ウルトラマンゼアスS   作:ソウブ

13 / 19


 二人の巨人は負けた。

「ゼアスまで……」

「ああ……もう終わりだ……」

 人々が打ちひしがれ絶望の声を上げる。

 

「世界は終わりなのか……」

 自衛隊員の一人がそう零した。

「甘ったれるな! 他の誰が絶望しても、俺達だけは絶望してはいけない。俺達は国民の命を守るための組織だ。だからどのような状況だとしても俺達だけは諦めずに立ち向かわなければならない」

 自衛隊の隊長、イサオが叱咤した。

「……はい!」

 隊員達の気は引き締まった。しかし、彼らにできることは少しでも多くの人を逃がすために無駄死にする戦いに(おもむ)くくらいしかない。

 彼らの、力が無くとも頑張っている人達の信念や思いすら、残酷で理不尽な怪獣は簡単に踏み潰していくのだ。

 

 優日は病室で絶望していた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……こんなのって……」

 涙を、流していた。

 しかしそれでも、すぐに両腕で涙を拭う。

 そして立ち上がった。

「ウルトラマン……お兄ちゃん……」

 兄を探すために、病室を出る。病院の廊下を走っていく。優日は病院から抜け出した。 泥沼に沈んだ兄を求めて、長く続かない体力を酷使して走り、早歩きし、息切れて歩く。

 なにかをしていなければ、心が完全に折れてしまいそうだったから。

 

 ひよこはまだ絶望などしていなかった。

「ウルトラマンは、勝つんです……。終わってなんて……。いま、せん……」

 けれど、ウルトラマンが負けたことは心に悲哀を広がらせていく。

 ひよこの祈りというウルトラマンを想う心の光でも、ウルトラの母と感応した力でもどうにもならない。

 蘇らせるにはエネルギーが未だに足りなかった。

 ヒカルとゼアスを目覚めさせるには、闇の泥沼が光を遮断し邪魔していた。

「ウルトラマンは、勝ちます」

 ひよこは信じる。信じ続ける。だから、ウルトラマンが勝つ可能性を少しでも上げるために、諦めずに動き出した。

 

 ウルトラマンは負けた。命を落とした。それは変わらない現実だ。冷たい事実だ。助かる理由が、本当になにもない。

 

 このまま、ウルトラマンが敗れて、人類は虐殺され、世界はおしまいです。で、終わってしまうのか。

 

 そんな結末が、現実だとでもいうのか。

 

 

 ひよこは、銀色のフルートを握り締めて、夜の学校に来ていた。

 忍び込もうという算段だ。普段なら現代セキュリティが阻み不可能だろうが、今は非常事態。見回りの警備員などいるわけもない。

 教師か警備員が避難するために開けたのか、昇降口も鍵がかかってなかった。

 ひよこは忍び込んで階段を昇って行く。ずっと昇って行く。

 

 そうして、屋上の前まで来た。

 ドアノブに手を掛けるが、ガチャガチャといって開いてくれない。流石に屋上には鍵がかかっていた。

 しかし、それくらいでは彼女は諦めない。

 

 屋上前から階段を降り、最上階の廊下に戻る。そして廊下の窓を開けた。風が吹き付ける。

 ひよこは、なんと窓から身を乗り出した。ここから屋上へ出ようとしているのだ。

 あまりにも無謀。落下して命を落とすか、良くても大怪我をするだけだ。

 それでも彼女は無理矢理上ろうとする。これぐらい頑張らなければ、なんにもならないと。この程度為せなければ、ウルトラマンを助けるなどできないと、自らを奮起させて。

 

 けれど、どれだけ頑張ったところで、普通の少女ができることではない。

 だから、ひよこは普通の少女ではなくなることにした。

 ウルトラの母と感応し、ウルトラマンを強化する力を自分に、今の一瞬だけでも自分の身体能力を強化する恩恵を望んだ。

 ウルトラの母の光は、その願いに応えた。

 

 ひよこは、窓枠を蹴って跳び上がる。その跳躍力は、一般的な少女の十倍以上はあった。

 彼女は屋上に降り立つ。

「ありがとうございます。ウルトラのお母さん」

 感謝を込めて、お辞儀をした。

 

 ここまでして辿り着いた、いつもヒカルと会う場所、いつしか思い出になる場所。現在進行形でヒカルと思い出を作っている場所。

 そんな場所だから、ここでなくてはいけないとひよこは思ったのだ。

 人は最大の努力をしなければ、奇跡は起こせない。

 

