ウルトラマンゼアスS   作:ソウブ

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 殺される直前、ゼアスはヒカルを護る為に、身体を分離した。

 ヒカルは地面に降ろされ、地べたに倒れ這いずる。

 

 その眼で、殺されて消えゆくゼアスを見た。

 

 体が消し飛ばされたゼアスのカラータイマーだけが残り、墓標のように地に刺さった。 それはもう、微かな光さえ宿していない。

 

『ハハハハハッッ!! ゼアスが死んだ! 死んだぞ! ようやく、ようやくゼアスを破壊した! 悲願の達成だ! 奴が大事にしていたこの地球も、人間も、破壊し尽くしてやろう。それを、宿敵への手向けとしよう』

 

 ベンゼン星人は気分が最高潮に達していた。

 

『ねえダーリン、手順間違えてない?』

 

『ああ、勢いで殺してしまった。用意していた"アレ"を見せるのを忘れてしまったが、まあいい。ゼアスを殺せたのなら重畳だ』

 用意していたものが無駄に終わってしまったとしても気にならないほどに、ベンゼン星人は勝利に酔いしれていた。

 

 クロス・シャドリウム光線とミニビゾーム達の光線が、街に向けて放たれる。

 

 破壊されていく建物、街。

 殺されていく人々。

 邪悪な願いによって悲劇が振り撒かれ、地球は終焉へとまた近づいた。

 

『ゼアスの女どもよ、絶望しろ! 貴様らは最後に殺してやる。絶望の顔をあの世でゼアスに見せてやれフハハハハハハハハ』

 

「絶望なんて、しません!」

「お兄ちゃんは、勝つもん! あたしと約束したんだから!」

 ひよこと優日は、まだ信じている。諦めてなどいない。人に諦めるなといっておいて、自分が諦めるわけにはいかなかった。

 

(僕は強くなった、はずだった)

(けれど、圧倒的な力の前には、心の強さなんて何の意味もなさないのか……?)

 ウルトラマンは、心の光で強くなるというのに。

 

(諦めない。約束は違えない。意地でも、泥を啜ってでも、立ち上がってやる)

 ヒカルは這いずって進んだ。

 大地に突き刺さったカラータイマー目指して進んだ。

 血反吐を吐いて鉄の味が滲んでも、土が口に入っても、気にせず這って進む。

 

 それを、ひよこと優日は見ていた。

「ヒカルさん、踏ん張ってください!」

「お兄ちゃん負けるなー!」

 

 ヒカルは二人の声援を受ける。

 

 そうしていつしか、激痛に苦しみながら、ゆっくりとでも、立ち上がった。

 一歩一歩、歩いて行く。

 

 ヒカルは諦めない。光を宿していないカラータイマーだけを見据えて、ぼんやりとする視界の中歩いて行く。頭から流れた血が目に入り拭う。

 ボロボロの体を引き摺って、ただ前へ。

 

「諦めるな。諦めるな。諦めるな」

 ヒカルは自分に言い聞かせた。言い聞かせながら心を奮い立たせて、足が震えて止まりそうになるのを堪えた。

 

 不屈の意思を持っているつもりになって、光を目指した。

 

 カラータイマーに辿り着くまで、もうすぐだ。

 

 

 ――けれどそれを、ベンゼン星人は見逃さなかった。

 

『やれ』

 

 ミニビゾーム達が光線を放つ。

 

「あっ……」

 ヒカルは、迫る光線の眩しさに声を漏らすことしかできなかった。

 

 ミニビゾームの光線は、ヒカルを跡形も無く消し飛ばした。

 

 約束を守り、強くあることを止めず、諦めなかった少年は殺された。

 

 カラータイマーの前には、クレーターだけしか残っていない。

 

 ビゾームが、ベンゼン星人達が、嘲笑った。

 

 

 

「ヒカルさん……」

「そんなのって、ない……」

 

 理想が、強さが、現実に負ける。

 優日は膝を突いた。

 

「こんな終わりってないよ……」

 

 優日が悲しんでいる。理不尽を嘆いている。

 諦めなくても何の落ち度が無くても殺された兄を思って、涙を流した。

 心が落ちていくにつれて、余命僅かな体にも悪影響を及ぼし、優日は血を吐いた。

 少女の命も、涙と共に零れていく。

 

 世界は理不尽に満ちている。残酷な現実ばかりが人を苦しめる。

 どれだけ頑張っても、少しも優しくなんてなってくれない。

 綺麗なものを、信じさせてくれない。

 

