FateHF.Normal√×FateGO AD.2004? 幻想逃避都市冬木   作:ありゃりゃぎ

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2,3日ほど体調崩しておりました……。おのれインフル……。


ep3 夢から目覚めて

「今回も、微小ながら特異点反応が観測された」

 

 いつもの通り、呼び出しを受けた僕は、マシュとともにダヴィンチちゃんからの報告を聞いていた。

 

「場所は、日本の冬木市。幾度か訪れたことのある土地だね。どうにもここは聖杯戦争の舞台だったからか、ほかに比べて揺らぎが多いらしい」

 

 ダヴィンチちゃんの言葉を受けて、もう一人が言葉を継いだ。

 

「余裕があれば、もう少し時間を割いて調べるのもいいのだろうけどね。何分、もう引き継ぎの日は目の前だ」

 目の前の謎に取り組むことができないのを、心底残念そうにしているのは、ダヴィンチちゃんに次ぐこのカルデアの頭脳のうちの一人。かの名探偵、ホームズその人だ。

 僕らカルデアは、人理焼却事件をどうにか解決し、その後も冠位神殿から逃げ出した魔神柱たちの捜索および討伐を行ってきた。つい先日、アメリカ——セイレムにおいて、逃げ出した最後の魔神柱を討伐。あとは、魔術協会主導によるカルデア解体の日を待つだけとなっていた。

 

「藤丸君には、また負担を強いることになってしまうけど……」

 

 申し訳なさそうにしているダヴィンチちゃんに、僕はいいやと首を振る。

 

「気にしないで。実は暇していたところでさ」

 

 もともと一般人で、魔術とは無縁の世界で生きてきた僕だ。人理焼却の緊急事態から脱した今、もう僕の仕事なんて残ってはいない。カルデア唯一のマスターの仕事は特異点の攻略だけ。平穏を取り戻した世界に、マスターの仕事なんてない方がいい。

 召喚に応じてくれていたサーヴァントたちも徐々にカルデアから退去する人たちが出てきている。普段相手にしてくれるサーヴァントも減ってきていた。暇を持て余しつつあるのだ。

 

「そう言ってくれるとありがたいのだけどね」

 

 苦笑してダヴィンチちゃんは続けた。

 

「今回の特異点は、申し訳ないんだけどうまく観測できていないんだ。シバの不調もあるんだけど……どちらかというと、この特異点自体に問題があると言っていい」

 

「問題、ですか?」

 

 可愛らしく首をかしげるマシュ。ああ、僕の後輩は今日もかわいいなぁ。

 

「単純に、小さすぎて観測できないってことさ。……あまり派手なことにはなっていないだろう。まあ、こういう時の予想って大体外れるものだけど」

 

「縁起でもないなぁ」

 

 溜息を吐く。といっても、今まで何度もこういうことはあった。今回も乗り越えて見せるさ。

 

「というわけで、さっそく藤丸君にはレイシフトしてもらうんだけど……」

 

「今回は、というか今回も、私が同行します!!」

 

 ピッと片手を挙げたのは、もちろんマシュだ。

 

「それはうれしいけど、でも大丈夫なの?」

 

 冠位神殿での戦いの後、彼女の霊基は不安定になっている。人としての生活に支障はないが、サーヴァントとしての活動は著しく制限されているはずだ。

 マシュだけでなく、ダヴィンチちゃんやホームズにも顔を向けた。

 

「その不安は、その通りなんだけど。今回のレイシフト先は現代だから、戦闘以外でも役に立てる場面はあるだろうということで」

 

「ハイ、そういうことです先輩。必ずお役に立って見せます!!」

 

 フンス、と鼻息を荒げるマシュに、やれやれと首を振るダヴィンチちゃんとホームズ。もろ手を挙げて、とは言わないけれど、二人がそういうのなら従おう。僕としても、マシュが隣にいてくれるのは心強い。

 

「うん、それじゃあ二人とも準備はいいかい? ほかにも何名かサーヴァントが同行するから、戦闘面の心配はいらない。さあ、藤丸君、これが最後の奉公だと思って頑張ってきてくれたまえ!!」

 

 そんな、彼女らしい言葉に見送られ、僕らは2014年の冬木市へと飛び立った。

 

 

「うっ……ぐっ」

 

「せ、先輩!!」

 

 この地に来るまでの記憶を微睡の中で思い出していると、次第に意識が明瞭になってきた。腹の痛みに呻くと、僕が起きたのに気付いたマシュが、不安そうに声を挙げて僕の手を握った。

 

「だ、大丈夫……だから」

 後輩を不安にさせるのはよくない。ここは先輩らしく、無理して強がるところだろう。

 強がりで起き上がろうとする僕を止めたのは、葉巻を咥えた、長髪の男性だった。

 

「あまり無理をするものではない。痛みが鈍いのは単に麻酔が効いているだけだ。横になっていたまえ」

 

 相変わらず眉間に皺を寄せっぱなしでそう言うのは、

 

「ロード、エルメロイ……先生……」

 

「Ⅱ世を付けたまえ」

 

 ああ、ここでもやっぱり拘っているんですね。

 

