ウルトラマンゼアスS   作:ソウブ

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 この時点で自衛隊の戦力はあってもなくても変わらないものとなった。現代兵器の実弾ではゼットンの肌に傷一つすらつけられない。国は、自衛隊は、一般人の避難と防衛に力を尽くすことにした。

 

 ヒカルは一人で戦わなければならない。

 

 勝てるのだろうか。ベテランのウルトラマンでさえ殺される化け物だ。

 いや、勝たなければならない。勝つと、ひよこに言ったのだから。

 

(怖いな――)

 いつものことだ。

 

「ひよこちゃん。僕は、今日もやっぱり逃げるよ」

「はい」

 ひよこの声音も表情も心情も穏やかだった。

「ひよこちゃんは、今日も逃げないんだね」

「はい、ゼアスを信じてますから」

 そう言って彼女は笑った。

 

 ヒカルは走り出す。屋上の扉を開け校内に入り、階段を降り廊下を走っていく。そうしてひと気のない空き教室で一人になった。

 

 白い電動歯ブラシ型の神器、ピカリブラッシャーを取り出す。スイッチを入れるとブラシが振動し始める。

 ヒカルはブラシを自分の歯に当て、天高く神器を掲げた。

 

「ゼアーーーーーーース!」

 

 明橋(あけばし)ヒカルは、ウルトラマンゼアスへと変身する。

 

 赤き巨人が、街へ降り立った。

 

 ゼットンと正面から対峙する。

 

「ゼアス」

 ひよこがいつものように信じて巨人を見ている。

「ゼアスだ」

 優日が病室の窓から期待と憧れを込めた赤い瞳で巨人を見ていた。

「ウルトラマン」

 街の人々も、遠くから見ていた。

 

 ヒカルはゼットンの能力を知っている。だからどの能力にも最大限の警戒をした。

 今のヒカルは通常の状態だ。デスレムを倒した時の、光に溢れていた強化状態ではない。だから敵をどれだけ警戒しても足りはしない。

 

 まずゼットンの能力の最たるもの、光線吸収反射能力は発動させてはならない。必殺光線を撃って吸収反射された時点で大ダメージは確定。運が少しでも悪ければその場で殺される。

 実際原作でウルトラマンを殺した能力がそれだ。だからスペシュッシュラ光線は撃てない。ヒカルには、接近して格闘戦に持ち込む以外に勝機はないのだ。

 

 ゼットンの、顔の発光器官から赤色の火球が形成され、放たれた。

 その温度は"一兆度"である。しかし一言で一兆度といっても、ピンと来る人は稀だろう。

 例えるのなら、太陽の表面温度は六千度。中心まで行っても千五百万度だ。

 一兆度というのは途方もない。

 そもそも一兆度の火球をただ放てば、地球そのものが一瞬で焼失する。

 ゼットンはそれをウルトラマンを殺す為に火球が起こす全ての力、指向性を火球の内側に留めて放っている。さらにウルトラマン以外に命中したとしても一兆度までの力は発揮しない。ウルトラマンを殺すことのみ考えられているからだ、エネルギーはそれにしか活用されない。

 だからこそ一兆度というだけでなく更に威力が上がっていて恐ろしいというべきか、周囲に被害が及ばなくて助かるというべきか。いずれにせよウルトラマンを一撃で殺すことのできる一撃だ。

 

 ヒカルはそれを警戒していたので、間一髪避けることに成功した。

 冷や汗が垂れる。巨人の体に冷や汗が垂れるわけがないのに、彼の感覚的にはそうなった気がした。

 

 ヒカルは火球を回避後、急いでゼットンへ肉薄し、パンチを繰り出す。次の行動に移されるわけにはいかなかったから、今出せる最速で。

 ゼットンは突然消えて回避した。何の前触れもない消失だ。

 ――ゼットンの能力の一つ、瞬間移動。

 

