偽アクアの旅路   作:詠むひと

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お気に入りが急増している…ありがたい事だと思う反面、プレッシャーが掛か…らんな。別に。

アクア様は尊い、アクア様は尊い、アクア様はアホ可愛い、アクア様は…

最近は自キャラのマイムも可愛いです。尊い。


独りぼっちはいや

 田舎の朝は早い。それはこの世界も同じのようだ。

 

 多くの村人は夜明けと共に起き、日没後しばらくして眠る。そんな中私とミアさんは夜明けから少し経って明るくなってから起きた。眠い目をこすりながらミアさんに挨拶をする。

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。」

 

 だけど、リナさんが居ない。この部屋は私達三人で使う事になっているはずだけれど?

 

「あー、リナはたぶん酔い潰れて外で寝てるんじゃないかな。よくあるからほっとけば良いよ。」

 

 それは、どうなんだ…。起こして来た方が良いのかな。

 

「どうせ朝食になれば起きるから放置でいいよ。」

 

「うーん。でもちょっと心配なので見てきますね。」

 

 ミアさんはそう言うけど、女の子なんだしそれは不味いのでは?私は外に出て、昨日リナさん達が飲んでいた場所へ向かった。

 

 そこには、村の男衆だけで無く女性や狩人達も一緒になって地面で寝ていた…。あ、リナさんも居るや。うわぁ、お酒を入れてた瓶に抱き付いてるよ…。

 

 地面で雑魚寝してる人達でリナさんには辿り着く事が出来そうに無いから放置しよう。

 

 部屋に戻ると、ミアさんはいつも通り柔軟体操をしていた。身体、柔らかいなぁ。私も宿でやってるけど、手が爪先に届かないんだよね。

 

「言った通りだったでしょ?」

 

「はい。よくあるんですか?」

 

 宿だとそんな感じには見えなかったんだけど。

 

「他の村とかで村人と飲んでると、よくあるのよ。酒には強いから起きたら元通りだからほかっときゃ良いのよ。ダメならアレ、飲ませるだけだし。」

 

 アレって言うとあの緑のだろう…。

 

「アレ飲むの嫌がってるから多少は加減してるだろうしね。してなきゃ、口に捩じ込むだけよ。」

 

 うわぁ。まあ自業自得かな。

 

「それにしても、マイムの浄化のスキルって便利よね。あんだけ肉弾戦で戦ってるのに血も匂いも消えちゃうなんてズルいくらいね。」

 

 ミアさんが私の方を見ながら言う。籠手も鎧も一切汚れは無く、身体もキレイなままだ。いや、血塗れだったのに気付いたら身綺麗になってたと言うべきか。もうどこにも戦いの痕跡は無い。汗もかなりかいたはずなのに、汗臭さも全く無い。便利だと思う、けど一応クリエイトウォーターで顔くらいは洗った。

 

 

 ああ、湯船のあるお風呂に入りたい…。サウナじゃ今一汚れが落ちる気がしないよ。

 

 

「それって習得原理不明のスキルだから、冒険者に転職しても習得出来ないし残念よね。」

 

 私が初めから習得していたスキルの浄化、心眼、雨乞い、水中呼吸の四つはギルドでもどういう条件での習得が可能か不明で習得出来ないと分かった。似たようなスキルは在れど同じ物は無い事が分かっている。

 

「条件不明繋がりだと、リナの職のウォリアーもそうなのよね。リナの出身の村の黒髪黒目の人は全員がウォリアーの素養を持ってるのはわかってるんだけど、同じ村でも他の人には無いのよ。」

 

 黒髪黒目か。まるで日本人みたい。そう言えば、ウォリアーって闘士や未開部族の戦士を表す以外に近年だと侍の事もそう表現する事が有ったはず。黒髪黒目のウォリアー、まさかね…。顔立ちは日本人とは違うし。

 

「マグナに言わせると、未知を既知にする事こそが探求であり冒険だって。分かるけど、私は分からないのがモヤモヤするのよ。手の届く所に未知が有るなら知りたいって思うのよ。」

 

 探求か、遺跡も過去の埋もれた歴史を解き明かすのも同じって事か。

 

「はぁ、悩んでも仕方ないか。ベルゼルグのギルドなら何か知ってるのかしらね。」

 

