偽アクアの旅路   作:詠むひと

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 今日はいつもよりもかなり早く目覚めました。旅行やおばあちゃんの家や修学旅行とか、いつもと違う所で寝ると早起きする事ってありますよね?今日もそういう事なんでしょう。

 

 

 今は夜明けの少し前、窓から見える空は藍色で、太陽の登り始めた側は赤くなり始めている。

 

 窓を開けると、早朝の少し冷たくも清浄な空気が入り込む。

 少しずつ白くなる空と徐々に明るくなる街並み。青と白を基調とした街並みは夜の闇の中では暗く沈んでいたけれど、朝日に照らされると美しさを取り戻していく。

 

 美しい街並みはこのまま絵葉書等にして飾ってしまいたくなるほどでした。私には絵心は無いので、そういう絵葉書でも探そうと心にメモしました。まあ、昔も今も絵葉書を送る相手なんて居ないんですけどね……。

 

 

 

 背後で誰かが動く気配がした、起こしちゃったかな。

 

 

「ふぁぁ、マイム?今日は早いね、おはよう。」

 

「おはようございます、リナさん。起こしちゃいましたか?」

 

 ベッドで起き上がり伸びをしているリナさんに声を掛けた。

 

「いや、いいよ。いつも夜明け頃に起きてるし。ミアはまだ寝かせておけばいいよ。」

 

 ベッドから窓際へとリナさんが来て、私の横に立った。

 

「こうして見てると昼間の喧騒が嘘みたいだよね。見てる分には綺麗な街なのになぁ。」

 

「ふふ、そうですね。でも私は賑やかなのも好きですよ。」

 

「まあ、悪い事じゃ無いんだけどね。私は朝風呂行くけど、どうする?」

 

「私はもう少しここに居ます、ミアさんだけ置いてきぼりにするのも気になりますし。」

 

 もう少し、この街並みを目に焼き付けておこう。次に来る時はこんな風にのんびり出来るとは限らないし。今はただ、ゆっくりしていたい。

 

 

 夜が明け、徐々に人が外に出てくる。土産物屋は朝から開店準備を始め、食堂や屋台からは美味しそうな匂いが風に乗り届き始める。

 

 今日も1日が始まる。さあ、今日も1日頑張ろう!

 

 

 私が気合いを入れると、ミアさんがやっと起きた。

 

「マイムおはよう。」

 

「おはようございますミアさん。リナさんは朝風呂に行きましたよ。目を覚ます為に一緒に行きませんか?」

 

「あー……うん、いくわ。」

 

 まだ寝ぼけているミアさんを促し朝風呂へと向かいました。

 

 早朝という事もあり、お風呂には人気が疎らでした。私達だけでなく他のお客さんも居ましたが眠そうな人や朝から元気な小さな女の子の声やお母さんに連れられた小さな男の子が居ました。

 

 

 あれ幼稚園に入る前くらい小さな時なら別に良いけど、幼稚園くらいになると女だらけの中に連れて行かれて恥ずかしいし、居場所が無い様に感じてお母さんの側じゃないと落ち着かないんだよね……。あ、お姉ちゃんが手を繋いで連れて行ったや。

 

 

 そんな懐かしさと恥ずかしさを思い起こす光景を眺めつつ服を脱ぎ終え脱衣場を出る。

 

 

 さっきの小さな男の子と女の子はキャッキャと笑いながら身体を洗い周囲は微笑ましそうに横目で見つつ思い思いに温泉を楽しんでいる。

 

「おっ、二人も来たね。私は先に上がるよ。」

 

 リナさんは私達に気付くと声を掛け出ていった。私はまだ眠そうなミアさんを連れ適当な場所に決めた。

 

「みんな、朝から元気だよね。その元気を分けて欲しいわ……。」

 

 低血圧気味なミアさんは覚束無い手で身体を洗い始める。

 

 私達は手早く身体を洗い終え、湯船に浸かる。さすがのミアさんも朝から私を弄ったりはしないのでゆっくり温泉を楽しめた。

 

 

 早々に温泉を後にし、部屋に戻り着替え直して食堂に向かう。

 

 

「二人とも、おはよう。朝食を取りながら今日の予定を確認しよう。」

 

 食堂にはマグナさん達三人が揃っていて紅茶等を飲みつつ私達を待っていた。

 

