風呂は命の洗濯とも言う。実にその通りだ。
辺境は乾燥地帯という特性上どうしても埃っぽい。外を歩けば砂ぼこりが舞い、風が吹けばもうもうと埃が立つ。そしてそれらはとても粒が細かく、服に侵入したり髪に絡みつく。
自身の浄化で汗や血をクリエイトウォーターで肌にまとわりついた砂を落とし、サウナと水で全身を流す日々。
日本で生まれ育った者なら分かるだろう。夏場の運動場で砂ぼこりと汗が混じってざらつくあの感触を。私は毎日それを味わいながらもお風呂に入れなかった。汗を洗い流してもどうしても気分が晴れなかった。だが、それも終わった。
遂に念願の入浴を果たした。やったぜ!
あのあと、さっさっと就寝し早朝に村を出てミアさんと二人で水の村へ向かった。起きた時には既にリナさんは出発したあとだった。
道中のモンスターをサクサク倒して先を急ぎ水の村、いやお風呂に向かいたかった。けれど私にとって初めて二人だけでの移動で、マグナさんの補助も無く自らの足で荒野を進まなくてはならなかった。
先日通った道だけど、随分遠く感じる。これが当たり前なのは承知しているだけど、人間一度楽を覚えてしまうと億劫になるもの。ミアさんは私に荒野での移動する際の注意を教えながらも周囲の警戒もしつつで、何も出来ないこの身が歯痒い。
「いい、マイム。ちゃんと覚えてね。二人だけで移動する時は街道の移動時はお互いに別々の方向を警戒するのよ。」
私から見て左斜め前方5mをミアさんが歩き前方と左側を警戒し、私は右側と後方を警戒する。お互いの警戒位置が僅かに重なるようにし、洩れが無いようにしていく。
「お互いがカバー出来る位置を取りつつ、襲撃を受けた時に二人が同時に敵の攻撃範囲に入らないようにするのよ。」
横並びで歩いていたら、不意の襲撃で二人とも敵の攻撃範囲に入ってしまい負傷してしまう。それに武器を振るとしても近すぎて動きづらくなってしまう、だから距離を取りなさい。
近ければお互いの身体が遮蔽物になって死角が増えるし良いことは何も無い。
話ながらゆっくり歩いたりという事は、実力のある高レベルの冒険者でも無ければ自殺行為だと教えられた。
のんびり歩いて行こうと思ってた私には、耳の痛い話だ。気が緩んでいたんだと思う。この荒野には狼や大蛇が多数生息し、土の下からは
「街道に石が敷き詰められているのは何故だと思う?」
「大土竜への対策ですか?」
「その通りよ、大土竜は石の敷かれた街道からは地上に出られないわ。だから街道から外れないようにしなさい。奇襲出来ない大土竜なんてただの肉よ。」
その時、どこからか奇声が聞こえた気がした。
「その場に伏せなさいっ!」
ミアさんが鋭く指示を出す。言われた通りに即座に伏せた。
私が伏せている間にミアさんは弓を番え、空に放った!
「っち、外した!マイム、立って。走るわよ!」
『イギギギイイイイーーー!』
野太い、おじさんの様な叫び声が空から聞こえた。
「空飛ぶハゲよ!マイムッ、私の後に着いてきて。」
私はミアさんの後を追い、全力で
空を大きな鳥が旋回しているのが見える。野太い声で叫びながら私達を見下している。
「アレは空飛ぶハゲよ。遠くから見るとただの大鷲の様に見えてるでしょうけど、大鷲の身体に人間の骸骨のようにも見える頭を持った気色の悪いモンスターよ。鋭い爪は無いけど、力が強くて人を簡単に持ち上げて飛ぶ事が出来るのよ。」
視力が良くなってもこの位置からでは、空を飛ぶ異形の姿はよく分からない。分かるのは、私達を見下ろし奇声をあげている事だけ。
「この後はどうするんですか。」
「あの位置じゃ弓も届かないわ。ごめんなさい、私がミスったばかりに。この後はアイツがこちらを襲って来た所を迎撃するか、どちらかが囮になってもう一方が仕留めるかね。」
高度がどのくらいかは分からない、けれど徐々に上昇していく。
「囮は最終手段よ。とりあえずはアイツの動きを見て迎撃よ。マイム、波動拳での牽制を頼んでも良い?」
「はい。どうしたら良いですか?」
「威力は低くても良いから、範囲を広げて撃ってくれる?アイツがそれを避けた所を撃つわ。高度を下げて来る時は一気に来るから、準備して。私の合図で撃って。」
「分かりました。」
横ではミアさんが新たな矢を番えた。私は力を凝縮し、両手に集める。想像するのは散弾銃。密度が低すぎてもいけない、適度に散らばるようにしないと。
「いつでもいけます。」
「そのまま待機ね。奴から目を離さないように。」
変わらず、上空を旋回している。…急降下し出した!
