撃ち、神業で以ってスペシュラウム光線に当てた。しかし、スペシュラウム光線は強力無比、スペシウム光線で止められずにヒカルに直撃した。
『あああああああああああああ』
『ヒカル!』ハヤタが叫ぶ。「「ゼアス!」」ひよこと優日が悲しげに叫んだ。
彼は倒れ伏した。
彼は瀕死の重傷を負い、立てない。
カラータイマーが鳴っている。
即死しなかったのはハヤタがスペシウム光線で威力を軽減させていたからに他ならない。初代ウルトラマンの妙技がなければ、ヒカルとゼアスは光の粒となって消滅していただろう。
――先から起こっている事象通り、元々コッテンポッペに吸収して自身のものにする能力はあった。
そして額の角から発射するビードロ光線、左右の角からのキッ光線、バリア発生能力など多彩な力も持っていた。
されど、ここまで異常過ぎる存在ではなかった。
このコッテンポッペは、吸収して自身のものにする能力のみに特化している。他の能力が消滅した代わりに、一つの力が究極のレベルに至っているのだ。
文字通り、"全て"を吸収し自身のものにする能力。
ヒカルの頭には、イフが、思い浮かんだ。
――完全生命体イフ。
それは、ウルトラシリーズで最強の一体に数えられる怪獣。
外部から受けたものをそのまま返す存在。攻撃されればされるほど際限なく強くなっていく不死者。
原作ウルトラマンマックスで一都市を焦土と化させ、世界を滅ぼす直前まで破壊の限りを尽くし、最後までウルトラマンマックスが勝つこと叶わなかった最強。
"イフはゼットンよりも強い"といわれているほどの怪獣だ。
そのイフに、今の、ベンゼン星人に極限まで強化されたコッテンポッペは限りなく近い存在なのである。
原作から考えればコッテンポッペよりもゼットンの方が圧倒的に強いはずだ。なのに、あり得ないほど奴は強くなっている。この存在はだたコッテンポッペと呼ぶには異常過ぎる。
ならば、新たにこの宇宙怪獣に名をつけるのなら、この異常な怪獣の名は
異なる可能性のコッテンポッペ、イフのようなコッテンポッペという意味で
ウルトラマンでも勝てなかった最強、それに似ている怪獣。勝てるとは到底思えない。
それでも。
それでも、我らのウルトラマンならやってくれると。
「頑張れ、ウルトラマン!」
そう、人々は信じた。
IFコッテンポッペの口腔からハヤタに向けて、スペシュラウム光線が乱発される。ふざけた威力の合体必殺光線が何度も襲う。一発でも当たれば即死級の一撃が、無限のエネルギーでもあるように幾度も。
ハヤタは避ける。間一髪避けていく。歴戦のウルトラマンを以ってしても死を覚悟するほどの光線が、幾線も近くを通り過ぎていく。
地面に当たれば巨大なクレーターを作り、ビルに当たれば一瞬で消滅させていく。
ウルトラマンは諦めずに戦う。
両脇に固めた拳に緑色の渦と化したエネルギーを纏わせ、それを右腕だけに集束させていく。
『ウルトラアタック光線!』
右拳を突き出し、渦巻く緑色の熱光線を放つ。
吸収されるというのなら、吸収させた上で内側から爆散させようとハヤタは考えた。
先までと同様緑色の熱光線は吸収される。間髪入れずにハヤタは腕をクロスさせ、エネルギーを爆散させようとした。
しかし、何も起こらない。
ウルトラアタック光線は、爆散させるエネルギーごと吸収されてしまったのだ。
そうしてコピーされたウルトラアタック光線は、IFコッテンポッペの角で渦を巻き、撃ち放たれた。
ハヤタは避け続ける。ここまで一度も直撃せずにいられていることから、流石歴戦の初代ウルトラマンといえるだろう。
どんな光線を打っても吸収されるのなら、格闘戦を仕掛けるしかないと、ハヤタはIFコッテンポッペの光線を避けながら肉薄した。
IFコッテンポッペはヒカルから吸収したゼアス・キックを繰り出す。彼は見切り、拳や蹴り、手刀を叩き込んだ。だが、その卓越した格闘技さえも吸収され、すべてをコピーされる。しかもIFコッテンポッペは見た目通りの体の駆動をしてくれない。吸収した技を完璧に使うことだけが考えられている。元の体の造形など飾りに過ぎない存在となっていた。
