やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある 作:トマト嫌い8マン
ではでは、どうぞ。
夕飯後暫く、リビングにあたる畳の間で俺と真姫がお茶を飲んでいた。春とはいえ夜はまだ少し肌寒く感じるときもある。そんな中で湯飲み注がれた温かいお茶を飲むと、思わずほっと落ち着く。
流石静岡、今日もお茶が美味い!
「何それ、穂乃果の真似?」
「まぁな。あいつといえばファイトだよ!と今日もパンが美味い!だろ?」
「何その極端な感じ、意味わかんない」
「お前のそれも久しぶりに聞いた気がするわ」
どちらからともなく笑ってしまう。音楽を続けながらも同時に医学を学んでいるという真姫。相当忙しいから会うどころか、連絡を取ること自体大学時代では数えるほどしかない。今も社会人の俺からしても相当ストレスフルな生活を送っているんじゃないかと思うが、そんな様子はおくびにも出さないところは、本当に二つも年下なのかと疑うレベル。
「そういやこの前もピアノの演奏会があったんだろ?海未から動画が送られてきたわ」
「海未から?いつの間に。で、どうだった?」
「相変わらずすげぇとしか言いようがないな。いや、変わらずっつーか、より一層って言った方が正しいか?耳が肥えてきて少しは違いが分かってきているのか知らねぇけど、より一層引き込まれる感じだったな。それに、お前も楽しそうだったし」
「八幡にしては、珍しい褒めっぷりね。ありがと。衣装の方はどうかしら?ことりがわざわざ作ってくれたんだけど?」
「あいつも留学して忙しいだろうにすげぇな。あ~まぁあれだ。すっげぇよかった。やっぱお前赤色のドレス似合いすぎるわ」
「そういうの、ちゃんと目を見ながら言えないところは治ってないのね。でも、八幡にそう言ってもらえると嬉しいわ」
そう言いながら微笑む真姫。昔なら真っ赤になって照れ隠しに「イミワカンナイ」って言いながら髪を指でくるくるさせるところだというのに、精神的な成長を遂げたらしい彼女はほんのりと頬を染めるだけで、嬉しそうな笑みを見せてくる。
そんな様子にドキドキさせられながらも、一つ先延ばしにしてしまっていることがあるがゆえに罪悪感を覚えてしまう。結局俺はあの時の話に対して、ちゃんとした答えを出せずじまいなのだから。
「なぁ、真姫。お前「諦めていないから、私」」
遮られるような言葉にそらしていた顔を戻し真姫を正面から見つめる。
微笑んだままではあるが、その瞳から真剣さが伝わってくる。
「諦めてない」
「……なんか、すまん」
「八幡が謝ることじゃないわよ。あの時ちゃんと言ったでしょ?」
そう言う彼女の表情が、あの時のものと重なる。
驚きと、不安と、そして同時に嬉しさを覚えたあの時に。
「『絶対、虜にさせて見せるんだから』って」
「強いな、お前」
「八幡のおかげよ。貴方と出会ってなかったらきっとこうはなれなかった、こうして医療も音楽も、両方やろうだなんて、思えていなかった。今の私があるのはμ’sと、八幡のおかげだから」
「その……今ははっきりとした答えが出せない。前と同じっていうか、色々考えもした。けど、」
「ええ、わかっているわ。八幡を見ればわかる。きっとたくさん悩んでくれてるんでしょ?だから待てるし、諦めずにいられるの。雪乃たちも、絵里たちも、そして私も。だから、八幡の中でちゃんとした答えが出たら、それを聞かせてもらえればいいの」
「すまん」
「またそう言う。こういう時は『すまん』じゃなくて」
「そうだったな……ありがとな、真姫」
「どういたしまして」
ほんの少ししんみりと、という感じにはなってしまったものの、改めてこうして真姫とこうやって二人で話すことができたことは、とても大切な時間だったのではないかと、本心から思う。
迷い、悩み、考え……それでも必ずしも正解が得られるとは限らない。
けれども、
『考えてもがき苦しみ、足掻いて悩め……そうでなくては本物じゃない』
『誰かを大切に想うという事は、その人を傷つける覚悟をするという事だよ』
俺の恩師がくれた言葉。その言葉の意味を完全に理解したかもわからないけれども――
それでも俺は、答えを出すことを決めた――決めている。
そうでなければ、『本物』なんて、求めることすらできないのだから。
――――――――――――――
さて現在俺と真姫二人っきりでずっと喋っているわけだが、これにはちゃんとした理由がある。先ほどまで一緒に食卓を囲んでいた残り二人はというと――
「ふぅ~、気持ちよかったにゃ~」
「お風呂いただいちゃいました」
丁度襖が開き二人が戻ってくる。この家、地味に風呂が広い。いや、勿論豪邸というほど広いのかと聞かれれば「う~ん」となること間違いなしではあるが、東京や千葉の一般家庭の風呂場よりは間違いなく広い。二人で入る分には何とかなるくらいのサイズというわけだ。まぁそんなわけで、食事の間に沸かしておいた風呂に先にりんぱな幼馴染コンビが入ってきたというわけだ。
