やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある   作:トマト嫌い8マン

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「何してんの、お前?」

 

当たり前のようにその奇行を見守っている他の部員に代わり、とりあえず高海の妙なテンションについて聞いてみる。まぁしかし、先ほど発していたセリフからしてどういうわけか先ほど小原から聞かされた件について知ってしまったようだが。

 

「あ、比企谷先生!統廃合ですよ、統廃合!学校のピンチなんですよ!」

「あぁそうだな。それはよくわかった。けどなんでそんなに嬉しそうなんだよお前?」

「だってだって!これってそういうことじゃないですか!」

「どういうことだ?」

「ねぇ、そろそろ私のこと放してくれない?」

 

津島の両の手をずっと握りしめたまま興奮気味に話す高海をとりあえず落ち着かせようと、「どうどう」とジェスチャーする。

 

「で?どうやって知った?」

「あ、あぅ。ご、ごめんなさい。ルビィが、お姉ちゃんを探してた時に」

 

おずおずと手をあげながら説明する黒澤妹。なるほど姉の行先として理事長室を候補に入れ、来た時に盗み聞きするような形になってしまったようだ。防音とかもうちょっと考えた方がいいのかもしれないな、おい。

 

まぁ、いずれにしても小原から正式なお知らせがされることが決定していたし、遅かれ早かれ知ることになっていただろうからこの際聞いてしまったものは仕方がない。とはいえ、だ。

 

「そういうことをでかい声で、はしゃぐように、あちこち走り回りながら、言いふらすんじゃありません」

 

とりあえず正式に伝達される前の情報を部室周辺に響き渡らせていた高海には軽く説教をかましておくだけにとどめることにした。

 

「はい、すみません」

「ついでに津島にも謝っとけよ。急に巻き込んでそのままだったんだし」

「はい。ごめんね、善子ちゃん。ちょっと浮かれちゃっててつい」

「はぁ~。まぁいいわよ別に。あとヨハネ」

 

とりあえずは高海が落ち着いたのを確認し、改めて仕切りなおすことにする。まぁとは言ったものの、

 

「お前らが聞いたであろうことは概ね事実と思っていい。現在、この浦の星女学院は年々の入学希望者の減少を受け、来年には統廃合という形でなくなる可能性が高い」

「やっぱりほんとだったズラ」

「改めて先生の口から聞かされると一気に現実感増すわね」

「まぁな。一応また正式な通達がされることにはなっているから、これ以上はあんまり騒がないようにしてくれよ。偉い人に怒られちゃうからな、主に俺が」

 

結局のところはどうせ発表されることである。これ以上に触れ回るようなことだけしないよう注意して、障りの部分の説明だけすることにした。今回の件については信憑性が高いとはいえ基本的には噂の類に近い情報のもたらされ方だ。下手をしたら話に尾ひれがついて妙な混乱を起こしかねないしな。

 

「可能性ってどれくらいなんですか?」

「はっきり言うとほぼ確定的だな。お前らも実感してることだろうが、そもそも今年の入学生が一クラス、それも一般的なクラスの規模を下回っている。3年生、2年生、1年生へと減少したペースから予測を立てれば、来年度はマジで入学生が全然いないことが想像つくだろ」

「確かにそうですね。でも2年生に引っ越してきて、これから新しい学校に通うってなったと思ったら、来年もまた違う学校になるなんて、なんか不思議な感じ」

 

実際に学生数の減少を目の当たりにしてきた渡辺と転入してきたからこそ客観的な視点で浦の星を見つめることができる桜内。二年生の二人の真剣な様子につられ、一年生たちも浮かない表情を浮かべている。

 

「大丈夫!」

「「千歌ちゃん?」」

 

そんな中、なぜか自信満々でどや顔を浮かべているのはスクールアイドル部発足者高海千歌。何ならワクワクしているのが目に見て取れる。

 

「私たちはスクールアイドルなんだよ!」

「えっと……つまり?」

「スクールアイドルとして、ラブライブに出て!そして優勝して!浦の星を統廃合から救うんだよ!」

「わかったからもうちょっと静かにな。部室も防音じゃねぇぞ」

 

またまた盛り上がり気味な高海に釘を刺しつつも、軽く思考を巡らせる。そう、スクールアイドル活動で学校を救う、それはただの思い付きではない。むしろスクールアイドルを知っている者にとっては一種の伝説のように語られているらしいが、まぎれもない実話なのだ。

 

スクールアイドルの人気に一気に火をつけたといわれる一因、日本にとどまらず海外でもパフォーマンスをした彼女たち、μ’sの物語。誰が語るまでもなく、ここにいるほぼ全員がそのあらましは知っている。

 

μ’sにあこがれ、その輝きに魅せられた高海にとって、この展開はまるで自分も同じように輝けるための道しるべのように思えているのかもしれない。憧れに近づけるかもしれない、そんな期待を抱かせるものなのかもしれない。

 

――それがどれほど大変な道のりなのか、まだ想像がつかないのだろう。

 

ふぅ、と小さくため息をつき、表情を引き締めて6人を見る。

 

「設立当初の目的はあくまでラブライブに出ること、だったがここらでもう一度はっきりさせておく必要がありそうだから改めて聞くぞ。お前たち、浦の星女学院スクールアイドル部、Aqoursの目標はなんだ?」

 

やや浮かれ気味の高海を除いた5人は今の質問に込めた意図に気づいたのか、わずかに表情をこわばらせる。そう、これはただの目標設定じゃない。

 

