偽アクアの旅路   作:詠むひと

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ちょっと遅れました。


私の我が儘

 

 朝が来た。夜中に一度起きたけど、あとはぐっすり眠れました。今日はミアさんよりも早く起きたけど、ミアさんより早いのは初じゃないかな?

 

 

 昨夜はベッドを譲り合って、結局二人で一緒に眠りました。私は寝相が良くないからベッドだと落ちそうで怖かったので床の方が良かったんだけど、押し負けました。眠る前に手を繋いでたんだけど、ベッドから落ちてたら道連れにするところでした…。危ない危ない。

 

 夜中に一度起きた時、アレが来た。あのアレ、なんとか症候群。手足の感覚とか壁とかが近くに感じたり遠くに感じたり、あと音の聞こえ方や物の見え方が大きくなったり小さくなるアレ。小さい子供での発症が多いらしいけど、私は未だに時々なる。

 

 私は自分の手足がスッゴク遠くなったり近くなったりする感覚に襲われる。普段は手を組んで身を縮こまらせて震えながら感覚が戻るのを待つ。

 

 でも今日は怖くなかった。すぐ前にミアさんが居て、息遣いと体温を感じた。繋いだ方の手は遠くならずにミアさんを感じてた。

 

 誰かと寝るなんて小さい頃にお母さんと寝てた時以来かな。いつもお母さんに抱き付いて寝てた。甘えん坊で泣き虫で、人見知りでいつもおどおどしてたのは覚えてる。

 

 一人で眠るのが怖くて、いつもお母さんと一緒に寝てた。たぶん小三くらいまでは一緒に寝てたんじゃないかな。懐かしいなぁ。

 

 

 

 そんな事を考えながらごろごろしてると、ミアさんも起きたようだ。

 

「んん…マイム。おはよぅ…。」

 

「おはようございます。」

 

「あ、繋いだままだったね。」

 

 そう言ってミアさんは手を離した。ずっと手を繋いでたからか、手のひらは汗でじっとり濡れていたけど、不快では無い。なんだか名残惜しさも感じる。

 

「ふぁぁぁ。」

 

 ミアさんが伸びをしてパキポキと音がする。

 

「顔洗いに行こっか。」

 

 

 

 顔を洗った後、二人で台所へ向かった。

 

「おはよう二人とも、マイムさん、よく眠れたかい?」

 

「おはようございます。はい、ぐっすり眠れました。」

 

 椅子に座って挨拶をしてきたのはカサドルさん。おや、昨日と違って髭を整えてあるや。

 

「おはよう、マイムさん。すぐ朝食にするから待ってね。」

 

 竈の方からミリシャさんの声がした。

 

「はい、わかりました。」

 

 ふんわりと香ばしいパンの匂いが流れてきた。パン屋さんの前を通り掛かった時にするような、甘くて香ばしい匂いがする。

 

 しばし待っていると。

 

「ミア、ちょっと手伝って。」

 

「はーい。」

 

 ミアさんとミリシャさんが焼きたてのパンをテーブルに並べていく。パンとジャムと焼いた厚切りベーコンを並べ、ハーブティーを淹れていく。

 

「お待ちどうさま。パンとベーコンはおかわりも有るからね。」

 

 焼きたてのパン、香ばしく焼かれたベーコン。そしてハーブティー。個人的には理想的な朝食だと思う。日本では朝食を食べたり食べられなかったりだったし、食べられても晩御飯の残りとかだったし。こういう普通の朝食っていう感じのメニューなんて何年も食べて無い。

 ああでも両親が居た時も朝起きるのが遅くて、あんまり朝食は食べて無かったっけ。

 

 いいなぁ、こういうの。

 

「じゃあお祈りして食べましょ。」

 

 

 何故か夜と違ってささっと、祈って食べ始めた。文言は「女神アクアよ日々の糧に感謝します。」だった。後で聞いた話だと、一日の終わりは息災で過ごせた感謝も兼ねて祈るけど、朝昼は短めで祈るんだとか。

 

 

 パンは手のひらよりも少し大きいサイズの丸いパンで表面はこんがり焼け香ばしい。千切って噛み締めれば、焼きたてでもちっとして麦の香りが食欲をそそった。焼きたてのパンはそれだけでも美味しい、野苺のジャムは甘酸っぱくパンと併せるとほんとうにすごく美味しい。ベーコンは厚切りで表面はカリカリに焼かれ、噛めば肉の旨味と塩味でもう言葉は出ない。口直しにハーブティーを飲んで、美味しくてため息を吐く。