「おう。んじゃ、次は真姫が行ってこいよ。俺は最後でいいから」
「そう?じゃあお言葉に甘えるわね」
「いってらっしゃ~い」
フリフリと手を振りながら凛が真姫を見送る横で、花陽が畳の上に腰を下ろす。それを横目に眺めながら、ささっと二人分のお茶を入れる。
「ほれ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとにゃ~」
お礼を言いながらぺこりと頭を下げる花陽に、元気よく返事をする凛。練習の休憩時間に水分補給する際、ボトルを手渡しした時とほとんど全く同じ動きなのにまた懐かしさを覚える。
「真姫ちゃんとゆっくりお話しできましたか?」
「まぁな。あいつ、本当に強いな」
「ふふ~ん。真姫ちゃんは本当にすごいんだよ!勉強もピアノもできてて、ちょっとした有名人にゃ!」
「何でお前が誇らしげなんだよ」
苦笑しながらツッコミを入れつつも、改めて真姫がどれほど凄い奴なのかを実感する。真姫だけじゃない。雪乃も、結衣も、いろはも、沙希も、絵里も、海未も……そして穂乃果も――出会うまでは、いや出会ってからも、自分とは違うどこか遠くの存在のように思っていた。でも、そんな彼女たちと向き合い、話し合い、時にぶつかり合い――分かり合った。
だから、これは自分の勝手な都合であることもわかっているけれども、それでもちゃんと向き合わなければいけないと思った……思った、んだけどなぁ。
「それで結局、八幡先輩は返事ができたんですか?」
「……いや、まだだ」
「かれこれ随分時間がかかってるにゃ~。というか、かかりすぎにゃ」
「それはわかってる。ただ、誰か一人を選ぶってのは、なんか、な」
「ヒッキー先輩は真姫ちゃんのことは嫌いにゃ?」
「んなわけねぇだろ」
「じゃあ好きなんですか?」
「好ましくは思ってる。けど、それは」
「他のみんなも同じってことにゃ?」
「そういうことだ。それにそれはあいつらだけじゃない。当然にこや希、ことりに凛も花陽のことも大切に思ってる。そこに差があるのかって言われるとな……ってどした?」
代わる代わるに質問をしてくる二人に思ったことをそのまま答えていただけだったのだが、二人がなんだかじとーっとした視線を向けてくる。いや、わかってるよ俺だって。このままじゃよろしくないってことくらい。
「こういうところが余計にややこしくするんだにゃ~」
「八幡先輩って時々変に真っすぐな時がありますよね」
「は?」
「いえ、なんでもないです」
「とにかく!これだけ真姫ちゃんたちを待たせてるんだから、半端な答えを出すのは、凛が許さないにゃ!」
「ああ。わかってる」
耳が痛い話ではあるが、不思議と不快ではない。二人も本気で攻めているわけではないから。それだけ真姫のこと、そして穂乃果たちのことが大好きなのだろう。それがあの頃から何ら変わらず続いていること、こうしてまた変わらずに話せることが――俺のうぬぼれでなければだが――三人とも好きなのだろう。妹と同い年の二人は、いつしか俺の中では同じくらいに大切な存在になっていた。その二人と過ごす時間は、不思議と心地の良いものになっていた。
と、ちょうど足音が聞こえてくる。どうやら真姫の風呂も終わったらしい。
ガラリと部屋の襖が開かれ、真姫が入ってくる。
「あがったわよ……って、何この若干ふんわりした空気?」
キョトンとした顔で俺たち三人のことを見る真姫。思わず三人で顔を見合わせて笑ってしまう。
「いや、なんでもない。じゃ、俺も風呂入ってくるわ。お茶は急須に入ってるから、適当に飲んでてくれ。あ、あとみかんあったわ。そっちのダイニングの籠に入ってるからそれも好きに食っていいぞ」
「みかん?食べる食べる!」
「いただきます!」
「ありがと。また後でね」
「へいへい」
もうそれなりに遅い時間にはなってきているが、どうせ明日も休みなのだ。偶の夜更かしくらいはいいだろう。そう思い、三人の話し声を背に受けながら、着替えを手に取った俺は風呂へと向かうのだった。
と、いうわけで入れるか入れないかで悩んだのですが、過去パートに恋愛要素が入りました!
現在の八幡は誰とも付き合っていませんが、好意を向けている人数が多いこと多いこと。
俺ガイルからは雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣、一色いろは、川崎沙希。
μ’sからは高坂穂乃果、園田海未、絢瀬絵里、そして西木野真姫。
正直やりすぎた感ありますが、原作では既に上記の4人から向けられてますしね。
因みにこのメンバーにしたのには、一応ちゃんとした理由がありますが、それはまたいずれ。
過去回想編に入ったら詳しく書く……はずです。
いや、そこまでたどり着くのが大変そうだわ、これ。