ウルトラマンゼアスS   作:ソウブ

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 (おうぎ)のような形の左手を持った骨と肉が逆転したような外見の、卑劣な謀略を得意とする宇宙人。

 策謀宇宙人デスレム。

 鳥の嫌なところを結集させたような外見の、ウルトラマン殺しの怪獣。

 火山怪鳥バードン。

 

 二体一で、ヒカルは対峙する。 

 

『じゃあ、行こう。ボクも一緒に戦うよ』

『頼むよ』

 

 二対一ではない。実質二対二だ。さらに言えばひよこも入れて三対二だ。一人のようで一人ではない。一人なんかじゃ決してない。

 

『正面からとて、オレに適うと思うなよ!』

 デスレムが、火球を生み出し空から相手に向かって降らせる技、デスレムインフェルノを放ち、同時にバードンがボルヤニックファイヤを放射したのを始まりに、決戦の火蓋は切って落とされた。

 

 ヒカルは跳んで避け、そのまま飛行する。バードンも飛んで追って来た。

『速い……! けど――』

 ヒカルの方が速い。

 元々のゼアスの最高飛行速度はマッハ19,9、そしてバードンはマッハ20である。されど今、ひよこの強化を受けたヒカルの速度はマッハ20を超えていた。

 

 バードンがボルヤニックファイヤを吐き、デスレムの火球が上から襲い来る。

 ヒカルは火球を手刀で弾き、火炎放射は体を捻って避けた。

 

 今、ヒカルの中にはゼアスの意識があることで、ゼアスが戦闘技能、戦闘感をサポートしてくれている。

 ゼアスは、以前別次元の地球で戦った時よりも長い時を経ており、歴戦の戦士と成っていた。戦闘技能は正に卓越した武人のそれだ。

 ゼアスの力を完全に引き出しているのはゴドレイ星人戦の時と同じだが、今はゼアスの意識があり直接サポートしてもらえる分精度が上がっている。

 

 おかげで、襲い来る二体が放つ炎や、バードンの超速突進に対処ができていた。

 火球を弾き、火炎放射を避け、(くちばし)で刺すための突進を逸らす。ここまで、ヒカルは傷を負っていない。

 

『すごいよゼアス!』

『ボクは手助けしているだけさ』

 

 上方からの火球。前からの火炎放射。突進。それらを格闘術で対処する。防御の一連の流れが綺麗に決まっていく。 

 そのままヒカルは攻めようとするが、うまく攻められない。

 デスレムインフェルノとボルヤニックファイヤが間断なく襲っているのもあるが、バードンに対しては嘴と猛毒が怖くて近づけない。デスレムを狙おうとすればバードンが追い縋り、バードンを何とか狙おうとしてもデスレムの降り注ぐ火球に妨害される。

 防ぐだけで精一杯だ。攻撃に移る余地がない。

 

『どうすれば……』

『ヒカル、バードンには弱点があるんだ』

『弱点?』

『嘴の横に垂れ下がってる毒袋が弱点なんだ。あれを潰されたら毒が逆流してバードンは著しく弱体化する』

『そんなのがあったのか』

 ヒカルはウルトラマンにわかだから知らなかった。バードン自体はウルトラマン殺しだと知ってはいたが、弱点は知らなかった。彼はウルトラシリーズをそれなりに観ている方ではあるが、バードンが登場する回は運悪く観ていなかったのだ。

 

『でも、嘴の横か……』

 迂闊に近づいて突かれ、猛毒を流し込まれれば終わりだ。そしてヒカルが使える遠距離攻撃はスペシュッシュラ光線のみ。この高速戦闘の中ではそうそう当たらない。

 簡単には弱点をつけないのだ。

 

(どうすれば……)

 デスレムとバードンの猛攻を凌ぎながら、ヒカルは考えるがいい案が浮かばない。エネルギーと時間だけが消耗されていく。

 

『ヒカル、ウルトラストレッチだ!』

『ウルトラストレッチ?』

『一時的に時間の流れを遅くする技だよ。それを使って毒袋を狙うんだ』

 ゼアスの能力すべてを引き出せている今ならば使える、ゼアスの持つ能力の一つ。

 今のヒカルはゼアスと一体なので、その技に関してもすぐに理解した。いや、自覚した。

 

