FateHF.Normal√×FateGO AD.2004? 幻想逃避都市冬木   作:ありゃりゃぎ

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2~3日おきに更新予定です。


ep1 偽りの平穏

「穂群原、学園……?」

 

 校門の前に立つ。

 馴染んだはずの名前。通っているはずの高校だった。はて? 僕が通っていた高校は、本当にこんな名前だっただろうか?

 

「どうしたんですか、先輩?」

 

「ああ、いや。なんでもないよ」

 

 今日は、何故だか調子が悪いらしい。どうにも『間違えている』という感覚がずっと付きまとってくる。

 

「……そうですか。でも調子が悪いなら、無理をしないでくださいね?」

 

「心配してくれてありがとう、マシュ。でも大丈夫だから。ほら、遅れちゃうよ?」

 

「そ、そうですね。今日は一時間目が葛木先生ですから、急がないと!!」

 

 それでは、とマシュと別れる。マシュは僕のひとつ下の学年なのだ。パタパタと走っていく彼女を見送って、僕も自分の教室に急いだ。

 マシュにはそう言って強がって見せたが、校舎に入っても、教室に入っても、授業が始まっても、その奇妙さが抜けていくことはなかった。

 

「おい、立花。次は美術の時間だろ? 準備しなくていいのか?」

 

 隣の席の士郎が、行こうぜと促してくる。

 

「あ、ああ」

 

 そうだ。そういえば今日は月曜日なんだから、この時間割だと美術になっていたはずだ。言われてからもたもたと用意を始める僕に、後ろから声がかかる。

 

「まったく。藤丸はダメダメだよねぇ、いっつもぼんやりしててさぁ。睡眠時間足りてないんじゃない?」

 

 ハハハ、とパーマのかかった髪をかき上げながらやってきたのは、間桐慎二。顔はいいし声もいいのだけれど、いかんせんその性格が妙に捻じ曲がった男だ。その癖女子受けはいいのだから納得がいかない。

 

「まぁまぁ慎二、立花は帰国子女だから。まだ時差ボケがあるんだよ、きっと」

 

「いや、一月経ってまだ時差ボケなんて、そんなわけないだろ」

 

 呆れたように返す慎二に、「そりゃそうだ」と苦笑する士郎。士郎め、もとよりフォローする気がないな。

 三人で、益体もない世間話をしながら、廊下を歩く。美術室まで行くまでの間の廊下は、日当たりもよく、グラウンドが良く見える。次の時間の体育の準備をしている生徒たちが、そこで準備体操をしているようだった。

 

「ほらほら皆さん!! 準備体操はきっちりと!! 柔軟も忘れずに行ってくださいね!! 特に首と手首は入念に。今日は、盾を持って二人一組でタックルの授業を行いますからね!! なに? 厳しい? 辛い? 意味不明? 何をおっしゃる、私の授業はそう、『スパルタ』ですから!!」

 

 開いた窓から聞こえる、むさ苦しくて既視感ならぬ既聞感のある男の声。

 

「何なんだ、あれ」

 

 半裸の筋肉質な男性教師が、盾——ではなく、ラグビーで使われるようなヒットバッグを掲げて叫んでいた。ほんと、何なんだ、あれ。

 

「何って、レオニダス先生だろ?」

 

 いや、何当たり前みたいに言っているんですかね。

 

「穂群原学園ラグビー部と言えばレオニダス先生じゃないか。現役時代、その守りは鉄壁以上。正に要塞と言われた伝説の選手。教師になってからも、その類まれなカリスマで、熱く厳しくスパルタに生徒を導く、いい先生だよ」

 

「何やってるのさ、スパルタの王様……」

 

「王様?」

 

「え……? あ、あれ? なんで、王様なんて言っちゃったんだろう」

 

