やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある 作:トマト嫌い8マン
さて、無事に津島の悩みも何とかなったらしく、一仕事終えた俺は――
「先生、早く行きましょう!曜ちゃんお墨付きの美味しいハンバーグが待っているであります!」
「わかった。わかったから腕を引っ張んるんじゃありません」
何故か、渡辺に連れられ共に夕飯を食べることになった。もうそろそろ帰ろうと思ってたんだけどなぁ……
「というか、何で俺お前と行くことになってるの?一人で行ってくればいいだろ」
「それはそうですけど……なんだか先生がこっちまで来てるのを見るのが珍しかったし、折角ならこの辺りのいいところももっと知ってほしいと思いましたから。もしかして、ご迷惑でしたか?」
「いや、別に迷惑ってわけじゃないが……てっきりお前は休みの日には高海たちと一緒に何かしてるもんだと思ってたんだが、一緒じゃないのか?」
「えっ、あぁ。千歌ちゃんと梨子ちゃんとは家も少し離れてますし。休みの日だから一緒にいないって日もありますよ、流石に」
「……ほ~ん」
ほんの僅かに渡辺の見せた反応。高海たちと一緒にいないこと、二人と離れた場所にいること、そのことに対してやはり渡辺としても思うところがあるらしい。それに、仲良し幼馴染が都会からの転校生に夢中になっている、という風に見えて(何それどんなギャルゲー?)どことない疎外感を感じてしまっているのかもしれない。海未やことりも、穂乃果が絵里と仲良くなっていく時、似たような表情をしていた記憶があるしな。
「お前、案外構ってちゃんなんだな?」
「えっ?何ですか急に?」
「いや。まぁ別に悪い意味で言ったわけじゃないことだけは一応伝えておく。とにかく一緒に行くのはわかったから、そろそろ腕放してくんない?」
「あ、はい。すみません」
とりあえず引っ張られていた腕を開放してもらい、渡辺に先導される形で少し後ろを歩く。渡辺の方はというと見た目いつも通りに元気だった。見た目、と述べているように、あくまで表面上は、ということになるが。
3人で始めた、いや正確には桜内は後から加わっているから、始まりは2人か。なのに後から来た桜内は高海のお隣さんで……まぁ、疎外感を感じるなって方が無理だよな。
結局渡辺おすすめというそのお店に着くまで、俺は渡辺の会話に適当に相槌を打ち続けたのだった。
「そういえば先生はさっきの子に会うためにわざわざこっちまで来てたんですか?」
「は?んなわけないだろ。あれはついでみたいなもんだ」
「じゃあどうしたんですか?」
「ほら、この前俺の知り合いが来てたろ?その見送りのために来ただけだよ」
駅から歩くことしばし。ちょっと目立たないところに渡辺のおすすめというお店があった。どうやら昔からかなりお世話になっていたらしく、お店のおばさんとも親しげに話しをしていた……まぁでも、内浦のあたりとかでもそういうのは日常茶飯事なわけだし、驚くようなことでもないのかもしれないが。
渡辺がお店の人と少し会話を楽しんだ後、いつものを二人分と頼み、そのまま席へと案内されたのだった。いや、ほんとどうしてこうなった?
「この前……あぁ、あの髪の長い女の人!じゃああの後もここにいたんですね」
「まぁな。呼び出すだけじゃ悪いから、少しばかりの観光をと思ってな」
「すごい綺麗な人でしたね~。どういうお知り合いだったんですか?」
「まぁ部活、だな」
「部活?」
「ああ。あいつが所属していた部活の手伝いをうちの部活がすることになったって感じだ」
「先生はどんな部活をしていたんですか?」
「……奉仕部」
「奉仕部?」
なんのこっちゃと首をかしげる渡辺。
いやまぁそうだよな、それが普通の反応だよな。奉仕部のことを説明するのも久しぶりなもので、この反応がなんだか懐かしく感じる。
「飢えた人に魚を与えるのではなく釣り方を教えるっていう方針のもと活動する、まぁなんというか。人の手伝いをする部活、だな」
「へ~。じゃあ先生がスクールアイドルの活動のお手伝いを申し出てくれたのも」
「ん、やまぁ、なんだ。そん時の名残っていうか。まぁそんな感じだ」
「なるほど。もしかして先生がスクールアイドルの活動になんか詳しいのって」
「……あぁ、まぁそうだな。そういうのも少し手伝ったことがある」