 されどヒカルは、それを読んでいた。瞬間移動を知っていたから、初撃のパンチが当たるはずがないと知っていたから、背後や左右に意識を集中させていた。

 彼は回し蹴りを、瞬間移動の直前から背後に繰り出していた。

 ゼットンに命中する。ゼットンは怯む。

 

 ヒカルはこの隙を逃してはならないと、連続で蹴り、パンチを喰らわせていく。

 ゼットンはダメージを負った。負わせることができた。

 けれど、ゼットンは後退した。

 そのまま、一切時間を与えずに一気に畳みかけるべきだった。

 でも、後退されたら、さらに踏み込む時間が必要で、それはできなかったのだ。

 

 ゼットンが、半透明の、何面体かわからないが、とにかくゼットンの全身を覆うバリアーを張った。

 ゼットンシャッターだ。

 このバリアーはウルトラマンの必殺光線すら防ぐほど堅牢だ。つまり、今のヒカルが出せる最大威力のスペシュッシュラ光線すら効かないということ。

 

 ヒカルはバリアに全力の蹴りを放つ。正面から全ての威力が伝わるように命中した。だがゼットンシャッターはビクともしない。微かな傷すらつかない。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおお』

 彼は何度も攻撃を続けるが、その一切合切が無意味に終わる。

 なんで。わかっていた。ゼットンシャッターを使われたら終わってしまうと。どうすればいいかわからなくなると知っていた。でも使われてしまった。

 ただ攻撃を続けてゼットンシャッターを破壊する僅かな奇跡を信じるしかなくて、それでも傷一つ付かなくて。

 

 一兆度の火球が形成され放たれる。

 

 ヒカルは避けられなくて、炎に包まれた。

 

『あああああああああああああああああああああああああああ』

 

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い。熱いなんてものではない。その領域はとうに超えている。なにしろ一兆度だ。その苦痛は今まで味わったどのような痛みよりも地獄に満ちた苦痛だった。

 

 ヒカルは倒れる。肌を焼き焦がしながら、のたうち回る。

 カラータイマーが、鳴り始めた。

 ピコンピコンピコンピコン。

 

 ゼットーン。ピポポポポポポポポ。奇妙な鳴き声と電子音のようなものが不気味に響く。

 

 ヒカルはゼットンを知っていたのに、一兆度を受けてしまった。最大限の警戒をしていたのに、こうなってしまった。

 以前にもあったことだ。知っているからといって対処できるわけではない。一つの能力は回避できたとしても、ゼットンの能力は一つではない。光線吸収にゼットンシャッターに瞬間移動と一兆度の火球、それらを駆使されれば、ヒカルには対処のしようがなかった。

 本来ゼットンは個体によってそれらの能力の内全部は使えないことが多い。瞬間移動は使えるがゼットンシャッターは使えない個体やゼットンシャッターは使えるが瞬間移動は使えない個体などがいる。

 しかしこのゼットンは、ゼットンが使用できるすべての能力が使える個体だった。

 

 怪獣の中でも最強の一角、ゼットン。

 最強というのは、知られた程度で揺らがないからこそ最強なのだ。対策されたとしても負けないからこそ最強なのだ。

 

 圧倒的な強さを誇るゼットンに、何をやっても勝てる未来が見えない相手に、体を焼かれる痛みに、ヒカルの気力はボロ雑巾のようになっていた。

 

 強くなる決意をした矢先だというのに、幾らなんでも相手が悪すぎた。

 ウルトラマンを殺す為に生み出された怪獣は、伊達ではない。

 

 無理だよ。僕みたいな弱いウルトラマンが勝てる相手じゃない。ヒカルは思う。心底そう思う。

 

 だが。

 

 それでも、彼は立ち上がる。

 

(立つしか、ないじゃないか)

 

 ズタボロになりながら、息を荒くしながら、カラータイマーを鳴らして、立つ。構える。

 まだ、動けるのなら、戦う。

 そうしなければ、強くはなれないし、誰も守れない。

 