 ひよこは屋上の隅まで歩く、そして泥沼の方を、そこに沈んだヒカルの方に目を向けた。

 フルートを吹き始める。原作ウルトラマンゼアスでヒロインのトオルが吹いていた曲だ。

 ヒカルの、ウルトラマンゼアスの復活を願って、原作のように心の光を届ける為に演奏し続ける。

 とても褒められたような腕前ではないけれど、少女の献身的な頑張りが窺える音色が、降赤町(ふるせきちょう)に響き渡っていく。

 フルートの音が町中に届く。ウルトラの母の力が光を届ける為に、すべての人に聴こえるようにしたのだ。

 

 その下手な演奏を聞いて、原作ウルトラマンゼアスを知っている僅かな人がそれに気づき、まだ信じるべきだという思いを抱く。ひよこの演奏は希望を生んでいく。

 

 みんなにひよこの思いが届けられていく。心の光が、少しずつ、けれど確実に、広がっていく。

 原作ウルトラマンゼアスを知らない人達にも、心の光は届けられ、絶望の只中(ただなか)でウルトラマンを信じようと思えてきていた。

 

「シュワッチシュワッチ頑張れゼアス! シュワッチシュワッチ頑張れゼアス!」

 人々がウルトラマンゼアスへ声援を送り出す。

 

 

 立ち上がれヒカル。

 

 初代ウルトラマンがいない今、君しかいないのだ。

 

 

 思いでどうにかなるほど、世界は甘くない。

 確かにそうだ。冷たい現実はいつだって悲しい結果しか事実にしてくれない。

 でも。

 それでも、そんな現実という闇を払って、希望の光を事実にするのが、ウルトラマンではないのか。

 

 思いを信じたい。本当に、思いの力なんてものがあるとしたら、それはどれだけ美しいだろう。

 ウルトラマンの力は、愛を光に変換する。思いは、愛だ。人を思うのは愛だ。光はウルトラマンのエネルギーだ。

 

 愛をもう一度信じたい。ウルトラマンをもう一度信じたい。いつまでも信じたい。

 

 人の思いが、奇跡を起こす。そんな陳腐な事象を、希望の光へと変えてしまえるのがウルトラマンだ。

 

「ゼアスゼアス! ゼアスゼアスゼアス!」

 優日も、泥沼へと息を切らせて歩きながらゼアスへ、ヒカルへ、大好きな兄へ声援を送っていた。

 

 光が全く届かないはずの、闇の泥沼の中で、ヒカルとゼアスの意識が覚醒した。

 束ねられた心の光は、闇を貫きウルトラマンへと光を届けたのだ。

 

『僕は、ウルトラマンだ』

『そうだね』

 決意を肯定するように、優しくゼアスが同調した。

 

『ウルトラマンであるということは、人の思いに、救いを求める声に応えることだ。僕は、みんなの思いに応えたい。諦めたくない』

 

 怖気づいてちゃ明日なんかない。

 一人きりじゃ守れない。けれどそんなこと言ってられない。

 ウルトラマンは人と協力し強くなる。だが、一人でも戦わなければならない時もある。 そういうとき、一人でも戦い勝たなければならない、一人でも進んでいかなければならないのもウルトラマンだ。たとえ一人でも負けるわけにはいかないのがウルトラマンだ。

 ウルトラマンレオという、大切な人達を全員失っても、それでも最後まで戦い続けたウルトラマンがいたように。

 

 ゼアスと身を一緒にし、ひよこ達に力を貰っているとはいえ、戦う巨人は一人だ。

 彼はたった一人で、戦わなければならない状況に立たされている。

 それは辛い。苦痛だ。恐怖だ。自分の行いに人の命すべてが掛かっているというのは、心の弱いヒカルにとって途轍もない恐怖だ。

 

 それでも、自分はウルトラマンだと、人の思いに応えたいと思った。

 ヒカルは、優しい人間だから。 

 

 君がみんなが、呼んでいる。

 

 ならば、行こう。そう言えてしまう、行動できてしまうほど心優しい人間だから。

 

 フルートの音色が聴こえる。さっきから、ずっと聴こえている。 

 

 ――いいんだよねえトオルちゃんのフルートって。なんか自然に勇気が湧いてきて、力が漲るんだよね。

 原作の、数千年前のゼアスの言葉だ。

 ヒカルも、ひよこのフルートに同じことを思った。

 