 

「おいしい…。」

 

 これ以外に言うべき言葉は無い、しあわせ。わたしはしあわせ。

 

「マイムさんは本当に美味しそうに食べてくれるから、作った方としては嬉しいわ。」

 

 美味しい物を美味しく食べる。ただただ当たり前の事だと思う。

 

「おいしいからです。私もおいしい物を食べるのはしあわせです。」

 

 鏡を見なくても分かる。私は今きっと、満面の笑みを浮かべているんだと思う。ああ、おいしい。

 

「マイムって何食べてても、幸せそうよね。」

 

「三食食べられるのは幸せだと思いますよ?それも全部手間暇掛かった料理なんですから。」

 

「まあ、そうなんだけどさぁ。マイムってこっちに来るまでどんな生活してたら、干し肉食べててもあんな幸せな顔で食べられるんだか。」

 

 そう聞かれ、思わず真顔になる。

 

「誰かと一緒にご飯を食べられる事は無かったし喋る事もなかったです。いつも冷めたご飯を一人で食べたり食べられなかったりでした。何食べてても美味しく感じなかったんです。」

 

 日本での事を思い出すと惨めな気持ちになる。口に出すのも嫌。またあんな生活に戻ったら、もうきっと立ち直れない。

 

「だから、誰かと一緒にご飯を食べられるだけでも幸せなんです。美味しいご飯なら尚更ですよ。」

 

 私は今、どんな顔をしているのだろうか。

 

「マイム…。」

 

「ごめんなさい、暗くなっちゃいましたね。少なくとも、私はこっちに来てからは毎日楽しいし、幸せなんですよ。」

 

 日本では死んじゃったけど、この世界では楽しいんですよ。

 

「マイムさん。家に居る間だけでも自分の家だと思ってくれ。もう一人娘が出来たんだと思えば良いんだしな。」

 

 カサドルさんは私の頭に手を置きながら笑って言う。

 

「いっそ、うちの子になっても良いんじゃないかしら?マイムさんさえ良ければ、ね?」

 

「あっ、それ良いね。じゃあ今日からマイムは私の妹って事で。」

 

 

 唐突過ぎてなんと答えたらいいのか…。嬉しいんだけど、距離感が掴めないって言うか。

 

 

「突然で戸惑うのは当然よね。でも、私達はあなたの事が放っておけないのよ。アクシズ教は全てを受け入れる。目の前に寂しげな女の子が居るのに、放っておくなんて選択肢は無いわ。仮初めだけど、あなたを家族として迎え入れたいのよ。」

 

 

 なんて言えば良いのか、ほんとうに分からない。嬉しいけど、分からないよ。だって()にとっての家族は、私だけを残してみんな…死んじゃったんだから。嬉しいけど、受け入れようとしてくれるのは嬉しいけど。気持ちの整理がつかない。受け入れちゃったら、()が家族が居ない事を受け入れ無くちゃいけないと思うし。

 気持ちがぐちゃぐちゃだ。分からない。分からないよ…。

 

 

「今は、答えられないです。ごめんなさい。私は、私の家族は死んじゃったけど。でも私にとって家族はまだ、気持ちの整理がつかないんです…。受け入れようとしてくれたのは嬉しいです、けど。私はまだ答えられないです。」

 

 苦しい。もう何年も経つけど、受け入れるのが苦しい。考えないようにして目を逸らし続けてきた。私が自分の殻に篭って拒絶してたから、叔母さん達も呆れて離れて行ったんだと思う。自業自得だとは思う。でも、無理。

 

 

「ごめんね。マイムの気持ち、考えてなかったね。ごめんなさい。」

 

 そんな顔をさせたい訳じゃ無いのに、これは私の我が儘なのに。私のせいで悲しませて胸が痛い。

 

「これは私の我が儘ですから、そんな顔をしないでください。せっかくのご飯が冷めちゃいますよ。」

 

 

「ん、まあなんだ。二人とも先走り過ぎだ。マイムさん、悩み過ぎてもいけないよ。今は上手い飯とあったかい風呂でゆっくり休んで行きなさい。また次来た時も家でゆっくりしてけば良いさ。」

 

 私の頭をポンポンと軽く叩きながら言う。手、おっきいなぁ。

 

「じゃあ、僕はそろそろ仕事に行って来るよ。」

 

 カサドルさんは立ち上がり、もう一度私の頭を撫でて行った。

 

 

 しばらく無言での食事が続く。私のせいだけど、すごく気まずい。重い…。

 

「マイムさん。ごめんなさいね。でも私は諦めて無いわ。いつかあなたに、お母さんって呼ばせてみせるわ。」

 

 その…私が言うのもなんだけど、努力の方向性が間違って無いですか?

