FateHF.Normal√×FateGO AD.2004? 幻想逃避都市冬木   作:ありゃりゃぎ

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やっべぇよ。また疑似鯖桜ちゃんじゃん……。しかもワンチャンこの作品の根幹にクリティカルなんですけど……。



ep7 在りし日の友よ、今は

 月夜の校庭に姿を見せた、二人目のGMサーヴァント。

 

 大鎌と盾を携え、腰には神秘を纏う布袋を備えた優男。そして昼の世界においては、僕らの同級生だった憎まれ口の少年。

 

「まとう、しんじ……!!」

 

「それは昼の名前だな。——今の僕は、サーヴァント・ライダー。我が真名を、ペルセウス」

 

 ペルセウス。

 ギリシャ神話における大英雄の一人。怪物と成り果てたメドゥーサを殺した逸話のほか、巨人アトラース討伐やディオニュソスとも戦ったという逸話が残る、紛れもない大英雄……!!

 

「慎二!? 何だってアンタがそっち側にいるわけ!?」

 

 驚き食って掛かる遠坂さんにペルセウスが答えた。

 

「だからシンジじゃなくてペルセウスだって……。まぁ、何でもいいさ。そんなことは」

 

 ——だって、ここで死ぬんだし。

 

 言って、彼は地を蹴った。

 

 かろうじて反応したのは、やはり最速のクラスに属する英雄、クー・フーリン。

 

 だが、

 

「速ぇ!?」

 

 ペルセウスはランサーが槍を振るうまでに三度地を蹴り、軽やかに空に転じた。そのまま僕らの背後、エルメロイⅡ世の首にその大鎌を——

 

「させません!!」

 

 マシュがその円卓の盾をかざす。鎌と盾が打ち合う音が甲高く。しかし一拍のうちに一度二度三度と振るわれる大鎌の衝撃にマシュの重心が浮いた。

 

「ぐぅ……!!」

 

「胴体、がら空きだっ!!」

 

 浮ついた大楯を割けて、鎌が迫る。外から内に入る、鎌の特異な刃の付き方を生かした斬撃。盾の裏に黒塗りの刃が奔る。

 

「Anfang!!」

 

 遠坂さんの右手人差し指から、閃光が行く。ケルトの呪い、ガントが狂刃をわずかに逸らした。

 

「よくやった嬢ちゃん!!」

 

 再び駆けるは、青きクランの猛犬。次は逃がさぬと赤き呪槍を最短距離で届かす。

 

「チィ!!」

 

 ランサーの踏み込みに、しかしその騎兵は機敏に反応して見せた。

 

 噛みつこうと追うランサーを盾で難なくあしらって、騎兵は優雅ともいえる所作で後退した。

 

「腐っても大英雄か。出力不足といえども、その槍の冴えは見事だな」

 

「テメェこそ。聖杯の加護ってのは余程のものらしいな。まさか今のが避けられるとは思わなかった」

 

 昼の慎二からはとても想像できない身のこなしに、僕も認識を改める。目の前の彼は、正しくサーヴァント。歴史に名を残し大英雄だ。慎二のままだと考えてると足元を掬われるだろう。

 

「ギリシャ神話の英雄ペルセウス……。極めて有名で、強力なサーヴァントです……!!」

 

『その通りだ、マシュ。知名度トップクラスのサーヴァントに加えて、聖杯の加護がある。真正面からじゃ勝ち目がないよ!!』

 

「ダヴィンチの言う通りだ。ここは撤退するべきだな」

 

 ダヴィンチちゃん、孔明の頭脳担当二人の撤退判断は正しい。だが問題なのは、

 

「ふーん? 勝ち目無いってのは正しい判断だけど。——逃げられるって判断は間違ってるよね?」

 

「ハアッ!!」

 

 ランサーが攻勢に出る。判ってる、彼は殿を買って出たのだ。あのライダーにどうにか対応できるのは、この場において彼だけだ。

 

「ちょこまかウザいんだよ!!」

 

 大鎌が振るわれる。

 

 大振りになったそれをランサーは距離を詰めることで躱して見せた。

 

 先ほどの戦闘で、ランサー相手にバゼットさんがして見せた、相手の懐に飛び込むスタイルだ。

 

「槍兵が距離を詰めるなよ!?」

 

 驚くペルセウス。嗤うクランの猛犬。

 

 片手で、槍の穂近くを握って突き出す。

 

