宿に帰った私達をシグさんが出迎えた。
「よっ!お二人さんお帰り。観光はどうだった?」
シグさんは宿に入ってすぐの食堂で椅子に前後逆に座り背凭れに腕を乗せています。昔、家でやって行儀が悪いって怒られたっけ。
「ただいま戻りました。でも観光じゃ無いですよ。」
響夜君に出会わなければ観光呼ばわりされても反論出来ない所でした。セーフセーフ。
「ううん?いっぱいお土産持ってるのは何だろうねぇ?」
ニヤニヤしながら痛い所を突いて来ました。
「こ、これは偽装ですよ。偽装なんです。それより、お饅頭お一ついかがですか?」
「そういう事にしとこうか。それより、マイムちゃんの手で食べさせて欲しいなー。」
シグさんは笑いながら、あーん。と口を開けています。しょうがないなぁ。
「まったく、アンタはこれでも食べてなさい。」
私が一口饅頭を食べさせようとしていたら、ミアさんが真っ赤な激辛饅頭を口に押し込みました。アレ…一口でもツラい奴なんだけど。うわぁ。
「うご、んぐっぐう…。かっらぁ!マジかよなんだコレ!水!水!」
テーブルの上の水をイッキ飲みしてるけど、足りなさそう…。
「シーグー、馬鹿な事やってんじゃないわよ。マイムもこの馬鹿を甘やかしちゃダメよ。すぐ調子に乗るんだから。」
「なんだよぉ、ちょっとくらい良いじゃねえか。せっかくこんな優しくて可愛い子が入って来たんだしさぁ。」
私はアクア様コピーなので可愛いのです。アクア様は尊い。
「へぇ。私とリナは可愛く無いって?」
ミアさんの笑顔に迫力が……シグさんの顔がひきつってる。
「い、いや。可愛いは可愛いと思うぜ。でもお前ら強すぎるんだよ。こういう、無防備でフワッとした優しくて可愛い女の子が良いんだよ!お前らは色々強すぎるんだっての!」
無防備で、フワッと?そうかなぁ……。普通にしてるだけなんだけど、女の子になるって難しいなぁ。
「言うに事欠いて、言ったわね。マイムが可愛いのは当然だけど。アンタ、引っこ抜いてあげようかしら?」
「お、おいっ!寄るな。なにを引っこ抜く気だ!っやめろぉー。」
「お前達、いつまで騒いでるんだ。席に座れ。」
呆れながらマグナさんが二人を止めながら言いました。
「他の客にも迷惑だろう。いいから席に座れ、食事しながら各人の成果を話すとしよう。」
他のお客さんはどっちかと言うと二人を囃しててたりして楽しんでいたようですが?他のテーブルからはもう終わり?とか若いっていいわぁ。なんて声も聞こえて来ます。一種のイベント感覚みたいですね。
テーブルには既にシグさんの他にマグナさんとリナさんが居て、どうやら私達待ちだったようです。
「さて、私達三人で先に話を擦り合わせていたから聞きながら他に捕捉が有ったら教えてくれ。」
内容自体は大体は私達が響夜君に聞いた事と同じでしたが、所々で初耳の事が有りました。
「魔王軍幹部が紅魔族の集落を襲撃したって、それの被害等はどうなったんですか?」
「俄には信じがたい事だが、余裕で撃退したばかりか幹部をオモチャにして遊んでいたらしい。大人の村人の殆どがアークウィザードでベルゼルグでも有数の戦力を擁しているそうでな、上級魔法による圧倒的な火力で鎧袖一触だったそうだ。度々襲撃があっても毎回、魔王軍がボロボロにされて敗走しているらしい。」
村一つでベルゼルグの王都よりも強力な戦力を持っているなんて、紅魔族とはそんなにも強い人達なんですね。辺境で聞いた紅魔族の噂にも真実味が出て来ます。
「まさに人類の切り札ですね。」
「ああ少々変わり者が多いが、赫赫たる戦果を挙げているのも事実だな。紅魔族によって討たれた魔王軍も相当な数に昇っている。」
紅魔の里は災害級の戦力を持ってして魔王軍を打ち破り、紅魔族の冒険者は各地で魔王軍の手に落ちようとしていた村々を救い歩いているとマグナさんは続けた。
「なんか、正義の味方って感じですね。格好いいです。」
憧れるなぁ、ピンチの時に颯爽と現れ人々を助けて回ってるなんてさ。
「う、む。まあ、そうだな。内実はともあれ、行動の結果に関してはそうなるな。」
マグナさんは少々複雑そうな表情だけど、どうしたんだろう?