 何故だか、口から自然とそう漏れた。どうしてか、あのレオニダス先生が戦場で先陣切って味方を鼓舞している風景が頭に浮かんだのだ。教職よりもそちらの方が、よほど自然であるような気がする。いや、どちらにせよ王様が戦場にいるって間違いな気がするけど。

 

「おい、衛宮に藤丸!! いい加減授業に間に合わないだろうが」

 

 イライラしたような慎二の声に、悪い悪いと謝りながら先を急ぐ。

 

「……全く、流石は人類最後のマスターか」

 

「ん? 慎二、何か言った?」

 

「愚図で間抜けな友人を持つと苦労するって言ったんだよ」

 

 そう言うと、慎二はズカズカと一人歩いて行った。何でだろう、すごく大切な言葉を聞き逃したような……。

 

「ああもう、待てよ慎二!! ほら、立花も行こう。流石に授業に遅れる」

 

「あ、ああ。うん」

 

 士郎に促されて、そうして僕は窓際から——もしくは真実から——離れたのだった。

 

 

「てやんでい、授業で春画を描くことの何が悪いってんだい!! オイコラ離せやい!! 女体!! 女体を描かせろぉぉぉぉ!!」

「フフフ、数学の時間だネ。吾輩の担当サ!! うら若き婦女子の皆さん、吾輩のことは気軽にパパとでも……え、胡散臭い? 犯罪臭? 新宿おじさん? そんなー」

「それでは、化学の授業を始めます。ええ、まずは賢者の石の精製から……。え? ダメですか。ならばホムンクルスの……それもダメですか……」

「えー。僕、人に教えるの無理なんだよね。だって天才だし? そういうわけで、今日は僕の即興演奏会でも「アマデウスゥ————!!」僕は逃げるから、あとの授業はサリエリ先生にお願いしてくれ」

 

 

 何故だろう。何もかも間違っている気がする。

 

 嵐のような、けれどいつもの通りであるはずの一日が過ぎ、すでにHRも終わってしまっていた。

 

「ほらー、早く帰んなさいよ。日が暮れないうちにねー」

 

 藤村先生の声に追い出されるように教室をでる。

 

「放課後どうしよっか?」

 

 学校から自宅に直帰というにはまだ早い時間だろう。どこかに寄り道でもしようかと、士郎と慎二に声をかけてみたのだが、

 

「放課後? 悪いな、俺はこれからマウント深山でバイトがあるんだ」

 

「僕は部活だし。さすがに顔を出しておかないと桜がうるさいからね」

 

 二人にふられ、仕方なく一人でぶらぶらしようかと校門に向かえば、そこにいたのは眼鏡にショートカットの似合う、自慢の後輩がいた。

 

「お疲れ様です、先輩」

 

「ああ、マシュもお疲れ様。今日はどうだった?」

 

 ねぎらいの言葉とともに、なんとなしにそう問うた。すると彼女は、不思議そうに首をひねった。

 

「ううん、何と言えばいいのでしょうか……。いつも通りのはずなのに、新鮮で刺激的というか。何だか濃厚な一日でした」

 

「マシュもそう思ったんだ……。僕も何だか、いつも通りって感じがしないんだよね」

 

 彼女もまた、僕と同様に違和感を抱いていたことにどこか安心する。

僕と同じ帰り道の学生。買い物へと向かう主婦。すでにランドセルを置いて友達のもとへ向かう子供。それぞれの生活が垣間見える、いつもの光景。人々の喧騒が耳に心地いい。

 

 僕はこんなにも『いつも通り』を大切に感じるような人間だっただろうか。自分自身に首をかしげながらも足を動かしていく。

 

「そうだ先輩。気晴らしに買い食いでもどうですか? 私、少し憧れだったんです」

 

 この違和感の正体がつかめずに悶々としていると、不意に彼女がそう提案してきた。そういえば、この通りの近くに商店街があったんだっけ。

 マシュに手を引かれて行くと次第に人通りが多くなってきた。

 

「ああ、ここが商店街かぁ」

 