 鋭く抉るような一撃を、騎兵は大楯で防いだ。

 

「グゥ……!!」

 

 だが咄嗟の判断でのそれは、真正面から槍の一撃を受けた。衝撃を殺しきれず、ペルセウスの体制が崩れる。

 

「今!!」

 

「石兵八陣!!」

 

 遠坂さんの声に応えてエルメロイⅡ世が宝具を開放する。

 

「これで逃げ切れ——」

 

「そんな訳ないだろう!!」

 

 ランサーを弾き飛ばし、騎兵が追う。彼は己の腰に携えた、その袋を手に取った。

 

「——鏡像結界の袋!!」

 

 それは内と外を入れ替える、かの逸話においてはゴルゴーンを破滅させしめた反転の宝具。

 

「何……!?」

 

 本来はペルセウスを足止めするための石兵八陣が、あろうことか僕らに対して牙をむいた。

 

「な、立ってられない……」

 

「ち、力が入りません……!?」

 

 相手に向かうはずだったデバフ効果が、僕らに降りかかる。遠坂さんもマシュも足を折る。

 

 宝具を返された……?

 

『外と内を入れ替える概念の宝具だ!! ああもう、ペルセウスだってんなら想定してしかるべきだったのに!!』

 

 己の不手際だとダヴィンチが詫びる。

 

『彼は己の武力で名を馳せたわけじゃない。いや、もちろん一廉の実力はあるけど。英霊ペルセウスの強みは、その保有する宝具の数と質だ』

 

 ペルセウスはその逸話において、数々の伝説的な武器を譲られたり、もしくは強奪するなりしている。メドゥーサ退治における不死殺しの鎌も、石化の魔眼を防いだ青銅鏡の盾も、そして今目の前で使われた、鏡像結界の袋も皆、一線級の宝具だ。

 

「とんだ初見殺しだ……」

 

 エルメロイⅡ世が呻く。見れば、ランサーも膝に手をついている。ただでさえ出力で劣っているのにデバフ大量に逃走経路も断たれた。これ、もう——

 

「ほら、逃げられなかったろう? これで終わりさ、カルデアのマスター」

 

 その大鎌が翳される。不死殺しの異名を持つそれは、定命のものに対しても回復不能の傷を負わせるだろう。

 

「さよならだ、藤丸立花——」

 

 死神が如く。致死の大鎌が僕の首に添えられて——

 

 

 

 

「ああもう、どうしよう。大変だ……!!

 

「不味い、マシュもミス遠坂もエルメロイⅡ世もクー・フーリンも動けないし 

 

「あのクソ探偵は頼りにならないし!!

 

「何か、何か手は

 

「戦力が足りない

 

「でも、サーヴァントをこちらから送ってもあちら側に介入される

 

「———ん?

 

「おい、待て

 

「待ってってば!!

 

「どこに行こうというんだ

 

「聞いてなかったのかい!?

 

「こちらからサーヴァントを送っても契約に横やりを入れられる——

 

「いや、それは

 

「——確かに、君の事情なら、

 

「いや、だが

 

「——ちょ、待って待って!!

 

「ああもう、その通りだよもう任せたぞ!!

 

「レイシフトだ!! ミスタームニエル、慌ててないで、彼をマスターの下へ送り出してくれ!!

 

 

 

 首筋に添えられた大鎌が振るわれる、その、今はの際に、

 

 ———我が骨子は捻じ狂う———

 

 ヒュン、と。空気が割ける音がした。

 

 

 偽りの楽園に降り立った、新たなる英霊。

 

 赤い外套を羽織り、本来よりも大きく見える背を向けて。白髪に褐色の肌の男。人理の守護者。己を掃除屋と卑下する無銘の英雄。皮肉交じりの言葉ばかり吐く、けれどその心に誰よりも——それこそどこの英雄にも負けぬほどの——覚悟と理想を抱く人。

 

「え——」

 

「アーチャー!?」

 

 僕が言うよりも先に遠坂さんが叫んだ。何だ、彼女、彼を知っているのか?