 

 ――それでも。

 

 何度でもいわせてもらおう。

 

 それを覆し、守り助け救うのがウルトラマンだと。

 

 都合のよい展開を無理矢理にでも(もたら)し、救ってしまえるのがウルトラマンではないのか、と。

 

「誰か……誰か……。お兄ちゃんを、助けてよ。助けたいよ……」

 

『わかった。助けよう』

 

 ウルトラマンは、その為にいるんだ。

 

 

「あ、ウルトラマン……」

 ひよこはウルトラマンをどこまでも信じていた。初代ウルトラマンが死んだ時も、光と成って拡散しただけでいつか絶対に再び戻ってくると信じていた、そのウルトラマンの気配を、今感じている。

 

「ウルトラマン……?」

 優日の目の前に、光があった。

 

 優日が何故、ハヤタと目を合わせた時に不思議なものを感じたのか。

 

 優日が何故、ギジェラに抗うことができたのか。

 

 それは、彼女が兄と同じで、ウルトラマン変身者に選ばれる資質を持つ人間だからである。 

 

 初代ウルトラマンが死んだ時、その光はどこに行ったのか。

 最も近くにいた、変身者になれる可能性が高い人間の中に、その光は移っていた。

 

「ウルトラマン、どうにもならないの、だから、力を貸して!」

 優日の目には、再び光が宿っていた。

「あたしも諦めない! 転んでも、立ち上がる!」

『ああ、ワタシは、その為に来た』

 諦めないものに、力を貸して希望を(もたら)すのが、ウルトラマン。

 

 死の淵に瀕した優日と、初代ウルトラマンの光が一体化し、ウルトラマンが蘇る。

 

 兄は妹の為に強くなった。妹もそう、見てるだけじゃ始まらない。

 

 光の柱が、闇の世界に立ち昇った。

 

 少女達を捕らえていた闇の空間を粉砕し、光の巨人が立ち上がる。

 

「ウルトラマンが」

 

 ひよこは初代ウルトラマンの背中を見上げて、歓喜と喝采の声を上げた。

 

「ウルトラマンが、帰って来ました!」

 

 この光を、ひよこは昔から、いつも信じ愛している。

 

『なんだと!? つくづくウルトラマンというやつは度し難い……!』

 ベンゼン星人が狼狽える。

 

 うぬ惚れるなよ。力任せの邪悪な願いを倒す為に、ウルトラマンは帰って来た。

 

『お兄ちゃんを、助ける!!』

 

 ひよこの願いは、光の奇跡を起こした。

 少女の心の光に応えて、初代ウルトラマンには無いはずの力、"近くにいた他のウルトラマンの力"が作用した。

 

 ――諦めなかった少年の歩みが、時を越えて再び紡がれる。

 

 跡形も無く消し飛ばされたはずのヒカルが、再びその姿が像を得る。

 彼は意識を突然取り戻し、優日に助けられたことを感じ取り、それでも止まらず、目的を忘れず足を動かした。

 ヒカルは光を纏って再び歩く。

 

 過去の諦めない歩みが、"時を越えて"再開されたのだ。

 

 邪悪な願いによって破壊されてしまった希望が、もう一度チャンスを与えられた。

 

 そうして彼は、カラータイマーへ辿り着く。

 ヒカルはカラータイマーへ手で触れた。

 

 ヒカルの心の光に呼応し、カラータイマーに再び光が灯り、ゼアスの意識も取り戻される。

 ウルトラマンにとって、心の強さは、心の光は、そのままエネルギーとなる。

 

『行くぞ、ヒカル! ユナイト(変身)だ!』

 

『『ゼアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!』』

 

 大地蹴り大空へ。声と声を重ねて。

 ヒカルはカラータイマーと共に光と成り、赤き巨人も、再び立ち上がった。

 並び立つ兄妹。再び並び立つウルトラマン。

 

『ありがとう優日。なんだか結局、いつも僕の方が助けられてるよ』

『しょうがないなあ、お兄ちゃんは。お兄ちゃんはやっぱりあたしがいないとダメなんだね』

 優日は自分が本当にウルトラマンになれたことが嬉しかった。大好きな兄を本当に助けられる存在になれたことが、嬉しくて堪らなかった。

 

 優日は、不可能でしかなかった夢を、叶えたのだ。

 