予想以上に渡辺が鋭い。いや、話の流れで分かっただけなのかもしれないが、奉仕部の話からスクールアイドルのお手伝いの方にしっかりと結び付けられる当たり、人当たりがいいと見られる渡辺は、人のことを良く見ているのかもしれない。
「まぁ、俺の昔話とか別にいいだろ。なんか用でもあったのか?」
「え?いえ、特にはなかったですよ」
「じゃあなんでわざわざ俺をここに連れて来たんだ?」
「それは、ほら。今日は千歌ちゃんたちと一緒じゃないし、一人で行くのもどうかな~って思ってたところに先生がいたから。折角なら、部員と親交を深めるのも悪くないんじゃないですか?」
「親交……ねぇ」
まぁ、言われてみればそれは確かに間違ってはいないだろう。恩師でもあるかつての顧問の先生も、そういえば活動を通じてというのもあったが、色々と親交を深めるような出来事も多かったように思える。
千葉村ボランティアの時も、嫁度対決の時も、修学旅行の時も、バレンタインの時も、μ’sの手伝いの時も、それにプロムの時も。思えば本当にいろんな出来事を経験したし、その時にあの先生に道を示してもらったり、ともに楽しんだりと、時間を共にしてきていたし、その経験を無駄だったとは思わないし、どうしたって思うことなどできるはずもないのだ。
「……そうだな。まぁ、偶にはいいか」
「えっへへ。じゃあじゃあ、先生の部活のこと、もっと教えてください!その部活に入ることにしたきっかけとか」
「ん、まぁいいぞ。つっても、その時は入りたくて入ったわけじゃなかったんだよね」
「へ?じゃあどうして」
「まぁ二年生の時に書いた作文がな。当時その部活の顧問だった先生の目に留まった結果、先生曰く更生のためってことで強制入部だったんだよ」
「そんな変な作文だったんですか?」
「変って……いや、まぁ……そうだな」
『青春とは嘘であり、悪である』
そんな出だしから始まったあの作文は、今思い返してみると確かに変と言われても仕方がないように思える。嘘も秘密も、罪咎も失敗さえも、確かに人に影響を与え、そして確かに人を成長させる。欺瞞に満ちた俺の行動も、決して正しくはなかった行動も、彼女たちが互いに抱え込んでしまった秘密も、そして心折れそうになった失敗も。そのすべてを経たからこそ今の俺がいて、あの時輝いた彼女たちがいた。
ただ、あの作文が悪かったのかといわれると、そんなことは決してないのだ。あの作文のおかげで、俺はあの部室へと足を運ぶことができ、そして彼女と――雪ノ下雪乃と出会うことができたのだから。雪ノ下と出会い、由比ヶ浜と出会い、戸塚と出会い。そうやっていろんな奴と関わるようになり、変わったのだから。
「けどまぁ、書いたこと自体は後悔はしてないしな。それがあったおかげで今があるわけだし。逆になかったら今頃の俺は悲惨だったと言い切れるまであるね」
「言い切れちゃうんですね」
「まぁだからあれだ。そんなちょっと捻くれた子供の作文でもいい方向に転ぶことだってあるんだ。構ってちゃんがちょっとした我儘を通すくらい、いいと思うぞ」
「へ?」
「お前変に空気読むタイプっぽいからな。偶には思ってることをちゃんと言わないときついぞ。ま、お前がどうするかは知らんけど」
そう言い切ったところで料理が運ばれてくる。取りあえずあんまり長く続ける話題でも無さげだと判断したため、そこで話を終わりにすることとし、目の前にある実に食欲をそそるハンバーグの方に意識を向けた。
「あはは。なんか、凄く先生っぽかったです、今の」
「いや、ぽいも何も俺先生だからね。なんなの、松浦といいお前といい俺のことなんだと思ってるの、ねえ?」
「あ、果南ちゃんも同じ事言ってたんですか?」
「まぁな。流石は幼馴染。考え方が似てるようで、ってこれ美味いな」
渡辺のリアクションに適当に言葉を返しながらハンバーグを口に放り込む。渡辺おすすめというだけあってなかなかにうまい。なんというか、いかにも万人受けするお店な感じのハンバーグではなく、どこか家庭味のある見た目と味。しかしながら果たして、その味は不思議な魅力で胃袋をがっちりつかんでくる。どうやらまた一つ、ここの良いところを知ることができたらしい。
それに、
「ふふん。でしょうでしょう?本当においしいんです、ここ!」
何か突っかかりが取れたのか、先ほどよりも幾分かすっきりした表情の渡辺がなぜか自慢げにしているのを横目に見る程度にし、とりあえずはお店の人に感謝しながら肉をほおばるのだった。
私だ(二度目)
いや、他に言うことがないもので……
すんませんした、はい。