休日の昼間、ヒカル達は遊園地へと来ていた。優日が行きたいと騒いで、押し切られた形である。
「ねえねえお兄ちゃんひよこさん早く早く!」
「はいはい」
「ふふふ」
優日が園内をはしゃぎ回り、綺麗な赤髪と腕をぶんぶん振り回して走る。
今は病衣ではなく、オシャレでフリフリの多い可愛らしい服装をしていた。
「よかった……」
この光景をヒカルはずっと、本当に昔から、夢見ていたのだ。
優日は動き回れることが嬉しすぎて、満面の笑顔をしていた。
ヒカルとひよこは、後ろから微笑んで見守っていた。
優日が何の憂いもなく笑っている。ヒカルは、それだけでここに来た意味があると思った。
「そういえばお兄ちゃん」
「なに?」
「あたし、ゼアスさんとは話したことない」
「そうだったっけ」
「だからお話してみたい」
『いいよ』
テレパシーでゼアスが話し出した。
「わあっ! ゼアスさんだ! 本物?」
『本物だよ』
「なんだこの会話」
「ゼアスさん初めまして」
『うん、初めまして』
「一緒にお兄ちゃんを支えましょう」
『うん、みんなで頑張ろう』
「微妙に話が噛み合っていない」
優日はヒカルを支えたい思いが先行し過ぎて、自分も支えてもらうという思考が蔑ろになっていた。ゼアスはお互いが助け合い、苦難を乗り越えていくべきだと思っていた。
「優日、僕はお前の兄だ。支えられてばかりじゃないよ」
「……うん。わかったよ。お兄ちゃんは強くなったもんね!」
優日は落ち着いて思い直す。ヒカルがギジェラを倒し、強くなった頼もしい背中を思い出したから。
先の戦いでも、ヒカルは一度も諦めなかった。確実に成長しているのだ。
ヒカルは一息つき、微笑んでいるひよこへ向いた。
「ひよこちゃん、ありがとう」
「なんですか、唐突ですね」
「なんか、言っとかないとって思えて」
「なんですかそれ」
くすくすとひよこは笑う。
まだ戦いは終わっていないけれど、ヒカルの中で一区切りつき落ち着いたことで、感謝したくなったのだ。
(悔しいけど、ベンゼン星人の言った通りひよこちゃんにおんぶにだっこだったことは事実だから)
「ひよこちゃんが居たから、僕はここまで勝って来れたからさ」
「ウルトラマンが、ヒカルさんが頑張ったからですよ」
「そうかな」
「そうですよ」
「でもいつも助けられちゃってるのは悪いな」
「悪いことなんてないですよ。私はウルトラマンが好きです。だから支えたいんです。それだけですよ。私が好きでやってるんです」
ひよこは金髪を煌かせ、整った可愛らしい顔を綻ばせてヒカルの手を握った。
「それにもう、みんな共に戦う仲間じゃないですか」
「うん……」
共に戦うことは否定しないが、ヒカルはどこかでひよこたちが死んでしまうのではないかと不安だった。
それを表情か雰囲気から悟ったのか、ひよこは安心させるように優しく笑んだ。
「大丈夫ですよ。私にはウルトラマンがいますから」
ヒカルの鼻にチョンと、少女は人差指を乗せた。
「だから守り切ってくださいね、ウルトラマン」
ヒカルの決意が増した。
優日はスカートと赤い長髪を
ユウヒ、楽しめ。彼女と一体化しているハヤタはそう思いながら見守っていた。
「ねえねえ、ウルトラマンさんはどれに乗りたい?」
優日は、自分と一体化したウルトラマンへ些細なことでも気にかけ声をかける優しい少女だった。
『ユウヒが乗りたいものでいいさ』
「うーん、そっかあ。じゃあ、あれに乗ろう!」
ヒカル達は、遊園地を満喫していった。
