FateHF.Normal√×FateGO AD.2004? 幻想逃避都市冬木   作:ありゃりゃぎ

7 / 9
戦闘描写きちんと書けているでしょうか……。


ep6 ある主従の決着

夜の帳は落ち、女神の瞼は閉じられた。ここからは、再び僕らの日常——つまりは非日常の時間だ。

 

『あの銀の耳飾りについてだけどね』

 

 先ほど、仕込みは成ったと言い放ったダ・ヴィンチちゃんの言葉を聞きながら、件の耳飾りを手で弄ぶ。

 

『ルーンこそ刻まれているその耳飾り自体は、さして問題じゃない。この冬木市でかつて呼び出された『ランサー』としての彼の触媒が耳飾りだった。そのことが重要なんだ』

 

 昨夜に出会ったエルメロイⅡ世から齎された、この特異点での過去における第五次聖杯戦争の詳細レポートには、召喚されたサーヴァントたちの細かなスペックのほか、召喚に用いられた場所や触媒なんかも記されていたらしい。神経質な彼らしい仕事だ。

 

『そのレポートによれば、バゼット・フラガ・マクレミッツは家に伝わるルーンの耳飾りを用いてランサーを召喚しているらしい。つまり、今回『ランサー』にとって、触媒となった銀の耳飾りは重要なファクター足り得る』

 

 難しいことは、素人同然の僕にはよく分からなかったけれど、いわばこの銀の耳飾りはこの特異点における『ランサー』と僕らとを結びつける触媒となるらしい。

 そっと、力を入れてそれを握った。

 

「緊張してるみたいね」

 

 隣に立つ、遠坂さんが告げる。

 

「そりゃ、ね」

 

 昨日の敗北は、どうしようもなく脳裏にこびりついている。刻み付けられた恐怖はそう簡単には消えてくれない。

 それは、マシュも一緒なのだろう。忙しなく手を握ったり開いたりしている。そもそも今の彼女は、本来のスペックを引き出しきれていないのだ。

 時空神殿での戦いの後、彼女はサーヴァントとしての形態を維持していることすら難しくなってきている。そんな状態でもう一度、あの暴走状態のバゼットさんと戦わなくてはならないのだ。きっと、彼女の感じている焦りは想像以上のものだろう。

 

「大丈夫。うん、きっと」

 

 マシュの手を握る。今の僕には、これくらいしかできない。

 

「……っ。は、はい。先輩」

 

 手の感覚が、いつも以上に鋭敏だ。こんなにも彼女の体温を熱く感じる。遠坂さんの「熱いわねー」なんて冷やかしも今は聞こえないくらいに、集中していた。

 

「……——来たっ!!」

 

 エルメロイⅡ世の声で、意識が切り替わる。

 場所は、再び穂群原学園の校舎だった。暗がりの中、数多のシャドウサーヴァントを引き連れて、バーサーカー/バゼット・フラガ・マクレミッツが幽鬼の面持ちで姿を現した。

 

「グガ……ぎ、グガアアアアアアアアア!!!!」

 

 雄たけびとともに、彼女が駆ける。

 

 マシュは戦力には数えられない。エルメロイⅡ世の石兵八陣は、その膂力で容易に打ち砕かれるだろう。遠坂さんについても、もはや彼女の得意とする距離ではない。そもそも彼らは己が霊基を使いこなせていない。カルデアでの彼らと同じように考えていると足元をすくわれるだろう。

 でも、

 

「——応えてくれ、ランサー!!」

 

 右手に握りしめた銀の耳飾り。それを触媒に、かの槍兵を呼び起こす。

 

「——ハァ!!」

 

 ガギンッと、赤枝の槍と鋼鉄の拳が打ち合う。

 

「グ……ア……!?」

 

「ったく。大分無様を晒してるみてぇじゃねぇか、マスター」

 

 いや、元マスターだったな。

 幾ばくの感情とともにそう吐いて、彼はその膂力で彼女を吹き飛ばした。

 

「状況の説明、なんて悠長なことを言っている時間はねぇみてぇだな」

 

 僕の隣に、彼が立つ。

 

「うん、ごめん。本当はもうちょっと余裕を持ちたかったんだけど」

 

『意識の途切れた君を夜の間に呼び起こすには、君自身から貰った触媒のほかに、元マスター——君を現世に呼び寄せた強い縁を持つ、バゼット自身が必要でね。こんな土壇場で召喚するしかなかったってわけだ』