 ベルゼルグ、それは魔王軍と人類の前線を支える最強の国。代々の王家は勇者達の血を取り入れ強化を重ねる武人の国。勇者候補や英雄が犇めく修羅の国。強者が集う国のギルドなら持っている情報も多いはず。

 

「いつか、機会が有ったら行ってみたいわね。温泉とかも有ったはずだし。」

 

「温泉かぁ、行きたいなぁ。」

 

「この砂埃だらけの所から、ちょっと骨休めとか行きたいわね。」

 

「良いですね、いつか私も行きたいです。」

 

 この世界のまだ見ぬ温泉に思いをはせた。

 

「そういえば、マグナの出身ってアルカンレティアなんだけど。あそこってベルゼルグで有数の温泉地なのよね。享楽派の連中はウザイけど、温泉は行きたいわね。マグナを両親と話し合えって唆して、私達も着いて行くとか良いわね。」

 

「温泉だから仕方ないですね。マグナさんには犠牲になってもらいましょうか。」

 

 大嫌いなアクシズ教徒に囲まれて、揉みくちゃにされるマグナさんが思い浮かぶ。でも、温泉だから仕方ないですよ。諦めてください、マグナさん。

 

「リナが起きたら、話しときましょう。」

 

「はい。」

 

 

 

 程なくして村長の奥さんから、朝食に呼ばれた。

 

「おはよう、三人とも。」

 

「おはようございます。」

 

 マグナさんは今日も朝からビシっとしてるな。

 

「リナの二日酔いも大丈夫そうだな。」

 

「はい、加減してるからね。」

 

「もうちょっと加減して、部屋で寝てくれるともっと良いんだけど?」

 

「たははー、面目無い。腕相撲がヒートアップしちゃってね。因みに私が優勝!」

 

「でしょうね…。戦士職に勝てる村人とかどんなよ…。」

 

 そんなこんなで朝食を食べ始める。肉を主として固く焼きいたパンと野草等が入ったスープだった。スープは肉で出汁を取ってるのかなかなか美味しい。パンは日持ちするように固く焼いてるのでスープに浸してから食べていく。

 

「食べながらで良い、聞いてくれ。村の狩人の話しからある程度は目標の絞り込みは出来た。後は現地に行ってから次第だが、三日程度での討伐と狼の間引きを完了させたい。無理は禁物だが昨日の戦いでの消耗は少なく無いはずだ。個々の脅威は高くないとは言え、山中で囲まれれば不利になる。日没前に野宿出来そうな洞窟か穴でも掘ろう。また、可能であれば村に戻る。」

 

「山中では、ミア、マイム、私、リナの順での行動を基本とする。ミア、今回は数が多い。先行は最小限で良い。マイムは左右の警戒を主として前方も時折頼む。私は適宜支援しながら前後への警戒も行う。リナ、殿は任せる。」

 

 マグナさんは水晶の様な物を取り出した。

 

「最悪、どうしようも無ければコレを使う。コレにはテレポートの魔法が込められている。水晶は三つある一つは水の村、あと二つはこの村だ。重症を負い、回復手段も無ければ即座に水の村に行く。リムタスの爺は回復魔法に関しては、私の知る限り最高の腕だ。出来れば放棄はしたくないが、最悪の場合も頭に入れておいてくれ。」

 

 私達は頷く。

 

「地の利は奴等にある。各々油断無きように事にあたれ。」

 

 

 

 朝食後、装備を確認し山へと向かう。昨日、狼達が逃げていった道を通って行くと、所々に息絶えた狼が転がっている。ミアさんが遅効性の毒薬を使い、道標になるようにしたものだと言う。

 

 息のある狼はミアさんがトドメを差し楽にしていく。徐々に道は頼りなくなり、獣道になっていく。時折、地面にしゃがみ込み足跡を確認しつつ進んで行く。

 

 山だと言うのに、鳥や虫の鳴き声がしなくなってきた。ミアさんが声を殺しながら言う。

 

「敵感知に微弱な反応がある。衰弱しているのでは無く、恐らく身を潜めて気配を殺している。」

 

「法擊するか?」

 

「位置を特定出来ない。何かで陽動出来ないかな。」

 

「私が投石すると言うのは?山なりで投げればこっちの場所は分からないんじゃ無いですか?」

 

「それも有りか。幻術を掛けるから、そこの崖の上から投げてくれ。」

 

 大まかな目標を聞き、手頃な石を拾った。

 