ついに初代ウルトラマンは、叩き飛ばされ転がってしまう。
その隙を逃す敵ではない。
IFコッテンポッペの口腔からスペシュラウム光線が放出された。
ハヤタに直撃。『――ッ!!』大ダメージを負い。カラータイマーがピコンピコンと鳴り始める。
立てない。
ヒカルもハヤタも、立てないほどの重傷を負った。
「ウルトラマン! 頑張れー!」
避難した遠くの場所で子供が声援を送る。それをウルトラマンの聴覚で二人は聞き取った。
心の光がエネルギーと成り、二人のウルトラマンの力と成る。
指先から手へ、手から腕へと力を入れて、身体を動かしていく。
そうして二人は立ち上がる。
ヒカルは立ち上がるところまでは頑張れた。しかしそこから先まで動けない。体が駆動してくれない。
されど初代ウルトラマンは、その先の奇跡を起こす。
声援で奇跡を起こすのが、ウルトラマンであるのだから。
その代名詞となった初代の自分が叶えられなくて、何がウルトラマンか、とばかりに。
彼は、奇跡を起こすんだ。
スペシュラウム光線が声援を送る子供たちの方へ放たれる。
ウルトラマンに力を与える人間が邪魔だと、邪悪な一撃は子供を殺そうとする。
「うわああああ助けてウルトラマーン!」
子供が助けを求める。そんな時、ウルトラマンはいつだって。
その手を差し伸べるんだ。
子供達の前に刹那の間に移動した初代ウルトラマンは、光のエネルギーを掌に集めながら両手でスペシュラウム光線を受ける。
一歩も引かず、頼もしい光の背中を人々に見せながら素手で防いでいる。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
スペシュラウム光線は弱くない。どころか、最強光線だ。強化されたゼットンですら能力を発揮させずに問答無用で粉砕するほどの必殺光線だ。
それを、初代ウルトラマンは、素手で受け止めたのである。
奇跡としか言えない所業。どうしてそんなことができるのか全く理解不能な現象。一度の声援で心の光が高まっただけでは、とてもあり得ないことだ。
けれど、今それが出来なければ子供が死んでいた。
たったそれだけ。
されどそれだけの理由さえあれば、ウルトラマンは不可能を可能にしてしまうことがある。
(凄すぎる……)
ヒカルは憧れの瞳をハヤタへ向けていた。
(僕も、ああなれたら……なりたい……成るって決めたんだ……)
それでも、どうしようもない負傷が体を苛む。
勇気を携えても、人々の声援を受けて心の光を得ても、ヒカルは未だに立ち尽くすしかなく、戦える力はもう残っていなかった。
最強光線を受けて立ち上がるだけでも奇跡。あそこまで動ける方が、異常なのだ。
やがてスペシュラウム光線を耐え切った初代ウルトラマンは、瞬時にIFコッテンポッペへと肉薄。
『はあああああああああああああああああああああ!!』
IFコッテンポッペを殴る。殴る。殴る。
殴り続けて殴りまくる。
それらの拳は吸収されない。ダメージが通っていく。
IFコッテンポッペもヒカルとハヤタから奪った格闘技で応戦するが、初代ウルトラマンはそのこと如くを戦神の一撃が如き拳や蹴り、手刀で以って打ち負かしていく。
「すげえウルトラマン!」
大興奮の子供たちの声に包まれながら、初代ウルトラマンはIFコッテンポッペを追いつめていく。
そして、巨体を投げ飛ばして、隙を作り出した。
初代ウルトラマンは腕を十字に構え、いつだって使って来た、自分の手足と同じように扱えるほど馴染んだ、必殺光線を放つ。
『――スペシウム光線!!』
無限の光を込めた青白い光線がIFコッテンポッペへと命中した。
IFコッテンポッペは吸収しようとするが、"吸収しきれない"。
あまりにも膨大なエネルギーに、吸収という能力の方が悲鳴を上げて軋んだ。