「まだよ!引き付けて………今!」
「波動拳!」
両手を広げて突き出し、手のひらから無数の光弾が放たれた。私は光弾の行方を見守る。
空飛ぶハゲは光弾を避けようとして身体を捻る。そして、避けた先には。
「やったわ。」
ミアさんの放った矢が胴を射抜いた。
『ぬぐぐぐががあああああ』
野太い悲鳴が響き渡る。
きりもみしながら落ちてくる。途中で体勢を整えようともがいているがどんどん高度は落ち、音を立てて墜落した。
墜落した場所からは砂ぼこりが立ち上った。
「まだよ、油断しちゃダメ。次を撃てるように準備しておいて。」
ミアさんは次の矢を番え、ジリジリと前進していく。私も威力を上げて準備してる、ゆっくりと歩いて行く。
『ぐぎ…ぐがあぁぁぁ』
さっきよりも弱々しいが、まだ生きている。
「止まって。砂ぼこりが落ち着いたら撃ち込んで。」
「はいっ!」
バタバタと、もがく音が聞こえる。あの高度から落ちても生きている。揺らぐ砂ぼこりの奥で影が蠢き、否応にも緊張する。
「…ゴクリ」
唾を飲み込む音がやけに大きく感じられる。
やがてもがく音が聞こえなくなり、静寂が戻って来た。だけど、まだ警戒は解かない。
「撃って!」
「波動拳!」
ドッンッとでも形容する音と衝撃を立てて着弾した。
『ぐぐうぃぃぁ………』
断末魔が聞こえ、もがく音も聞こえなくなる。ミアさんはまだ弓を番えている。私はいつでも動ける様に腰を落とした。
「もう、いいわ。警戒を解いても。」
ミアさんは弓を下ろした。それを見て、私も力を抜く。
「覚えておいてね、確実に止めを刺したと確認出来るまでは警戒を怠らない事。そして敵感知を潜り抜けるモンスターの存在を。」
敵感知、モンスターや敵意を持つ者の数と距離、方向を知覚する事が出来るスキルだそうだ。ミアさんはスキルと目視と聴覚を駆使し索敵している。
「コイツは行動に移るまでは、敵感知に反応しないのよ。そして弱ってくると感知阻害のスキルで死体を装いこちらの油断を誘うの。」
さっきの、一時的に音がしなくなった時がそうなのだと言う。
「感知や目視で判別が付かなければ、後は聴覚か直接攻撃するしかない。今は、生体反応と言う別のスキルを使ったの。射程距離は短いけど、生きている者を感知出来るスキルよ。これでコイツが生きていると判断したというわけよ。」
色々なスキルがあるんだなと思う。私には扱う事が出来ないスキルばかりで少し悔しい。
「でも、スキルが無いからって何も出来ないわけじゃ無いわ。」
「さっきの警戒とかですか?」
「ええ、そうよ。スキルが無いなら自身の感覚を頼り、地形や道具を利用するのよ。」
ここは平坦だから良いけど、と前置きして。
山を歩くなら稜線の下を歩く事。高いと見晴らしが良いけど、空を背にすると下からは丸見えになる。地形に溶け込む色合いの服を着ること。
ミアさんは全体的に茶褐色の色合いの装備を着込んでいる。つまりは迷彩か。
「レベルが上がって、ステータスが上がれば感覚もより鋭敏になるからスキル無しでも索敵能力は上がるわ。あとは経験と勘ね、これは今後次第ね。」
「つまりは、とりあえずレベルを上げる事が先決って事ですね。」
