やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある 作:トマト嫌い8マン
翌日、放課後。
既に着替えを終えた高海たちとともに、俺は部室にいた。
いよいよさすがに体験入部期間も終了といえるであろう日。高海たちとも相談の上、国木田と黒澤には本日中に部に入って活動を続けるか、辞めることにするのかを決められるようにしておいてほしいという旨を伝えた。
そう告げた時、黒澤が国木田の方をちらりと見たのに対し、国木田はまっすぐこちらを見ていた。どうやら、国木田の方は決意が固まっているらしい。であるならば、それがどんな決定であったとしても、その意思を尊重するべきなのだろう。
……もちろんそれが、嘘偽りのない本心なのであれば。
屋上に移動しストレッチから簡単な運動、歌唱とダンスへ、滞りなく最後の体験入部の日は過ぎていく。
「う~ん」
そんな中、隣に腰掛けながら口をとがらせるようにしながら首をかしげている高海。桜内と渡辺の二人は現在踊っている国木田と黒澤の方に意識を向けているためか気づいていないようだ。
「どした?」
「えっ?あいや、大したことじゃないんですけど……なんだか花丸ちゃん、いつもと違うっていうか」
「違うって、動きのことか?」
「そういうわけじゃないんですけど……なんだかうまく言えないというか~」
う~ん、と再び首をかしげる高海。そういうことをちゃんと言葉にできるようになっていないと、歌詞作りに苦労するかもしれないから練習しておいた方がいいぞ、なんてことをちょっと思いながらも、同時に少し感心する。
人を見る目を磨いていたわけではないだろう。しかしそれでも高海はフィーリングでなんとなく察しているのだろう。逆に俺は感覚ではなく、これまでの人間観察の経験からそれを読み取ることができたわけだが、今日の国木田からは普段は見られない感情が表情に表れているのだ。
確かに笑顔だ。笑顔であることは間違いない。
でもその中に楽しさや疲労感だけではない、寂寥感のようなもの。
その表情を見て確信した。どうやら国木田には、もう一押し必要だと。
頼めるかどうかはわからないが、一応やってみるとするかね。
そう思いながら俺は携帯を取り出し、メッセージを送った。
side flower
朝練、授業、そして放課後の部活。
なんだか思っていたよりも、時間があっという間に過ぎて行ってしまったようです。
気が付けば今日の締め、何度も挑戦したことがある長い階段の前にマルたちはいました。
「あ、先生着いたって」
「それじゃあ、皆行くよ!ヨーソロ!」
すっかりお馴染みとなった曜先輩の掛け声とともに、一斉に走り出します。
千歌先輩と曜先輩、それに梨子先輩もペースを乱すことなく一段一段駆け上がります。初めて上った時みたいに勢いよく駆け出して、でもその時と違って決してただがむしゃらにやっているのではなく、無理なく走り続けられるペースができていました。
そしてそれは、ルビィちゃんも同じことで、他の三人から離れすぎず、しっかりとついていけています。
勿論、マルも必死に走ります。ただそれでも、みんなの背中は近づくどころかだんだん遠くなってきて…
息が上がって、足がふらふらして、腕も全然振り抜けません。
「や、やっぱりマルには……」
ついつい足取りが重くなって、もうほとんど歩いているのと変わらなくなってしまいました。
もうみんな先に行ってしまい、一人で上っている。そのはずでした。
でもマルの決して高く見上げているわけではないはずの視線には、何故か誰かの靴がうつります。
止まっているのではなく、その場で足踏みをするようにしているその靴は、やっぱりマルにはとても見覚えのあるもので、視線を少し上げて見えた表情も、思っていた通りの笑顔でした。
「一緒に行こう、花丸ちゃん」
とてもとてもやさしい心を持っている、マルの大切な友達。
でも、その優しさのためにいつも周りのことばかり。
「ダメだよ、ルビィちゃん」
「えっ?」
「オラに合わせてちゃ、ダメだよ」
「花丸ちゃん?」
息が切れ切れになりながらも、何とか言葉を絞り出します。
「先生も、言ってたでしょ。自分で、決めないといけないって。合わせてちゃ、いけないって」
「ルビィちゃんは、もっとできるでしょ?やるって、決めたんでしょ?」
「だったら、こんなところで待ってちゃ、ダメだよ」
そう口に出しながら彼女の顔を見上げます。
驚いたようで、戸惑っているようで、不安げにその宝石みたいな瞳は揺れていました。
足が震えて、息も上がってて……
それでもマルは最後の一押しをするために、精一杯の笑顔を大好きなルビィちゃんに向けます。
「ルビィちゃんは、自分の好きなことを好きなだけやっていいんだよ。だから、さぁ……」
「行って!」
「……うんっ」
頷いてすぐ、ルビィちゃんは先輩たちを追いかけるように駆け出していました。
前を向く前にちらりと見えた表情には、不安ではなく強い決意が見えました。
「よかった……」
ちいさく息を吐きだしてから、マルはゆっくりと振り返り階段を降り始めました。
一歩一歩ゆっくりと踏みしめるようにしながら降りてしまうのは、マルがこの1週間だけの体験入部を、自分が思っていたよりも楽しんでいたからかもしれません。
まるで夢のような時間だったと、振り返ってみて思います。
あんな風にキラキラしている人たちと、大好きなお友達と一緒に汗を流して、ほんの少しだけどマル自身もキラキラできていたんじゃないかなんて、そんな勘違いさえしてしまいそうなくらい、本の中の世界に自分が入り込んだかのように思えるくらい、とても楽しかったです。
でも、もうおしまい。
マルはいつでも読者だから。
だから、あともう一つだけ……最後にどうしてもしておかないといけないこと。
それが終わったら、マルは日常に戻ることにします。
下まで降りきるのではなく、途中に設けられたテラスの方へとマルは向かいました。
日が沈みかけている赤い空に照らされる中、一人の女性がベンチに腰掛けています。
マルの良く知る彼女とは違う黒くて長い髪と、強く凛とした姿。
でも、マルを見つめる宝石みたいな瞳は、とてもよく彼女に似た輝きが見えました。
「それで?私をこんなところに呼び出して、一体何の用なのですの?」
「……あの。お願いがあってきました」