 

「マイムを妹に出来ないのは残念だけど。私の方が歳上だから、今のままでもお姉ちゃんよね。ほら、お姉ちゃんって呼んでみて。ミア姉さんでも良いわよ。」

 

 そう来るか、ミアさんもへこたれ無いのは流石親子だなって思う。ほらほらーって煽って来てるし。しょうがない。

 

「…お、お姉ちゃん。」

 

 ガバッとミアさんが抱き付いて来て頬擦りされた。

 

「可愛い可愛い。」

 

「ミアずるい。」

 

 ミリシャさんは悔しそうにしてる。

 

「見た目なら私でもお姉ちゃんで行けるんじゃないかしら。」

 

「無理だって母さん。」

 

 見た目で言えば、まあ有りかとは思うけど。メンタル強すぎじゃないですかね。

 

 

「冗談は置いといて、マイムさん。私はいつでもウェルカムだからね。困った事が有ったら力になるからいつでも言ってね。」

 

「私がマイムといつでも一緒に居るから出番は無いかもよ?」

 

「おやおやぁ、困った事があると泣きついてくるミアちゃんはどこに行っちゃったのかなぁ?二人とも困ったらお母さんにちゃーんと相談してね。」

 

「ふふ、わかりました。」

 

 友達母娘(おやこ)って言葉を思い出した。こういう関係のことなんだろうなぁ。

 

「もう!わかったから、それは言わないでよ。」

 

「分かれば宜しい。今日のお昼はどうするの?家で食べるの、それとも外?」

 

「うーん、どうしよっかな。マイムはどうしたい?」

 

 外食も捨てがたいけど、ミリシャさんのご飯は美味しいしなぁ…。

 

「ご迷惑で無ければ、お願いしても良いですか?」

 

「分かったわ、腕によりを掛けて作るわ。楽しみにしててね。」

 

 ミリシャさんはニシシと笑って、腕捲りするポーズを取って言った。

 

「はいっ。お願いします。」

 

 ご飯食べたばっかりだけど、楽しみ。

 

「じゃあ、出掛ける準備しよっか。」

 

「はい。」

 

 

 二人部屋に戻り、着替えをする。いつもの服に袖を通す、今日はローブも着よう。ローブは初日以外は持ち歩いているだけで着て無かったしね。

 

「マイム、それ着るの久しぶりだよね。いつ見ても、綺麗な色合いよね。青から紺でまるで空みたいよね。」

 

 空か。綺麗だとは思ってたけど、水よりも空っぽいかな。

 

 ハッ、水は空から雨になって恵みをもたらす。つまりこれは空からもたらされた恵み()大地(人々)を豊かにするという事なのではっ。

 

 やり遂げて見せます。渇いた大地に恵みをもたらして見せます。

 

 

「マイムー、ぼーっとしちゃってどうしちゃったの。」

 

 いけない、トリップしてた。

 

「ああいえ、なんでも無いです。ただ、空と水で雨を連想しただけです。」

 

「雨かー。マイムの雨乞い、凄かったよね。今度畑の水やりの依頼受けたらアレやってよ。上手く行ったら、クリエイトウォーターでチマチマやらなくても良いしさぁ。」

 

「そうですね、良いかもしれませんね。そういえば、雨乞いの儀式の話ってどうなったんですか?」

 

「あー、アレ。ギルドからも何にも言ってこないし、どうしたんだろうね。」

 

 精霊のバランスがどうとか、土着の文化がどうとかで紅魔族の人が来るって話だったはずだけど。

 

「マグナが帰って来たら相談すれば良いんじゃない?定期連絡終わったら顔合わせって言ってたし、どっちかのチームが帰ってくるだろうし、何か情報あるでしょ。」

 

