やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある 作:トマト嫌い8マン
文章を書くスキルが著しく低下しているとしか思えない。
どうしよう。
「行っちゃったね」
「うん……」
津島善子が立ち去ってしばし、なんとも言えない重い空気は晴れることがなく、高海たちはすっかり黙り込んでしまった。と、ぽつりと桜内がふと思い立ったかのように漏らす。
「どうして堕天使だったんだろう」
「多分……マルたちと、同じなんだと思います」
問いかけの意思があったわけでもなかったであろう桜内の一言に、答える声があった。その言葉を発した彼女、国木田に向けて高海たちと俺は視線を集めた。
「小さい頃、善子ちゃんずっと言っていたんです。自分は本当は天使で、いつか空の上の世界に帰るんだって。そんな善子ちゃんは、なんだかキラキラしているように見えて」
「でも、きっとそういう風に言っていたのは、何かを探していたんじゃないかって、マルは思うんです。自分の周りが、自分自身が、あまりにもありふれていて、普通で」
「だから、自分が特別であることを――つまりその他大勢と同じではなく、自分個人としての存在があるということを、その価値を見つけたかった、か」
なんというべきだろう。そうやって話を聞いてみると、どことなく俺自身が昔好きだった作品に出てくう、とある高校生にして創造神、宇宙人未来人異世界人超能力者を探し求めていたどこぞの少女に似ているように思える。
自分の周りが世界で一番面白いと思っていて、でも実際には世界はもっと広くて、自分のような――自分の経験してきたようなことを経験した人なんて数えられないほど存在していて。
「それに善子ちゃん、昔から運が悪かったんです。小さい頃はそれでもずっと笑顔でいて、本当にすごいって思ってて……」
「つまりあれか。自分は本当は天使でいつか空に帰るって幼い頃から言っていたことと、自分の不運な境遇。そういったところから、自分は神様に嫌われてしまった堕天使、という風に繋がっていった感じか?」
「マルもそこまで詳しくはわからないですけど……でも多分、そうしないと埋もれちゃいそうだったのかもしれません」
「普通……」
そう呟いた高海の視線は、俺の手の中に握られていた羽根に向けられていた。
はっきりとは、しっかりとは、完全には理解できていなかったかもしれない。それでも、国木田の話した津島善子の気持ちは、多少の差異こそあれども、彼女自身が感じていたことに近いものなのだろうから。
『このままじゃまずい!普通の星に生まれた普通星人どころか、普通怪獣チカチーになっちゃう!』
「あ……」
小さく漏らされた、ともすれば吐息レベルのその声は、しかしやけにはっきりと耳に届いた。僅かに口と目を見開いた高海に近づいた俺は、手に持っていた羽根を差し出す。
「え?」
「これ、お前から津島に返しておいてくれ」
「え、でも」
「何はともあれだ。津島は選んだ。俺が受けていた相談事については、これで終わったということになる。終わった以上、俺は必要以上にあいつに関わることはないだろうな。スクールアイドル部にも入らないってことは、そういうことだろうし」
理由がなければ動けない。ここだけ聞けば、高校時代に臆病で、めんどくさくて、どうしようもない自分自身の停滞していたころを思い出しそうになるが、今回はそういうわけではない。
俺の恩師がそうしてくれたように、俺が解決や解消をしようとするのではなく、問題の当事者である彼女たちが解決できるように促さなければいけないのだ。
ここで俺が動くことは確かにできる。教師とかそういうことを考えずに、津島善子に関わることはできる。だが、それではいけないのだ。
あくまで俺は教師で――元奉仕部員であり、魚を釣ってあげるのではなく、魚の釣り方を教えるべきなのだから。
「でも、善子ちゃんは」