必ず吸収する? そんなもの知るか! とばかりに、原初の
あと一歩で、IFコッテンポッペを倒せる。
――されど。
『お前たちの光線を吸収し力を増したゴルドルボムルスの爆発は、お前の力でも被害は免れないぞ』
ベンゼン星人から、初代ウルトラマン達へ。
そんなテレパシーが届けられた。
ゴルドルボムルスとは、コッテンポッペの別名である。ベンゼン星人が呼ぶ名はそれだ。ベンゼン星人が生み出した存在であることから、そちらの方が正式名称である。
それはいい。そんなことは、今は、関係がなく、どうでもいい。
問題は、ベンゼン星人がハヤタへと送った
ベンゼン星人の言葉が本当かはわからない。今の初代ウルトラマンならば、大爆発を防げるかもしれない。
けれど、ベンゼン星人の言う通り防げないかもしれない。そうしたら死んでしまう人たちがいる。
彼はウルトラマンだ。
人を守るのがウルトラマン。
僅かでも犠牲が出ることを知ったら、動けなくなってしまう。
『卑怯だぞ、ベンゼン星人!』
ヒカルは叫んだ。殺しにかかってくる相手に卑怯などと言ったところで、意味はないとわかっていても。
初代ウルトラマンは、スペシウム光線を中断した。青白い光線が消えていく。
その瞬間、IFコッテンポッペの口からスペシュラウム光線が放たれる。ハヤタへ命中した。それから連続で最強光線が撃ち続けられ、ハヤタを蹂躙した。一発でも当たれば即死級の攻撃が、幾度も直撃していく。ハヤタのカラータイマーが高速で点滅する。
『『ベンゼン星人!!』』
ヒカルとゼアスは怒りの咆哮を上げた。けれど助けに動くことすらできない彼らの咆哮は、ただの負け犬の遠吠えでしかなかった。血が出るほどに彼らは歯を食いしばる。
「ウルトラマン……!」
人々が悲痛の声を上げる。
ハヤタはもがき抗い、必死の抵抗をしたが、空しくやられるしかなかった。
そして、数えるのも悲惨なほど命中したスペシュラウム光線の、何度目かの一発を食らった瞬間。
ハヤタの、初代ウルトラマンの体は、光となって散って消えた。
初代ウルトラマンは、死んだ。
ウルトラマンは、殺された。
「ウルトラマンが……」
「ウルトラマンが、死んだ……」
その事実が、人々の理解へ至った時。
「うわああああああああああああああああああああああ」
恐慌に陥るものが続出した。
希望という光が、失われたのだ。
絶望が、世界を覆っていく。
『そんな……』
『…………』
ヒカルは呆然としていた。
ゼアスはヒカルの手前、落ち着こうと努めた。
「初代ウルトラマン、さん……」
自室の窓から見ていたひよこも悲しみに暮れ、パジャマの胸の部分に
「ウルトラマン…………」
優日は病室で力無く
『さて、ウルトラマンゼアス、貴様にも死んでもらおうか』
ベンゼン星人は、コッテンポッペを通して泥沼を創り出した。一瞬にしてヒカルの足元に黒い沼が出現する。
『ああっ!?』
呆けてばかりも、悲しんでばかりもいられないと、戦わなければと動き出したヒカルの足を取り呑み込んでいく。
『貴様と会いまみえた最初の戦場の、再現をしてやる。そして今度こそ、その戦場で、このベンゼン星人が勝利を収めよう』
悪意と闇が濃密に凝縮された泥沼。その中に落ちて闇に呑まれていくヒカル。
(呑まれてたまるか。負けてたまるか!)
動けないほどの負傷を追っていようと、思いの光の力で飛び立とうとする。
そんな彼に、スペシュラウム光線が撃ち込まれた。
瀕死のような体に、最強光線が直撃したのだ。
思いでどうにかなるほど、世界は甘くない。
ゼアスへの変身が解ける。光が消えて、意識を失い人の体に戻ったヒカルは、落ちていく。闇の泥沼の中へ、墜ちていく。
その姿を、ひよこと優日は見ていた。遠いはずのその姿が、二人にだけは見えていた。いつも見ている大切な姿だったから。
「ヒカルさん……?」
「お兄ちゃん……?」
ただ呆然と、名前を二人は呼んだ。