「他のチームの人達に会えるのが楽しみです。」

 

「まーたキラキラした笑顔浮かべちゃって、まぁ。そんな良いんじゃないよ。遠征してる方は馬鹿ドムがリーダーの飲んだくれチームだし、探索の方は大喰らいの食い意地張った奴らだし。一緒のテーブルだと賑やかどころじゃないわよ。」

 

 やれやれ、みたいな表情でミアさんは言うけど、私にとってはどっちも楽しそうだけど。

 

「考えても仕方ないって。着替えたら、髪結ってあげる。たまには違う髪型にさせてよ。」

 

「わかりました。今日はおまかせします。」

 

「任されたわ。」

 

 

 そして、パジャマ代わりにしていたワンピースを着たままでショーツを穿き替える。今穿いてるショーツは八の村でも手に入ったけれど感触はあんまり良くない物で、もっと良いのがあると良いなぁ。夜の間に洗濯しておいた元の物を穿く、やっぱりこっちの方が着心地が良い。

 

「服屋とかも周りたいので動き易い髪型でお願いしますね。」

 

「分かってるって。」

 

 そしてワンピースを脱ぐ、下にはショーツだけで他は何も身に付けていない。ツンと上を向く果実は重力に逆らい形を崩さず、うっすら割れた腹筋は健康的な美しさを醸し出している。

 

 お腹を撫でながら思う。もしかして、もっと腹筋が有れば防御も上がるのかな?

 

 上着はブラウスって言っても良いのかな、コレ。ノースリーブで脇が見えてるのがちょっとなぁ、袖の有る服買お。

 

 ノースリーブは動き易い、それは認める。だが、うら若き乙女の脇が見えるのは男達にとってはあまりにも目に毒(眼福)だ。

 

 下からボタンを留めていき、最後にブローチを着ける。スカートを穿き横のボタンで留める、流石にこの世界ではジッパーは無くボタンのようだ。

 

 ベッドに座りサイハイソックスを穿く。穿き口を両手で広げまず膝下まで上げ、踵を合わせ、引き上げていく。時折、シワを伸ばし太腿の上まで引き上げていく。最後に部分的なシワを伸ばして終わりだ。

 細過ぎずも適度に筋肉が付いた引き締まった脚を包みこんだ白。青い服とマイムの色白な肌とが相まって清楚さを引き立てる。

 

 

 今日も、完璧。どこから見ても清楚な美少女だよね。私はナルシストじゃないけど、鏡でじっくり眺めたくなるよね。

 

 

「着替えたね、じゃ、こっち座って。」

 

「お願いします。」

 

「んふふーん。じゃあ、始めるよ。」

 

 

 三面鏡?みたいなので見ていると、髪を編んでいってるのが分かった。三つ編みかな、長いから苦戦してる。

 今度左側で編んでる。終わったあと、右前で細めの三つ編みを作って白いリボンで巻いた。

 

「終わったよ。」

 

 髪型の事は分からないけど、左右とも太めの三つ編みを作ってお下げ髪になってる。自分では出来そうにないけど、これも可愛いな。

 

「色々考えたけど、マイムならシンプルな方が似合うって思ったんだけど、これで大丈夫?」

 

「はい、これで良いです。ありがとうございます。」

 

「良かった。」

 

 

 私達の服装は、私は髪型以外はいつも通りでミアさんは所々に刺繍がされた明るい緑色のマキシワンピースで髪はリボンで縛ってお下げにしてる。

 いつもとは雰囲気が違って、冒険者じゃなくて街の綺麗なお姉さんって感じがする。

 

 

「とりあえずまだ早いし、時間潰しがてら行き先を考えようか。」

 

 

 行き先は服屋と雑貨屋、武器屋、教会に決まった。あとは回りながら考えようと言う事になりました。武器屋が入ってるのは、ミアさんの消耗品の購入と私用の武器防具を見ようという事になったから。

 

 高い筋力で殴るだけで無く、棒やメイス等を使うのも有りじゃないかと言う事。遠心力と重量が加わる。今後、毒やトゲを持つモンスターと戦う事もあるかもしれないとの事。

 

 なるほど、と思いつつ時間は過ぎていく。

 

 

 

 

「「行ってきまーす。」」

 

「いってらっしゃい。」

 

 

