やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある   作:トマト嫌い8マン

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いやぁもう7月、2019年ももう後半か〜。

中々忙しい半期だった気もするなぁ……
まぁそんなわけで続きですわね。

今回のフォーカスは、とある三年生。
その名も……


自宅訪問先

「ふわぁ~、広い!」

 

屋上の鍵を開け、生き生きと飛び出していく高海。後に続くように渡辺、桜内、国木田と黒澤が屋上へと足を踏み入れる。

 

「ここからだと、結構遠くまで見えるのね。あ、富士山も」

「全然来たことなかったからわからなかったけど、思ったよりも広いんだね」

「ん~、なんだか気持ちいいずら~」

「屋上でスクールアイドルの練習……憧れの……」

 

どうやら全員からなかなか高評価らしい。総武や音ノ木坂のそれとはやはり違うが、それでも学校の屋上、それなりのスペースは確保されているうえ、他の部活が使用することもないため、基本的には彼女たち専用の練習場所として活用できる。最も、雨の日に弱いという難点はできてしまうが、そればかりはどうしようもない。

 

「一応安全面の配慮ってことで、使用するには原則顧問の教師、まぁこの場合は俺だけど、監督役として一緒にいなければいけないことになってる。まぁ、理事長からも業務用PCの貸し出しをしてもらえるらしいし」

 

ほんと、あの理事長抜け目ない……ほんとに高校3年生か?屋上の使用について相談しに行った時も、まるで会いに行くたびに「遅かったね」と言ってくるどこかのアロハのおっさんのように、俺が相談に来ることを予想していたみたいだったし……

 

『OK!でもちゃんとした申請が必要だから、やり方は他の先生に確認してね。それから、これ』

『ん?ノートパソコン?』

『屋上にはパソコン持って行けないでしょ?屋上を使うには教師同伴じゃないといけないから、業務用にこれを使ってね』

『……準備良すぎじゃね?』

『Of course!あなたが顧問になったら、必ず来ると思っていたもの』

『どこからそんなに情報集めてくるんだよ』

『ふふ~ん。小原家にはとっても素敵な情報提供者がいるのデース!あなたの話も、全部あの人から聞いているの』

『あの人?』

『Sorry、それについてはまだ話しちゃいけない約束なの』

 

そういいながらいたずらっぽくウィンクする理事長(高校3年生)。年下のはずなのにどこか読み切れない。高校生の頃に雪ノ下陽乃と先に出会っていなければ、俺の中でも警戒レベルが高かったかもしれない。

 

まぁ、既にラスボス系先輩に出会ってしまったため、小原のかぶっている仮面もかわいいものだと思えてしまうわけなんだが、いかんせん、それにしてもである。どこまで彼女が展開を読んでいるのか、俺に何を求めているのか、それがまだほとんどわからない。

 

彼女がどうしてここまでスクールアイドル部に肩入れしてくれているのか、それを考えるには、小原のことを俺は知らなさすぎる。

 

いや。小原のこと、それだけではない気がしてならなかった。

 

空いていた部室のホワイトボードに書かれた歌詞。

 

兼部について聞いた時の黒澤の反応。

 

そしてもう一人。

 

現在休学中の松浦果南。彼女もまた、どこか引っ掛かりを覚える相手だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

話は少し前にさかのぼる。

 

説明しておくと、休学中ということもあり、学校で顔を合わせることこそなかったものの、松浦と会ったのは何も高海たちに連れられてダイビングに行ったあの一回だけではない。

 

生徒数が決して多くないことや、休学者が松浦しかいないこともあるのだろうが、スクールアイドル部の顧問となる前から、週1回程度でいいから休学している松浦の様子を確認するようにとのお達しをいただいたのだ。おそらくは小原の差し金であろうことは間違いない。教師陣も不思議そうな顔をしていたしな。

 

津島?あいつは休学届が出ていないからあくまで不登校だ。とりあえずは担任がちょこちょこ様子を見に行っているらしいが、一向に学校に来る気配がない。どうも鬱になっているとかそういうことではないらしいので、そこまで大きく心配されるようなことではないらしい。

 

まぁなんで担任じゃなくて俺が、ってなると俺が一番若いってのもあるかもしれない(若手……うっ、頭がっ)。そんなわけで毎週水曜日、この日は担当する授業がないため学校の了承を得た上で、俺は松浦のもとを訪ねていた。

 

 

「いらっしゃ、あっ、比企谷先生。また来たの?」

「おう。まぁこれも仕事だからな」

「ふ~ん。まっ、平日のこの時間はお客さんも全然来ないから、先生が来てくれて退屈はしないかな」

「そりゃよかった」

 

別段なめられているわけでも、敬意がないわけでもないのだろうけれども、まだ数度しか会っていないはずでありながらも、既に松浦の中では俺に対して敬語を使う認識がどこかへ旅立ってしまっているらしい。一応これでも教師と生徒なんだけど?

