まだミツルギのターン。
世界がスローモーションになる。
僕の股間にフィオの膝蹴りが吸い込まれていく。
瞬間、僕はマイムと別れた後の事を走馬灯の様に思い起こしていた。
アクシズ教徒の勧誘を避けながら宿に向かっていた時の事。
運命的な出会いに浮かれていた僕は重要な事を忘れていた事に思い至り、顔色を無くす。
クレメアとフィオへの返事をどうするのかと。僕は二人の事は好きだ。仲間としてはもちろん女性としても好ましい。少々我が儘だったり依存気味なのも可愛らしいと思う。
でも、今。僕はマイムに恋をした。
今の僕が二人の気持ちを受けとるのは不誠実だ。でも、優柔不断な僕は二人に断りを告げるのを躊躇ってズルズルとこのままでいそうだ。
そして、どんどん事態は悪化し手遅れになるだろうとも。
思考は纏まらず脳内をグルグルと駆け回り答えは出ない。
そんな時に、アクシズ教徒の男に声を掛けれた。また勧誘かと思い、鬱陶しく思ったが彼の言葉に少しだけ興味を抱いてしまった。それが運の尽きだったと今なら分かる。どうして上手く行くなんて思ったんだか…。
「よう!そこの色男の兄ちゃん。なんだか悩んでるな?オッサンがズバリ当ててやろう。恋の悩みだな。それも複数の女の子に言い寄られてるのに他にも好きな女の子が居るんだろ?」
図星に僕は言葉に詰まる。
「おっ正解だな。うんうん。青春してるな。そこでオッサンが妙案を授けてやろう。」
男の言葉に僕は苦り切った表情になる。
「全員と付き合っちまえば良いのさ。一婦多妻は男の甲斐性さ。エリス教徒の連中は良い顔しないが、ちゃんと合法だぜ。女の子達に受け入れて貰えずに喧嘩になったら、こう言えば良いのさ。アクシズ教徒に唆されたってな。上手く行ったら儲けもの失敗してもアクシズ教徒のせいさ。どうだい?やってみないか。」
合法とは言え、些か良心が痛む。それに失敗した責任を他人に押し付けるのは良くない事だ。
「責任をおしつける事に悩んでるって顔だな?心配しなくて良い、アクシズ教徒にとってこの程度じゃ今更風評なんて変わらねえ。もし上手く行ったらアクア様に感謝して、アクシズ教への入信をちょっと考えてくれたら良いさ。」
それだけ言うと男はガハハと笑いながら去っていった。
ダメで元々、やってみようなんて思ったのが間違いだったんだろう。
宿に戻り、扉の前で覚悟を決めた。部屋に入ると二人は僕を笑顔で迎えた。僕はそんな二人にこれから、人として最低な事をしようとしていたのに。
「大事な話があるんだ、二人とも聞いて欲しいんだ。」
僕は二人とも好きだと伝えた。どちらかを選ぶ事が出来ず、二人とも同じくらい好きだと。だから最低な事を言うと、二人と付き合いたい。
そこまでは少しイラッとされつつも、承諾してくれた。フィオとクレメアは一緒だったらまあ、納得はすると。幼なじみでずっと一緒だったんだし、ギリギリ納得してあげると。
二人の広い心に感謝して、二人を同時に抱き締めた。僕の腕のなかの二人の体温を感じた。離した後、続きを話した。
「実は他にも好きな女の子が居る。」
聞いた二人は眉を吊り上げ、僕に詰め寄った。
「どういう事っ!私達を好きなんじゃ無かったの?」
「ねえキョウヤ!それは誰っ?誰なの?」
やはり受け入れる事は難しいかと思うが、ここで止まる事は今更出来ない。
「実は女神様に恋をしていたんだ。」
女神アクア様そっくりな女の子に出会った。その女の子は女神様の眷属だと知った。初めは彼女を通してアクア様を見ていた。でも、彼女を知ると彼女に恋してる自分に気が付いた。アクア様は僕にとって憧れの存在だけどそれは恋では無かった。