 ゼットンがヒカルの背後に瞬間移動した。彼は殴られる。『がはっ』想像していたよりも凄まじい衝撃だった。前のめりに再び倒れる。

 彼は瞬間移動を一度は見切ったが、知っていたとしてもそう何度も完璧な対応ができるような甘いものではない。

 瞬間移動を予測して先に攻撃を出しておくのならまだしも。瞬間移動されてから対処できるものなどウルトラマンの中でも限られる。

 瞬間移動をそう何度も見切る戦闘感は、ヒカルにはない。

 

 ヒカルは立ち上がる。足に力があまり入らないが、立つ。

 また瞬間移動され、殴られる。何度も瞬間移動され、殴られる。

 ゼットンは一兆度の火球を放たず、殴り続ける。また立ち上がられるかもしれないと判断し、まずは立ち上がれないほどのダメージを蓄積させてから一兆度で焼き払おうと戦術を変えたのだ。

 ウルトラマンは倒れても、気合いで立ち上がり思いもよらない反撃をしてくることがあると、このゼットンは知っている。

 そんな中、ヒカルは考えた。勝つ為に思考力を全力で働かせた。

 

 思いつく。殴られているということは、今はゼットンシャッターが張られていないということ。つまりゼットンシャッターを張ったままでは直接殴れない。

 

 ゼットンが瞬間移動の後、正面から殴って来る。ヒカルはそれを受け、痛みを我慢したまま殴り返した。今できる中でも全力で放ったゼアス・パンチだった。

 

 されど、ゼットンは大して怯まなかった。傷をつけられなかった。ゼアス・パンチが効かなかった。

 

 最初にゼットンの瞬間移動を読んでダメージを与えられたのは、不意を突いたのと、まだヒカルが万全な状態だったからだ。

 今の弱り切ったヒカルの全力攻撃程度では、ゼットンシャッターどころか黒い表皮すら傷をつけられない。

 

 ゼットンは格闘戦でも強いのだ。頑強な表皮に覆われているから、生半可な攻撃では大して効かない。さらにその膂力(りょりょく)は光の巨人を片手で投げ飛ばせるほど。

 先から何度も殴られているが、その一撃一撃が重いのだ。

 

 分が悪い。ヒカルの戦いはいつも。どこまでも。諦めた方が身のためな力量差。

(諦めてたまるか。諦められるわけ、ないだろ。諦めたらみんな死ぬんだ。そんなの、許容できない。弱い僕には、耐えられない。だから。諦めない)

 大切な人が死んでしまったらヒカルの心は壊れてしまうだろう。それが怖くて、怖くて怖くて仕方がなくて、彼は立つ。

 弱さゆえに、彼は奮起する。

 

 決死の攻防が続いた。ヒカルは戦う。彼はウルトラマン。ボロボロになっても、戦い続ける。

 

 だが殴られる。食らい付いて戦っていくが、ダメージを与えられずにカラータイマーの点滅音の感覚が速くなっていく。

 

 そうして、ヒカルはゼットンに投げ飛ばされた。

 

 流石に、立てなかった。全身焼かれ殴られ痛くない場所がなく、カラータイマーは鳴り続ける。

 諦めない、と思っていても、身体が動かない。

 

 一兆度の火球が、ゼットンの顔にある発光器官から形成され、彼へ向けて放たれた。

 

 ヒカルは動けない。どうあっても、動けないという現実が圧し掛かる。

 そのまま、一兆度に焼き殺されて、終わりだ。

 

 普通なら。

 ウルトラマンでないのなら。

 理不尽な現実がまかり通る世界なら。

 終わりだ。

 