 

 僕の言葉を補うように、ダ・ヴィンチちゃんの説明が入る。

 要は、昼間にランサーから手渡された銀の耳飾りと、第五次聖杯戦争でランサーを召喚したマスター、バゼットさんの両方を揃えることで、ランサーをこの夜に召喚しなおした——冬木の大聖杯との間に割り込んだというわけだ。

 吹き飛ばされたバゼットさんを視界に収めつつ、ランサーは溜め息をついた。

 

「何が何だか訳が分かんねぇ。魚屋の店員をしていたと思ったら次の瞬間には戦場と来た。おまけに相手は、正気じゃねぇ元マスターだしよぉ。隣にゃサーヴァントになった嬢ちゃんらときたもんだ。てか、オレ自身の記憶も怪しいしよォ。たまんねぇなぁ、オイ」

 

 だがよ、と彼は続けた。

 

「訳も分かんねぇまま戦場に来るなんざよくあることだ。———何より、アレは見てられねぇ」

 

 視線の先、狂ったかつての主を見て、彼は何を思うのだろう。

 

「おい、坊主」

 

「う、うん」

 

 視線は油断なく敵を見据えたまま、彼は口を開いた。

 

「テメェが今のマスターだって、認めてやる。だから、命令しろ」

 

 一つだけ呼吸をして、答えた。

 

「ああ。行け、行ってくれランサー。どうか彼女を止めてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 復帰したバゼットさんが立ち上がると同時に駆けた。

 向かう先は、赤槍を携えた青き槍兵。

 振るう拳は鉄の如し。ルーン魔術によって強化されたその鉄拳を連続して、ランサーへと叩き込む。

 

「チィ」

 

 舌打ち一つ。

 バックステップをし、距離を取ったランサーが細かく器用に槍を当て、いなしていく。

 穂で、柄で、魔槍のあらゆる部分を使いながら彼女の一撃を弾いていく。

 

「ランサーが、押されてる……?」

 

 湧き出るシャドウサーヴァントを迎撃しつつ、僕らは二人の戦闘を見やる。嘘だろ、戦上手の彼が防戦一方だなんて。

 

「技術自体はランサーの方がよほど上だが。やはりGMサーヴァントとは出力が違いすぎるか」

 

 苦い表情でエルメロイⅡ世が独り言ちる。

 冬木の大聖杯からバックアップを受けているバゼットさんと、聖杯からの支配から逃れ、カルデア側と一時的な契約状態である彼では、霊基の強度・出力が違いすぎる。言ってしまえば、バゼットさん側はフェラーリで、ランサーは軽自動車で競い合っているようなものだ。

 

「ハッ!! このくらいの逆境、大したことはねぇ。誓約破ったときよりはよっぽどマシだ」

 

 当てた槍でバゼットさんを押し返し、強引に距離を取る。

 

「グガアアアアッッ!!」

 

 バゼットさんが、再び前進する。狂化し理性を失った彼女には、もはや前に向かう以外の選択肢は存在しないようだ。己の体制も整わないまま、スペック任せのごり押しにでた。

 距離を詰めるバゼットさんと、距離を取りたいランサー。

 インファイトの射程圏内では十分にその長槍は振るえず、宝具の真名開放を行う時間もない。

 

「このままじゃ不味いわね……」

 

 こちら側も、言うほどの余裕はない。エルメロイⅡ世も遠坂さんも自身の霊基を使いこなせていないし、そもそも彼らの出力も大きく減退している。シャドウサーヴァントを散らすので手一杯だ。

 

「ランサー!! どうにか距離をとって、宝具の開放を!!」

 

「分かってるよ!!」

 

 手の甲の令呪を見やる。残り三画。切るタイミングは———

 

「オラアッ!!」

 

 再び、強く弾く。そして、ランサーは攻勢に転じた。

 

「アンサズ」

 

 ルーン魔術。弾かれてなお距離を詰めようとするバゼットさんに、ルーンの一撃が襲う。

 

「グガア!?」

 

「考えなしの獣並みだ。理性どころか本能さえ真面に働いてねぇと見える」

 

 ランサーの体制は整った。バゼットさんは、足元がふらついている。攻勢には出られない。

 ——ここだ。

 

「ランサ————!!」

 

「いいタイミングだぜ、坊主」

 

 手の甲が、熱く輝く。足りない出力を令呪によって補う!!

