やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある 作:トマト嫌い8マン
Side teacher
階段のてっぺんで待っていた俺は、規則的な足音が近づいてくるのが聞こえたため下の様子を確認した。
息を切らしながら、汗で髪や服を濡らしながら、それでも高海、渡辺、桜内の三人がペースを落とすことなく階段を駆け上がってきていた。
後20段……5、4、3、2、1……
「はぁっ、はぁっ……つ、着いたの?」
「ふぅ~……うん、着いたみたい。あれ、千歌ちゃん?」
「はっ、はっ……ん~」
勢いよく俺の脇を駆け抜け、神社のさい銭箱前まで走った高海が突然その場に屈みこむ。体の調子でも悪くしたのだろうか?
「おい、どうし「やったよ!!」っうおぅ!?」
どこかのロケットライダーのごとく、かがみこんだ状態から思いっきり両腕を跳ね上げるように伸ばした高海は調子が悪いどころか、テンション最高潮!満面の笑みで飛び上がった。
……危うく顔面にパンチ食らうところだったわ。
「登り切ったよ~!!」
「……思ったより元気だな」
「ふぅ。でも、千歌ちゃんの言う通り、やっと登りきれたね」
「はぁ~……ほんとに漸くって感じね。でも、私たちも着実に成長しているみたい」
「で?体験入部生たちは?」
「先行っててって言ってたから、もう少ししたら来ると思います」
タオルで額を拭きながら桜内が答える。高海や渡辺と比べると運動が苦手そうにしている節があった彼女も、最初の挑戦の時の疲弊ぶりと比べるとだいぶん成長しているのがわかる。
彼女たちの確かな成長を実感しながら、もう一度階段のほうへ視線を移す。あと二人、国木田と黒澤を待つのみである。
この階段は、まるで登竜門のようだ。何となくそんなことを思う。
登り切ったその先に、辿り着いた者にしか見えない、気づくことができない輝きがある。
こんな階段、駆け上がるなんてことは決して軽い気持ちでできるものではない。それ相応の経験か、それ相応の覚悟やそれに近い強い思いが必要になる。その気持ちをばねにするのであればそれでいい。きっとそいつはこの階段も、この先に立ちふさがるであろう困難に対しても、乗り越えていけるだろう。
ただ、もしその気持ちに気づけないとしたら。或いは気づいていたとして、それにふたをしようとしてしまったのであれば……
軽快な足音が近づいてくるのが聞こえる。あまりにも規則的なそれは、登ってきている相手が一人だけであることを、言葉よりも雄弁に語っている。
果たして登ってきたのは赤い髪を左右に結び、息を切らせながらも上だけを見続け、一歩一歩確実に踏みしめている黒澤ルビィだった。
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Side flower
ルビィちゃんのお姉さんと少し話をしてから、マルはロックテラスを離れてもう一度階段を下りました。神社に続く道の入り口を出て、学校に向かいます。
夕暮れ時の海沿いの道は、本の中の世界のようでとても綺麗です。
一週間ずっとルビィちゃんと先輩たち、それに比企谷先生と一緒に歩いてきた道だからでしょうか。一人で歩いていると、不思議な寂しさを感じます。自分でも驚くほどに楽しんでいたみたいです。
でももうマルがしたかったことは達成されました。
もう大丈夫。
ルビィちゃんはもう、大丈夫。
だから……
「あれ~?こっちであってるはずなんだけどな~?」
そんな声が聞こえてきて、ふとうつむき気味だった顔をあげてみます。
キョロキョロとあたりを見渡しながら歩いている女の人が、そこにはいました。ふとその人が振り向きます。
明るい茶色の髪は肩にかかるくらいで、黄色の瞳は夕日を反射して、キラキラ光って見えました。水色のTシャツの上から緑のシャツを羽織っているのは快活な印象がありましたが、フリルのついた白いスカートがとてもかわいらしいお姉さん。
一度もあったことがないはずなのに、どうしてかその人のことを知っているような、そんな不思議な感覚がマルの中に生まれました。
マルに気づいた時には驚いたような表情をしていたお姉さんでしたが、すぐに笑顔になると駆け寄ってきました。
「ねぇねぇ、このあたりの人?」
「ズラっ?えっ、あ、はい」
「ちょっと道がわからなくなっちゃったんだけど、聞いてもいいかにゃ?」
「……にゃ?」
「あっ、じゃなくて。聞いてもいいかな?」
「は、はい」
「淡島神社ってこっちであってるかな?」
「助かったよ~。案内してくれてありがと」
まさかの道を戻ることになりましたが、案内のために二人で一緒に淡島方向までの道を歩くことになりました。ご機嫌そうなお姉さんは、「にゃーんにゃーんにゃーん♪」と鼻歌を歌っています。
「猫、好きなんですか?」
「うん。昔からずっと好きなんだ。そういえばこんなところ、しかも動きやすい服装をしてるってことは部活動?……もしかして陸上部?」
「あ、いえ。オラ、じゃなくてマルはその、体験入部をしていて」
