やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある 作:トマト嫌い8マン
「つまりあれか?お前は堕天使を矯正したいと?油断しているとついついやってしまうそういう堕天使チックな行動をなくして、いわゆる『リア充ライフ』とやらを満喫したいと」
「ええ、まぁ。そういうこと、です。はい」
「なるほどねぇ」
スクールアイドル部部室。どういうわけか始まってしまった津島善子のお悩み相談の対応をするために、俺と津島は部室の机を挟んで座っていた。
ちなみに他の部員については話の内容が気になっているらしく、少し離れながらも部室にとどまりながら話を聞いている。一応津島の許可を得たうえでだから、プライバシーに関しては問題ない。そのあたりはちゃんとしてるからね、これでも教師よ、俺?クライアントの詳細を勝手に明かすことはしないっての。
しかしまぁ今回の津島の相談事はというと、いつだったか雪ノ下が材木座と初めて会ったときに投げかけた質問の内容に近しい内容だよな、この依頼。まぁ、あの時は結局依頼としては全くの別件だったわけだが。
「それで、幼馴染である国木田にフォローをお願いしていたが、あまりに予想外な行動であったがゆえに止めることができなかったと」
「そういうことになります、はい」
「ちなみに聞くけど、お前どのくらい堕天使に浸かってるの?」
「浸かってる?」
「まぁ要するに没入というか。ほら、さっきもこみ上げてくる、的なこと言ってたわけだし。お前の普段にどのくらい馴染んだ感じなんだ?」
「その……ある意味私の一部というか……なかなか切っても切れないものというか……」
「ふ~ん。で、実際のところどうなんだ、黒澤?なんか調べてるんだろ?」
「え?」
呆けた声を出しながら津島が黒澤のほうを見る。と、彼女はそれまでカタカタしていたノートパソコンをこちらに向ける。
「う~ん、結構本格的に堕天使してるみたいですね。動画も上げているみたいですし」
画面に映されているのは某有名な動画投稿サイト。あのコメントが画面に流れるように表示されるやつな?個人的には画質はさておき、見ている人のリアクションをリアルタイムにみることができる的な感じがして割とこっちも好きなんだよな。
で、そこで流れている動画はというと、
『ハァーイ。堕天使のヨハネよ。リトルデーモンのみんな、今日もよく来たわね』
「やめてぇぇぇぇっ!って、何流してるのよ!」
しっかりとゴシックな衣装をまとい、暗い部屋の中でろうそくの明かりだけを灯し、明らかに室内なのに風が発生しているように揺れる炎と髪。
「おぉ。割と本格的だな」
「って!先生も冷静に見ないで!……ください」
「……というか、前にも言ったと思うが……別に悪くないと思うぞ、そういうの」
「うん……かわいい」
「ん?」「え?」
ぽつりと漏れたような言葉を発していたのは、津島の動画をどこか興味深そうに見ていた高海だった。
「千歌ちゃんどうしたの?」
「これ、すっごくかわいいよ!これ、スクールアイドルに活かすことできないかな?」
「「「「えぇ?」」」」
「何この流れ?」
「俺に聞くな」
何やら思いついたらしい高海と、どこか戸惑っているスクールアイドル部員。
顧問の俺と部外者である津島は、とりあえずよくわからないふうに顔を見合わせる。
と、
「津島善子ちゃん!うぅん、堕天使ヨハネちゃん!」
「うわっ、何?というか近い!」
急接近してきた高海に驚きながら、津島が身を引くようにしながら離れようとする。
「っておいこら。何俺を盾にしようとしてるの?」
「あ、すみません、つい」
「で、高海。取り敢えず何か思いついたのは分かった。わかったから落ち着いて距離を取れ。というか取ってくださいお願いします」
本当に取ってもらわないと困るんだって。お前、津島の手を握ろうとしてそのままの勢いで接近してきたからほんと近いんだって。この距離はまずいから。いろいろとまずいから、主に社会的に。
「あ、すみません」
そう言いながら高海が一歩下がる。ふぅ……いや、別に残念だなんて思っていない。
確かに高海は間違いなく美少女ではあるし、なんなら柑橘系の香りが少ししていたのは認める。が、俺もいい大人。そんな些細なことで心を乱されはしないのだ。しないから。だから待ってそんな目で俺のことを見ないでくれる、渡辺さんと桜内さん?仮にも生徒が教師に向ける目じゃないよ?