 

そのことを一度指摘してみたものの、

 

「なんかさ、常連さんとかだとつい親しげになっちゃうんだよね」

「俺客じゃないんだけど?」

「でももう何回も来てくれてるでしょ?だからかな。なんだか常連みたいな感じがするんだ」

 

なんて屈託のない笑顔で返されてしまった。まぁ、別段そういったことにこだわりがあるわけでもないから、その時は「そうか」と返しただけだったし、それを了承として受け取ったのか、結局そのまま松浦は俺に対して普通の話し方を続けている。

 

「この前父親のけがもよくなってきたって言っていたが」

「うん。後はちゃんとした診断を受けてオッケーがもらえたらいいみたい」

「ってことはもうすぐ復学できるってことか?」

「とりあえずはそういうことになるかな。ちゃんと3年生になれるんだよね?」

「まぁ聞く限りじゃ休学期間もすごく長いわけでもないみたいだしな。もうすぐ復学するんだったら大丈夫だろ」

「そっか。ならよかったかな」

 

ダイビング用具の手入れをしながら話す松浦。俺?その隣で一緒に手入れしてますけど何か?

 

『あ、先生。すみません、ちょっとだけ待っててもらってもいいですか?この作業だけ先に終わらせないといけないので』

『……手伝うか?』

『えっ、いや悪いですよ』

『一応仕事としてきているわけだしな。ただ待ってるのもなんだしな。それに、手伝った方が早く終わるだろ?』

『そう、ですか。じゃあ、お願いしちゃってもいいですか?』

 

最初の訪問の時に松浦が作業する中ただ待っているのもあれだからと、なぜか自分から手伝いを申し出てしまってから、こうして並んで作業することももはやルーティンの一環となってしまっている。

 

「何か学校で変化はあった?」

「あ~、スクールアイドル部が承認された」

「あぁ、千歌たちの」

「で、その部活の顧問になった」

「ふ~ん……えっ」

「いや、何その反応?」

 

ちらりと隣を盗み見ると、心底驚いたという表情をしている。おい、作業の手が止まってるぞ。

 

「何?そんなに驚くか?」

「何だろう……先生は絶対顧問とかやらないと思ってた」

「そりゃ俺もだよ。気づいたらなってた」

「気づいたら?」

「高海が部活申請の時に俺の名前を書いてたことを承認後に知ったんだよ……」

「あ~」

 

なんとなくその様子が想像できたのか、松浦が苦笑している。そういえば松浦も渡辺と同じで高海の幼馴染らしいから、高海のこともよく知っているのだろう。

 

「でも先生、ずっと手伝いしてきたんでしょ?だったら顧問になるのも、今までとそんなに変わらないんじゃない?」

「甘いぞ、松浦。顧問ということは手伝いの頃と違って、あいつらに対する責任が生じる。しかも部活動の監督とか、遠征の引率とかいろいろとついてくるわけだろ?これまで以上に大変そうで今から気が滅入る」

「そんなに嫌そうにしなくてもいいんじゃない?自分から手伝うって言った責任は最初からあるわけだし。それに、なんだかんだ先生も楽しんでるんじゃないの?」

「まぁ……否定はしない」

 

実際一番回りがにぎやかだったころを思い出しながら、新しくスクールアイドルとして進み続ける彼女たちを見守るのは、決して悪い経験ではないと思っている。穂乃果たちに憧れた彼女たち、それはまさしくあの時穂乃果の残した言葉の通りなのではないか。そう思い、その輝きを見たいと思った。

 

にしても、始まりが元気娘だったり最初の仲間が幼馴染だったり、変なところにも共通点がある。あ、そういえば、

 

「お前は誘われなかったのか、スクールアイドル部?」

「えっ、私?」

「いやほら、お前も高海と渡辺の幼馴染なんだから、あいつなら誘いそうだと思ってたんだけど」

「う~ん誘われたには誘われたんだけど私は休学中だったし、もう三年生にもなって部活に入るのも変な感じするし。それにほら、かわいい衣装を着て歌って踊るって、ガラじゃないしね」

「……そうでもないだろ。μ’sにも似たタイプいたし」

 

系統としては絵里や海未に近いか?あの二人も可愛いというよりは美人って感じだったけど、かわいい衣装はそれはそれで似合っていたし。そう考えるのなら松浦もかなりいい所行けるんじゃないだろうか。少なくともダイビングで培った体力は相当なものだろうし。

 

ただ、話しながらもふと違和感を覚える。ほんのわずかではあるが一瞬細められたひとみ、何か言いたげに揺れた唇、そしてそれを隠すように見せられた笑顔。

 

「あはは、ありがと。でも、私はスクールアイドルはやらないよ」

「そうか」

 

自分の感じた違和感について聞くこともできたかもしれないが、そうする気にはなれなかった。なんとなくだが、松浦にとってこの話題は触れてほしくない、触れたくないものだということは感じ取れた。昔話した時の絵里のようにスクールアイドルに対して否定的になっているわけではない。ただやらない。やりたくないというわけでもなく、やらない。

 

そこにどんな思いが込められているのかは、今の俺にはまだわかるはずもなかった。

 

 

 

黒澤ダイヤ、松浦果南、そして小原鞠莉。

 

彼女たち3年生について知ることとなるのは、まだ先の話。




紹介コーナーはお休みです。

いやぁ、彼女にフォーカス当てられて良かった良かった。
いや、早く9人揃うところまで行きたい……

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