それ以外の戦線は私達が聞いたのと同じで一進一退を繰り返し膠着状態に近いですが。回を追う毎に少しずつ押され、極僅かですが魔王軍の勢力地は拡大していってます。
王族や騎士団長が前線に居る間は前線を押し上げているけれど、不在時は押され気味だそうです。
次は私達の報告です。
「私達は日本人と接触しました。」
「それは例の同郷だっていう?」
「はい。」
かいつまんで説明しました。魔剣持ちの男の子で普段はベルゼルグの王都で冒険者をしている事。私が呼び掛ければ他にも志願者は出そうだと言われた事。
「だとすると、良い出会いだったようだな。私も彼と一度話してみたい。彼の宿泊先は分かるかい?」
「はい、聞いてます。彼の他に女の子二人とパーティーを組んでいるそうで、明日も観光すると聞いてます。」
「では、明日の朝に彼を訪ねようと思う。マイムは私に同行してくれ。」
「わかりました。」
トントン拍子に話が進み、響夜君に詳しい話を聞きに行く事になりました。
「あー、お姉さーん。クリムゾンビア一つよろしくー!」
シグさんは話の最中でも気にせず、次の注文を始めました。すぐさま、ミアさんがド突いたけど、気にせず色々頼んでる……。
「はぁ……コイツは……。」
マグナさんはため息を吐き右手で頭を押さえます。
「シグ、話が終わってからにしろ。お前もちゃんと話を聞いておけ。」
「聞いてるってば。」
「マグナ、馬鹿に着ける薬は無いから諦めなさい。」
やれやれとミアさんも続けた。
「まあ、いい。大体行動は決まった。明日はそのミツルギという少年のパーティーに話を聞こう。その後、アクシズ教団の情報収集だ。気乗りしないが私の両親に話を持ち込む。私の両親はそれなりに立場があるからな……。いつかは話さばならなかったんだ、何か理由があれば決心も付くと言うものさ……。」
嫌嫌と言う気持ちがありありと見えてくる表情マグナさんは言った。
「話は終わりだよなっ!乾杯だ。乾杯しようぜ!」
何杯目なのか分からないシグさんが乾杯しようと言った。て言うか、ほんと何杯目なんですかね?テーブルの3分の1近くがグラスで埋まってるんですけど?
「ったく、コイツはぁ。分かった分かった。乾杯しよう。そうだな、ミア一言言え。」
「ええっ。私っ?」
突然無茶振りしないでよ、と小声でミアさんがぼやく。
「はぁ、ああもう良いわ。マグナ覚えてなさいよ。この水の豊かな都では飲み物も食べ物も美味しいと聞くわ、存分に楽しみ
「「「かんぱーい!!」」」
美味しい水っていうのは個人的にはどこぞの名水でもミネラルウォーターでも水道水でもあんまり違いは分からなかったけど、この水は明確に美味しいって思った。
私が飲んでるのは温泉水に氷を浮かべた水。温泉のお湯を冷やして、グラスにたっぷりの氷を入れ注いだ物。水なのに甘味と旨味を感じた。なんだろう、すごく美味しい。
目の前に山盛りになっている唐揚げを口に運ぶ。鳥肉だ、柔らかくジューシーで肉汁が溢れだす。鶏唐とはちょっと違う感じ。柔らかいけど少し歯応えもある。肉の味自体が濃いというか。
ああ、おいしい。」
無意識に途中で声に出ていたみたい。
「旨い、マジ旨いんだけど。」
「何コレ、狼肉と全然違う。旨!」
シグさんとリナさんは一心不乱に唐揚げを食べていく。
「お前ら、肉ばっかりじゃなくて野菜も旨いぞ。」
マグナさんは野菜炒めを掻き込んで行く。
どれどれ、と玉ねぎを一口食べる。瞬間、理解した。
玉ねぎを口に入れると、もちろん玉ねぎの味だけど甘味とコクが強い。凝縮されていると言うか何と言うか。炒めてあるのに、生の様にシャキシャキとした歯応えを残しつつよく火を通した時の甘味とコクを感じる。
次はピーマン。私は嫌いじゃないけど、好きでもない。細切りにされたソレは皮を噛めばプツリとした歯応えを感じ、内側を噛めば肉厚で野菜特有の甘さとピーマンらしい苦味を感じた。マイルドではなく、尖った強い苦味だけど力強い肉厚がアクセントになっていてコレはコレで美味しい。
ピーマン、玉ねぎ、キャベツ。そのたった三種類の野菜だけを使ったシンプルな野菜炒め。でもその野菜炒めは私の中の常識を打ち砕いた。
「どうして……どうしてただの野菜炒めなのに。こんなに美味しいの。」
水も野菜も肉も。全て次元の違う美味しさ……。高級食材や高級料理って訳でもない。ただただ美味しい。全てはアクア様のお恵み……?
