意識なんて持てないはずの死の暗闇の中で、ヒカルは思う。
終わった。
死んだ。
絶望。
希望が欲しい。
終わりたくない。
死にたくない。
負けたくない。
助けて。
助けたい。
護ってくれ。
護りたい。
救ってくれ。
救いたい。
どうしてこんなことに。
嫌だ。
嫌だ
闇。闇ばかり。
光。光を。
ぐるぐるとぐちゃぐちゃと感情が巡る。
諦めたくない。諦めたい。
もう終わっているから、諦めるも諦めないもないのではないか。
もう頑張らなくてもいいんじゃないのか。
そう、少しだけ思った。
少しだけだ。
僕は、諦めてはならないのではないか。諦めてはならないはずだ。
僕は約束したんだ。優日に約束したんだ。
揺るがない強い意思を持って立ち上がって、諦めないで前を見て限界を超えて、何度倒れても、立ち上がって、戦って、そして勝つ。
ウルトラマンをやるんだ。
兄として、例えどんな状況でもそれを違えることなんて許されない。誰が許しても僕が許さない。
ウルトラマンは頑張らなければならない。
諦めるな。
絶対に、諦めない。
その強い意志に、ひよこが応えた。
少女が光を一つ灯した。
破壊されたはずの心の光が、"無から有として"発生した。
そして、その光を広げていく。
"ウルトラの母と感応できる少女"という存在が、どれほどの光なのか。無から光を生み出すほどの存在など、ダークベンゼンの想定外だった。
少女の強い意志が暗闇の世界を変えていく。
熱く燃える君だけが愛も希望も失くさずいた、熱く燃える君だけが太陽のように昇る。
少女が太陽のように暗闇を照らし、それに照らされる星のように光が灯っていく。
君の果てない力に、愛と希望と灼熱の夢を賭けようと、死んでしまったはずの人々が力を貸してくれる。
ひよこが、一人不安になった時はきっと思い出してと、人々に光を与えていく。
私達は一人じゃない。どんなに遠く離れていても大切なものはここにあるよと、死んでしまった人々の心に光を灯していく。
『ヒカルさん、どうしたいですか』
ひよこが問う。
『救いたい。生きたい。取り返しのつかない絶望であっても、諦めたくない。でも、本当に取り返しがつかないんだ』
全部破壊された。この死の空間で光が灯ったとしても、ここで確かな意思を持てるだけで、生の世界に戻れるわけではない。
『大丈夫ですよ。ヒカルさん』
『え?』
嘆きと願いに応えて叶えるのがウルトラマン。
『ウルトラマンは、最高なんです』
ひよこの笑顔が見えた。と思った瞬間。
死の空間の、上下も分からない闇の空間の空から、優しく輝く光がやって来た。
その光は、光の巨人。
ウルトラマンの基本カラーである銀と赤に、クリスタルのような水色の物体が流線型に付いた青き光の戦士。
ウルトラマンギンガだ。
ギンガは、
ひよこの光は、そのきっかけを与えたのだ。
どんなに辛くて、どんなに苦しくても、きっと、きっと、きっと、ゴールは近いから。
そのゴールまで力を貸す為に、ウルトラマンギンガはやって来た。
そうして奇跡は起こる。
それは。
言ってしまえば、これ以上ないほどのご都合主義だった。
ウルトラマンは、機械仕掛けの神――デウス・エクス・マキナに例えられた時がある。
デウス・エクス・マキナとは、劇の脚本が収拾つかなくなってしまった時、無理矢理終着点を作って劇を終わらせるために、物語を理不尽な力で解決させてしまう神のことである。
わかりやすく例えるのなら、絶対に解けない呪いを受けてしまったキャラが、唐突に現れた神の力により呪いを解かれ助かってハッピーエンドといったものだ。
――例えば、絶対に勝てない理不尽な力を持つ怪獣が人類を絶滅させかけた時に、ウルトラマンが現れるといったものだ。
陳腐な妄想でしかないと言えばそれまでだ。
しかし、本当にそんな存在がいて、現実のどうしようもない絶望を救ってくれるというのなら。
それは、これ以上ないほどの希望なのではないか。
だからこそウルトラマンは、我らのヒーローと称えられるのではないか。
だからウルトラマンは、かっこいいのではないのか。
救ってくれウルトラマン。理不尽に抗っても潰される現実を否定してくれウルトラマン。
そこにいるのなら、その場所だけでも、いるのなら。
救って、光の希望を見せてくれ。
ウルトラマン、永遠の僕らのヒーロー。
