手料理、家庭料理、心の籠った料理。
それは、独りぼっちじゃ得られないもの。
誰かと囲む暖かい食卓。
笑顔と会話のある食卓。
あの日に失ったもの。
羨ましいな…。家族、かぁ。
思い出すのはかつての光景、自分にもあったもの。今はもう、失われたかけがえの無い宝物。
表情には出さないし、出せない。思いを馳せながら、目の前の光景に自分を重ね合わせ己を慰める。
「マイム、こっちはうちの母のミリシャであっちの髭が父のカサドル。」
「ミア、髭は酷いなぁ。初めまして、マイムさん。ようこそ我が家へ、紹介に上がったが僕はカサドル。村で猟師をしている。」
「じゃあ、改めて。私はミリシャよ。村の自警団員もやってるわ。」
カサドルさんは見上げる様な身長で190は有るかな。ガッシリしてて筋肉質だけど、優しそうな笑顔を浮かべたおじさん。
ミリシャさんは細身で小柄だけど、筋肉質な美女。見た目はミアさんのお母さんと言うよりもお姉さんと言われた方がしっくりくる。パッと見では二十代にしか見えない。
「初めまして、マイムです。先日ミアさん達のパーティーに加わりました。」
こういう時って何て言うのか分からない。これで良いのかな?
「マイム、緊張しなくていいよ。さっき母さんには言ったけど、今日はマイムを泊めて明日は村を案内するから。所で
「ああ、親父はちょっと調べ物が有るとか言って最近教会で寝泊まりしてるよ。ミア、明日様子を見てきてくれないか?」
「うーん、わかった。気が進まないけど明日教会寄ってみるよ。」
おじいさんが居るのか。おじいちゃんかぁ、もう顔も思い出せないや。
「あー、言ってなかったよね。教会の司祭リムタスは私の祖父よ。あのセクハラ爺は爺で十分なのよ。」
「リムタスさんがおじいちゃんなんだ、苦労…してるみたいだね。」
「まあね、マイムは会ってるから分かるよね。まともな時は人格者だと思うんだけど、そうじゃない時がアレだからね。」
「お義父さんは、まぁアレだし。自分じゃ否定してるけど、アクシズ教徒らしいアクシズ教徒なのよ。」
アクシズ教徒らしいアクシズ教徒って。あんな感じの人達ばかりって事なのかな。
「爺はほっといて食べようよ。」
「そうね、じゃあお祈りしましょ。あ、マイムさんは自分の文言で良いわよ。」
「「「水を司りし女神よ、今日の糧に感謝を。糧となりし命達に感謝を。全ての根源たる女神アクアの御慈悲に感謝を。いただきます。」」」
私も何か言おう。
「天より見守りし女神よ、今日この世に在る全ての命の源よ。我に明日をもたらしたる恩寵に感謝します。いただきます。」
目の前には、湯気の立つ煮込みハンバーグ。何肉とか分からない。フォークで軽く切れる程柔らかいのに口に入れれば肉汁が滲み出す。
「おいしい。」
その様子を三人はにこやかに見ながら食事をする。どこか寂しげな雰囲気をマイムから感じていたが、それが霧散し笑顔になったのに安心した。少女の心の裡は分からない、けれど少しでも心が軽くなったのならばそれは喜ばしいと。
「おかわりも有るから、言ってね。」
「はい、ありがとうございます。」
無くした宝物は戻らない
けれど、別の宝物でも隙間は埋まるだろう。
少しずつ、少しずつ心の穴は埋まっていく。
いつかは宝物で溢れるように、溢れた宝物で誰かを笑顔に出来るように。
笑顔と会話のある食卓は、寂しげな少女の心も笑顔にした。
無くした物を羨み、寂しげだった心は人の暖かさに触れ癒されていく。
その日は食事が終わっても賑やかな団欒は夜遅くまで続いた。
もう、私は独りぼっちじゃない。思い出だけを見て現実から目を背けてた「僕」じゃない。僕も私も前を見なきゃ。こんな人達に囲まれているのに、そのままじゃダメだと思う。
天より見守っているアクア様、私は変わります。いつかきっと私が誰かを笑顔に出来るように。いつの日か誰かの心を軽く出来るように。
宣言します。私は助けを求める者、声無き助けを求める者を救う者になります。
全ては、慈悲深くこの世の全ての命を繋ぎ止める女神アクア様の尊さを布教する為に。
思えば、この時が「僕」と「私」の尊さが変わったんだと思う。最初に思った、尊すぎて死ぬわ…っていう感情に世間一般的な尊さが自然に混じりあったのだと思う。
どちらにせよ、女神のように振る舞うという方針は変わらない。その根っこがちょっとだけ変わっただけで。
ミリシャは民兵を意味する英語。
カサドルはスペイン語で猟師です。
名前に迷ったら、とりあえずどっかの言葉で書くという。