「俺はあくまで教師だ。一人の生徒にかかりきりになるわけにも、相談されていないのにプライベートに深入りするわけにもいかないんだよ」
「でもそれじゃあ!「まぁでも。部員が友人に関わろうとすることを止められるような権限は、別に持ち合わせていないけどな」え?……それって」
もしも。もしも高海が津島善子の持っていた堕天使という属性のみを見ていたのだとしたら、ここで終わらせることもいいだろう。それは正しく彼女たちの個性ではなく、話題集めの要因でしかなく、結局のところ偽物でしかなかったということなのだから。
だが逆に高海が津島善子に、堕天使ヨハネに見ていたものがそれ以上だというのであれば、
「お前が選べ、高海。お前は津島善子を――堕天使ヨハネをどう思う?お前はどうしたい?」
「私……」
考えることしばし、どこか強気とも見える笑顔を浮かべながら、高海は俺の手の中の羽根を取った。
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Side Mandarin
最初はどうして?って思った。
だって、いつも色々助けてくれて、善子ちゃんの話もしっかり聞いていて、私たちの活動も見守ってくれている先生が、まるで自分には関係ないかのように善子ちゃんの羽根を渡そうとしてきたから。
でも、そうじゃないんだ。
先生に頼っちゃいけないことだって、あるんだから。
善子ちゃんを誘ったのも、堕天使系スクールアイドルをやってみようって言ったのも、それでスクールアイドルとしての人気も上がるかもしれないと思ったのも、全部全部私なんだから。
だから――
「みんな!私は――」
――これは私が――
「――善子ちゃんと――」
――やるべきことなんだって!
「一緒にスクールアイドルがしたい!」
そんな私の言葉に、みんなは笑って頷いてくれた。
確かに生徒会長に怒られちゃったし、物珍しさに走ってしまったけど。
でも、善子ちゃんと一緒に衣装を作って、動画のための練習もして、そんな風に一緒に何かを作り上げることが本当に楽しくて。
あの時に善子ちゃんが――堕天使ヨハネちゃんが見せてくれた笑顔が、本当に楽しそうで。
きっと一緒だったら、もっともっと楽しいことが!
もっともっと大きなことができるって!
だから――
「だから、やめなくていい!善子ちゃんは善子ちゃんで、堕天使ヨハネでいいんだよ!私は。私たちは。そんな
お休みの日の朝一。
比企谷先生に朝練はお休みって連絡を入れた私たちは、善子ちゃんを迎えに行った。
「変なこと言うかもしれないわよ」
「いいよ」
そう曜ちゃんが笑う。
「急に儀式とか始めちゃうかも」
「それくらい我慢するわ」
ちょっと呆れるような、でも優しく梨子ちゃんが微笑む。
「またクラスでも浮いちゃうかもしれないし」
「その時はフォローするズラ」
「うゆ」
グッと花丸ちゃんとルビィちゃんがガッツポーズをする。
「リトルデーモンになれって言うかも!」
「それはちょっと。でも、嫌だったら嫌って言う」
「そうやって本音で話したり、たまには一緒に堕天使っぽいことをしてみたり。そんな風に一緒にできたら、きっと素敵だな、って思うの!」
「だからね、ヨハネちゃん!」
そう言って比企谷先生から渡された、善子ちゃんの羽根を差し出す。
「一緒に!スクールアイドル、やりませんか?」
善子ちゃんの家から展望台びゅうおまで、逃げる善子ちゃんを追いかけて、ついついここまで走ってきてしまった。
でも、日が昇ってきてキラキラ光る海が見える場所で、差し出された羽根をしっかり握る善子ちゃんの笑顔が見られたんだから。
きっと、これは正解だったんだよ。
……流石に堕天使衣装でずっといるのはまずかったかな?
後日、何があったのかを説明したら、比企谷先生から呆れたようなため息と、軽い説教の言葉をもらっちゃった。
でも、
「まぁでもあれだ、高海……よくやったな」
と、最後に苦笑しながら優しくほめてくれたのは、やっぱり嬉しかったな。