 

 英霊エミヤは僕らには一瞥すら向けず、その双剣を握り直し、駆けた。

 

 未だ土埃舞う中。彼の鷹の目は、僕らには見えなかった敵影を捉えたようだ。

 

 瞬間、視界が晴れる。土煙を吹き払うようにして、その中からかの騎兵が飛び出す。

 

 言葉は無く。騎兵の大鎌は振るわれ、弓兵の双剣がそれを防ぐ。

 

 鍔迫り合い。戦場の中での空白で、その二人が初めてお互いを正しく認識した。

 

「—————衛宮ァ!!」

 

 その言葉に、どれほどの思いが込められていたのか。先ほどまでのどこか相手を愚弄するような——そして本気でない言葉とは違う、彼の心が垣間見えるような咆哮。

 

 二度三度と振るわれる大鎌は、精彩を欠いていた。ペルセウス——慎二の怒りが、その戦技を鈍らせていた。

 

 一方の弓兵は、あくまでも冷静に冷徹に、その類まれなる心眼を以て騎兵の連撃を裁く。

 

 逸らし、弾き、押さえつける。

 

 双剣を交差させて上から大鎌の長柄を押さえつける。文字通りの攻め手を封じた騎兵の腹をエミヤが蹴りつけ、

 

「っか、は——」

 

 くの字に折れるようにして、騎兵が吹き飛ばされる。

 

 かろうじて受け身を取るも、膝をつく形となった騎兵。息を切らすこともなく、そこに立つ弓兵。

 

「———どうした慎二。ギリシャ神話に綴られる大英雄の力を得ても、その程度なのか?」

 

 あくまでも涼し気に。彼らしい皮肉めいた言葉に、ペルセウスの目が血走った。

 

「テメェ、」

 

 ペルセウスから立ち上る、莫大な魔力。真名開放の兆候だ。

 

「不死殺しの鎌よ———」

 

 大鎌に禍々しき光が灯る。大振りの構え。そして必殺の構え。

 

 痩身を引き絞り、今、その致死の一閃が———

 

「———抉り斬る戦神の剣」

 

 弓兵の右手より振りぬかれたのは、バゼットさんの宝具だったはずのもの。だが、エミヤのスペックを知る僕は知っている。彼の持つ宝具の力だ。

 

 挑発によって相手の選択肢を絞り、手札の多い彼の宝具によって的確に対処、迎撃する。

 

 防御に秀でた双剣術とともに彼の十八番ともいえる戦術だ。

 

「!!」

 

 隣で驚愕する教授を背後に弓兵がバックステップし、此方による。

 

「所詮はったりだ、真名開放した本物には遠く及ばん。今のうちに撤退するぞ、マスター」

 

 言って、彼は僕を俵のように肩で担ぐ。

 

「ロード。あなた方のセーフハウスに」

 

「わ、わかった」

 

「ああもう!! 後でちゃんと説明しなさいよ、アーチャー!!」

 

「気が重いが……。了解だ、リン」

 

 僕はエミヤに担がれ、エルメロイⅡ世とマシュは遠坂さんのマアンナに乗り込んだ。

 

「っ!? 先輩、ランサーさんは!?」

 

「えっ!?」

 

 気付いたときには、すでに僕らは夜空に飛び立っていた。不味い、今の彼は瀕死に近い!!

 

「戻ってくれ、エミヤ!! ランサーがまだっ」

 

「ダメだ。ならん、マスター」

 

 早くも離れ始めた地面を見やる。

 

 そこには、復帰した騎兵。そしてそこに立ち向かう、青き槍兵。

 

「悪ぃな、坊主。俺はここまでだ。……業腹だが後はテメェに任せるさ、アーチャー」

 

 戦士の別れに、それ以上はいらないのだと彼はただ背中で語った。

 

「クソ。何がフラガラックだ……。真名開放されてなきゃ、ただの短剣じゃないか!!」 

 

 戦線に復帰したペルセウスにランサーが嗤う。

 

「ハッ。そのブラフに引っかかったのはどこの阿呆だ? 目の前に見える阿保面がそうか?」

 

「…………ッ」

 

 怒気を露に、騎兵が奔る。

 

「ハハハッ。分かりやすいなァ!! いいぜ、相手してくれや。中身は未熟も未熟だが、その霊基は確かに大英雄のそれだ。……テメェがその霊基に見合うかどうか、確かめてやる」

 

 そうしてランサーを一人残し、僕らは戦線を離脱した。

 

 背後にがなる戦闘の音が、僕の後ろ髪をいつまでも引き続けた。

 

 

 




これをやりたかったその1

感想は下手に返してしまうと誤解を生んだりネタバレしてしまうかもしれないので、基本返信しないつもりです。
でも感想評価送られると喜ぶんですよね、蟲のいいやつ。

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