「光よ、虚と実を曖昧にし、影と為せ。」

 

「インビジブル!」

 

「これで影の中に立ってれば姿は見えなくなる。行ってくれ。」

 

 私は指示された通りに動き、位置に着く。

 

 右手には小石を幾つか、ボールを投げるのと同じ要領だけど今は筋力が違う。小石は空に消える。少し経つと山の向こうから唸り声が聞こえた気がした。その直後、轟音がして地面が揺れた。私は元の位置に戻った。

 

 

 

 

「特定した、大岩の左下!」

 

「光よ、無窮の闇の彼方に去れ!破壊よ顕現せよ!」

 

「ダークボム!」

 

 大岩の付近は蜃気楼の様に歪み、中心に空間に穴が空いたように漆黒の珠の様な物が見えた。そこに歪みが飲み込まれ、目が眩む程の閃光と共に弾けた。大岩は跡形も無く、周囲の地面は抉れ消し飛んだ。

 

「これだけの音を出せば、何か動きは出るだろう?」

 

「敵感知に複数の反応、たぶん狼。このまま奥の方に移動していってるわ。」

 

「マイムが戻ったら追跡しよう。」

 

 

 

 

 

「戻りました。」

 

「ミアが狼を捕捉している。このまま追跡するぞ。恐らく待ち伏せもあるだろう。」

 

「はい。」

 

 私達は先ほどと同じ様に行動を開始した。狼を捕捉している分、今度は足跡を見ずに移動しているので少し速い。

 

「待ち伏せ、2頭。片付けるわ。」

 

 ミアさんは矢筒から矢を二本取り出し、右手に二本とも持ち一本目を撃ったあと即座に二本目を持ちかえて撃った。早撃ちで撃ち終わるまでに二秒掛かって無い。

 

「片付いた。」

 

 そしてまた進み出す。その後も、三回とも同じ様にミアさんが倒していった。

 

「情報だとこの先は谷だ。川沿いに幾つも洞窟が有るそうだ。もう何十年と姿を見てないがジャイアントモールの巣穴だったそうだ。そこに狼が住み着いていたと言う目撃証言がある。全員にインビジブルを掛けたあと、洞窟から燻り出す。」

 

 

 私達は洞窟が見える木陰に立った。私とリナさんは周囲の警戒、ミアさんは敵感知、マグナさんが燻り出しと攻撃をする。

 

「火と風よ、舞い踊れ、白き闇となり行き渡り、穴蔵に潜む者共を燻し出せ!」

 

「スモーキング!」

 

 洞窟のすぐ前で白い煙がたち、範囲を広げながら分かれ崖下の洞窟に入っていく。

 

 

 私達はじっとしてしばらく見ていると、穴と言う穴から狼達が転がり出て来た。噎せているみたいで、苦し気に見える。

 

「敵感知に反応、すぐ下に4。」

 

「二人とも頼む。」

 

 私とリナさんは足音を頼りに位置を確かめた。

 

 垂直に近い崖を狼が駆け上がり、道に登った。その瞬間に、私の拳とリナさんの剣が即座に迎撃した。吹き飛んだ狼と入れ替わりで登って来るも、同じく崖下に叩き落とした。

 

「谷を行き交う水の精(ウンディーネ)よ、風の精(シルフ)と手を取り舞い(ワルツを)踊れ、穴蔵より()でし獣共(観客達)に死の舞いを見せ付けろ!」

 

「ウォーターーーー・トルネーード!!」

 

 谷底から水が持ち上がり、渦巻いていく。そよ風から強風、そして暴風に変わった。暴風に舞いあげられた水はさながら風とワルツを踊っているようで、観客たる狼達は間近で起こる天災の如き力に呑み込まれ、風に舞い上げられそして深い谷底へと消えていった。

 

 あとには弱まる風と降り注ぐ水が、拍手の様に鳴り響く。そして静寂が支配する谷が残るのみだった。

 

 

「すっご…。」

 

 私にはそれしか言えない。たぶん100まで行かないけど、70くらいは居た狼が残らず谷に落とされていった。洞窟は結構広い範囲で散らばってたのに全部の狼を呑み込んで行く水の竜巻は圧巻だった。

 

「久しぶりに見たけど、すごいよね。」

 

 リナさんは、谷底を見ながら言った。

 