「体験入部?」
「その、スクールアイドル部に」
「えっ、スクールアイドル!?」
突然お姉さんが大きな声を出しました。驚きもあるようですが、なんだか嬉しそうにも見える表情に、少し戸惑います。
「あ、ごめんね。なんだかすっごく懐かしくて」
「懐かしい?」
「うん。私もね、高校生の頃スクールアイドルをやってたんだ」
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Side teacher
「花丸ちゃん、来ないね」
「大丈夫かな?」
黒澤が上りきってからしばし、高海と桜内が心配そうに階段を覗き込んでいる。体調が悪くなりどこかで動けなくなっている、その可能性はもちろん十分にある。
だが、
「……降りるぞ」
「えっ、でも」
「多分、国木田は上ってこない」
「どうしてわかるんですか?」
「……まぁ、勘みたいなものだ」
黒澤の方をちらりと見ながら高海と桜内の質問に答える。浮かない表情を浮かべていることから、きっと黒澤も俺と同じ結論に至ったのだろう。
今日で体験入部は終了と前もって宣告はしていた。つまり今日、二人は答えを出さなければいけない。このまま入るか、或いは辞めるかを。
そして国木田は、答えを出したのだろう。
……それが本心からの決定なのか、それはまた別だとしても、だ。
「それにいつまでもここで待つわけにもいかないだろ。そろそろ戻り始めないと、帰るのが遅くなっちまう」
「確かに、もうそんな時間になってますね」
渡辺が携帯を確認しながら同意する。部活動活動終了時間までには帰りの準備をすべて終わらせていないといけないことを考えると、本当にぼちぼち階段を下らなければならない。流石に時間を守らないことはまずいので、先に歩き出した俺に続くように高海たちも下り始める。
さてここの階段、実はいつも使っていない別の道がある。頂上に向かう道ではないので、練習の際には通ることがないのだ。聞いたところによると、そこはテラスになっているとか。中々景色がいいから松浦からおすすめされた場所の一つでもある。
何故このタイミングで急にテラスに続く道の話をしていたのかというと、これには単純な理由があり、ちょうど俺たちが階段を下りながらその道へ差し掛かったところ、一人の女性、基女生徒がその道から現れたからである。
長い黒髪、白い髪留め、口元のほくろ、そして極めつけにうちの制服を着た女生徒がこちらに気づいた。
「あら、比企谷先生……ルビィ?」
「お、お姉ちゃん」
「これはどういう状況ですの?」
驚きに見開かれていた黒澤—―だと紛らわしいな、黒澤姉—―の瞳がすっと鋭くなる。視線は主に黒澤妹とその隣に立つ高海の方へ向けられている。
「なぜここにルビィがおりますの?しかも、あなた方スクールアイドル部と一緒に?」
どこか威圧感さえ覚える視線と声は、圧倒的なまでの存在感を醸し出す。普段は顕著な華やかさは一点、ともすれば冷気をまとっているかの如く、強い視線を黒澤姉はぶつけてきていた。
その眼光には高海と桜内、更には怖いもの知らずなイメージのある渡辺でさえたじろいでいた。というか美人のこういう顔は割とおっかね~。雪ノ下のおかげでかなり耐性ついているからなんとかなっているが、学生時代にこんな視線向けられたら秒で逃げ出してるまであるわ。
「それに……比企谷先生もいるのは何故ですの?」
「いや、俺一応部活の顧問だからね」
「顧問……あぁ、そうでしたわね。失礼いたしました。ですが、その部活動に何故部外者であるはずのルビィがおりますの?」
こちらに向けていた視線を再び高海に向ける黒澤姉。
「あ、違うんです。ただ「千歌さん!」えっ?」
説明しようと口を開いた高海を遮ったのは、他でもなく黒澤妹だった。普段からは予想できない――最も初対面時の叫び声を思い起こせば驚くことではないかもしれないが――黒澤妹の大きな声に、高海が思わず止まる。
「大丈夫です。自分で話します。話さなきゃ、いけないんです!」
ぐっと胸元でこぶしを握り、まっすぐ視線を上げる黒澤妹。おどおどした挙動も、不安も感じさせないしっかりとした姿勢と真剣な表情は、やはり彼女たちが姉妹であることを強く印象付ける。ゆっくりと前に踏み出し、自分の目を強く見つめ返す妹の姿に思うところがあるのか、黒澤姉の瞳から僅かばかりに力が抜けた。
「お姉ちゃん!ルビィね!」
言い出しながら、黒澤妹が足を一歩前に踏み出す。
ニール・アームストロングの有名な言葉は、きっと誰もが知っているだろう。
「人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ」
そこまで大それたものではないだろうし、大衆にとっては結局のところ小さな一歩のままなのかもしれない。
ただ、彼女に――彼女たちにとって、それは新しい世界に踏み込むための、大きな一歩だったのだろうと、そう思えた。
余談ですが虹ヶ咲の1st両日現地でしたが…
最高でしたね〜!!
虹の応援したくなりますね、これは