ジェットコースターに乗って優日がはしゃぎ、何度も乗ろうと言われ何度も乗ることになったり。全員ウルトラマンであったりウルトラの母と感応できる人間だったりするから、何度ジェットコースターに乗ろうが大して疲れなかったり。
お化け屋敷に入って、優日が全く怖がらず、意外とひよこが怖がって「助けてえウルトラマン!」とヒカルと優日に抱き付いてきたり。
メリーゴーランドに乗っている二人をヒカルが写真に撮ったり。
コーヒーカップを回し過ぎて壊しかけたり。
迷路アトラクションで迷った優日が「お兄ちゃーーーーーん!」と叫んだり。
ご飯を三人で楽しく食べたり。
最後は観覧車でのんびり景色を楽しんだり。
心の休息は、凝り固まった彼らの心を柔らかくした。
※
月の裏側、四次元空間内にて。
ベンゼン星人達の準備は完了していた。
ゼアスと以前戦った時に負った傷も完治している。
「破壊を。絶対の破壊を」
「ダーリン」
「ハニー」
「愛してるわダーリン」
「ワタシもだ」
「「さあ」」
「「今こそ、一つに」」
「今度こそ、本当の終わりだ。破壊と絶望の終焉を。ゼアスを、壊し尽くそう」
ウルトラマンシャドーのようなロボットを作るほど優れた技術を持つレディベンゼン星人が、ライザーという二つの力を合わせ昇華させる技術を再現した。
ライザーのスイッチが押される。
二人の宇宙人の力と肉体が、融合昇華していく。
ベンゼン星人
レディベンゼン星人
フュージョンライズ!
デストラクションキング・ダークベンゼン
既に暗黒の皇帝に匹敵する格と力を備えていたベンゼン星人が、レディベンゼン星人と融合昇華したことで、ベンゼン星人が至ることができる最強状態へと。
ブルトンや闇の力、フュージョンライズ、色々な要素が混ざり合って、あらゆる可能性の中で最も強い、ベンゼン星人が成り得る最強形態。
レディベンゼン星人は、愛する夫であるベンゼン星人の破壊と復讐の道に最後まで付き合う覚悟を持っていた。だから一つになることに一欠片も抵抗はなかった。例え話すこともない、人格もあるかどうかすらわからない一部になったとしても。
ダークベンゼンは、憎悪と執念と破壊への執着を滾らせる。
「ウルトラマンゼアスゥ……」
※
あくる日。休日の家で。
『ヒカル、来る』
「うん」
ヒカル達兄妹とウルトラマンは、ウルトラマンの感覚で強大な闇を感知していた。
まず、昼間の快晴の空が暗くなった。ただ曇っているのではない。闇が広がっているのだ。
その闇の空から、ダークベンゼンが降りて来る。
闇を凝縮したような姿へと変貌したベンゼン星人は、見る者に恐怖を与えた。
『なんだあのベンゼン星人は……』
ゼアスは思わず言った。
『ボクが知ってるあいつとは、もう完全に変わってしまっているのかな』
そのゼアスの言葉は、どこか寂しげに聞こえた。
ダークベンゼンが大地に降り立つ。
『出て来い。ウルトラマンゼアス』
『恐らくこれが最後の戦いだ』
「うん」
『行けるか』
「行く!」
行くしかない。彼はウルトラマンなのだから。
『ユウヒ、油断しないように』
「わかってる!」
ハヤタは、優日がウルトラマンになれたことでテンションが上がり突っ走りそうな状態になっていることを危惧し、
彼女もそれは、一応わかっている。
「お兄ちゃん、二人で勝とう」
「うん、優日となら大丈夫だって思えるよ」
兄妹は並び、それぞれの変身アイテムを取り出す。
ヒカルは赤いピカリブラッシャー2のスイッチを入れ、震動する歯ブラシを歯に当て口内を洗浄する。円筒状のベータカプセルが掲げられる。
ピカリブラッシャー2が掲げられ、ベータカプセルのスイッチが押された。
「ゼアーーーース!」
「ウルトラマーーン!」