ウルトラマンギンガは、そんな、地球に生きていた誰かの思いも受け取って、ここまでやって来た。
光を取り戻せ、今。
ウルトラマンゼアスの光が、灯った。
ウルトラマンギンガは、"遥か未来からやって来たウルトラマン"だ。
未来から来たウルトラマン、それがギンガ。未来から来たウルトラマンが存在するんだ。つまり、ウルトラマンは遠い過去へも飛べることがあるのだ。過去に戻ることが不可能ではない存在なんだ。
未来から過去へ、過去から未来へ希望を繋ぐ者。それがウルトラマンギンガ。
時間操作能力を持つゼアスと、未来からやって来たウルトラマン。どちらも時間に関するウルトラマンという縁も、ゼアスとギンガをひよこの光が引き合わせることができた要因である。
なぜ、シャドーとビゾームとの戦いで、あの時初代ウルトラマンはヒカルを過去の状態に戻して、再びチャンスを与えることができたのか。
なぜ、過去に、時間に、干渉できたのか。
地球に最も近い場所にいたウルトラマンの力を借りたからだ。
ゼアスではない、あの時健在だったウルトラマンの力だ。
その近くにいたウルトラマンが、ウルトラマンギンガなのである。
ゼアスの意識が取り戻された。
ゼアスの時を少し戻すことができる能力ウルトラリワインドと、絶望の未来から過去へとやって来るウルトラマンギンガの力が合わさる。
『ボクが巻き込んだんだ。全ての尻拭いを、させてもらう』
ゼアスのその決意の心の光も加わったからこそ、ゼアスとギンガの力は合わさった。
それは、どのような過去にも戻すことができる力となった。
どのようなものも、好きに過去の状態へと戻す万能の奇跡が一度だけ顕現する。
たとえ無限の闇が世界を閉ざしても、僕らを導く、希望灯す光の戦士。それがウルトラマン。
二度と新しい日々の邪魔はさせない。
さあ立ち上がれ、僕らのヒーロー。
失われた心の翼広げて。失われた時の翼広げて、目覚めよウルトラマンゼアス。
世界の時を戻し、地球の物質と生命だけを元通りにする。
まず地球が元通りの姿を取り戻す。青い、美しい地球だ。
そしてベンゼン星人に殺された、ベンゼン星人が送り込んだ怪獣に殺された、理不尽な邪悪に殺された人々の命が、"過去の状態に戻った"。
ゴドレイ星人の破壊光線で壊されたビルの中にいて死んでしまった人も、バードンに捕食されて死んでしまった人も、勇ましく戦い散っていった自衛隊の人たちも、誰も彼もが命を過去の状態に戻されていく。
全ての命を、地球の命を元に戻す。
それは最大の奇跡。
『なんだこれは……』
青い地球を目にして、ダークベンゼンは呻く。
『なにをした! ウルトラマンゼアスゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!!!』
取り戻された降赤町の中心、地球の大地に立つウルトラマンゼアス、初代ウルトラマン、ウルトラマンギンガ。
今だったら、なんでもできるとヒカルは思えた。
『ひよこちゃん!』
「はい!」
ひよこが、ウルトラの母との感応を、今までにない心の光のエネルギーが満ちたこの瞬間を使って、"ウルトラの母に変身した"。
ヒカルが声を張る。
『ウルトラマンさん!』
初代ウルトラマンの姿がゼアスと重なる。
『ギンガさん!』
ウルトラマンギンガの姿がゼアスに重なる。
『ウルトラの
ウルトラの母の姿がゼアスに重なる。
『みんなの力、お借りします!』
ヒカルとひよこと優日の人間三人、ゼアスとウルトラマンとウルトラの母とウルトラマンギンガの光の巨人四人が一体となり、最強フォームへ至る。
(今まで絶望していた時も、みんながいた。今も、みんなで戦えばいい)
結局いつもみんなに助けられている。けれどヒカルはそれでいいと思えた。
ウルトラマンゼアス・スプリームヴァージョン。
赤と銀と青色の体に、青と赤色のクリスタルのようなものが流線型に付き、三本の角のようなものが頭部から生えている、瞳が夕日色の戦士。
輝けゼアス。最強無敵の、光り輝くヒーローよ。
歓声を上げる人々の声を背に受け、ゼアス
『行きますよ、ヒカルさん!』
『行くよ、お兄ちゃん!』
『うん!』
始まりは別だった。されどひよこと優日は、同じ思いを持って今ここにいる。ヒカルさんをお兄ちゃんを支えたい、共に戦いたいという思いを持って。
大地蹴り大空へ、宇宙にいるダークベンゼンの元へ向かう。