 商店街くらい来たことあるはずなのだが。いや、食事は士郎や間桐さんに任せきりだからな。案外、今まで来たことがなかったかも。

 

「おう、なんだ坊主に嬢ちゃん? デートか?」

 

「うおぉ!?」

 

 背後からいきなりの若い男の声に驚いて振り向くと、そこにいたのは魚屋のエプロンを身に纏った男だった。痩身でありながら鍛え上げられた体つき。人のいい笑みを浮かべるのは、

 

「——ああ、ランサーじゃないか」

 

 魚屋でバイトしてたり、ふらふらと漁港で釣りをしている近所の兄貴分。時たま自分で釣った魚と酒をもって衛宮邸に乗り込んでくる気のいいお兄さんだ。

 

「今日はアロハじゃないんですね」

 

「そりゃあなぁ。勤め先でアロハは着ねぇよ。ところでどうしたんだ? お前さんがここにいるのは珍しいだろ」

 

「それは、私が……。ええと、少し、買い食いというものに憧れがありまして……」

 

 恥ずかしそうにそう言うマシュはなんて可愛いのか。さすがは僕の自慢の後輩である。

 

「ははーん、なるほどねぇ。育ちのいいマシュの嬢ちゃんからしたら、買い食いも魅力的に映るわけか。ま、それだけじゃないみてぇだが」

 

「ら、ランサーさん!!」

 

 揶揄うランサーに頬を染めて照れるマシュ。どうやらマシュとランサーで通じ合うものがあるご様子。むむむ、何だか疎外感だ。

 

「…………この調子じゃあ、あと何年かかるやらって感じだが」

 

 そういって、やれやれと両手を上げるランサー。むう、何だか勝手に呆れられているようだ。こちらとしては釈然としないけれど、何だかこれ以上踏み込むのも墓穴を掘るようで怖い。話題を変えてみよう。

 

「それより、ここら辺で何かおいしいものは知らないかな?」

 

 ここの商店街で働いているランサーなら、その顔の広さも相まって、どこかおいしいところを知っていそうだ。

 

 期待の眼差しで見つめる僕とマシュに、ランサーは少したじろいだ。

 

「酒やつまみなら、おすすめの店の一つ二つはあるんだが……。セイバーなんかはここでよくたい焼きを買ってくけど——」

 

 むむむ、と悩むランサー。と、そこに、

 

「ちょおっと待った——!! 話は聞かせてもらいましたよ!!」

 

 道の向こうから爆速で駆けてきて、くるっと一回転して十点の着地を決めたのは、赤いショートカットが似合う、年上の女性だった。

 

「ええ、ええ。どうやらお二人は甘いものをご所望であるご様子。しからばランサー、どうして私を呼ばないのです、ここは私の出番では?」

 

 いつもの通り、男装の令嬢ともいうべきパンツスタイルのスーツの上からパステルカラーのエプロンをかけて現れたのは、バゼット・フラガ・マクレミッツさん、通称バゼットさんだ。時折、衛宮邸にランサーとともに押しかけては食材を恵んでもらっている残念な人だ。優秀な人であるらしいのだけど、見た限りではアルバイトをするたびに首になっている可哀そうな人という印象が強い。

 

「お久しぶりです、バゼットさん」

 

「ええ、久しぶりですね、藤丸君にマシュさん。ところで開幕早々とても侮辱された気がするのですが、私の気のせいでしょうか」

 

「気のせい気のせい」

 

 そうですか、と構えた拳を下げるバゼットさん。そういうところだと思うんですよね。

 

「それでバゼットさん。私の出番、とおっしゃっていましたが」

 

 最初の話題に戻るマシュに、バゼットさんは然りと頷いた。

 

「ええ。実は最近また新しく仕事をはじめまして」

 

 そう言って彼女は、大きな氷を取り出した。

 

「かき氷屋です」

 

「かき氷屋」

 

「そうです、かき氷屋です」

 

 彼女は深く頷いた。

 

「今まで、不本意ながら私は様々な職場を転々としてきました。ここが日本だからでしょう、私はなかなか馴染むことができなかった」

 

「いや、別に日本の風習がどうこうってわけじゃねぇだろ、マスター」

 

「シャラップ、ランサー」

 

「んんんんん!?」

 

 口を押えるランサー。バゼットさん、今躊躇いもなく令呪を使いませんでしたか? 

