「適当に座って。」
そう言うと台所に歩いていく叢雲
部屋の中を見渡すとキチンと整理された棚や調和のとれたインテリアなどが目につく。
ソファーに座り叢雲が来るのをまった。
「叢雲」
「わかってるわよ。濃い目でしょ。」
湯呑みではなくマグカップに入った緑茶を2つ持って、片方を提督に渡す叢雲。
そして提督の隣へ座る。
「相変わらず叢雲の入れたお茶は最高だな。熱さと濃さが完璧だ。最近は入れてくれなくなったけど。」
「あんたが、翔鶴が入れたお茶が最高だって言ってたじゃない。一生入れて貰えば?それはそうと、あんた神通の気持ち知ってるでしょ?いい加減に何か言ってやんなさいよ。」
「良い娘なのはわかってるんだが、俺にも事情があってな。少し話を聞いてくれないか?」
そう言うとマグカップを机の上に置いて話し出す。
「十数年前の話だ。とある地方都市にとある男子高校生が住んでいた。何処にでもいる高校生だ。家族は商社マンで海外にもよく出張に行く父親と専業主婦の母親。3つ年下の妹と真っ白いデカイ犬を飼っていた。その家の隣には幼馴染みの女の子が住んでてな、同い年で小中高と同じ学校に通っていた。その幼馴染みはよく男子高校生の部屋で勉強したりゲームしたり遊んでたんだ。妹もよく懐いていてお姉ちゃんお姉ちゃんと慕っていて、ピアノを二人でよく弾いていた。その二人の幼馴染みは恋仲ではなかったが、年頃でもあり、次第にひかれていった。でも告白はしなかった。お互いの親からは冗談混じりに結婚しろと言われ、思春期だったから余計に恥ずかしくなって反発していた。お互いにそうだった。」
「夏休みに入った頃にその男子高校生は告白しようと決めた。特に理由はなかったが、楽しい夏休みを好きな子と過ごしたかったんだろう。部活の合宿がある前日、妹の誕生日パーティーを家でやった。幼馴染みの家とは親同士仲良く、2家族集まってのパーティーはそれはそれは盛り上がった。お互いの母親が妹の為に腕によりをかけた御馳走がテーブルに並び、父親たちはそれを肴に酒を流し込む。そして女子高生は妹にプレゼントを渡した。ちょっと大人になったということでネックレスだった。高校生のプレゼントだから、そんなに高くない何処にでもあるネックレスだった。だが妹はとても喜んだ。盛り上がり過ぎて告白のタイミングがなくなってしまった。深夜11時位で解散となり自分の部屋に戻った。自分の部屋から幼馴染みの部屋が見えるから、部屋に灯りがついたので電話で告白しようとし、電話をかけた。直ぐに電話にでた彼女は全ての事を知っているかの様でこう言った。」
「あんた私って結構モテるのよ、今までどれだけの男の子を振ってきたと思ってるの?そんな私に電話で告白なんて100年早いわ。明日から部活の合宿でしょ?一週間後に帰ってくるんだから、その時にちゃんと言ってよね。」
「わかった。合宿から戻ってきたら直ぐに家に行くから待ってろよ❗」
「ええ。待ってるわ。今日はもう寝るね。おやすみ。」
「おやすみ」
「そのときの彼女との最後の言葉だった。翌日の朝早く学校に行き、合宿場所がある県外にバスで移動した。初日からシゴかれて疲れが溜まり死ぬように眠った。だが朝方コーチからテレビ中継を見せられ唖然とした。昨日まで住んでた自分達の街がめちゃくちゃになってるんだ。深海棲艦と言う生物にやられたらしい。テレビ中継では生存者はいないと言っていた。自分がみているテレビがドッキリじゃないかと何度願ったか。しかし現実だった。三日後に規制は解除されて、家に戻るとそれは酷いものだった。家の近くのコンビニやよく学校帰りにコロッケを買いに行った肉屋、二人で勉強会をした図書館や妹と三人でよく行った市民プール。全てぐちゃぐちゃだ。何かが焦げた匂いが立ち込め、血は壁に染み付き、まさに地獄絵図だった。男子高校生の家の庭には大きい真っ白の犬の死骸が血まみれになって転がっている。恐る恐る家の中に入ると、身体が半分に引き裂かれ中から内臓が引出された両親死体。妹の部屋には頭が半分なく片腕が無くなっている妹のようなモノが倒れていた。その千切れかかった首にはあのネックレスが光っていた。」
話ながら震えている提督の足に叢雲が手を添える。
「その女の子はどうなったの?」
「その女の子は行方不明だった。その子の両親は無惨な姿で発見された。そしてその男子高校生は遠方の親戚に引き取られた。編入した高校では脱け殻の様だった。生きる気力が無かったんだろうな。自殺しようとも思ってた。生きている意味はない好きだった女の子もいないこの世の中に未練はなかった。いい死に場所はないか考えてるうちに寝てしまっていたんだが、そこで夢をみたんだ。それは不思議か夢だった。」
「夢?」
「ああ。見渡す限りの水平線で自分は海の上に立っていた。空は明るくも無く暗くもない凄い不思議な空だった。自分の目の前には大きな船があった。見た感じ古い戦艦だった。何処からともなく声が聞こえるんだ。」
「私はここにいる。死んでない。早く見つけて。ってな。」
「最初は男か女かわからないような声だったが、段々ハッキリ聞き取れるようになってきたら気付いたんだ。あの女の子の声だった。」
「嬉しかった。もう聞けないと思っていた声を聞けて。そしてその船に怒られたんだよ。」
「あんたが死んだら家族が悲しむから止めなさい。私は生きてるんだから早く探しに来なさい。そして早く告白して。って」
「そこで目が覚めた。それから人が変わったように勉強に打ち込み、新しく創設された海事の提督育成校を首席で卒業した。」
そう話したあと少し沈黙があり叢雲が話し出す。
「だから神通には気付いてないふりをしてたわけね?その女の子は見付かったの?」
「最近見付かったよ。」