『ウルトラストレッチ!』

 瞬間、時が遅くなった。

 降り注ぐ雨はゆっくりと落ち、雨粒が視認できるほどに。バードンの動きは、もちろん見える。

 

 ここからスペシュッシュラ光線で狙いたいが、ウルトラストレッチは数秒しか持たない。使用中に光線技まで使ったら一秒も時間遅延が持ちはしないのだ。

 エネルギー残量的に必殺光線の使用は控えた方がいい。

 だから、頼れるのは己の肉体のみ。接近して攻撃するしかない。

 一発で決められなかったら、弱点を狙われないように対策されるかもしれない。二度はない。

 

(できるか? 一発で決められるか?)

 怖い。失敗したらまた殺されるかもしれない。

(いや、やるんだ!)

 

 ヒカルはバードンに接近していく。毒袋を慎重に、かつ高速で狙う。

 デスレムの妨害もありながら、バードンと高速で飛び合いながら、最大の集中力を発揮して狙う。

 

 マッハ20の世界の中、風が吹き付け、敵の炎が荒れ狂い、時間遅延の効果時間が数秒しかない緊張と、集中を乱す要素なら幾らでもある。

 

 それでも針の穴に糸を通すが如く、ヒカルは集中する。

 今ある全てを、その一撃に込めた。

 

(――ここだ)

 

 ヒカルは最大速度で飛び、バードンに肉薄した。

 

 バードンがシャークノーズを至近距離で突き出す。刺さるまで0.01秒すら必要ない。刺されれば彼はここから落下し死を迎えるだろう。

 

 されど咄嗟、刹那の間すらなくヒカルは体を回して、嘴を間一髪のところ擦れ擦れで避ける。

 

 その回転の勢いを一切殺さず回し蹴りを、ゼアスが格闘技で最も得意とする蹴り技を放った。

 

 足先が、毒袋に命中する。

 

 毒袋は潰れ破壊された。バードンに猛毒が逆流し、弱体化していく。

 この瞬間、ウルトラストレッチの効果が解けた。

 ヒカルは止まらず、そのまま高速でポーズを取りエネルギーを溜め、

 

『スペシュッシュラ光線!』

 

 腕を十字に組み、青色の必殺光線を近距離から放つ。

 

 弱体化していたバードンは命中してすぐに爆発四散した。

 

 ウルトラマン殺しを撃破――

 

 瞬間、赤き巨人の死角から火球が襲い来た。ヒカルに直撃。上空数百メートルの空から彼は墜とされた。

 地に(したた)かと体を打ちつけられ、土埃が大量に巻き上げられる。

 それを為したのは、前方に(たたず)むデスレム。

 

 デスレムは今まで火球を上方から降らせることしかしてこなかった。次元を歪めどこからでも火球を出せるのを隠していたのだ。

 そして今、バードンを倒した直前の意識につけ込み、横軸の死角からデスレムインフェルノを撃ち放ったのである。

 

『死ね!』

 

 倒れたヒカルに連続でデスレムインフェルノが撃ち込まれる。防御できることなく命中していく。

『あああああああああああああああ、痛い痛い痛いっ……ぐぅっ……』

 何度も体を焼かれる痛みが火刑の如く襲い来て、地獄の様相が感覚に叩き付けられる。

『ヒカル!』

 カラータイマーが赤く点滅し鳴り始めた。

『痛い、けど……っ……負けて、られないんだ!』

 

 永遠に連射できるわけではない火球の猛攻が、一旦止まる。ヒカルはなんとか耐えきった。カラータイマーを鳴らしふらつきながら、立ち上がる。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 デスレムに接近し、ゼアス・パンチやゼアス・チョップ、ゼアス・キックを繰り出し食らわせていく。デスレムは呻きながらダメージを負っていく。

 

『そう何度も何度も、ウルトラマンに負けられるか!!』

 

 デスレムも、ウルトラマンに負け続けてきた恨みから意地を見せる。扇形に肥大(ひだい)化した左腕――デスレムクローでヒカルを切り裂いた。

『がああっ!?』

 ヒカルは血の代わりに光を噴出させ後退する。デスレムはバックステップし、さらに距離を取らせた。

 