「ヒカルさん、優日ちゃん、いっけーー!」

 ウルトラマンを信じる少女の声援が聞こえる。

 

 兄妹は今、無敵のヒーローだ。

 

 この瞬間起こった奇跡、きっと嘘じゃない。

 

 いつだって誰もが誰かに愛されていたからこそ起こった奇跡だ。

 

『たとえ絶望が僕らを襲っても、迷わず走り続けよう』

 

 新たな、"きょうだい"ウルトラマンの誕生だ。

 

 

 ミニビゾームが光線をゼアスに集中させて撃つ。ヒカルは、スペシュッシュラ光線の早撃ちを為した。

 十字に組んだ腕を、光線を、横に一閃させてすべての光線を相殺する。

 

『今の僕は、弱い自分の闇なんかに負けはしない!』

 

 クロス・シャドリウム光線が優日へ向けて撃たれる。

 

『優日!』

『大丈夫。今のあたしは、ウルトラマンだから!』

 

 優日は両手の平に生成した半透明の壁――ウルトラバリヤーを上手く使い、クロス・シャドリウム光線を空に流す。

 初代ウルトラマンの戦闘技能が、優日に力を貸していた。

 

 

 ミニビゾーム達は一つに集まり、ビゾーム一体に復元する。

 光の力で強くなっているゼアス相手では、数だと押し負けると判断し質を選んだのだ。

 

 拳にエネルギーを溜め、ビゾームは突っ込んで来る。

 その拳には、ヒカルの心奥底の闇、弱さのすべてが闇の力と成って強大な威力を宿していた。

 

 ヒカルも拳を固めて突っ込んだ。

 

 心の闇は人に寄り添う。消えることはない。だからそれを利用する邪悪は、ここで倒さなければならない。

 彼は自らの弱さと、一騎打ちをしたかった。するべきだと思っていた。

 

 お互い正面から走り肉薄、同じタイミングで拳を放つ。

 

 拳が両側の胴体に突き刺さる。

 

 ヒカルの拳には、緑色の渦が巻いていた。それがビゾームの体内に入り込む。

 

 ビゾームの重い拳を受けたダメージにふらつきながらも、ヒカルは大地を踏み締め、

 

 両腕をクロスさせた。

 

『ウルトラアタック光線!!』

 

 熱光線がビゾームの内部から爆発し、分裂することなく焼失した。

 

『消えることはないけれど、さようなら、僕の闇』

 

 ヒカルはこの瞬間、ようやく自分の弱さとの決着をつけられたのだ。

 

 

 シャドーが、クロス・シャドリウム光線を撃ち放とうとする。

 

『お兄ちゃん、合体光線だよ!』

『うん!』

 

 二人の巨人は左右対称に腕を十字に組む。撃たれた二条の光線が対角線上で重なり、融合し昇華される。

 

『『スペシュラウム光線!』』

 

 青白い必殺光線が放たれる。

 

 同時に撃たれた赤い必殺光線、クロス・シャドリウム光線と衝突。

 

 僅かな拮抗のあと、赤と青は相殺された。

 

『もう一度合体光線だよ』

 

 スペシュラウム光線とクロス・シャドリウム光線を再び撃ち、相殺する。

 

 シャドーにリセット光線が降り注ぐ、赤い雷のようなものからエネルギーが供給されたシャドーは、クロス・シャドリウム光線を何度も連続して撃つことが可能だ。

 

『まずい……』

 こちらのエネルギーは無限ではない。三分間だけ。されど相手は無限だ。リセット光線で何度も供給される。

 先から戦闘を続けているから、実際三分もありはしない。

 

 リセット光線のエネルギー供給を妨害しようとしても、それをさせてくれる隙を二人がかりでさえシャドーは作らせてくれない。

 

 光線合戦が続く中、タイムリミットは近づく一方だ。

 ヒカルと優日のカラータイマーが鳴る。点滅が速くなっていく。

 

『そうよ、例え復活されようが、アタシの最高傑作が負けるはずがないわ。シャドー、やってしまいなさい』

『流石だハニー。このまま破壊だ』

 

 遂に押し負け、クロス・シャドリウム光線に二人は撃ち抜かれた。

 

 二人のウルトラマンは倒れる。

 

 ウルトラマンを一撃で殺せるレベルの光線を受けたのだ。立ち上がれるはずがない。

 絶体絶命のピンチといえる。

 

 ――だが、ウルトラマンは立ち上がる。

 