 アハハ、と力なく笑っていると、もう一人の方も僕が目を覚ましたことに気づいたらしい。 

 チェシャ猫のような目をした、赤のよく似合う少女。

 

「あら、藤丸君。目が覚めたのね。……見かけによらず割とタフなのね」

 

「イシュ、タル……?」

 

「イシュタル……? ああ、この霊基は確かにそうね。私は遠坂凛よ、知っているでしょ?」

 

 遠坂凛。確かに、それは知っている。『昼』の時間において、半ば衛宮邸に居候のような状態になっている穂群原学園の学生の一人。赤色が見事に似合う、学校のマドンナ。でも、どうしてここに——

 

「いや、『遠坂』って確か」

 

 始まりの地とも言える、冬木市。かつて聖杯戦争が行われたというその地に根付く、魔術師の三つの家系を、御三家と、そう呼んでいたらしい。カルデアのログでそれらしき文章を読んでいた気がする。

 

「まあ、その通りね。私はこの地を治める遠坂の現当主ってわけ」

 

「いや、でも、遠坂さん。さっきマアンナ呼んでましたよね……? それに、この霊基って」

 

 いかに魔術師であろうとも、まさか女神の船を呼び出せるとは思えない。頭をかしげる僕に、ロードが声をかけた。

 

「それについては私から説明しようか」

 

 相変わらず、眉間に皺を寄せたまま。どこから持ってきたのか作りのいい椅子に深く腰掛けて、そうして彼はこの特異点について語り始めた。

 

 

 

「とりあえず、君たちが所属するカルデアがいったい何なのかについては、君が寝ている間にマシュ嬢から訊いているのだが」

 

 懐から取り出した葉巻に火を灯らせて、エルメロイⅡ世は続ける。

 

「まず、君たちはこの冬木市が何年にあたるのかは知っているかね?」

 

「え、それは2004年ですよね?」

 

 今までこの特異点に来てから、ずっと学校生活を送ってきているのだ。そのくらいは分かる。

 しかし、僕の返答に対してエルメロイⅡ世は「やはりか」と煙を吐いた。

 エルメロイⅡ世の言葉を引き継ぐように、遠坂さんが口を開いた。

 

「残念だけど、今のこの時代はその十年後。2014年なのよね」

 

「え、いやでも、昼の間は……」

 

 確かに、2004年だったはずだ。

 

「そうだ。確かに『昼』は2004年だ」

 

 『昼』は? 

 

「この世界の本来の時間軸は2014年だ。……だが『昼』の間、この町は2004年を再演し続けている」

 

「再演……?」

 

「この冬木市は、すでに本来の時間軸から切り離されている。君たちカルデアとやらがここを『特異点』と認識したのもそのためだろう」

 

「つまり、本当は2014年の冬木市が本来の歴史から切り離されたうえで、2004年の冬木市がそこに上書きされている……?」

 

「そういうことだ」

 

 それはどうしてだろう? 2004年に用があるのなら、本来の2004年に特異点を創るだろうに。

 

「そう、聖杯に願った誰かがいる……?」

 

 そうして、ロードはこれまでの経緯を静かに語りだした。

 

「この冬木市を舞台に聖杯戦争が行われていたというのは、そちらでも認識しているとマシュ嬢から聞き及んでいる。この世界線でも、聖杯戦争は計五回、この地で行われた」

 

 それはかつて第四次聖杯戦争の特異点のときに、聞いたことがあった。

 

「万能の願望器。それを巡って、この地を治める御三家と外部の魔術師たちがサーヴァントを召喚して殺し合うバトルロワイアル。でも、その実態は……」

 

「そう、その実態は大嘘だった。どう転んだって御三家のどこかが聖杯を手に入れられるように仕組まれたものだった」

 

 御三家と呼ばれる、遠坂、間桐、そしてアインツベルン。この三つの魔術師の家系による第三魔法へと至るための儀式。呼び出されたサーヴァントも外部からのマスターも全てこの儀式のための生贄。それが、この聖杯戦争の正体だった。

 

「それだけなら、魔術師の間ならよくある話であるのだがな。それだけではなかった。冬木の聖杯は、この時点ではすでに汚染されていた」

 

 それについては詳しく知らない。僕らの世界ではそうではなかったらしいが、この世界では何某かのイレギュラークラスを召喚した際に、聖杯は汚染されたらしい。

 

「第五次聖杯戦争が行われ、そこで間桐の当主は死亡。聖杯の汚染は白日のものとなり、聖杯は破壊された。汚染された聖杯による被害も、多くの犠牲に支えられながら致命となる前に食い止められた」

 

「それが、2004年……」

 

 先ほども話題に上がった、2004年か……。

 

「では、もうこの時代に聖杯は存在しないのですか?」

 

 マシュが問うた。確かに、この2014年に聖杯がないのであればこの時代が特異点化するのはおかしい。

 

「いや、破壊したのはあくまで小聖杯。大聖杯——いわば本体はいまだ残ったままだったわけだ」

 

「その十年後——2014年に、遠坂の当主である私が、教え子のよしみでロードに協力してもらって、その大聖杯を解体するに至ったわけね。……まぁ、失敗してしまったのだけど」