青い地球を下に、ゼアスSVとダークベンゼンは対峙する。
『しぶとい』
『しぶといしぶといしぶとい!』
『これだからウルトラマンというやつは!』
『破壊してやる』
『貴様を破壊することこそが、ワタシの望み! ワタシの悲願! ワタシの生きる意味だ!』
ベンゼン光線が頭部から放たれる。
『お兄ちゃん』
優日の意識が前に出る。
ゼアスSVは手を光り輝かせ、ベンゼン光線を弾く。
ウルトラバリヤーで敵の光線を逸らしていた初代ウルトラマンの技能が、ヒカルを助けている。
今のウルトラマンゼアスは、"輝くその手で闇を払う光の戦士"を物理的に体現していた。
『おのれえええええええええええ!』
連射されるベンゼン光線を弾きながら肉薄していく。
すれ違いざまにチョップを食らわせた。
ウルトラマンゼアスには、ゼアスクロスver.1.0という技がある。
チョップを命中させた箇所を爆発させる技だ。
だが今のはゼアスクロスver.1.0ではない。
――ゼアスクロスver.100.0。
通常の百倍の大爆発がダークベンゼンの表皮で発現した。
ダークベンゼンは大ダメージを受ける。
だが倒せない。
むしろ怒りが増し、闇の力を増強させる。
『破壊だァ!』
ゼアスSVを石化させることで動きを止め、手で触れ破壊の概念を流し込んだ。
石化したウルトラマンの肉体が砕け、大ダメージを食らった。
『ヒカルさん』
ひよこの意識が前に出る。
ウルトラの母の強力な治癒能力で瞬間回復。砕けた肉体は元に戻り、石化も瞬時に治った。
破壊の概念を本気で込めたベンゼン光線が撃たれる。
一発ではない。
地球を一撃で破壊する光線が連発される。
ゼアスSVは左腕でスペシュッシュラ光線、右腕でスペシウム光線を同時撃ちした。
光線が相殺していく。
『これならどうだァ!』
無数の、辺り一面の視界に広がる程の破壊の概念を込められた闇の光弾が生成された。
それらが一斉に放たれる。――地球へ。
『まずい――!』
ウルトラマンは地球を護る。それを
対応できないほどの"数"を、ダークベンゼンは用意したのだ。
『ギンガさん、力借ります』
ゼアスSVはギンガの力を使う。
全身のクリスタルを真っ赤に輝かせ、無数の火球を生成した。
『ギンガファイヤーボール!』
無数の火球を放つ。
数には数で対抗し、破壊の光弾と火球は相殺していく。
『ゼアスゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウ!!』
『ベンゼン星人!!!』
因縁の二人が、ゼアスとベンゼン星人が猛り叫ぶ。この戦いが因縁の終わりだとお互い予感していた。
光と闇が、再生と破壊が削り合う。
何度もぶつかり、お互い消耗していく。
ゼアスSVとダークベンゼンは、あと一発だけしか光線技を撃てないほどボロボロになるまで戦った。
『ウルトラマンゼアス』
ダークベンゼンは破壊と最上級格の闇の力を頭部に溜めていく。
『これで終わらせてやろう』
最高潮にまで闇色の光が輝き至った。
『破壊に終われゼアスゥゥゥゥウウウウウウウウ!!!!』
――デストラクションベンゼン光線。
ダークベンゼンのすべての破壊の力を込めた暗黒色の光線。星を一つ破壊しても足りないほどの破壊の暴流が放出された。
『――受けてみろ』
ウルトラマンゼアス、初代ウルトラマン、ウルトラの母、ウルトラマンギンガの力が一つに合わさる。
ゼアスSVの腕を十字に組む動作に、X字に組む動作とL字に組む動作の幻影が重なった。
『マリン・クロス・スペシュッシュラ光線』
虹色の十字とX字とL字に重なった、最強の必殺光線を撃った。
ダークベンゼンの最強光線とゼアスSVの最強光線が激突。拮抗。
だが押されていく。
ベンゼン星人の、数千年と
虹色が暗黒色に塗り潰されていく。
地球から、人々の声が聞こえた。
『ゼアス、ゼアス! ゼアスゼアスゼアス!』
『ゼアス、ゼアス! ゼアスゼアスゼアス!』
『ゼアス、ゼアス! ゼアスゼアスゼアス!』
人々の声援で、ゼアスSVの、ウルトラマンの力は増していく。人々の声援に応えて強くなるのがウルトラマン。
人々が助けてくれと望むのであれば、ウルトラマンはどこまでだって強くなれる。
『お兄ちゃん!』
『ヒカルさん!』
『優日! ひよこちゃん!』
仲間と心の光を合わせた気合も、必殺光線を前に進ませた。
光が闇を押していく。