光が兄妹を光の巨人へと変え、二人のウルトラマンは土埃を巻き上げ街に降り立った。
「ヒカルさん、優日ちゃん、ゼアス、初代ウルトラマンさん、負けないで」
ひよこが家から外に出て、二人の巨人の背中を見上げていた。
『教えてやろうウルトラマンゼアス』
光の巨人は世界の終わりを体現したような闇の人型と対峙し構える。
『破壊こそ美しいと』
ダークベンゼンの頭部のガス抜き穴からベンゼン光線が放たれた。
その光弾のような光線は、本来の金色に真っ黒な闇色が浸食していた。
『お兄ちゃん、行くよ』
『優日、いくぞ』
二人は同時に言っていた。
二人の巨人はそれぞれに反転した十字を腕で組み、対角線上に必殺光線を撃って、二つの光線を融合昇華させて撃つ。
『『スペシュラウム光線!』』
青白い合体光線でベンゼン光線に対抗する。青白と金黒が衝突した。
重い。
『何だ、この強さは……!』
ゼアスは自分の知っているベンゼン光線と乖離し過ぎた威力に驚愕した。スペシュラウム光線が押される。
されど。
『うおおおおおおおおおおおおお!』
気合いで何とか相殺した。
『はあっ……はあっ……』
『はぁ……はぁ……』
しかし二人の巨人は、既に息も絶え絶えだ。
たったの一撃の攻防で。エネルギーをほとんど消耗させられた。
ベンゼン光線は、ダークベンゼンにとって牽制に使える技程度でしかない。
それだけでウルトラマンを容易に一撃で殺せてしまう威力がある。それが連発できる。
さらにダークベンゼンは、ブルトンの力で金エネルギーを無限に回収していた。慢性ガス過多症で怯むこともなく、無限のエネルギーを闇の力として行使しているのだ。
格の違いというものを、兄妹ウルトラマンは感じさせられていた。
『弱すぎるな。あくびが出てしまうぞ』
ダークベンゼンはゼアスとの因縁を早く終わらせるつもりはなかった。だから手加減することにした。
光線を使わず、素手で接近してくる。
ウルトラストレッチで僅かに時を遅くしても間に合わない。ウルトラリワインドで少しだけ時を戻しても対処できない。
優日が八つ裂き光輪を投げても当たらない。
デスレムとの戦いで使ったウルトラブレンダーで、ウルトラマンが有利な異空間を創ろうとした。今度は本来の使い方だ。ウルトラマンネクサスのメタフィールドに似ている空間が構築されていく。
ダークベンゼンが腕を一振りする。
その異空間は破壊された。
『なっ!?』
ダークベンゼンは、破壊という概念において頂点に達している。破壊できないものはない。
肉薄してきたダークベンゼンとヒカルは格闘戦をした。
『速い――っ』
だがヒカルの拳も蹴りも当たらない。
ダークベンゼンの全体的なスペックも、並以上のウルトラマンを大きく凌駕している。
闇色の拳がヒカルの腹に減り込んだ。
『が――っ』
『お兄ちゃん!』
ヒカルは膝を突いて、立ち上がれない。
(なんだこれ、なんだ、これ)
痛い。痛いなんてものではない。下手すれば今ので死んでいた。頭部かカラータイマーを殴られていたら死んでいた。ダークベンゼンが早く終わらせることを望んでいなかったら殺されていた。奴が舐め腐っていなかったら殺されていた。大きなダメージに力が出せない。
敵が強い。いつも強い。いつだって敵は強い。
一撃の拳だけで、ほとんど再起不能にさせられていた。
『お兄ちゃんを、いじめるな!』
怒りを込めてスペシウム光線を優日は撃ったが、ダークベンゼンは易々と避けて肉薄。
優日にも拳を叩き込んだ。
『あ゛っ』
巨人の体が浮かされ、仰向けに倒れた。
優日も、そのたった一撃で再起不能に追いやられた。
『優日……!』