「おはようございます、遅くなってすみません。」

 

「いや、構わないよ。ミアも連れてきて貰ったしな。」

 

 どうもミアさんは朝寝坊の常習者なようで、ミアさんは苦笑いしつつ聞いていた。

 

「マイムはどっちにする?」

 

 何の事かと思うと、シグさんに紅茶とコーヒーのどちらが良いかと聞かれた。

 

「じゃあコーヒーでお願いします。」

 

「ほら見ろ俺の言った通りだったろ?あ、ミルクと砂糖は?いるか。うん、わかった。」

 

 シグさんが私の分のコーヒーとミアさんの紅茶を注文している。何があったのか聞くと。

 

 「いや何、紅茶とコーヒーどちら派かと予想しててな。私とリナは紅茶派でミルクティーだと思ってたがシグが正しかったようだ。シグが言うにはコーヒー派というかコーヒー牛乳が好きだと思うと言ってたが、どうだ?」

 

「当たってます。朝はいつもコーヒー牛乳でした。」

 

 ミルクティーも悪く無いけど、学校行ってた時はいつもコーヒー牛乳を作って貰ってた。温泉で売ってたのは麦コーヒーだったけど、こっちでも麦コーヒー牛乳かな。

 

 そんな事を考えていると、マグカップに入ったコーヒー牛乳が届いた。これは麦コーヒーじゃなくて普通のコーヒーの方だ、やっぱりコレだよね。

 

 

「では、今日の予定を話そう。少々予定を変更する。」

 

 昨夜の時点では、私とマグナさんとミアさんが響夜君を訪ね、後の二人は別行動だったけど。そこに変更があった。

 

「全員で彼を訪ねた後、大聖堂に向かう。私の両親は大聖堂で勤務しているからそちらからアクシズ教に話を通して貰う様に頼むつもりだ。それがダメならリムタス頼みになる。」

 

 

 不仲な両親との対話。ずっと避けて来た事。でも、いつかそのうちが来てしまった。

 四十代のマグナさんの両親は六十代半ばだそうです。この世界では六十代から七十代で人生をリタイアする人が多くなります。もう、そんなに時間は残されていなかったのです。ここで話が纏まらなかったら、もう死ぬまで会う事は無いと。

 

 なんだか寂しい話ですが、考え抜いて決めた事でしょう。私には何も言う権利はありません。ただ、上手くいく事を祈るだけです。

 

 

 その後、朝食を取りもう一度部屋に戻り装備を整え宿を出ました。

 もう早朝とは言えない時間で、大通りにはそこそこ人が出ていますが私達は裏通りを抜け目的地を目指します。

 先導していくのはシグさん。昨日の情報収集で裏通りはある程度把握したらしく彼を先頭に進みます。裏通りは観光客がほとんど通らないせいか地元の住民だけで勧誘等も見ることはありませんでした。

 

 裏通りを抜け表に出ると、そこは響夜君が泊まっているという宿でした。私達は宿の受付で響夜君を訪ねて来た旨を伝えると宿の人に食堂で待つように言われました。

 

 ただ待つのも何なので全員分の紅茶を頼み、少し待っていると……。

 

 

「やあ、マイム昨日ぶりだね。」

 

「あ、響夜君。おはよう。朝から押し掛けちゃってごめんね。」

 

 そこには響夜君と二人の女の子が居ました。二人とも、細身で可愛かったです。二人がパーティーメンバーの子かな。

 

「ふむ、君がそうか。私は灼熱の風のリーダーのマグナだ。昨日マイムから話を聞いてね、少々君と話をしたいと思ったんだ。時間を少し貰えないだろうか?」

 

 

 響夜君は背が高いけど、マグナさんはもっと高くてガッシリした体格をしている。席から立ったマグナさんは響夜君の前に立ち話をしているけど、ちょっと威圧感があるんだよね。響夜君が少し青ざめているのを見ながらそう思った。

 

 

「あ、はい……。良いですよ、僕は御剣響夜です。こっちの二人は僕のパーティーメンバーのクレメアとフィオです。」

 

 やっぱりあの二人がパーティーメンバーだったのか。

 

 勝ち気そうな女の子が話し掛けてきた。

 

「ふーん、あなたがマイムね。確かに可愛いけど、響夜は渡さないんだから!」

 

「??何の事ですか?響夜君は友達ですけど、別にあなた達から取ったりなんてしませんよ。」

 

 なんの事だろう?