「僕は二人の気持ちを知りつつも彼女を好きになってしまったんだ。僕はどうしようも無い最低な…」
言葉は続けられなかった。クレメアが泣きながらぼくに平手打ちをした。嘘つき嘘つき裏切り者と泣きながら僕の両肩を掴んで揺さぶる。
「ねえ、キョウヤはさ。私達がそれを聞いてどう思うか考え無かったの?」
フィオの言葉は胸を抉る。でもこれは自業自得だ。
「考えたさ、でも僕の本当の気持ちを聞いて欲しかった。僕は自分で抱えているのが辛くて楽になりたかっただけの最低な男だ。」
「私はさ、もっと早く知りたかった。こんなにも好きになる前にさ。こんな話を聞いたのに、まだあなたの事を好きな自分に反吐が出る。」
覚悟はしていたつもりだったけど、僕は彼女達を苦しめただけだ。僕は本当に最低なゴミ男だな。
「私とクレメアを泣かせたあなたを許さない。だからせめて、一発蹴らせて?その後は許してあげるからさ。」
フィオは僕にすがり付いて泣き続けていたクレメアを退かせ、僕の正面に立ち僕を見た。その目は僕を睨むでも無く、なんと言うか憐れんでいる様にも見えた。
「じゃあいくね、ちゃんと私達の怒りを受け止めてよね。」
回想は終わり、僕の股間にフィオの膝がめり込んで行く。ほっそりとしつつも適度に筋肉の付いた脚はいつ見ても魅力的だと、そんな場違いな気持ちを抱く。股間に圧力を感じ、強く押される様な感覚と共に痛みが襲う。
スローモーションな世界が時を取り戻す。
深く鋭い刺す様な痛みと鈍く重い鈍痛が股間から上に走っていく。吐き気を催す様な痛みと脳天を突き抜ける様な痛みで僕の意識は遠退く…膝から崩れ落ちていく。ああ、世界が色を喪う。灰色から黒に変わり視界が塗り潰されていく…。
もう、すべてが遅い。僕はきっと間違ってしまったんだ…。
~~~~~
フィオ
崩れ落ちたキョウヤの身体が床に落ちる前に抱き留めた。完全に力の抜けた身体は酷く重く感じた。キョウヤをそっと床に寝かせた。
「フィオ…。」
クレメアが抱き付いてくる。いつもは勝ち気で元気一杯な幼なじみのこんな姿に心が痛む。クレメアを抱き締めた、震えている。私が震えているのかクレメアか、それとも両方か。
「クレメア、キョウヤをベッドに寝かせるのを手伝って。」
今のクレメアにこんなお願いをするのは心苦しい。私もクレメアも抱き合いながら泣いているけど、いつまでもこうしているわけにもいかない。
「うん…。」
クレメアはキョウヤに手を伸ばすも、ビクリと戸惑い止まる。拳を握り震わし、手を開くも震えているようだった。
私も少しだけ震えた。キョウヤは口を半開きにし白眼を剥いて仰向けに倒れている。
私がやった事。
大好き、愛してる。そんな思いを抱いた人を蹴り倒した私。急所を蹴り潰し、痙攣しながら白眼を剥く、愛しい人。
複雑な想いを抱える。大好きだけど許せない、苛つく、愛してる、憎い。どれも私の心。それでも私は好き。キョウヤが好き。
キョウヤの身体をベッドに横たえた。
「ねえ、クレメア。これからどうする?」
「どうって…。」
クレメアは言葉に詰まり考え込んでいる。
「このまま、パーティーを組み続けるか別れるか。って事よ。」
こんな思いを抱きながら、今まで通りで居るのはきっと無理。どこかでギクシャクしてバラバラになっちゃうと思う。
「クレメア、今すぐじゃなくても良いよ。でも考えておいてね。私はクレメアとずっと一緒だから。クレメアがパーティーから抜けるなら私も一緒だよ。」
今の私なら、クレメアとキョウヤなら迷わずクレメアを選ぶ。三股宣言の男よりも、幼なじみを選ぶのは当然。
でも、クレメアはどうなんだろう?私を選んでくれるかな?