『くっそおおおっ――!』
ヒカルは妹のピンチに、立てない体を叱咤し、抗おうとする。
『さて、ここで明かそう』
『は……?』
ダークベンゼンが、突然言った。
『まずこれを見てもらう』
空中に、巨大な映像が幾つも投影された。
その映像の中で、どこかも知らない町が壊滅していた。また別の映像では、人の死体が積み上げられて山を作っていた。地球を俯瞰した映像では、ほとんどの大陸が無かった。
『先の戦いで貴様を殺したと思った時は少し残念だった。これを見せることができて嬉しいぞウルトラマンゼアス』
『……?』優日はよくわかっていなかった。
『なんだ、これ』ヒカルは嫌な予感を
『実は、地球は既に滅んでいたのだよ。このワタシの手によって』
『そんな馬鹿な……。ならハヤタさんが来た時に気づいたはずだ。デタラメを言うな』
『この映像を見てもか?』
『映像なんていくらでも作れるだろ』
『ヒカル……今、"認識疎外が解かれた"』
『え?』
『ベンゼン星人、いや、ダークベンゼンか。あいつは、ハヤタさんをも欺く認識疎外の能力を使っていたんだ』
ブルトンの四次元干渉能力を拡大解釈し、闇の力で増幅することで得た、なんでもありの認識疎外能力をベンゼン星人は持っていた。
『つまり、どういうこと……』
ヒカルは薄々わかっていた。けれど信じたくなかった。
『ワタシが初代ウルトラマンを欺けないとでも? 舐められたものだな。初代ウルトラマンは伝説扱いされているが、万能ではないのだぞ』
『ハヤタさん……?』
それでもウルトラマンを信じたくて、ヒカルは倒れている初代ウルトラマンを縋るように振り返る。
『……すまない。相手の方が一枚上手だったようだ』
『そんな……』
『貴様は憧れを神聖視し過ぎている』
『くそっ……!』
ヒカルは状況をどう受け止めようか必死に考えていた。
『受け入れられないのなら、見て来い』
ダークベンゼンがヒカルを、"思い切り蹴り上げた"。
たったそれだけで、ヒカルは宇宙まで飛ばされていく。
ふっ飛ばされた宇宙空間で、嫌というほどほとんど死の星と化している地球を見せつけられた。
大陸が、日本以外どころか、降赤町以外の大地が破壊され消滅していた。
『これが、現実なのか……』
『ヒカル、ごめん……地球の皆さん、ごめんなさい……』
ゼアスは護れなかった無力感と絶望感に押し潰されそうだった。
(ボクがベンゼン星人との戦いの中ここに来なければ。ボクが巻き込まなければこんなことにはならなかった)
(だから、ごめんなさい……)
それはゼアスの所為ではないと以前ヒカルに言われたが、ゼアスはそれでもずっと負い目を感じていた。
その負い目が、人類がほとんど絶滅した状態を見せられて、絶望と後悔となって表出していた。
こんな地球の状態で今までそれでどうやって降赤町が機能していたか。それは、認識疎外と生活に必要なものの供給を、ゼアスを絶望させる為だけに、今までベンゼン星人が賄っていたからである。
ダークベンゼンになる以前のベンゼン星人の時点でも、ブルトンと一体化し闇を取り込み続けて異常な力を手にしていたベンゼン星人には、容易いことだった。
さらに、ウルトラマンが周知されている世界で、ゼアスの変身者であるヒカルが探されなかったのも、ベンゼン星人がゼアスとの戦いを邪魔されたくなくて認識疎外能力を使ったからだ。
そんな中でも戦いに来てくれていた自衛隊の人達は、その認識疎外を抜けることができるほど心がとても強い僅かな人間達なのだ。
『ゼアスの変身者よ』
宇宙まで神速で飛んで来たダークベンゼンが、ヒカルの目の前で言う。
『……!?』