 

「クレメア、今は黙っててくれ。マグナさん、場所を変えた方が良いでしょう。この宿には商談用の広間があります。僕が話をつけて来るのでそこで話しましょう。」

 

「わかった、すまないな。」

 

 響夜君は二人を連れて受付で話しをしている。その後私達は商談用の広間に入り改めて自己紹介した後、マグナさんと響夜君が話している。

 

 私達はクレメアさんとフィオさんと話す事にした。二人とも私をじろじろと見ていてちょっと落ち着かない。

 

 

「ふーん、で三人で街を歩いてたって訳ね。事情は分かったわ。」

 勝ち気で薄着過ぎる戦士職のクレメアさん。

 

「ところでずっと気になってたんだけど、そのフード脱いでちゃんと顔を見せてくれない?」

 ちょっと気弱そうな盗賊職の女の子のフィオさん。

 

 ここなら人目を気にする必要も無いし、と思いフードを脱ぐ。二人は目を丸くし、私と私の背後を視線が行ったり来たりしている。

 

「ほんとだ。」

 

「うそ……。」

 

 ?なんの事だかさっぱりで困惑する。私が困惑していると、ミアさんに肩を叩かれ後ろを指指される。

 

「あのアクア様の肖像と見比べてるのよ。ほら、マイムとアクア様って瓜二つでしょ。」

 

 言われて振り返ると、背後にはアクア様の肖像画が飾られていた。あの日見たアクア様そのものという程にそっくりな絵だった。もしかして日本人が書いたのかな?

 

「キョウヤが言ってた事はホントだったんだ。」

 

 さっきから話が見えない。なんとなく二人の視線が和らいだ気はするけど、説明が欲しい。

 

「あのね。昨日キョウヤが街で女神アクアの眷族に会ったって言ってたのよ。普通に考えたら女神の眷族なんてそうそう出会う物でも無いでしょ?だからホントかなって。」

 

 フィオさんがそう説明してくれた。なるほど。

 

「それにしても、ここまで瓜二つだと流石に信じるしか無いわね。この街にある女神アクアの肖像画ってさ、勇者サトウが当時の国一番の画家に書かせた絵を元にしてるんだってさ。王都でも何度か見た事有るけど、写しじゃない本物の絵は国宝になってるんだってさ。」

 

 

 へえー、その勇者サトウという人はよく知らないけど、アクア様に会った人なんだと分かる。絵が国宝の写しと聞いて、なんだか畏れ多くなる。

 

「ま、そんな訳だからジロジロと見ちゃってごめんね。」

 

 クレメアさんが謝ってきたけど、気持ちは分かるので特に問題は無い。

 

「私達はこの後で大聖堂の方に行く予定が有るんだけど、一緒にどう?あなたの顔を見たら、アクシズ教徒の人達ひっくり返るんじゃないかしら?」

 

 ちょっとイタズラな顔をしてクレメアさんが提案してくる。

 

「私達もこの後で大聖堂に行く予定ですし、マグナさん次第ですが良いと思いますよ。」

 

 話が分かるわね、と言われ改めて宜しくと言われクレメアさんと握手した。そんな事をしているとマグナさん達の話が終わったようです。

 

 状況確認とこの後一緒に大聖堂に行く事が決まり、響夜君のパーティーを私達で囲めば勧誘も避けられそうなので正面から行くことになりました。

 

 最初はちょっと硬かった空気も適度に柔らかくなり気が楽になりました。フードを被り直して宿を出発しました。

 

 

 大聖堂か、ステンドグラスとかあるなら見学したいなぁ、後で聞いてみよ。そんな事をぼんやりと考えつつ道を進みます。

 

 

 

 

 この時の私は肖像画と瓜二つという事がこのアルカンレティアでどれ程の混乱を巻き起こす事になるかだなんて、全く考えてませんでした。

 

 

 でも、たとえ考えていたとしてもどうしようも無かったと思うんです。

 

 

 覆水盆に返らずって言うじゃないですか、諦めましょう。そうしましょう。

 

 

 

 




今日は若干薄味な話ですが、ズルズルと伸ばすと書く気力が削られて行くので短めでも投稿します。
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