 音色を辿って、彼は浮上していく。

 

 上も下も分からない泥濘(でいねい)の中、人々が光を届けてくれて、導いてくれるから迷わない。

 

 光を目指し、光を再び纏い、上へ、上へ。

 

 

 ゼアス――ヒカルさん、信じてます。 

 フルートを吹きながら、心の中で少女は言葉を贈る。 

 その言葉が、最後の一押しとなった。

 

 

『行こう、ゼアス』

『うん、行こう。みんなの元へ』

 

 再び赤き巨人となったヒカルは、泥から飛び出した。

 

 土埃を巻き上げ、大地に降り立つ、赤き巨人。

 

「あ! ゼアス!」

「ウルトラマンゼアス!」

 

「ヒカルさん!」

「お兄ちゃん!」

 ひよこが、優日が、人々が、喜びの声を上げる。

 

 

 IFコッテンポッペが、油断なくスペシュラウム光線を放とうとする。

 

『ウルトラストレッチ!』

 

 ヒカルは一時的に時間の流れを遅くし、時間を僅かに稼ぐ。

 

 刹那の間に彼はIFコッテンポッペに肉薄し、渾身の右ストレートを撃ち込んだ。怪獣の巨体は叩き飛ばされていく。

 それでも奴はスペシュラウム光線を放つのを止めなかった。闇より暗い口腔から最強光線が解放されようとしている。

 

 自分よりも強いものと戦う時に強いのがウルトラマン。ウルトラマンにとってジャイアントキリングは日常茶飯事。守る為なら、自分よりも強い相手に勝ってこそのウルトラマン。

 

 さあ、今こそ最強光線を超える光線を出す時だ。

 

 出せなければ、ここで勝てなければ、ウルトラマンじゃない。

 

 ポーズを取り、膨大なエネルギーを溜める。十字の構えで光線を撃つ――――されどそれだけではIFコッテンポッペには届かない。

 

 ウルトラストレッチの効果が切れた。スペシュラウム光線が正面から撃たれ迫る。

 

 人々はウルトラマンを信じた。ウルトラマンは信じてくれた人達の光を信じた。

 信じ合える心と力をクロスさせて。

 

 腕を十字から、Xの形へ変化させた。

 

『――受けてみろ』

 

 ウルトラマンゼアスの口が開いた。

 

『クロス・スペシュッシュラ光線!!』

 

 X字の蒼色光線が、IFコッテンポッペの放つスペシュラウム光線と激突する。

 

 X字の光線は、スペシュラウム光線を押し込んでいった。あり得るはずがない威力だ。それが今、現実として現れている。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 X字の光線は押し込み、IFコッテンポッペの肉体へと辿り着いた。

 

 吸収能力が発動する。確かに、発動したのだ。

 

 されど、クロス・スペシュッシュラ光線の強大過ぎる威力に――いや、何処(どこ)まで強大でもこのIFコッテンポッペは吸収してしまうはずだ。

 

 ならば、吸収されないのは、

 なぜか吸収されないのは、

 

 "よくわからない光の力"が発揮されているからだ。

 

 どのような理由だろうと、事実、IFコッテンポッペは吸収できなかった。

 

 ウルトラマンは最強でも無敵でもない。けれど、誰かを守る為ならばウルトラマンは最強にも無敵にもなるんだ。ウルトラマンゼアスは今、最強で無敵だった。

 

 さらにこの異常な光線は、IFコッテンポッペの肉体を破壊せず、大爆発させずに、上に押していく。

 空の果てまで、宇宙の果てまで光線で押して飛ばしていく。

 

 そうして。

 

 IFコッテンポッペは宇宙空間に押しやられた。

 

 その瞬間。

 

 X字の光線の破壊力が、IFコッテンポッペへと牙を剥いた。

 

 偽りの最強宇宙怪獣は、大爆発と共に四散。

 

 人類と、ウルトラマンの勝利だ。

 

 

 

 

 次の日。いつものようにヒカルとひよこは昼休みに屋上へ来ていた。

 

 今、ひよこはヒカルの正体を知っている。

「お弁当、作ってきました。食べて貰えると嬉しいです」

「あ、でもまたパン買ってきちゃったんだけど……」

「私が食べます」

「うん」

 

 ひよこの弁当を受け取ってヒカルは食べていく。以前通りに、幸せになる味だった。特に卵焼きが美味しいんだ。

 