『貴様の両親は、確か海外出張中だったな』
『っ! まさか!』
『ああ、そのまさかだ。貴様の両親は死んでいる』
ダークベンゼンは、ゼアスだけではなくゼアスの変身者であるヒカルも絶望させたい。
『ワタシが殺した。フハハハハハハ』
仕事で飛び回って忙しいはずだった両親。忙しいからほとんど連絡も取れない状態のはずだった両親。
本当は、海外にいた両親は、ベンゼン星人のゼアスを絶望させる為の日本以外の間引きに巻き込まれ殺された。
ヒカルは、認識疎外が解かれた記憶を思い起こす。
(たしか……確か、父さんが海外出張に行くことになって、母さんは頼りない父さんを支えるために一緒に行くことにしたんだ。病気の優日のことはあったけど、優日には僕がいるからって、優日のことはお兄ちゃんを信じて任せるって、任せてくれたんだ……)
そうして日本を出た瞬間に、二人は殺された。
ベンゼン星人がデスレムを送って、その時にヒカルがゼアスの変身者だと知った時点で、後に絶望させるために一連の破壊と認識疎外を行っていた。
悪辣で邪悪な所業としかいえない。
『絶望しろ。ウルトラマンゼアス』
ああ、絶望。また絶望的な状況だ。いつも絶望的だ。
それでも、ヒカルはもう下を向かないと決めたのだ。
ゼアスも、数千年前とは違うのだ。
『今は、考えない。辛いけど、考えない。ダークベンゼンを倒す以外のことは、考えない』
『そうだ、それこそが今、ボク達がやるべきことだ』
ダークベンゼンに勝たなければ、僅かに残った人類さえも殺されてしまう。
どんなことになっても、人を護るのが、ウルトラマンなのだから。
『できるものならやってみるがいい』
ヒカルはダークベンゼンに上から殴られた。腕を咄嗟に上げ防御したが、今度は地球まで叩き飛ばされていく。
『ぐあっ!?』
町の中心に巨大なクレーターができた。
ダークベンゼンが悠々と降りて来る。
『負けるか……』
どうにか立ち上がり、ヒカルは戦おうとするが。
『お、お兄ちゃん……』
優日の声に振り向く。
優日の、ウルトラマンの体が灰色になりつつあった。
『ワタシは、貴様らウルトラマンを石に変えられるのだよ』
ウルトラ戦士を石に変えるほどの石化能力を、ダークベンゼンは保有している。
『やめろ!』
優日の全身が石になっていく。
『お、にい、ちゃ、ん…………』
優日は全身が石になり、物言わぬ初代ウルトラマンの石像になった。
『あああ……』
『今からこいつを破壊してやる』
『やめろ! やめてくれ!』
ダークベンゼンが巨人の石像に接近していく。
ヒカルは止める為に優日とダークベンゼンの間に入ろうと走った。
そうして、あと少しというところをベンゼン星人が計算して、兄の目の前で妹の体を破壊した。
無残なバラバラ死体が、呆然と手を伸ばすヒカルの目の前にできあがった。
またウルトラマンが殺され、優日は死んだ。
『ベンゼエエエエエエエエエエエエエエエンッッ!!!!』
『フハハハハハハハッッッ!!!』
『優日は、これから幸せになっていけるはずだったんだ! こんなところで、死んでいいはずがないんだ! せっかく、病気が治って、これからなのに……こんなのって、あんまりだ』
ヒカルは怒りと嘆きで頭がどうにかなりそうだった。
頭がぐちゃぐちゃで何も考えたくなかった。
それでも戦わなくてはいけなかった。
「優日ちゃん……」
ひよこは祈った。少女の体が光に包まれる。ウルトラの母と感応し、命を蘇らせる力を行使した。
しかし、それは不発に終わる。少女を包んでいた光は消えた。
「あ…………どうし、て」