 

「刺し穿つ——」

 

 槍兵が、その魔槍を構え、走り跳ぶ。闇夜に浮かび、その槍激を振りかぶった。

 しかし宝具解放を見て取ったバゼットさんもまた、その切り札を切った。

 

「……あんさらー」

 

 円卓の盾さえ打ち破って見せた、究極のカウンター宝具。その短剣を振りぬいた。

 

「———死棘の槍!!」

 

 軌跡は鮮やかな赤の残光。

 

「……抉り斬る、戦神の剣!!」

 

 軌跡は醒めるような銀の光輪。

 

 果てまで届くような、赤と銀の幻想の光。だが、貫いたのは——

 

「ガフッ……」

 

 バゼットさんの胸には風穴が空いていた。

 

「後の先を当て、敵方の攻撃をキャンセルさせることで成立させる究極のカウンター宝具。彼女の宝具に対して、因果を逆転させるランサーの宝具は天敵足りうる。ああ、ぶっつけ本番だったが、上手くいったか」

 

 一安心だ、とエルメロイⅡ世がため息とともに漏らした。うわ、確証無かったんですね……。

 

 貫かれた彼女を見やる。足取りはすでに覚束なく、されど先ほどまでの狂相はもはやない。僕らの知るバゼット・フラガ・マクレミッツが、目の前にいた。

 

「らん、さー…………?」

 

 流れ出る血は、致死量を超えている。いかに今の彼女がサーヴァントであろうとも、もはや消失は避けられないだろう。

 

「ああ、ごめんなさい……。私、願ってしまった。もう一度、貴方に」

 

「あー、もう喋るなマスター。……アンタの想いも願いも無念も、全部判ってるから」

 

 マスターとサーヴァント。僕らには、彼らがどんな道を歩んだのかは分からないけれど、きっとバゼットさんにとっては後悔の残る戦いだったのだろう。その残念に彼女は抗えなかったのか。

 

「……遠坂さん、エルメロイⅡ世、すみません。足を、引っ張ってしまった。それに、異界のマスター。あなたにも多大に迷惑を、かけてしまった」

 

 血反吐を吐きながら、彼女は懺悔した。

 

「仕方ないわ。……そもそもの原因は、私にあるのだしね」

 

「そう、言ってもらえると、肩の荷が軽くなります……。ああ、本当に、愚か。どうして、忘れてしまったのか。あの、繰り返す夜を覚えてさえいれば、こんな失態を晒すこともなかった、のに。ねぇ、——」

 

 最後の言葉。誰かの名前を呟いたのだろうか。僕らには、聞き取ることはできなかった。青の槍兵の胸に抱かれて、男装の麗人は消え去った。

 懐から煙草を取り出して、エルメロイⅡ世が言った。

 

「これで、バゼット・フラガ・マクレミッツはこの世界から退場した。もう、昼にも出てくることは無いだろう」

 

 偽りの日常に、もう彼女の居場所はない。誰も彼女がいないことに違和感を覚えない。そう思うと、とても寂しかった。

 

「気にしちゃダメよ、藤丸くん。それは、心の贅肉だわ」

 

「分かってますよ。……でも、彼女の死さえ泡沫の夢であっても、悼んじゃいけないなんてことはないでしょう?」

 

 消え去った彼女が居た場所には、金色の輝きだけが残っていた。

 

「これが、聖杯か?」

 

 ランサーは残された黄金を手に取った。

 

「いや、それはあくまで欠片だろう。彼らGMサーヴァントは皆、この欠片をそれぞれ管理しているわけか。……各個撃破していくしかないな」

 

「あんなのが、あとどれくらいいるんだか。気の遠くなる話だな、こりゃ」

 

 

 

「そうだねぇ。ほんと、気が遠くなりそうだ。僕らに勝とうだなんてさ」

 

 

 

 闇夜の舞台に躍り出たのは、新たなる英霊。

 右手に鎌を、左手には大楯。腰に尋常ならざる袋を携えた、深い青の外套を身に纏う細身の青年だった。

 僕はその名前を知っている。

 

「まとう、しんじ……」

 

 偽りの夜。微睡の舞台。まほろばの世界にて、第二の幕が静かに下ろされた。

 

 




今更ですが、バゼットさんとクー・フーリンの関係やら退場時に彼女が口に漏らしたある英霊の名前とか、詳しく知りたい方はぜひホロウやってくだされ。vita版とかopが素晴らしいんですよ。

そして、面白いと思ったならばぜひ評価のほどを……!!
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