 

 

 まずは雑貨屋さんに寄り、何か使える物が無いか探しました。

 

「へい、らっしゃい!」

 

 八百屋か何かみたいな言い方の店主に迎えられ、鞄か背負い袋等は無いかと尋ねると。

 

「革のリュックや背負い袋はどうでい?」

 

 手に取り見ると、牛革みたいな革のリュックで開口部は上部のみでポケットが外に二つあるだけのシンプルな物で軽くて丈夫そうだった。背負い袋の方は、袋というよりもボディバックと言った所か。ミアさん達が使っている物に近く、身に付ければ身体に密着し動いてもブレない。

 

「背負い袋の方を下さい。」

 

「あいよ、5000エリスだ。時々、油を塗り込んで手入れするといいよ。」

 

 私が手入れの仕方等を聞いているとミアさんは針と糸等を手渡してきました。

 

「これも買っておきなさい。装備の補修に必要よ。」

 

 裁縫道具も購入し、後は細々とした手入れ油や砥石等を購入し店を離れました。

 

 

「次は武器屋に行くわよ。」

 

 少し歩くと武器屋に着きました。店には所狭しと鎧や剣が並べられています。

 

「おや、ミアちゃんいらっしゃい。」

 

 店主のおばあさんが出迎えてくれます。

 

「そっちの子は、ミアちゃんのお仲間かい?」

 

「そうよ、この子はマイム。ついこの間入ったばかりだけど、優秀なモンクよこの子に武器を見繕って欲しいの。」

 

「そうかえ、モンクなら棍棒や棒はどうだい。軽くて取り回しも良いし使うだけなら特別な技能も要らないし、威力も筋力次第で跳ね上がるよ。」

 

 幾つかの棍棒を手に取り握り軽く振らせて貰った。

 

「もう少し、重くても良さそうだねぇ。ちょいと待ってな。」

 

 店の奥に行き幾つかの武器をを持ってきた。

 

「八角棒やモーニングスターはどうだい?棒ならリーチも有るし突き払い振り下ろしで難しい動作も無く威力が出るし、モーニングスターなら単純に振り下ろすだけでいい。」

 

 今度は八角棒を手に取る、硬い木で出来た棒で多少のしなりがある。両端は金属で補強されていて丈夫そう。モーニングスターは先にトゲ付きの鉄球が取り付けられた棒で見た目で分かる。これは痛い。

 

 次に手に取ったのは、全長50cm程度の鉄の棒。バトンと言うらしい。握り部分は革が巻かれて滑り止めになっていて、先端まで同じ太さの丸棒だった。

 

「バトンはちょっと短めだけど打撃や突きも出来るし、攻撃を払ったりも出来るんだ。何より携行性が良いし、ただの鉄棒だから壊れる事も無い。」

 

 手に取った中では、バトンが一番しっくりくる。攻防共に使えて軽く丈夫で安い。コレにしよう。

 

「じゃあバトンにします。」

 

「そうかい、バトンも幾つか種類が有るから好みのを選びなさい。」

 

 他の武器を片付け、バトンを何本も持ってきて並べていく。色や握り部分の材質、先端形状等様々だ。その中で目を引くのは…。

 

 黒く染められた直径3cm程度で黒い革の巻かれたバトン。柄の部分には青い石が嵌め込まれている。どことなく惹かれる物がある。

 

「それに目を付けたか。柄の石は水の精霊を呼ぶとされている物だよ。ほんとうにそんな効果が有るのかは知らないけれど、昔からそう言われてる物さ。」

 

 曰く、水の精霊の涙とも力の結晶とも。水を浄化する力が有るとも。どれも迷信だが、色も相まって装飾によく使われるらしい。

 

「コレにします。色が気に入ったので。」

 

「武器を使うのに愛着を持つってのは良いことさ。それとミアちゃんの方はいつもので良いのかい?」

 

「いつもので。あとナイフを研いで欲しいの。」

 

 ミアさんはナイフを研ぎに出し、入れ替わりでナイフを受け取っていた。いつも整備の時は預けた分と入れ替わりで次のナイフを整備に出すそうです。

 

「じゃ、また来るね。」

 

「二人とも元気でやりな。」

 

 そして私達は教会へと向かう。

 

 リムタスさん、今度は変な事しないと良いんだけど…。

 

 

 


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