「えっ…。うん、でも私もフィオとずっと一緒が良い。」
力無くクレメアは呟く。こんなにも元気の無いクレメアは久しぶりに見た。私はクレメアを抱き締めた。
「クレメア、私はずっと一緒だから。今までと一緒だよ。いつだって二人で乗り越えて来たでしょ?」
でも、乗り越えられなかった事もある。
あの日、キョウヤに出会った時。
私とクレメアは故郷を離れ、アクセルで冒険者になった。二人でパーティーを組んで、街の中の依頼をこなしたり採取を中心にして暮らしてた。それから時折ジャイアントトードを討伐したりして、そこそこ上手くやれてたと思ってた。
でもある日、いつもの様にジャイアントトードの討伐をしていた時。小さなミスが重なり命の危機を招いた。
その結果、私とクレメアは補食された。
徐々に飲み込まれ、クレメアの私を呼ぶ叫びを聞きながら先に飲み込まれた。ジャイアントトードの口の中は粘液で満たされ、私を犯していく。身体中粘液にまみれ服も下着も肌も粘液に包まれている。生温いカエルの体温が私を包み、回りの肉が動き私を運んでいく。
だけど、次の瞬間。私の腕は何者かに力強く引かれた。息が出来る。空気を感じた。
「もう、大丈夫だよ。君の友達も助けたから安心して良い。」
彼の声を聞いて私は目を開いた。
彼は私を抱き抱えながらクレメアの隣に降ろした。
「フィオ!」
クレメアは私に抱き付いた。どうやら私達は彼に救出されたようだった。私達が礼を口にすると。
「二人が無事で良かった。」
太陽のような笑顔でそう口にした。
「お礼なんて…いやそうだ。僕はこの街は初めてなんだ、だから案内してくれると嬉しい。」
一度お礼を断ろうとしたが、その後の提案は私にも嬉しい事だった。恩人を案内出来るって。
でも、今の私達はベットベトヌッルヌル。私達を抱き締めたせいで彼の服も同じ様になってしまったのが申し訳ない。服を綺麗にしつつ身体も洗うべきだ、なのでお礼を兼ねて公衆浴場の代金と案内をする事を伝えた。
「ああ、そうだね。男の僕は兎も角二人は…、わかったよ。」
承諾してくれて何より。
道すがら話を聞いて驚く、冒険者登録をしていない一般人だと彼は言う。冒険者になる為に来たと聞き、お風呂から上がってから一緒にギルドまで行き登録を見守った。
凄まじいステータスで初めからソードマスターになったり、パーティーに誘ったり一緒に依頼を受けたり同じ宿に泊まったり。
出会ってから今までの事を思い出す。
二人で思い出を話しながら泣いた。あれからは、いつだって三人一緒だった。三人で冒険して三人で遊んで。この三ヶ月ずっと一緒に過ごして来た。
もう、答えは出たも同然だった。
離れたく無い。クレメアも同じ結論だった。
すぐに元通りって言うのは難しいけど、キョウヤは私達の気持ちを受け入れてくれたんだからこれからはもっと積極的になろう。
まだ見ぬもう一人の事は置いておこう。私達がキョウヤの心を掴み直せば良いんだから。
ふと、キョウヤを見た。まだ気絶している。手で瞼を閉じさせたけどまだ目覚めない。
「フィオ、キョウヤ大丈夫かなぁ?」
冷静に考えるとやり過ぎたかも知れない。悲鳴を上げる事もなく崩れ落ちて気絶した事に少し不安になる。
「もしかして、潰しちゃったかな…。」
案外感単に潰れたりするって聞いた事がある。ヤバいかな。
「ねえ、確かめてみない?ポーションが必要かも知れないよ。」
確かめる…。服を脱がせて?
これは治療に必要な事、これは治療に必要な事。自分自身にそう言い聞かせズボンを脱がせ、下着に手を掛ける。
目を瞑り下着を膝下まで下ろす。目を開けるとそこには。
「うわぁ、腫れてる。よね。」
普段の状態なんて知らないけど、でもこれは明らかに腫れている。
タマは赤く大きく腫れその周囲は内出血したように見える。竿は…。
目を背けてしまった。でもこれは私のせい。
「そうだ、ポーション。早くポーションを。」
そっとポーションを掛けると、ビクリと大きく痙攣した。それを見て私はポーションを手に掛け、手のひらで馴染ませる様に塗り込んでいく。
未だに意識は戻らず、腫れも引かない。
「どうしよう、私のせいだ。どうしよう…。」
事態の大きさに私は不安に押し潰されそうになった。
「回復魔法じゃ無きゃダメなのかな…。」
クレメアの言葉にハッとする。教会で回復魔法での治療を依頼すれば…。
「教会に。教会に行かなきゃ。」
きっと回復魔法の使える人が居るはず。そうとなれば…。
「クレメア、キョウヤの事をお願い。私は教会に行って回復魔法の使える人を連れてくる。」
「フィオ!一人で大丈夫?」
「一人でも行かなきゃ。キョウヤをこのままにはしておけない。クレメアごめん、後は頼むね。」
私は宿を出て、教会を探しに行った。
夜になって人も疎らになっていた。勧誘はされなくなったから、走り続け教会を探しにていた。
探せど探せど、エリス教会は見つからない。大小様変わりなアクシズ教会はあちこちにある。この街はアクシズ教の総本山。エリス教会は無いのかも知れない。