「威力は有るが私には精霊の力を借りなければ使えないから、こういう条件が整った場所で無きゃ使い物にならんよ。」

 

 確か、場の力だっけ。自然の中に居る精霊や川の水や山の土や砂とかその場の素材とかを使うと、魔力だけでやるよりも魔力消費が小さくなったりより大きな威力を出せるっていう。この場合はウンディーネとシルフの力を借りて威力を増したって所かな。

 

「とりあえず、ここはハズレだ。ついでにこの周囲の狼を間引いて、今日は村に帰るぞ。」

 

 まだ日は高いけど、ここまでの道のりを考えると帰ったら夕方かな。

 

 帰りは道も分かってるので、ミアさんの敵感知を頼りに三つの群れを討伐して村に帰りました。

 

 村に帰り夕食を取り、装備の手入れ、クリエイトウォーターで身体を洗ったりしていたらもう夜。

 

 今日も終わり。

 

 この世界には私の知らない事がいっぱいあります。魔法もスキルもモンスターも人間関係も。いっぱい、いっぱいまだまだ知りたい事があります。そんな機会を下さったのはアクア様です。本当に本当にありがとうございます。明日も頑張ります。お休みなさい、アクア様。

 

 

 

 

 

 そしてまた夜が明ける。今日は夜明けと共に出立だ。

 

「今日は山の中腹の洞窟に向かう。嘗ての鉱山跡だ。中は入りくんでいるし、水が湧き出ていたり通路が脆くなっている箇所もある。地形にはよく注意するように。」

 

 

 そしてまた、歩き歩き歩き。洞窟へ。道中は狼の姿は無くて、特に言う事も無いのです。

 

 辿り着いた場所は岩肌をくりぬき道を作って露天掘りをしていた鉱山で、最下部に更に下に伸びる地下通路がある。露天掘りの後、山師がスキルで銀鉱脈を発見したとかで馬車が通れる程の通路が作られている。その中に潜んで居るのでは無いかとの事。

 ここがハズレだと、後は森に潜むしか無いけどあの金狼は洞窟等に棲家を構える性質があるとかで、ここが一番可能性が高い。

 

 

 今回はリナさん、私、マグナさん、ミアさんの順で行く。深部以外はほぼ一本道なので力で排除して進み、深部は索敵しながら進む事になった。ここは天然のダンジョンでもあり他のモンスターも居る可能性があるらしい。

 

 入る前に、私はスキルを幾つか習得する事にした。

 

・聖拳

聖なる力を拳に宿し、不浄なる者や悪しき者へと痛撃を与える。浄化と退魔の効果を持つモンクのスキル。聖属性+物理攻撃。ターン・アンデッドやエクソシズム程の浄化と退魔の効果は無い。力ずくで現世から叩き出す攻撃。

 

・マスターキー

扉や門の鍵だけを破壊するスキル。機械式、魔法式問わず破壊するモンクのスキル。ダンジョン以外だと強盗でもするの?って言うスキル。

 

・魔力効率上昇

魔法やスキルでの魔力のロスを減らし、効率化する。同じ魔力量での威力と精度が上昇する。

 

・ブレイクスペル

魔法効果を打ち消す。射程距離は自身を中心に10mの球状。上位の魔法には効果が無い。魔力を多く籠めると威力と範囲上昇。

 

 この四つを習得した。最初のスキルポイントもまだ有るけど、とりあえずこれだけ。

 

 

 

 

 

 一歩入り、暗闇が私達を待ち受ける。と思ったけど、私は普通に見える。いつも明るいのは月明かりかと思ってたけど、これって心眼の力だったのか。

 

「暗闇よ、我らの友となり闇を見通す力を貸せ!」

 

「ダークビジョン!」

 

「マグナさん、私は暗闇でも普通に見えるのですがこれはどんな効果の魔法なんですか?」

 

「この暗闇が見通せるのか?」

 

「はい、満月の夜よりも少し明るい位で見えてます。たぶん心眼の効果だと思います。」

 

 マグナさんは何とも言えない表情をしている。

 

「これは暗闇で物の輪郭や生き物の熱を捉え視覚化する魔法だ。視界は緑色だな。マイムは色も分かるのか。」

 

「はい、だいたいの色は濃淡で分かります。」

 

「順番を変更だ、マイムとリナが先頭だ。では出発だ。」

 

 私はリナさんと両手間隔で離れ、横並びで進む。

 

 暗がりから、狼が喰らい付こうとしてきた。でもとっくに見えてる。右手で振り払い壁に叩き着けた。鈍い音がして狼は力無く横たわった。

 

 さっき外で小石を拾っておいたので腰の袋には幾つもの石が入っている。

 

 前方に伏せてるのが居るので、それぞれに小石を投げつけた。小石とは言え、いまの私の筋力で投げつければ小石で岩を砕ける。それを頭に受ければ、説明は不要でしょ?