 

 はあー、と溜め息を吐く遠坂さん、なるほど、予想はつく。ここ一番でポカをする。どこかの女神もそんな感じだったっけ。肉体の方の体質だったのか。

 

「今とても失礼なこと考えてたでしょ」

 

「いえ、全然」

 

 無駄に勘がいいなあ。

 

「ともかく、我々の大聖杯解体の計画に不備はなかったとだけ言っておこう。彼女の裏切りさえなければ、こんなことにはならなかった」

 

 沈痛な面持ちで、エルメロイⅡ世は紫煙を吐いた。不備はなかったと言いつつも、そこには自身への後悔があった。

 

「その、裏切り者っていったい誰なんですか?」

 

 当然の僕の問いに、遠坂さんはひどく感情の抜け落ちた表情で答えた。

 

 

「間桐桜。……私の、妹よ」

 

 

 衛宮邸で過ごした日々の中にいた、儚げでありながら芯のありそうな少女。衛宮のことを後輩と言って慕っていた彼女が、今回の黒幕……?

 でも、

 

「間桐……ですか?」

 

 マシュが言う。それは、この冬木を根城にする魔術師の家系の一つだったはずだ。

 

「桜は、私の妹よ。正真正銘ね。小さいころ、間桐に養子に出されたのよ」

 

「なるほど……」

 

 つまりは、家の悲願を捨てきれなかった彼女の暴走が、この事態を引き起こしたのか。

 

「違う!! それは絶対に違うわ。……あの娘は、魔術師の悲願とか、根源への到達なんて間違っても願うような娘じゃない」

 

 予想外に強い否定に驚く僕とマシュに、「ごめん……」と遠坂さんは謝った。

 

「ちょっと、感情的になりすぎね。ごめんなさい、少し外に出てくるわ」

 

 いつもの表情は鳴りを潜めて俯いたまま、彼女は部屋から出て行ってしまった。

 

「流石に、無神経が過ぎたかな。実の妹を悪者みたいに言っちゃった」

 

「いや、君たちは悪くない。……彼女も気が立っているだけだ。許してやってほしい」

 

「い、いや。別に気を悪くしたわけでは」

 

 言うと、「そうか」とだけ、エルメロイⅡ世は頷いた。

 

「では続きを話そう。どちらにせよ、事件解決には背景を理解せねばなるまい」

 

「お願いします」

 

 言うと、エルメロイⅡ世は続けた。

 

「大聖杯の解体途中、協力してくれていたはずの間桐桜が突然襲ってきた。完全に不意打ちでね。私とミス遠坂は致命傷を負った。その後のことは、記憶にない。恐らく、間桐桜は聖杯の力を使い、2014年の冬木に2004年の冬木を上書きした」

 

 にわかには信じがたいことだった。仮初とはいえ、あの日常の中で交流のあった菫色の髪の少女がそんなことをするなんて、少し想像がつかない。

 

「そのまま死に絶えるはずだった私とミス遠坂もなぜか生き永らえ、つい最近まで——いや、今でもあの仮初の日常に囚われ続けている」

 

「今でも?」

 

「そうだ。……先ほども見せたが、私とミス遠坂は、今はサーヴァントだ」

 

 確かに、僕らを間一髪で救ってくれたロードも遠坂さんもサーヴァントの能力を扱っていた。いや、でも、

 

「おかしいですよね? エルメロイⅡ世も遠坂さんも、普通の魔術師で、現地の人なんだから」

 

 カルデアには二人によく似たサーヴァントを知っているから、違和感を感じなかったけど。

 

「……どうやら間桐桜は死にかけの私たちに、適合するサーヴァントの霊基を組み込んだらしい。この世界に存在する、ほかの人間もそうだろう。デミ・サーヴァントの逆だな。呼び出したサーヴァントに、この冬木市の

人々の人格を上書きしているんだ」

 

 ただ人の身体に英霊を適合させるのがデミ・サーヴァントならば、今の彼らはその逆。サーヴァントの上辺に冬木の住人のパーソナリティを無理やり被せたのか。

 

「……では、そのサーヴァントを召喚したのは」

 

「間桐桜だ。……つまり、今の私たちのマスターは間桐桜本人だよ」

 

「!! では、今のあなた方は私たちの、敵なのですか……!?」

 

 部屋の緊張が、一気に高まる。

 

だが警戒を露にするマシュに対し、時計塔の講師は相も変わらず落ち着いていた。

 

「その警戒は最もだが、今のところ君たちの敵に回ることは無いだろう。何せ、もう我々のマスターは正気ではないのでね」

 

 かの少女を、己のマスターたるものを彼はそう評した。

 もはや、正気ではないと。

 僕らの混乱をよそに、彼は悔恨とも憐憫ともとれる口ぶりで再び紫煙を吐いた。

 

 

 




一部独自解釈・独自設定が入ると思われます。違和感を持たれないよう設定には気を遣っているつもりですが、
何かしらおかしなところがご指摘ください。

それはそれとしてHF2章、楽しみですね!!
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