アクシズ教会に行かざる負えないのかと、少しだけ憂鬱になる。でも、キョウヤの姿を思い出して頭を振る。
誰が相手でも関係無い、これは私の罪。確実に助けを呼ばなければ。
自然と街で一番大きな教会へと向かう。意を決し、教会に足を踏み入れる。
「あら?こんな夜更けにどうしましたか?」
金髪の妙齢のシスターに出会い、要件を告げた。
「急患が居るんです、誰か回復魔法の使える方は居ませんか?私のせいだから連れて来なきゃ、彼が目を覚まさないんです、だから。」
言葉が上手く纏まらない、一刻も早くと焦りが募る。
「急患ね!でも少し落ち着いて、症状を教えてください。」
私はやった事見た事を話した。
「うわぁ、それは。ちょっと待っててね、すぐに戻るから。」
シスターさんは大慌てで走って行った。
もう夜も更けて教会には私以外の人影は無い。探し回っている間にずいぶんと時間が掛かってしまった。正確には分からないけど、一時間以上は経ってしまったと思う。一秒が長く感じられる。今どのくらい経ったのかな。
待っていると、さっきのシスターさんが男の司祭を連れて戻って来た。
「ゼスタ様、女の子が困ってるんだから助けてくれますよね?」
ゼスタ様と呼ばれた男性は頷く。
「もちろんだ、少女の頼み事に比べたら他の事など些事だ。さ、お嬢さん私にもう少し一度何が有ったか教えてくれ。」
もう一度同じ説明をした。説明をしている間頷いたり、鼻息を荒くしていた。私がした事は同じ男として許せない事だろうと思った。
「うむ、事情は分かった。早速案内を頼む。」
良かった、これで助けられる。
「ゼスタ様、私はまだ仕事が残ってて一緒に行けませんけど絶対に変な事しないで下さいね。」
変な事とは一体…。
「心配は要らん。さ、フィオと言ったかな。急患の元に行かねばな。」
私はゼスタ様を連れて宿に戻った。
クレメアは所在無さげに、キョウヤのベッドの横に座り込んでいた。空のポーションの瓶が幾つも床に転がっている。
「フィオ!」
「ゼスタ様お願いします。」
私はクレメアに今までの事聞いた。手持ちのポーションを使いきっても腫れが引かず意識も戻らずどうしたら良いか分からなくなっていたそうだ。
「少し、触診をさせてもらう。」
ゼスタ様は手で患部を触り頷いたり唸ったりしていた。
「うむ、これなら大丈夫そうだの。」
手でキョウヤに触れながら詠唱を始めた。
「傷付き倒れ伏す者よ、水の加護により、今再び立ち上がらん。」
「ヒール」
ゼスタ様の手から光が溢れ、キョウヤの下腹部を包み込んで行く。下腹部を覆い尽くすと光は全身に広がって行く。
光が消えて患部が見えると、腫れと内出血が消えていた。
それを見た私とクレメアは抱き合い安堵の息を吐いた。
「これでもう大丈夫だ。朝になれば目を覚ますだろう。」
振り返ったゼスタ様の言葉で安心した。
「ありがとうございますゼスタ様。こんな夜中だったのに助けてくださってありがとうございます。あ、その。どの様にお礼をしたら良いですか?」
お礼はどうしよう。見た所豪華なローブで高い立場の人である事が窺える。そんな人を夜中にここまで連れてきて治療をしてもらったんだ、払える、かな。
「そうだな。お嬢さんとの一夜…冗談だ。そうだな、笑顔が見たい。お嬢さんのような別嬪さんの笑顔なら充分な対価になる。」
うんうんと頷き私を見た。一夜は冗談だと言ったけど、例え冗談じゃ無くても断る事は出来なかったと思う。笑顔か、上手く笑えるかな。
「ゼスタ様、ほんとうにありがとうございました。」
「うむ、良いものを見せて貰った。可愛い女の子には涙よりも笑顔が似合う。」
ゼスタ様は私に近付き、頭を撫でた。
「これからはあんまり無茶をしてはいかんぞ。今回は破裂はしとらんかったが、破裂してたらヒールでは治らんからの。では夜も遅いし帰るとしよう。明日辺りにでも教会に顔を出してくれると嬉しいがな。」
そう言いゼスタ様は帰った。アクシズ教徒にも良い人は居るんだ。
「クレメア、もう寝ようか。」
「そうだね。」
キョウヤの寝息も穏やかで安心したら眠くなってきた。お風呂どうしよう、行きたいけどもう眠い。朝にしよう。
キョウヤの両隣にはスペースがある。
「クレメア、三人で寝よう。」
三人で川の字でベッドに横になる。明日起きたら、キョウヤ驚くかな?少しイタズラ心が湧いた、下着は脱がせたままにしちゃえ。
「おやすみ。」
翌朝、クレメアとフィオに挟まれて
でもまあ、元気なのは良いことだ。
その声で目覚めた二人が元気なミツルギを見たとしても良いことだ。
一度書いてから最初から新たに全部書き直しました。このままでは三股屑男になってしまう所だったので蹴り潰されて貰いました。
修正前はクレメアがヤンデレっぽくなったのでこれじゃないなとなり、全面修正しこの形になりました。
フルチンの勇者ミツルギ、オッサンの誘惑に乗り、タマを蹴り潰され、女の子に股間を撫でられオッサンに股間を揉まれた勇者。
何でもいけるゼスタ様が合法的に少年の股間を愛でた。