 どれだけボロボロになっても、人を護る為に立ち向かい続ける。

 

 ふらついて今にも倒れそうになりながら、カラータイマーを早く点滅させていても、戦う意思は一切衰えてはいない。

 

『ユウヒ、マリンスペシウム光線を撃つんだ』

 初代ウルトラマン、ハヤタが逆転の可能性を伝える。

『マリンスペシウム光線?』

『仲間の力を借りることで撃てる、ワタシの最強光線だ』

『そんな技が……』

 ハヤタはマリンスペシウム光線を撃つ為の詳しい方法を簡単に説明する。

『タイミングよく、ヒカルとユウヒの息が合っていないと無理だ。やれるか』

『当然! だってあたしたちは、兄妹だから』

 

 優日は兄へ振り向く。

『お兄ちゃん、あたしのカラータイマーに、光を与えるつもりで必殺光線を撃って』

 それは非常に危険な行為だ。下手すればカラータイマーにダメージが入り、優日が死んでしまう。だからここまでハヤタは伝えなかった。

 けれど今、それしかこの状況をどうにかできる方法がない。

『お兄ちゃん、信じて』

『信じるよ。可愛い妹の頼みなんだ』

 ヒカルは、今の優日なら大丈夫だと、そう思えた。

 

 心を一つに、心の光は莫大に。

 

『優日、頼んだ!』

 ヒカルが腕を十字に組み、スペシュッシュラ光線を優日のカラータイマーへ向けて正確に撃った。

『頼まれた!』

 カラータイマーにスペシュッシュラ光線が衝突。

 

 優日は上手く息を合わせ、吸収に成功した。繋がる、重なる、未来への希望となって。

 光を力に。

 

 仲間の光を、優日は、ウルトラマンは、両腕に集中させた。

 

『マリンスペシウム光線!!』

 

 両腕を十字に組み、スペシウム光線と同じ動作で虹色の奇跡の光線が放たれる。

 ハヤタが逆転の可能性を提示してからここまで、一秒すら経っていない。ウルトラマンのテレパシーを用いた意思疎通は人間の規格を遥かに超えていた。

 

 虹色の光線が、撃たれ迫っていた赤いクロス・シャドリウム光線と衝突。

 

 ほんの僅かな拮抗の後、虹色は赤色を粉砕していく。

 

 かつて勝てる筈のない最強のゼットンを倒した、起こる筈のなかった奇跡の光線である。この光線が払えない闇などありはしない。

 

 原初のウルトラマンで起こった、最初の奇跡は、すべてを打ち砕く!

 

 マリンスペシウム光線に押し切られ、虹色に呑み込まれたウルトラマンシャドーは、完全に消滅した。

 

 リセット光線でも復活すること叶わない、完膚なきまでの勝利だった。

 

 

 

 

『これで勝ったと思わないことだ。ワタシたちはまだ生きているぞ』

 ベンゼン星人は恨み言を残して、一旦退いた。

 

 ヒカルと優日は変身を解き、ひよこと共に帰路に就く。

 

「そういえばね、お兄ちゃん」

「うん」

 

「病気、治っちゃった」

 

 サラッと伝えられた一言に、ヒカルは硬直した。

 妹を振り返る。

「………………まじで?」

「まじで」

 ウルトラマンと一体化したことで、優日の命を脅かしていた病気は消滅していた。

 

「…………」

「お兄ちゃん?」

 

「やったああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 ヒカルは優日を抱きあげてくるくる回った。渾身の歓喜だ。間違いなく彼の人生で一番の喜びだった。

 

「わああ!? お兄ちゃんはしゃぎ過ぎだよ」

 

 起こるはずのなかった、陳腐にも見える最高の奇跡。

 それを起こしてしまえるのがウルトラマンなんだ。

 避けられない少女の死という結末を否定し、それを理想だけでなく、現実にしてしまうのがウルトラマンなんだ。

 

 だからこそ、ウルトラマンは人々に光の戦士と称えられる。

 だからこその、奇跡のヒーロー。

 僕らのヒーロー、ウルトラマン。

 

 

 苦難を乗り越えて、一旦、兄妹はハッピーだった。

 ひよこも、微笑んでいた。

 ウルトラマン達は、そんな少年少女を見守っていた。

 

 

 

 




ゼアスの名前の由来は、天空を意味する「zenith」と地球を意味する「earth」の造語から来ている。
そしてウルトラマンXの主人公の名前は大空大地、みたいな
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