 絶体絶命、そんなとき、神森(かもり)ひよこが学校の屋上で、ゼアスを見て祈っていた。両手を組んで、彼から目を逸らさずに。翡翠色の、強い光を宿した瞳で。

 ウルトラの母の愛の祈り。その力と感応した稀有な少女の純粋な祈り。ひよこには、ウルトラマンに勝ってほしいという、強い願望が混ざったウルトラマンを強化する能力がある。

 先の戦いで使ったウルトラマンを蘇らせる奇跡の力は、一度使ってかなりの力を消費したので、もうしばらく使えないが、強化の力は使える。

 この力は、少女がウルトラマンを信じて、最後まで信じて、それでも無理そうな時にこそ最大限の力を発揮する。ウルトラマンを深奥まで信じ切った能力だ。

 

「ゼアス! 勝ってくださーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」

 

 ウルトラマンゼアスへの愛が詰まった光が、ヒカルへと届く。

 光の力が全身に浸透していく。

 光の力を得たヒカルは、ピクリとも動かせない体を動かせるようになった。立てるようになった。

 そうして、動けるのなら、彼は戦うのだ。

 

 即座に立ち上がったヒカルは、両腕で一兆度を受け止めた。

『ぐああああああああああああああああ』

 両腕を焼かれる痛みに耐える。耐え続ける。決して膝を折らずに、耐える。

 やがて、彼は耐え切った。

 両腕は焼き尽くされて感覚が無いが、耐え切った。

 

 しかし、両腕が動かなくなるほどのダメージを負ってしまった。

 それでもまだ、彼の中には受け取った光の力がある。存在を主張して、溢れている。

 

 先までとは比べ物にならない速さでゼットンに肉薄した。

 ゼットンは瞬間移動し、ヒカルの左後方に現れる。

 ヒカルはそれを見抜き、現れる前に蹴りを放っていた。

 命中するが、ゼットンはゼットンシャッターを張っていた。

 構わず、彼は連続で蹴りと拳を入れていく。

 ひよこの光に強化された蹴りと拳は、ゼットンシャッターを震撼(しんかん)させる。

 一点に集中させて、ゼアス・マシンガンキックやゼアス・パンチを当てていった。

 やがて、ゼットンシャッターに(ひび)が入り、粉砕した。

 最強の楯を、砕くことに成功したのだ。

 

 ゼットンは危険だと判断し、すぐさま瞬間移動する。

 ヒカルは高速回転した。()まらず回転していく。

 ゼットンは離れた位置で一兆度の火球を撃つ。

 神速で回転し続け、スーパーゼアスキックでゼットンに接近していく。

 一兆度の火球が、ヒカルに命中する――いや、彼の方から、火球にキックした。

 足を焼き焦がしながら、火球をゼットンへ蹴り飛ばす。

 意表を突かれたゼットンは、正面からそれを受けることになった。

 ゼットンの光線吸収機関に罅が入り、火花が散る。

 スーパーゼアスキックを維持したまま、ヒカルはゼットンに突っ込んだ。

 光線吸収機関に踵を()り込ませ、粉砕した。

 

 ゼットンは、ウルトラマンと誰かの力が合わさることで倒せるのだ。原作ウルトラマンでも、いつだってそうやって勝って来た。

 ひよこの力を受け取ったヒカルは、ゼットンを凌駕するヒーローへと昇華しているのである。

(僕は一人じゃない)

 

 ゼットンは体から火花を散らしてふらつき、隙だらけだ。

 ヒカルの動かなくなった両腕は、腕に強化の光を総動員させて、すでに動くようになっている。

 

 ヒカルはポーズを取り、エネルギーを溜める。両腕を前に突き出し、胸の前に戻し、左右に大きく広げた。

 そうして最後に腕を十字に組み、青色の必殺光線を撃つ。

 

『スペシュッシュラ光線!』

 

 必ず命中するタイミングだ。

 

 手から出る赤いレーザーサイトに沿って、ゼットンに吸い込まれるように光線は一直線に進んでいく。

 

 

 刹那。

 突然。

 突如。

 唐突に。

 

 