「そうよ。マイムは前衛職だし、今はとにかくレベルを上げて基礎ステータスの向上とそれに伴う経験が必要よ。」
数をこなして身体で動きを覚えて、思考は別の事に使う余力を残さなければならない。
「だから、よく言われる言葉だけど。レベルを上げて物理で殴れって事よ。前衛はとにかくステータスを上げて殴れば解決するわ。リナを見てれば分かるでしょ?走って斬って避けるこの三つだけやれば終わるのよ。」
鋭い五感と強靭な肉体が有れば、大抵の事は解決出来る。高ステータスと様々な経験から来る身のこなしで瞬時に敵を倒せる。
「だから水の村までは出来るだけモンスターを討伐しながら行くわよ。レベル上げの時間よ。」
私のお風呂タイムは遠退く…。血と汗と砂に塗れて進むのか…。
モンスターを討伐しながらでも割りとハイペースで進み、日暮れにはギリギリ間に合った。
村の中心から外れ、川沿いにミアさんの家はあった。ミアさんが先に入り事情を家族に説明し、とりあえず先にお風呂をいただく事になった。ありがたい、やっとザラザラで気持ち悪いのを落とせる。
「マイム、入って来て。」
「おじゃまします。」
「よく来たわね、ミアの仲間なら大歓迎よ。ささ、話は後にして先にお風呂に入ってらっしゃい。」
「はい、ありがとうございます。」
優しそうなお母さんだな。そして遂にお☆風☆呂、楽しみだなぁ。
「マイム、こっちよ。」
ミアさんに着いていく。風呂場は広く、浴槽は大人が三人は入れる程に大きな物だった。並々とお湯が張ってあり、湯気を肌に感じる。
お風呂や銭湯とかなんでも良いけど、このふわっとした感覚が好き。
「着替え準備してくるから先に入ってて。棚に石鹸とかも有るけど、後で髪洗ったげるからとりあえず流して湯船に浸かってなさい。」
「はい。」
んん?と言う事は一緒に入るの?髪長いから洗って貰えるのは助かるけど…。ちょっと恥ずかしい。今は女だけど、その…感覚てきに。
リナさんは脱衣所から出て行った。脱衣所には大きな鏡がある。ちょっとくすんだ年代物だ、そこには今の私の姿が写っている。
身長は160cmくらいで今も前も変わらない。顔はアクア様よりちょっと幼い感じ、細いけど程好く筋肉と脂肪のある手足。鎧と服を脱ぐと、重量感がありたわわに実った果実とキュッと締まった腰、張りのある丸みを帯びたお尻。
自分自身だけど、鏡で見るとドキドキする。
服を脱ぎ下着だけになった今はお腹も見える。うっすらと腹筋が割れその上に僅かに脂肪が乗ったお腹。陸上部の女子のユニフォーム姿を思い出す。痩せて引き締まっているけれど、女性らしい曲線を失わないあの魅力。
そしてそれに併せて重みを感じる胸。筋肉に支えられた形の良い胸。
ショーツに手を掛け、するすると下ろしていく。
やめよう。これ以上はやめよう。
鏡でまじまじと見ると、ドキドキするし恥ずかしい。今の私。男から女に変わったのに心に違和感を感じないのは不思議だけど、こうやって身体を見れば自分だけど自分じゃなくて。でも違和感じゃなくて、逆にしっくりくる。不思議だけど、悪くは無い。
「さて、お風呂に行こう。」
そして遂に私はお風呂に入った!!!