ひよこは、ウルトラの母の力でも優日とウルトラマンを蘇らせることは不可能だと悟ってしまった。ダークベンゼンの力はそれほどまでに破壊し、終わらせてしまったのだ。
破壊の概念を纏ったベンゼン星人の攻撃は、破壊という状態以外になることを許さない。
ひよこは、万が一のときは蘇らせるために力を使わずに温存していたのに。
せっかく使わずにいた切り札は、無駄になった。
だから、ゼアスに託すしかなかった。
本来のウルトラの母の力とは少し違う進化を遂げた力で、ゼアスを強化する。
「信じてます、ヒカルくん、ウルトラマンゼアス」
命も燃やし尽くさないと勝てる可能性すら生まれないと悟ったから、ひよこは本当に全てを託した。
自らの命をも、ひよこは光の力にしてヒカルの強化に費やした。
ウルトラマンの為なら、ひよこは命も捧げられる。
ウルトラマンを信じ続ける少女は、光と成って消滅した。
『ひよこちゃん……そんなこと、しないでよ』
ヒカルは泣いていた。
大切な人達が死んでいくのが、彼にとって一番絶望的だった。
それでも自分は強くなったからと、強くなったはずだからと、前だけを見据える。
ただ、勝たなければ。
ウルトラマンゼアスは、光に満ちて、光に覆われる。
ウルトラマンティガの最強形態に似た姿。グリッターティガならぬ"グリッターゼアス"といえるような存在へと強化された。
グリッターゼアス。小さな子供の頃からウルトラマンを信じ続けている少女の思いが詰まった光の形態。ウルトラマンを信じる子供の思いが力になっているのはグリッターティガと同じである。
『ほお、少しはやれるようになったか?』
ダークベンゼンが金色と黒色が混じり合ったベンゼン光線を頭部のガス抜き穴から放つ。
ヒカルも腕を十字に組んで必殺光線を撃つ。
『グリッタースペシュッシュラ光線』
その光線は青色に金色が混ざっていた。ベンゼン光線のような邪悪な金色ではなく、ひよこの思いが宿った光の色だ。
ベンゼン光線と衝突し、拮抗し、押していく。
押し切って、青金色の光線はダークベンゼンにダメージを与えた。
そう、ダメージを与えただけだ。倒すには至っていない。
(でも傷を負わせられたのなら、倒せないわけじゃない)
ダークベンゼンが石化能力を使う。
ヒカルを覆う光がそれを無効化した。
『もう、負けるわけにはいかないんだ』
大地蹴りダークベンゼンへ肉薄する。
ダークベンゼンは四次元操作と認識疎外能力を併用してヒカルを近づけさせない空間を創り出す。
その空間もヒカルを覆う金色の光は粉砕した。
肉薄したヒカルとダークベンゼンは格闘戦に移行。金色の拳と闇色の拳が ぶつかり合う。蹴りが手刀が応酬され、互角の接近戦が繰り広げられる。
そうして、お互いの拳が胴体に刺さる。
『――っ!』
『ぬぐぅっ……!』
グリッターゼアスにもダークベンゼンにもダメージが通った。
ダークベンゼンは、自分の攻撃が効いたことと、グリッターゼアスといえど自分を一撃や二撃で倒せるわけではない事実を理解した。
再びグリッターゼアスの金色の拳が振るわれる。
ダークベンゼンはそれを避けずに体で受けた。
『なに!?』
ゼアスのパンチは狙い違わずダークベンゼンに命中した、ダメージも通った。だけどそれだけだ。
その隙にダークベンゼンは自分を殴ったヒカルの腕を掴んだ。
『破壊だ』
破壊の概念が流し込まれる。
『破壊破壊破壊破壊だァ!』
『ぐああああああああああああああああああああ!』
腕を掴まれてすぐに抜け出せない状態で、体の内側に破壊の概念を流し込まれ破壊し尽くされる。
ひよこから受け取った光も、なにもかも。
ヒカルは"光を破壊された"。