 デスレムはエネルギーを惜しまずデスレムインフェルノを間断なく撃っていく。命を削ってでも、さらに上の威力と数を絞り出していた。

 火球を常にヒカルの死角を狙って撃っていく。相手の弱い所を突くのに長けたデスレムは、ウルトラマンに復讐するための鍛錬の末、戦闘でもその性質を発揮できるようになったのである。

 

 ヒカルも必死に防いでいくが、防戦一方だ。

 

 デスレムインフェルノは、人々にも降り注がれた。

 デスレムは、人を狙って火球を撃ちながら、同時にヒカルの死角へ撃つという芸当までやってのける。

 

『まずい……!』

『片方はボクがやる! ヒカルはみんなを守るんだ!』

『……わかった!』

 

 考えている時間などなかった。ヒカルはゼアスの言葉を全面的に受け入れ頼る。

 死角から来た火球をゼアスの意識で動き防ぎ、人に放たれた火球はヒカルの意思で動き防いだ。

 手刀や蹴りや拳で弾いたり逸らしていくが、失敗した時は自らの体で受け傷つきながらも人を護る。

 

 お互い譲れない。デスレムは邪悪な思いなれど、命を燃やしながらの意地と、鍛え上げた技術で喰らい付く。此処(ここ)で死んだとしてもウルトラマンを倒す覚悟を持っている。

 

 

 ゼアスが死角からの一撃を防いだ瞬間、デスレムが左手を振り上げる。

 そうして――致命的な一撃が放たれた。

天地煉獄光(てんちれんごくこう)

 今まで上から降り注いだり、死角からとはいえ上か横からしか襲って来なかった火球が、下から勢いよく放たれたのだ。

 ヒカルとゼアスは一度不意打たれてるので全く警戒していなかったわけではないが、今までよりも速度があり過ぎた。

 先までのデスレムインフェルノの数倍の速さ。

 つまりまた、完全なる不意打ちだ。

 

 火球は巨人のカラータイマーに直撃した。

『ぐああああっっ!?』

 赤き巨人は跳ね上がり、地に墜落、力無く倒れる。

 カラータイマーの点滅が激しくなり、ほとんど間断ないほどの点滅音が鳴り響く。

 

 デスレム得意の謀略に、先に二度も()められたうえで、ヒカルはまた嵌められたのだ。謀将の地位は伊達ではない。

 

 ヒカルとゼアスの命はあと数秒もなかった。

 もう力が出ない。エネルギーがない。死を待つのみ。

 

 デスレムインフェルノが、空から死を運んでくる。

 この一撃が決まった瞬間、二人の命は終わるだろう。

 

(――諦めたくない)

 死の際で、体は重いなんてほどではなく、百トンの鉛をつけられて底なし沼の底にいるようで、気力なんて出せなくて、気力を出す気力すら生まれなくて、それでも戦えなければ誰も守れなくて。

 だから、無理でもなんでも、力を振り絞らなければならないんだ。

 

『高速で前にジャンプして避けるんだ! そして0.1秒以内にスペシュッシュラ光線を放って!!』

 

 今からしなければならない行動をゼアスが提示してくれる。僅かな勝利への道をゼアスが示してくれている。

 

(でも、無理だ。もう力は残っていないんだ。普通、ここから動けるはずないんだ)

 そう、動けるわけなんてないんだ。動けるはずがないのに。

『そうかい。それで、諦めるのかい?』

 

『諦めない!』

 

 絶対に、諦められないんだ。

 守りたいんだ。

 

 その思いが、心の光が、ひよこが与えてくれた強化の力を強め、僅かに力が湧いた。

 

 ヒカルはゼアスに導かれ、ひよこに後押しされたのだ。

 

 彼は立ち上がる間も惜しく、前にジャンプした。

 後ろで火球が地面に落ち爆散する音が響く。

 

 デスレムの火球が再び放たれるまで一秒もない。変身が解けるまでも一秒もない。

 

『――受けてみろ』

 

 ヒカルは自由落下のままエネルギーを溜める為のポーズを0.05秒で取り、

 

『スペシュッシュラ光線!!』

 