「それはやっぱり「待って、千歌ちゃん」?梨子ちゃん?」

 

意気揚々と答えようとした高海に、桜内が待ったをかける。首をかしげる高海から視線を外した彼女と、同じように真剣な表情を浮かべた渡辺が見つめるのは一年生たち。

 

「急な話だし、戸惑うこともあると思うの。千歌ちゃんはスクールアイドルとして学校を廃校から救うこと、そのためにラブライブに出て優勝することの二つを目標にしてる。私も、千歌ちゃんと同じ気持ち」

「私もだよ。でも、これはスクールアイドル部として強制されることじゃないとも思う。いきなり学校の命運を背負って部活動をする、なんて言われてもびっくりしちゃうと思うし。だから、三人の意見も聞きたいな」

 

真剣に、それでも優しく桜内と渡辺は後輩たちに問いかける。勢いに流されるのではなく、先輩に引っ張られるだけではなく、それぞれの意思でどうしたいのかを。

 

「あ……そうだよね。みんなの部活だもんね」

 

その様子を見て冷静になったのか、高海が少々ばつが悪そうに頭をかく。

 

「こういうのって、ちゃんとみんなで決めないといけないことだもん。一人で突っ走っちゃた。もしかしたら嫌だって思ってたことかもしれないのに。うん」

 

一度目を閉じて深呼吸。軽くうなずいてから、高海は顔を上げて一年生たちを見る。

 

「さっきははしゃいじゃってごめんね。私はμ’sみたいに輝きたいと思ってスクールアイドルを始めたんだ。μ’sみたいになりたいって。だからさっきの話を聞いたとき、来た!って思っちゃった。μ’sと同じでラブライブに出て、μ’sと同じで優勝して、μ’sと同じで学校を廃校から救うことができたら。それができたらきっと、あの輝きに届く気がして」

 

一瞬だけ目を細め、眩しげな表情を見せた高海。本当にどれほどμ’sが好きなのか、それだけで強く伝わる。でも、そのうえで彼女は――

 

「でもね。それは私のわがまま。曜ちゃんと梨子ちゃんは一緒に頑張りたいって言ってくれているけど、絶対そうしなきゃいけないわけじゃないんだ。だからね。もし他の目標とかあったら言ってほしい」

 

無理強いはさせられないもんね、と小さく笑いながら後輩に問いかける高海。初めからそれを目標に掲げていたうえで入部したのならともかく、立ち上げ時の目標はあくまでラブライブに出場することだけ。今あげられた目標は高海の言う通り、たった今生じたばかりのわがままと言える部分もある。

 

それに、どちらもとてつもなく大きな目標だ。ラブライブで優勝すること、それは言い換えれば、日本一のスクールアイドルになるということだ。A-RISEやμ’sの頃から更に倍率もレベルも上がったといわれる中で、その誰よりも輝くということだ。

 

それに学校を救うというのは学校の名前も、生徒からの期待も、まだ見ぬ未来の受験生からの印象も、それから生ずるあらゆる出来事に対する責任も、すべて背負うことだ。大会という明確な目標とは違う、多くの目に見えない要素と努力ではどうしようもない大人側の事情も絡んでくる。

 

誰かに流されてやったとしても、それはいい結果に結びつくはずがない。だからこそこのタイミングで、俺は彼女たちに目標の再確認を行っている。だからこそ高海、桜内、渡辺はそうすることを自分で決めている。だからこそ三人は、後輩たちの決断に耳を傾けている。

 

「あ、あのっ!る、ルビィもμ’sが大好きでっ!だからっ、千歌先輩の気持ち、わかりますっ!ルビィも、皆さんと一緒にラブライブに出たいです!お姉ちゃんが大切に思ってるこの学校を、ルビィも守りたいから」

「マルはまだスクールアイドルを知ったばかりだから難しいことはわかりません。でも、ルビィちゃんと一緒に始めたばかりだから。もっとみんなとこの学校で一緒にいたいから。だから、マルも頑張りたいです」

「ヨハネとしては折角リトルデーモンを大量に獲得できるチャンスだし?ここで終わるつもりはないわ。それに、統廃合になったら中学時代を知ってる人に会いそうだし……」

 

先輩たちに――あ、ついでに俺もか、顧問だしな――見守られながら、それでもはっきりと前を向きながら、三人は思い思いの決意を語った。動機は違ってもいい。言葉に表れるテンションも違ってていい。ただそれでも、三人の目には二年生に負けないくらいに強い感情が込められていること、それだけは確実に言えることだった。

 

「そっか。うん、ありがとう。これからもよろしくね!」

「三人のこと、頼りにしてるから」

「よーっし!それじゃあみんなで、まずはラブライブ出場に向けて!全速前進~、」

「「「「「「ヨーソロー!」」」」」」

「うん!息ぴったしだね!」

 

顔を見合わせて、つい笑い出してしまう6人。女子が集まると姦しいとは言うけれども、その光景は騒々しさもやかましさも抱かせず、気持ちが一つになったことに対する純然たる喜びだけがそこにはあった。

 

どうやらようやく本格的にスクールアイドル部として始動できそうだ。

 

「方針が固まったら、さっさと練習するぞ。優勝目指すなら、時間はいくらあっても足りないくらいだしな」

「あ、はい!すぐ行きます」

 

高海たちに声をかけてから、一足先に駐輪所へ向かう。本日最初のメニューは軽くストレッチをしてからランニング。早く校門であいつらを待つとしますかね。

 

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