デストラクションキング・ダークベンゼンは"すべてを破壊する力"を保有している。
故に
ベンゼン星人の変質的な特性が現実となった、悪夢のような能力である。
ウルトラマンゼアスを包んでいた金色の光が、消えていく。
完全に完膚なきまでの戦闘不能状態にされた。
ダークベンゼンに首を掴まれ吊り下げられる。ヒカルの四肢は動かず、だらんと垂れ下がった。
ひよこが命を総て使い切り託した力でも、勝てない。届かない。
子供達の希望そのものともいえるグリッターが敗れるほど、デストラクションキング・ダークベンゼンは理不尽に強かったのだ。
『なんで、なんで勝てないんだ。ひよこちゃんの最期の思いだぞ。それを受け取って、勝てないなんて、そんなのウルトラマンとして許されない』
『そうか。だがこれが現実だ。ゼアスの変身者よ』
『ヒカル! まだだ、諦めるな!』
ゼアスが叱咤するが、体の機能や光の力を破壊し尽くされては、どうしようもなかった。
『それでも、ウルトラマンは諦めてはならないんだ』
『わかってる。わかってるよ。でも、身体が動かないんだ』
どうすればいい。どうすれば、諦めない心を勝利へ繋げられる。
心の光をエネルギーにする力は、破壊されている状況で、どうすれば。
ウルトラマンは、心の光こそを力とする、光の巨人だというのに。
『諦めないのは勝手だが、逆転の目は全て詰ませてもらう』
ダークベンゼンがベンゼン光線を街へ向けて乱射し始める。
『な……』
人々が死んでいく。大量殺戮が為されていった。
悲鳴が何度も聞こえた。
『今まで小賢しい光の奇跡に邪魔されてきたからな。それは完膚なきまでに破壊してやる』
ヒカルは止めを刺されず瀕死状態で生きたまま、人々が殺されていく光景を見せられる。
「助けてウルトラマン!」
子供の声が聞こえても助けられない。
無様に首を鷲掴みにされ吊るされたまま、破壊と絶望の光景を目に移すだけだ。
町中の人が、殺し尽くされた。
既にこの町以外に人類は存在しない。その上で僅かにこの町に残った人間が一人残らず殺された。
つまり、人類絶滅だ。
『ウルトラマンは奇跡を起こして当然だと、ワタシは長いゼアスとの戦いで学んだのだ。ならば奇跡が起きる要因を全て破壊すればいい』
ダークベンゼンはヒカルの首を掴んだまま光速で上昇し、宇宙に出た。
そして、破壊の概念を纏った光線を地球に撃つ。
地球は、まるで嘘のように簡単に、粉々になり、破壊された。
『これで、奇跡は無くなった』
ダークベンゼンの、これ以上ないほどの完全勝利だ。地球と人が助けを求められなければ、ウルトラマンが蘇る要因などない。
完全なる絶望がヒカルとゼアスを襲う。取り返しがつかない状況だ。もう誰もいない上、護る場所さえない。
『ああぁ………………』
こんな絶望を前に、希望なんて持てるのか。
まだ諦めないなんて言えるのか。
それは、現実が見えていないだけではないのか。
『ゼアス、絶対の絶望をしながら、その命を破壊に終われ』
ウルトラマンの表情が変わらない奥で、絶望の表情を晒していたヒカルへ破壊の概念が叩き付けられる。
ヒカルとゼアスの命は破壊された。
赤き巨人の体が、光の粒子にすらならずに消えていく。
ウルトラマンは死ぬ。蘇る要因が破壊された死は、一つの状態ではなく、人と変わらない本物の死だった。
『終わったな、ウルトラマンゼアス』
『最高の気分だ』
『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』
宿敵と地球のなくなった宇宙で、ダークベンゼンは独り勝利に