 

 ぱーーんと言う音が鳴り響き砕け散っていった。隣でリナさんが呆れた様な目で見てくる。

 

「ねえ、マイム。どこまで見えてるの?」

 

「300m位先の曲がり角までかな。」

 

「ねえ、マグナ。」

 

「言わんとする事は分かる。だがこのままだ。」

 

「はいよぉ。」

 

 呆れられてるけど、気にしない気にしない。

 

 他のモンスターと言えば大きなコウモリが10匹前から来たけど、遅いし敵じゃない。足元の砂利を投げつければ簡単に叩き落とせた。なんというか拍子抜けかな。

 

 狼はぜんぜん来なくなって、時々コウモリとでっかい虫が来たくらいだった。虫は大嫌いなので気付いたら即座に砂利を投げつけて倒してたから、何の虫か知らない知りたくない。

 

 角まで来たら、下り坂だった。長い長い下り坂で私でも見通せ無い。

 

「慎重に進むしか無いだろう。転がり落ちるなよ?」

 

「分かってますよ。」

 

 緩やかな下り坂だから転んでも落ちる事は無いと思う。たぶん。

 

 !何か光った。

 

 全力で小石を投げつけた。

 

「ギュエエエッリイイイ」

 

 何かの不気味な断末魔が聞こえた。

 

「マグナさん!これは?」

 

「インプだな。グレムリンと並ぶ低級悪魔だ。狼よりもよっぽど雑魚だ。」

 

 なんだ、驚いて損した。どんどん行こう。

 

 水の流れる音がしてきた。

 

「村の狩人の話だと坑道は何ヵ所かで川に繋がってるらしい。狼達はそこから出入りしているのかもしれん。」

 

 とりあえず見敵必殺。ガンガン行こう。

 

 その後は虫虫虫コウモリ悪魔虫虫狼狼で虫が多い。すごく嫌。異世界に来てから一番嫌。死んで、さっさと死んで。殺虫剤が欲しいよー。

 

 だんだん降りて行くに従って、人工の坑道から自然の洞窟みたいに変わってきた。そしてだんだん狼と悪魔が増えてきた。小石は無くなったから足元の砂利を投げつけている。

 

 

 

 そして私達は広い空間に出た。人工か自然か分からないけど、地下に湖の様な物が在った。その湖には小島が一つだけ。そこだけは太陽の光が降り注ぎ黄金の様に輝いていた。

 

 ソレはそこに居た。

 

 太陽の光を浴び、金色の毛皮を持つ大狼(オオカミ)。どこか神々しさを感じる。まるで太陽の化身の様だ。

 

「クッソ、考えうる中で最悪だ。」

 

 苦虫を噛み潰した様にマグナさんが呟く。

 

「あれは歳を経た個体だ。あの黄金の毛皮は間違い無い。風と火の魔法を扱えるだろう。奴にはこの湖も魔法で足場に出来る。」

 

 余裕が無いマグナさんは初めて見る。

 

「全員、離れすぎるなよ。最悪水晶で帰還する。アレは風と火の精霊の加護を受けている。その属性は効かん。私の魔法攻撃の大半が封じられたと思ってもらって良い。絶対に正面からは挑むなよ。常に死角に入る前に様に心掛けろ。」

 

 今までの狼とは違う。これこそ怪物(モンスター)と言うべきだ。

 

「防御魔法を掛ける、その後攻撃開始だ。」

 

「岩よ、鋼の如し、強靭なる鎧を為せ。」

 

「ロックプロテクト!」

 

 私は走った。湖を足場にするならば、もっと早く動けば良いと⁉️

 

 大狼は水面を走りこっちに来た。速い!目潰しになれば良いけどっ!砂利を投げたけど、かわされた。

 

「聖なる波動よ、我が拳に宿れ!」

 

 私の右拳は白銀の光が灯り、聖なる力が宿って行く。走りながら拳に力を溜める。

 

 もう、アイツの攻撃は届く。そして私の拳も届く。足を止め、振り返る。

 

 そして全力の拳を放つ!