 ――空から、赤黒い闇の塊が降って来た。

 

 

『なっ!?』

 それはゼットンの目前に浮遊し、スペシュッシュラ光線を阻み、打ち消した。

 

 赤黒き闇の力がゼットンと融合していく。

 闇の存在としての格が上がったベンゼン星人の力で、ゼットンが闇の力と融合させられていく。

 

 赤黒い炎が立ち昇り、融合が為された姿が現出した。

 

 全体的に炎を思わせる容姿。通常のゼットンよりも全体的に太く分厚い体形をしていて、赤黒い角が二本垂れ下がり、左腕は巨大で凶悪な鎌となっている。

 

 宇宙超絶恐竜ファイヤーゼットン。ゼットン強化体の一つの形だ。

 

 すでに絶望的に強かったゼットンが、ここに来て強化が成された。

 

 明るい昼の空が、ベンゼン星人が送った赤黒い闇の余波で暗闇に包まれていく。

 

『なん、で……』

 ヒカルの心に、暗い影が差していく。

 絶望の感覚が、徐々に徐々に、浸食していった。

 まだ、光は残っているというのに。まだ、ファイヤーゼットンと一度の交戦もしていないというのに。

 彼は、勝てると、思えなかった。

 

 

 月の裏側の四次元空間内。

「ただのゼットンだけだと思ったかウルトラマンゼアス。これで死ぬがいい。フハハハハハハハ」

 赤黒き闇をゼットンへ送ったベンゼン星人は高笑う。嘲笑う。ゼアスの絶望と死を、復讐の達成を願う。

 

 

 ヒカルは恐怖に震えていた。だけど。

 戦わないわけにはいかない。勝たないわけにはいかない。

 どんな相手だろうと勝って守れなければいけないのが、ウルトラマンなのだから。

 

 ひよこの能力で強化されたヒカルが、ファイヤーゼットンへ瞬きの間に接近。

 ゼットンシャッターさえ粉砕する強化されたゼアス・キックが正面から直撃した。ファイヤーゼットンは何の防御行動もとっていない。ゼットンシャッターは張られていない。ただ棒立ちで受けただけだ。ダメージを受けないわけがない。

 

 だというのに。

 

 ファイヤーゼットンは無傷どころか、一切怯みもしなかった。

 

 ヒカルは、勝てないと確信した。

 

 だけど、絶対に、負けるわけにはいかないから。

 

 限界を超えた。

 

 神速を越えた神速。

 刹那の領域すら超えて、回転する。

 スーパーゼアスキックを、僅かな隙すら与えず、瞬時に発動したのだ。

 それはウルトラマン特有の光の奇跡か。ひよこの強化のみで為すことのできる領域なのか。

 

 神速のスーパーゼアスキックを維持したまま、ヒカルはファイヤーゼットンの周囲を駆けた。

 連続で、ファイヤーゼットンの全身に、ゼットンシャッターすら破壊するキックを浴びせていく。

 何十。何百。何千。何万と、規格外級のキックを直撃させた。

 

 回転を止め、ファイヤーゼットンの正面に構え立つ。

 

 ファイヤーゼットンは、無傷だった。

 

『……はは』

 変な笑いが出た。ヒカルの心に絶望が浸透していく。

 

 ウルトラマンゼアスの攻撃は、ファイヤーゼットンに一切通用しない。

 

 ファイヤーゼットンは通常のゼットンより何倍も強大だ。

 その最たる脅威は、肌が硬過ぎるというもの。

 ゼットンシャッターよりも堅牢な肌は、如何(いか)なる攻撃も通じない。素の肌が無敵のバリアーなのだ。

 現に、ヒカルの決死で起こした奇跡が、ゴミクズ同然に一蹴された。

 