「ヒカルさんって、ウルトラマンゼアスですよね」

「……え?」

 サラっと言うものだから、ヒカルは虚を突かれた。

「いや、なんでそうなるの……?」

「隠さなくても大丈夫ですよ。誰にも言いませんし」

「で、でも」

「見ちゃいましたから。あの変なコッテンポッペと戦っていた時に、変身が解けたところ」

「…………」

 

「ありがとうございます、ウルトラマンゼアス。あなたは、私の大好きなウルトラマンです。ウルトラマンであってくれて、ありがとうございます」

 二度も礼を言うほど、自分の信じたウルトラマン通りの存在であってくれていることに、ひよこはヒカルに感謝していた。救われていた。そして好ましく思っていた。

「お礼なら、本当のゼアスに言ってよ。僕は、ウルトラマンであろうとはしてるけど、完璧とはとても言えないし」

「完璧ではなくてもいいんです。あなたはヒカルくんで、ウルトラマンで、どちらもであっていいんです。それに」

「?」

「私はどちらも好きです」

 その微笑みに、ヒカルは釘付けになった。頬が、熱い。

 

「あの」

「なに?」

「さっき本当のゼアスって言いましたよね? ということは原作のゼアスが今ヒカルさんの中にいるんですよね」

「うん」

「お話してもいいですか」

 翡翠色の瞳をキラキラと輝かせてひよこは言う。ヒカルをウルトラマンとしてでなくても好ましいとはいっても、それはそれとしてゼアスと話はしてみたいのだろう。

「いいけど、ゼアス?」

『いいよ』

「いいって」

「やったー!」

『こんにちは、ひよこちゃん』ゼアスがテレパシーで話し始める。

「わー! ほんとにゼアスです! こんにちは!」

『何か聞きたいことがあれば、いくらでも答えるよ』

「ではでは、えっとえっと、そうですね」

 ひよこは限界オタクと化していた。

「ウルトラマンゼアスの映画の出来事って、本当にあったことなんですか!?」

『うん。そうだよ。ボクもヒカルとその映画を観た時に驚いたけど』

「これってどういうことなんですかね!?」

 ひよこの様子は、完全に大ファンの有名人に会った人のそれだった。

『おそらく、別次元であった本当のことが、別次元――つまりこの次元で人のインスピレーションが感知した結果じゃないかと思うんだ』

「ふむふむ、なるほど。ではいろんなウルトラシリーズの話も実際にあったことなんですか!?」

『多分、そうなんじゃないかな』

「きゃーーーーーーーーーーーーーーー!!! 凄すぎますーーーーーーーーーーー!」

 ひよこはテンションマックスだった。

(ひよこちゃん楽しそうだな)

 嬉しそうなひよこを見て、ヒカルも嬉しくなっていた。

「それだとあらゆる創作物語がその場合の可能性がありますね!」

『そうなるね』

「夢が広がります!」

 

 それからしばらく、ひよこはゼアスと話をした。

 

 

 

 ヒカルは空を見上げる。いい天気だった。白い雲が流れて行く。ふと、死んでしまったハヤタを思った。

「ウルトラマン……」

「ウルトラマンは死んでしまいましたけど、死んでません。きっと、絶対」

 ……それは。心の中に生きている、ということだろうか。

 それともウルトラマンにとって死は状態の一つに過ぎないというやつだろうか。しかし、ウルトラマンを蘇らせる手段は現状在りはしないから、楽観する理由にはならない。

 ヒカルは、意味を捉えかねたが、それ以上言わなかった。

 ハヤタが死んでしまったことは、変わらない事実だったから。

 

 やがて、弁当を食べ終わる。この弁当は、ゼアスの為に、ヒカルの為にひよこが作ったものだ。今度は、認識の齟齬なく直接届けられて。

 ヒカルはポケットを探る。そして取り出した。

「あのさ、これ……」

「え?」

 

 鳥のひよこ型の、金色の髪飾り。コッテンポッペに奪われて、怪獣のエネルギーの糧になり、無くなってしまったはずのひよこの宝物。

 

 最後に拳を叩き込んだ時に、IFコッテンポッペの体からひよこの髪飾りの成分だけ解析し抽出し、再び形を与えて取り返していたのだ。

 あの時のウルトラマンゼアスだからこそできた芸当である。

 

 いくら探しても見つからなかった少女の大切は、彼からその手に渡され、取り戻された。

 

「ありがとうウルトラマン」

 

 少女は、満面の笑顔を花開かせた。

 

  

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。