 

 届いた!その瞬間私は凄まじい衝撃で吹き飛ばされ、地面をバウンドし転がって行く。

 

「っくぅうく。あっああ!」

 

 痛い、全身が痛い。口に血の味が広がる。立ち上がった私の目の前にアイツが居た。

 

「がっぁぁぁぁ。うううあ。」

 

 アイツは私のお腹に喰らい付いた。私を咥えたまま走って行く。振動が響く。お腹が熱い痛い痛い痛い!力が入らない、気功を使えない集中出来ない、ヒールも無理!痛い痛い痛い痛い痛い。こぼれていく…

 

 涙も零れる。マグナさんは魔法をミアさんは弓を撃つ。リナさんは?

 

「マイムをおおおお、放せぇ!おらああああ!」

 

 リナさんがコイツに追い付き、剣の背で頭を殴り飛ばした。私は衝撃で口から離れたけど、もう動けない…。なん、とか…回…復。しないと…。死ぬ…。死に…たくな…い。血があふれて、いきが…

 

 

「水よ…我…身の内に宿りし…水よ。女神アクアの恩寵よ…零れ落ちし…命…を繋げ…。我に……明日を…この手に…取り戻せ…」

 

「ヒ…ール」

 

 

 思い浮かんだ言葉を繋げた。身体が癒えて行く。まだ、治癒しきらないけど、きっともうすぐ。

 

 三人は戦っている。

 

 怖い。今、死にかけたばかり。

 怖い。牙が、私を貫いた。

 怖い。私の中身が零れ落ちそうだった。

 怖い。色々な物が漏れ零れ、流れ出した。

 怖い。喪う事が。

 怖い。大切な人達が居なくなる事が。

 怖い。もう、独りぼっちは嫌。

 怖い。怖い。怖い。怖い。

 

 

 怖い。だから、もう。喪いたくない。

 

 

 もう、誰も。この手の届く限り。私は足掻く。

 

 四肢に力が戻って来た。

 心に力が戻って来た。

 

 さあ、立ち上がれ。

 さあ、大切な人を今度こそ、守るんだ!

 

 

 私は力をためる。全身に力を行き渡らせる。

 

 焦らない。見極める。

 

 リナさんが剣で斬りつけ、殴り翻弄し。ミアさんが目や耳を狙って狙撃する。アレは急所に当たらない様に必死に避ける。

 

 マグナさんは、湖の水で槍を作り撃ち出している。アイツの死角を取るには、どうするか。

 

 アレは湖面を走っている。下は向いていない。自身が水上に立てるのが当然だと思っているから。

 

 ならば、その傲慢さを崩してやろう。

 

 静かに潜る。私は水中で息が出来る。ならば真下に行こう。アレの見ていない真下へと。

 

 

 浮遊魔法でリナさんがアレと湖上で戦っている。双方満身創痍だ。

 

 もうすぐ。終わらせる。

 

 力を溜めながら湖底を歩いて行く。

 

 後はタイミングを測り、今度は私が貫く番だ。

 

 

 

 

 今!

 

 

 

 溜めた力の全力で湖底から飛び上がり、目指すはアイツの(はらわた)

 

 

 私の貫手がアイツの膓を貫く。

 

 

 そして、掴み。もぎ取る。私は死なない、大切な人達も奪わせない。

 

 だから。

 

 お前が死ね。

 

 私達は生きる。

 

 

 

 

 コイツは息絶えた。沈ませるのにはこの毛皮は惜しい。

 

 

 血が流れ過ぎで頭が働かない。目の前が真っ暗になってきた。何も聞こえない。抱きしめられてる。私は独りぼっちじゃない。私は独りぼっちじゃない。

 

 私は……

 

 

 

 

 

 

 




魔法とかは色々参考にしたりしなかったり、原作で使えそうなのがあれば使うし、無ければ適当に詠唱から自作してでっち上げてます。

使う都度や場面で詠唱が違ったりするのは仕様です。文中で場の力うんぬとかも絡んでて気分で作ってます。カードゲームとかのフィールド効果みたいなもんです。


色々こぼれて、あふれて、もれた。何がとかは各自のご想像にお任せします。

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