 ファイヤーゼットンが瞬間移動、ヒカルの前で、左腕の巨大な鎌が閃く。

 巨人の右腕が斬り飛ばされた。

『あああああああああああああ』

 切り口から、人の血と同じように光が大量に零れ出していく。痛みで意識がスパークする。視界が点滅して、カラータイマーが点滅を早くして、恐怖が深くなっていった。

 

 ファイヤーゼットンは無敵の表皮という防御面だけでなく、攻撃面でも規格外だ。

 光の巨人を一撃で殺す鎌を持っている。今ヒカルの腕を斬り飛ばした鎌。強化された光の巨人の腕をたったの一撃で斬り飛ばせる凶悪な鎌だ。

 

 "腕を斬り飛ばされただけ"の現状は、幸運だとすら言えた。

 

 奴の一撃は、一度たりとも受けてはならないのだ。

 

 ヒカルは痛みを堪えて、腕を斬り飛ばされた後の隙さえ見せずに、もう片方の腕でゼアス・パンチを――

 左腕も斬り飛ばされた。

 ヒカルの、ウルトラマンゼアスの両腕がなくなった。

 

 ファイヤーゼットンの武器は一つではない。ウルトラマンを殺す為の様々な一撃必殺の武器を隠し持っている。

 ファイヤーゼットンがいつの間にか右手に持っていた炎の剣に、彼の左腕は斬り飛ばされたのだ。

 

 両腕がない。彼は絶体絶命だ。いつも絶体絶命だ。それでも。諦めない。ヒカルは、ゼアスは、ウルトラマンは、人を護る為に全霊を注ぐ。戦うんだ。

 

 ヒカルは、決死の一撃を仕掛ける。

 命を全て注ぐほどの覚悟。

 彼の両腕はない。だから必殺光線は撃てない。

 撃てないはずだった。

 それでも、両腕がない状態で、奔流の如く漏れだす光も集めて、両腕があるように十字に組んだ。

 

『スペシュッシュラ光線!!』

 

 青色の必殺光線を放つ。全力の一撃。今放てる最大の光線。放てるはずのない、奇跡の一撃。

 

 ファイヤーゼットンに、確実に、最大威力がぶつけられた。

 

 光が広がる。青色の光が爆発した。

 

 されど。それでも。

 

 爆煙が晴れると、無傷のファイヤーゼットンが立っている。

 

 ゼットーン。ピポポポポポポポポ。

 

 ヒカルは奇跡を起こした。そしてファイヤーゼットンに傷一つ付けられなかった。そんな現実が、そこにあった。

 

(あっ)

 彼は、自らの心が折れる音を聞いた気がした。

 

 されど、けして膝は折らず、未だ勝つ為に彼は立つ。勝てるとは思えなくても、希望なんてあると思えなくても、無い希望を信じて手を伸ばす。

 希望に手を伸ばす為の、両腕が、両手が無いにもかかわらず。

 

 ファイヤーゼットンが瞬間移動する。

 ヒカルは首を乱暴に鷲掴みされた。満身創痍の彼は、反応ができなかった。

 ファイヤーゼットンに片手で投げ飛ばされ、彼は無様に倒れる。

 仰向けに倒れたヒカルの上で、ファイヤーゼットンが足を振り上げる。

 

(あ)

 ヒカルは走馬灯のように思い出していた。原作の初代ウルトラマンは最終回でゼットンに光線を吸収反射され殺されたが、初期設定ではカラータイマーを踏み砕かれて殺されるというものがあったということを。

 思い出していた。

 にわかのくせに、そんな知識だけはある自分に、少し失笑した。

 

 そうして、カラータイマーは踏み潰される。

 

 バキン、と音がして、完膚なきまでに粉砕された。

 

 ウルトラマンゼアスのカラータイマーが停まる。粉砕されたカラータイマーの光は消滅した。瞳の、夕日色の光も消えていく。

 

 ウルトラマンゼアスは殺された。

 ゼットンはウルトラマンを殺す者だ。

 当然の結果だったのかもしれない。

 

 

 

 

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