洗面器で頭からお湯を被る。肌を伝うお湯が滴となり落ちていく。張りのある肌はお湯を弾き玉となって落ちていく。何度か流して砂を落とす。
湯船に爪先から沈めていく。太ももを越え腰を越え、胸まで浸かる。
「っっはぁぁぁ。」
無意識に声が出る。
お湯、ただのお湯。されどお湯。ただお湯に浸かるという行為で身体にたまった疲れが抜け落ちていくみたいだ。
「はぁぁぁぁぁ」
何も考えずにぼやっとする。気持ち良い。
「マイムー、入るよー。」
どれくらい経ったのか分からないけど、ミアさんが入って来た。
ミアさんは、スレンダーと言う表現をしよう。決して無いわけではない。少々控え目で形の良いお椀型でそのてっぺんは桜色。腰は引き締まり軽く腹筋が割れている。茶色の茂みは整えられている。
私はそれをぼやっと眺めている。見えてはいるけど、何にも感じてない。
「マイム、蕩けちゃってるわね…。」
「しょんなことはないです。」
ミアさんも身体を流して湯船に入ってきた。お湯が溢れ、ざばざばと流れ出る。
手を伸ばしたりしてポキポキと音が聞こえる。
「もうちょっと身体を暖めたら洗うわよ。」
「はい。」
湯船から出て、お風呂用の椅子に腰掛ける。
「じゃあ、頭から洗いましょ。」
石鹸を泡立て、身体ににへばりつく髪を手に取った。後ろ側だからよく分からないけど、頭から毛先に向けて洗われていく。束に分けて少しずつ洗っていく。
「こういう長い髪って羨ましいけど、自分だと面倒なのよね。」
すごく、面倒だと思う。でもこれは切ってはいけない、伸びても同じ長さをキープすべき。
「こんなに長いのに、枝毛も引っ掛かりも無いとかナニコレ。すっご、さらさら。」
朝起きても、手櫛と少しの水で寝癖が直るもんなぁ。
「今度は前ね。」
ぼんやりしている間に進んでいき、
「じゃあ流すからね。」
目を瞑り、お湯の流れる音を聞く。流しながら手で髪を濯いでいるんだろうな。
「終わったよ。ついでだし身体も洗うね。」
「そっちは自分で…。」
「まーまー、じっとしてなさい。」
ミアさんは鼻歌を歌いながら石鹸をタオルで泡立てている。
ミアさんはタオルを使って私を洗っていく。恥ずかしぃ…。
「マイムって肌もすべすべね。傷一つ無いわ。」
首の後ろから肩腕背中と来て、ミアさんが私の目の前に来る。
タオルが胸を滑っていく、ん?タオルを離してどうしたのかな。
「マイムゥ、おっきな物を持ってるねぇ。私と違ってさ。」
嫌な予感がする。
「ちょっとだけ。ね。」
「あ、ちょ。」
止める間も無く、胸を持ち上げられた。下から手のひらで支え指は胸を包む様に広げて掴む。
「ふふふ、重いね。ほら、こんなにたゆんたゆんしてる。」
上げたり離したりされて、胸が揺れる。
「良いなぁ、羨ましいわ。ほんとうに羨ましいわ。」
胸から手を離してタオルに持ち替え、続きを洗っていく。私は立ち上がり、お腹から足まで洗われた。下腹部は死守した、ここは自分で洗う。
流し終わった。今日一番の攻防は終わった。
ミアさんは自分でささっと洗って湯船に入る。
「拗ねちゃった?ゴメンねぇ。」
ゴメンって言いながら頬っぺたを突っつくのはなんなのか。
「今晩は家で泊まって、明日は村で買い物ね。マイムって着替えとかも無いでしょ?良い機会だから普段着とかも買っておきましょ。」
そう。私は着替えが無い。いつもの服は不可思議なパワーで汚れず破れても気が付いたら直ってる。私自身は浄化で汗は水に変わるし、クリエイトウォーターを使えば水で流せる。
とは言え着た切り雀ではいい気分はしない。せめて部屋着が欲しい。
「そうですね。色々欲しい物が有るのでお願いします。」
「そう来なくっちゃね。お風呂出たら今日は私の服で我慢してね、あんまり着てない奴だからキレイだし。」
「ありがとうございます。」
お風呂から上がった後にいくらキレイになるといえ、また同じ服に袖を通すのは気が進まなかったので渡りに船だった。
ほどなくお風呂から上がり、着替えることに。
着替えは水色のワンピースだった。
「マイムの髪色にもピッタリでしょ?」
「はい、髪とおんなじ色ですね。」
マイムと言うよりも、女神アクアの髪色と同じ水色が鮮やかなワンピースだった。麻のような素材で爽やかな着心地だ。
「髪を拭き終わったらご飯だから、ここに来る途中に台所通ったでしょ。あそこまで来てね。」
そう言いリナさんは先に行った。
ふと思う。友達の家にお泊まりとか、初めてだなって。
中途半端ですが一度切ります。
長くなると、誤字確認がしにくいので。
なんか、日間で9位に入ってた。こんな雜さ溢れる文でなんとも申し訳ないが、性格が雜なのでこれ以上丁寧にやるのはたぶん無理。