「で、なんなのよ?」
「うん、あのね!ヨハネちゃんも、スクールアイドル一緒にやりませんか?」
「……は?」
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さて、元々予定されていた本日の部活動は中断となり、全員で移動することしばし。俺は今、高海家のリビング(旅館の方ではなく、家の方な)で待たされていた。いや、確かに小原から仕事持ち運び専用のPCを支給してもらっているとはいえ、本来こういう風に仕事をすることは想定されていないと思うのだが。そんなみんなが家から仕事をしなければいけない状況にあるわけでもないのだし、家に仕事を持ち変えるとか気が滅入るわ。
閑話休題。
そもそもなぜここで俺が待たされているのかというと、だ。高海による堕天使ヨハネ、aka. 津島善子の勧誘、それは彼女本人だけではなく、その属性にも向けられていたものらしい。曰く、
『色々調べてみたんだけど、堕天使系スクールアイドルなんて今までいなかったし。こういう新しい感じの可愛いも試してみるのもありかな~、って!』
ということらしい。
いやいや、確かにそういう特殊なコンセプトのスクールアイドルは過去にもいた。ミュータントガールズのようなゴシック×ホラーみたいなのもいたし、他にも個々人を見た場合にはシスターさん、軍服着用、和服系のようにインパクトのある子もいる。そういった意味ではグループのコンセプトを作り上げるということは間違ってはいない……間違ってはいないが……どうにも嫌な予感がする。なんというか、一時期μ’sが血迷って色々迷走していた時のことを思い出す。あれはほんとにひどかったな……部活系に目覚めたり、互いのキャラを入れ替えてみたり……何よりヘヴィメタメイクはやばかった。いろんな意味で。
「お待たせしました~!」
暫くパソコンに向かいながらカタカタとキーボードと格闘していると、高海から声がかかる。なんだなんだと思いながら視線を声の方向に向けると、
「じゃ~ん!どうですか?」
「いやぁ、ルビィちゃんたちのおかげで思ったより早く衣装が完成したよ」
「ルビィ、お裁縫とか好きですから。こういうのは初めてだったから、うまくできたかはわからないですけど」
「流石ルビィちゃんズラ!で、でも……」
「無理無理無理無理、こんな衣装絶対無理……」
「私が言うのもなんだけど、あんたたち正気?」
「お、おぉ?」
若干ドヤ顔気味な高海を先頭にやってきたAqoursと津島たちは黒や白を基調とした衣装に身を包んでいた。なんというか、ゴスロリという感じだ。特に黒澤。なんというか本人の醸し出す幼いオーラが拍車をかけている。
「ほらほら先生?どうですか?」
「ん、いやまぁこの短時間で作り上げられるのがすげぇな。衣装のクオリティ的に」
「そうですよね!曜ちゃん、ルビィちゃん、善子ちゃんの三人が作ってくれたんですよ!」
「すげぇな……で、それどうするつもりなんだ?」
実際衣装としてのクオリティは短い時間で作った割にはしっかりしている。津島は元々本人が持っていたものだろうけれども、他もそれに近しいイメージやデザイン、なかなかに凝ったレースの刺繍にヘアアクセサリー等の小物まで。が、今ある曲にはこの衣装がマッチするものはないため正直使いどころは不明である。まさか占い生放送とかやるわけでもないだろうしな……いや、やるの?
「ふふん。折角堕天使ヨハネちゃんが加わってくれて、Aqoursも新しいコンセプトを加えるわけですよ!だから紹介PVを撮りたいなと思いまして」
「ちょっと、勝手に決めないでくれる!スクールアイドルやるってまだ私言ってないんだけど!」
「あれ?そうだっけ?」
言ってないんだ。てっきりもう本人完全了承済みなんだと思ってたよ。あ、そういえば俺入部届受け取ってなかったわ。何やってんの俺?雪ノ下だって由比ヶ浜にちゃんと入部届出させるまでは部員じゃないって言ってただろ。もう、忘れんぼさん♪てへっ。
「ね、ヨハネちゃん!一緒にスクールアイドルしようよ!絶対楽しいから!」
「そんな急に言われて、『はい、やります!』ってなるか!私はもっとこう、普通のリア充になりたいのよ!」
「でも、スクールアイドルとして活躍して人気が出たら、ヨハネちゃんのファンがたくさんできるかもしれないよ?」
「……ファン?……つまりはヨハネの……リトルデーモン!?」
高海の一言に動きを止めたかと思うと、フヒ、フヘヘ、などと凡そ人前ではアウトな表情と笑い声を見せてしまう津島。なるほど、そりゃ雪ノ下からやめた方がいいと何度も言われるわけだ。津島レベルの美少女がやっても正直引くものを、俺や材木座がしていたらそれは確かにひどいな。
まぁ、そんなこんなで。
堕天使ヨハネを筆頭とした堕天使系スクールアイドルグループAqoursが誕生するのだった。