『なんだ、とォォォォオオオオオオオオ』
『……っ』
ゼアスは、腐れ縁のようなベンゼン星人を殺すことに抵抗を感じた。
宿命の敵ではあるが、何千年も顔を合わせて来た腐れ縁のようなものをゼアスは感じていた。
しかし、例え復讐の妄念を、ギンガコンフォートという邪悪な心から解放する能力で消すことができたとしても、ベンゼン星人は破壊の美学を生き甲斐としている。
どちらにしろ何かを破壊し周囲の生き物を傷つけることしかできない存在だ。その考えさえ消したとしても、それはベンゼン星人ではない。都合の悪い思想を持っているからといって無理矢理変えさせるのは違うとゼアスは思う。
だから、そのままのベンゼン星人と向き合ってぶつかるのが一番だとゼアスは考え直した。
マリン・クロス・スペシュッシュラ光線がデストラクションベンゼン光線を押していく。
光は闇に押し勝った。打ち勝った。
ダークベンゼンは、ベンゼン星人は、虹色に呑み込まれ、消滅していった。
地球で人々が歓声を上げる。
静かな宇宙で、ウルトラマンゼアスは仲間達に寄り添われながら一人言葉を零した。
『終わった……』
ゼアスは、ようやくベンゼン星人との因縁に終止符を打つことができたのだ。
※
戦いが終わって、数日後の朝。
ひと気のない山の中で、ヒカル達三人とゼアス達三人のウルトラマンは別れの挨拶をしていた。
ゼアス、ハヤタ、ギンガ、の巨体をヒカル、ひよこ、優日は見上げる。
『もうこの星は安全だ。怪獣に脅かされることはない』
「うん」
ゼアスが話していく。
『本来この次元の宇宙には怪獣がいなかったからね。ベンゼン星人を倒した今、怪獣が送られてくることはない』
ヒカルはただ頷くだけだ。
『ヒカル、君は僕が巻き込んでしまった戦いで勇気を得た。その勇気を失わないでくれ。君は強い男だ』
「……うん」
ヒカルは、もう弱さに負けることはない。
「ゼアスと過ごした時間は、楽しかったよ」
『ボクも楽しかった』
「いつまでも友達だよね」
『ああ、友達だ』
ヒカルは、かけがえのない友達を得たのだ。
巻き込まれただなんて、ヒカルはもう思えなかった。
自分にとって必要ですらあった、貴重な体験だと思えていた。
優日とハヤタは目を合わせる。
ハヤタは優しくゆっくりと頷いた。
優日も笑顔で頷き、それを別れの挨拶にした。
ひよこは、やっぱりウルトラマンはかっこいいなあ。ウルトラマン好きだなあ、と、満面の笑顔を浮かべて三人のウルトラマンを見上げていた。
別れの言葉と、伝えたい言葉を送って、ウルトラマン達は空へ飛び、帰っていく。
「…………」
ヒカルは、しんみりした感情を持て余して、ずっと空を見上げて立っていた。
すると背中をポンと叩かれる。
「お兄ちゃん、学校行こ! 送ってくれるんでしょ!」
優日は学校の方向へ歩みを進めた。
今日は優日の、中学校への初登校日である。
初めての学校に、優日は高揚していた。
(楽しみだな)
心躍って、ルンルンだった。
今は登校前の時間帯、あまりのんびりしていると遅刻してしまう。
「……うん」
「ヒカルさん」
ひよこはヒカルの手を握ってくる。
優日は振り返ってそれを見て、戻って来てもう片方の手を握った。
三人で手を繋ぎ並んで歩く。
「もうウルトラマンに変身できないんだなあ」
ヒカルは感慨深い気持ちに浸っていた。
「もう僕は、ウルトラマンじゃないんだ」
「ヒカルさん、あなたは私にとっていつまでも、最高のウルトラマンですよ」
花開くような信頼と好意の笑みを、ひよこはヒカルへ向けた。
「ありがとう」
金色の髪が靡き、翡翠色の瞳が綺麗で、眼帯が痛ましくも似合っているひよこに、彼は見惚れた。
(これからも、ウルトラマンであったときの心の強さを忘れずに歩いて行こう)
(結局最後まで誰かに助けられてしまったけれど、自分が寄り掛かるだけでないのなら、それでもいいのかもしれない)
ヒカル達は非日常を終え、日常を歩いて行く。
成長した新たな心を持って、今度は現代社会を生きて過ごしていくのだ。
おしまい。ここまで読んでいただきありがとうございます。
ウルトラマンゼアスSのSは、ウルトラマンギンガSのSと、新生のSと、スプリームヴァージョンのS。
初代ウルトラマンは宿敵ゼットンをマリンスペシウム光線で倒し、ゼアスも宿敵ベンゼン星人をマリンの名を冠した技で倒す、みたいな。