「お待たせしましたー!本日のオススメのカモネギの温泉卵です。ダシを掛けてお召し上がり下さい。」
今日一番の驚きと感動でした。
言葉は要らない……。
「ごちそうさまでした。」
満腹です、ちょっと食べ過ぎてお腹がキツイです。でもそれはみんなも同じでした。リーズナブルなお値段でこの味。つい食べ過ぎてしまうのも仕方ありません。
「あー、ここに住みてえ。」
テーブルに突っ伏してテーブルに頬擦りしながらしみじみとシグさんが呟く。私も少しそう思いました。ウェイトレスでもしながらここで暮らすとか一瞬頭に浮かびました。誘惑に負けちゃダメです!!危ない危ない。
「でも、狼ステーキも捨てがたい……。あの歯応えと旨味がなぁ。」
わかる。岩塩だけのシンプルな味付けと力強い肉の旨味、それでいてクセが無い逸品。
「それに関しては同感ね。」
ミアさんが言い、リナさんとマグナさんも頷いている。
「さて、今日はコレでお開きとしよう。明日は早めに朝食を済ませミツルギ君を訪ねよう。」
解散し、私達はそれぞれ部屋に向かった。
「っさ、温泉行くわよ!」
ちょっとお腹がキツイので休憩したかったけど、ミアさんに引き連れられ温泉に向かいました。
部屋に備え付けのタオルと浴衣?アレ、浴衣?なんで浴衣があるんだろう……まあ良いか。浴衣に着替えタオルを持って先に向かったミアさん達を追いかけ大浴場へと向かった。
広々とした脱衣場でどうやら今は私達だけのようです。脱衣場の奥にはガラス戸があり、その奥がお風呂のようです。
この宿は残念ながら露天風呂ではありませんがなかなか広いようです。
壁に書かれた説明文では、当宿では露天風呂を廃止し覗き対策を強化しました、バラエティー豊かなお風呂をご用意したので御堪能下さい。と。
(食べ過ぎたから、お腹ポッコリしてるや。)
この身体は、出る所は出て引っ込んでる所は引っ込んでる身体です。そんな身体でガッツリ食べたら、そりゃお腹がポッコリするはずです。太らないよね?コレぐらい大丈夫だよね?でも後で筋トレしとこう。
私が鏡で全身をチェックしていると……。
「格差って残酷よね……。」
ミアさんが少し遠い目をして言います。
「ミア、大丈夫よ。世間には絶壁も居るんだから、私達は大丈夫よ。ええ大丈夫よ。」
リナさんも私の一部を見ながら呟きます。私に言わせると、二人ともあんなに食べたのにどこに行ったんだろうと思うくらい腰回りが細い事に驚くんですが。私と違ってポッコリしてないんですが、それは?
「まあ。良いわ、お風呂に入りましょう。」
脱衣場を出て、大浴場に行くと銭湯を思わせる内装でした。ズラッと並んだ洗い場と数種類のお風呂が並んでいます。
詳しくは割愛します。また弄られました。色々と。他のお客さんが来るまで延々と。そのせいでちょっと長風呂し過ぎたのでのぼせてしまいました……。
お風呂から出て浴衣に着替えた後、大浴場近くの休憩所の売店で『麦コーヒー牛乳』なる謎の飲み物を買った。
すっごく濃い麦茶のような風味とコーヒーみたいな風味で、でもコーヒー牛乳って言えばコーヒー牛乳かな?って感じでした。代用コーヒー的な奴かなコレ。有りって言えば有りかなぁ。
休憩所はゴザのような物が敷かれた板張りで、のぼせた二人はゴザの上で寝転がっています。ここはまだ女湯内なので人目を気にする必要も無いので二人とも随分とだらしない姿ですが、まあ大丈夫でしょう。
「お二人とも、大丈夫ですか?」
「うーん、もうちょい休憩させて……。」
「私も……。」
私は二人の頭付近に座り、両手に団扇を持ち二人を扇ぎます。
「これに懲りたら、今度からあんまり長風呂しないようにして下さいね?」
「善処するわ…。」
懲りてないや。
「お願い、しますね?」
扇ぐのをやめ、ニッコリ笑って念を押します。
「はーい……。」
力なくミアさんが答えました。今回はこれぐらいで許してあげましょう。
暫く休憩して私達は部屋に戻りました。
「二人ともあんまり私で遊ぶのはやめて下さいね?」
慣れてきたとは言え、二人に密着されるのは恥ずかしいし緊張してしまいます。この場合は女の子に密着されるのはって事で。今は私も女の子だから別に特に問題無くてもキョドってしまいます。
それを二人にからかわれて更にオモチャにされてしまいます。ドキドキじゃなくてハラハラと言うべきか。
「マイムって反応が良いからついね。」
「ごめんね。今度からは控えるよ。」
控えるって言うかやめて欲しいんですが……。
「ところで二人が会ったキョウヤって言う男の子のってどんなのだった?」
「どんなって?うーん。真面目そうな子かなぁ。年はたぶん17くらいかな。マイムに会った時にアクア様と勘違いしてたよ。あの子もマイムと同じようにアクア様に会ったのかな。」
「その筈ですよ。そのときにアクア様から剣を授かったはずですから。」
「ふーん。まあ会えば分かるか。会ったらその子にも日本のことを聞いてみたいし。」
「また明日、また明日よ。ふわぁ、眠くなってきた。私は先に寝るわお休み。」
こうして、アルカンレティアでの1日が終わりました。温泉と料理を堪能し充実した1日でした。今日は今までで一番アクア様に感謝します。ほんっとうに美味しい恵みをありがとうございます!
明日も美味しいご飯が食べられるなんて、幸せだなぁ。
心身ともに色々ありました。
身体の調子が悪いな、と思ったら早めの受診を。っていうのを実感しました。
忙しいからって放置してると大変な事になりますからね。