 

「いつまでもランサーに甘えるのはいけない。これではマスターの威厳を保てません。そこで私は考えました。雇われる側に甘んじているのがいけないのだと」

 

「そこは甘んじているべきだったのでは……?」

 

 辛辣なマシュの突っ込みも無視して、バゼットさんは続けた。

 

「一から自分で起業すればクビにされることもありません。そこで私は考えました。もとでの少ない身で、どうやって店を開くのか。熟慮の末に思い至ったのが、そう。かき氷屋なのです。これならば、氷と砂糖さえあればいい。天才ですね私」

 

 どやぁっと、一袋の砂糖と氷塊を掲げるバゼットさん。

 

「いや、砂糖って。シロップはどうしたんですか」

 

「藤丸君。かき氷は甘ければいいのです」

 

 それは違うなぁ。

 

 バゼットさんのあまりのダメさ加減に頭を抱えていると、今度はマシュが問うた。

 

「ええと、バゼットさん。かき氷というならば、氷削り器はどこに?」

 

 そう言えば、とバゼットさんを見やると、彼女はポイと無造作に氷塊を空中に放った。

 

「ハッ!!」

 

 まさに一瞬。彼女の拳が氷塊を木っ端みじんに砕く。そして飛び散る氷の破片をシュパパパパと空の器に収めて見せた。

 

「つまりこういうことです」

 

 うーん、人外。本当に人間なんですかねこの人。

 

「これに砂糖をかければ、ほら出来上がりです」

 

 正に一仕事終えたとばかりの清々しい笑みとともに差し出されるかき氷(自称)を、仕方なく受け取る。

 

「五百円になります」

 

「馬鹿高い!?」

 

 いやまぁ、ある意味すごいものがみれたと思えば、うん。確かに人間離れした技ではあるしね。大道芸にお金を払ったと思おう。

 仕方なく五百円をバゼットさんに支払った。悲しい。

 

「毎度あり。それでは、藤丸くん、マシュ嬢。そしてランサー、今夜こそはあなたに夕飯をご馳走して見せましょう」

 

 そう言って、彼女は颯爽と去っていった。

 

「いやほんと、うちのマスターがわりぃな……」

 

 ようやく復帰したランサーが、ポンと肩に手を置いて呟いた。

 

「その、だいぶ個性的と言うか」

 

「嬢ちゃん、素直に馬鹿って言ってくれて構わねぇよ。……ほんとにアレさえなければいい女なんだが。師匠とは違う意味でアレなんだよな」

 

 はあああ、と溜め息をつくランサーは、どことなく哀愁が漂っている。さすが幸運E。

 

「それじゃランサー、僕らはこれで。そろそろ夕飯の時間だ」

 

「それでは、ランサーさん」

 

 買い食いに関しては微妙な結果となったが、これからまた新しくどこかを探すというのも躊躇われる時間だ。ここは素直にご帰宅としよう。

 

「おう、また今度魚もって邪魔しに行くわ」

 

 からりと笑うランサーと、手を振って別れる。けれど去り際に、どうしても気になったことを聞いた。

 

「ねぇランサー。僕って、ランサーのことを『ランサー』って呼んでたっけ?」

 

「ああ? そりゃあ、そうだろう」

 

「ああ、うん。ならいいんだ」

 

 首をかしげるランサーと、僕らはそうして別れた。しこりのように残る違和感は、どうしても飲み込めなかったけれど。

 

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