 赤色のレーザーサイトすら置き去りに青色の必殺光線を撃ち放った。

 

 デスレムに、正面から直撃する。

 

『ぐあああああああああああああああああああああああああああああ!?』

 

 デスレムはその身を粉砕され、命を散らした。

 

 ヒカルは、勝利したのだ。

 勇気を振り絞った諦めない心で勝利したのだ。

 そして、ゼアスとウルトラの母とひよこが力を貸してくれたからこそ、勝てたのである。

 

 ひよこがゼアスの姿を、勝利した背中を、いつものようにキラキラとした瞳で見ている。

「かっこいいですよ、ゼアス……。やっぱり光の戦士です。私を昔救ってくれたウルトラマンと、同じです」

 ひよこの様子は、ウルトラの母に近いようで違う。それは母ではなく、恋慕する少女というのが正しい様子だった。

「ゼアス……。いつだって見ています、あなたのことを」

 

 

 優日も病室から、ウルトラマンゼアスを見ている。

「ウルトラマン……すごくかっこいい……」

 少女は窓に張り付いてウルトラマンに見入っていた。

「あたしもウルトラマンみたいになれたら、助けられるだけの人から変われるのかな」

 ウルトラマンへの憧れ。強い憧れを、優日はウルトラマンへと抱いた。

 自分もウルトラマンになりたいと、強く強く思う。

 それは夢と願いと祈りの芽生え。

 強く焦がれる想いの誕生だった。

 

 

 ヒカルは半径50キロ以内の地域を除菌する技――ゼアスキャンでバードンの毒に汚染された場所を綺麗にしてから、変身を解く。

 

 今回の襲撃は、それで終幕した。

 

 

 

 

 ヒカルは、自らの意識の中でゼアスと相対していた。

 

『ボクはまたしばらくの眠りにつかなければならない』

「……そうなんだ。寂しくなるね」

 

 ゼアスは、ヒカルが使っている分の力とは別に回復させていた力を使い切ってしまったのだ。だから回復するために再度休眠状態にならなければならない。

 

『けれど、どうか負けないでほしい。諦めない心を忘れないでほしい。辛いだろうけど、強くなってくれ』

「強く……」

『君も、ウルトラマンになるんだ。君は先の戦いで、確かにウルトラマンだったのだから』

 ヒカルは戦闘の最後、諦めない心でデスレムを倒した。

 

「…………」

 正直、ヒカルは本音を言えば弱いままでいたい。強くなるのは、辛い。弱いヒカルは、耐えられるかわからない。険しい道を歩きたくなんてない。

 

「でも、ウルトラマンは強くないとね」

 

 今までの戦いを経験して、ヒカルはこれからも戦わなければならないことを理解している。

 そして敵は強い。強過ぎるほどの敵が何度もやって来るのだ。

 弱いままでは守り切れない。弱いままではいられない。

 ヒカルは強くなる辛さよりも、守れない辛さの方が嫌だった。

 

 ヒカルは最初の戦いで少し強くなり、少しヒーローになった。しかしここに来て、本格的に強くなる決意を固めることにしたのだ。弱い自分を捨て去る努力をすることを、決めることができたのである。

 

『正直、本当に申し訳ないと思っている。ベンゼン星人がこの地球に来てしまったのはボクが仕留めきれずにこの次元に逃げてきたことが発端なんだ』

「それゼアス悪くないじゃん。ベンゼン星人って倒さなきゃならない邪悪なやつだよね。そいつを倒そうとしなかったら結局悲劇は起こっていただろうし、ゼアスは全力で戦っただけだよ」

『そうだけど、倒せずにこの地球を戦場に選ばせてしまったことは事実だから』

「だったらそれに関して文句を言う人がいても、僕はゼアスは悪くないって言い続けるよ」

『ヒカル……ありがとう』

 ゼアスは救われたようにそう言った。

『君になら、任せられるよ』

「全然力不足だけど、頑張るよ」

 

『じゃあ、またねヒカル』

「うん、またね」

 

 ヒカルの意識が、精神世界から現実へと戻っていく。

 

 

 変身が解けたヒカルは、ふと空を見上げる。

 深夜の空は、雨が止み晴れていて、輝く星々が見えた。

 

 

 

 

 

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