偽アクアの旅路   作:詠むひと

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職人と放蕩息子

 

 私達は大聖堂へとたどり着き、響夜君達とは一時別れました。彼らは恩人に挨拶に行くそうです。

 

 私達はマグナさんの両親が勤めているという場所へ向かいます。そこはアクシズ教の歴史やアクア様に関する伝承の収集や研究を行う部署だそうです。

 マグナさんが面会の手続きをしている間、私達は待合室に飾られた宗教画を見学している事にしました。

 

「これは、えーっと。女神の審判、っと。女神アクア自らが若き勇者候補達に生前の行いを語って聞かせ、自身の進む先を示している様子、かぁ。」

 

 死後の世界での様子を再現した絵画のようです。アクア様の前に居る男性は着物を着て刀を持っています。江戸時代とかそのへんなんですかね、次の場面ではアクア様の手を取り跪く様子が描かれています。

 

「こっちは神の楽園。なんか都会っぽいような……。」

 

 こっちの絵は東京とかの高層ビルっぽいけど、なんか違う建物が並ぶ風景が描かれています。なんというか、高層ビルを見た事無い人が伝聞でイメージで書いたとでもいう感じ、かな。たぶんこれはこの世界の人が書いたんじゃないかな。

 

 

「わたしの光。」

 

 アクア様の肖像画です。全体的に光輝いているのを表現しているのか輪郭が白く浮かんでいます。正面を向いて手を胸の前で組んだアクア様が微笑んでいる絵です。

 

 

 

「どうですかな?これが我々の成果の一部なのです。ここに飾られているのは各地の遺跡や街の跡等に埋もれた資料や絵画を修復再現したものなのです。」

 

 絵画を見学していた私達に声を掛けたのは真っ白な髪の老紳士、修道士が着る様な服の上から色々な物が入った前掛けを着た人物です。

 

「皆様が不肖の息子が率いるパーティーの方々だと聞いています。ふむ、息子と違ってこれらの絵の価値が分かるようですな。これらがどれだけの歴史的価値があるのか、残念ながら息子は未だに理解していないのが甚だ残念でなりませんな。」

 

 

 どうやら、マグナさんのお父さんのようです。やれやれと手を振る彼の後ろでマグナさんが苦虫を噛み潰した様な顔をしているのがみえます。

 

 

「親父、その事は今は関係無いだろっ!」

 

「いーや、大有りだ馬鹿者!水の聖霊の危機?辺境の緊急事態?アクシズ教のなんたるかも理解しようとせん奴の話など聞く価値も無いわ!アクシズ教に歩み寄らんと逃げた奴が、何を今更力を貸せだのと馬鹿にしておるのか!?」

 

 おじいさんはマグナさんに怒鳴り散らし、早口に言葉を続けます。

 

「儂等が代々歴史を紐解き、埋もれた歴史を甦らせんと努力しておるのを、埃まみれの時代遅れだと罵った事は忘れとらんぞっ!アクシズ教徒は勝手気ままで自己中心的?お前の事だろうが、マグナッ!お前の論理だとお前自身が紛れもないアクシズ教徒だろう?違うのか?」

「誰しも、自身が熱中する事なら周りが見えなくなる事などあるだろう。なんとしてでも掴み取る為に邪魔なエリス教徒共を蹴散らして何が悪い?遺跡を独占?当然だろう。全てはアクア様の威光を広める為なのだぞ?それ以上に優先すべき事など無かろう?」

 

 

 

 所々マグナさんが反論しようとして、それをおじいさんが封殺して口論しています。

 

 

 目の前で繰り広げられる親子喧嘩を見てると、職人とそれを継ぐのが嫌で逃げ出した息子の図が浮かびます。口を出したらいけない空気です。

 

 

 空気を読んで、成り行きを見守っていると。おじいさんが私に声を掛けます。

 

「お嬢さん。お嬢さんは過去の歴史が消え行く事をどう思う?寂しいと思わんかね。先人の残した美術品や工芸品が土に埋もれ塵芥になるのは、忘れ去られるのは悲しくないかね?」

 

 

「私は、忘れ去られるのも塵芥となり埋もれるのも嫌だと思います。だってそれは、生きた証が消えてしまう事だと思うから。たとえどんな小さな事でも、私は足跡を残したい。」

 

 誰にも目を向けられずに無視され続けられるのは、きっとそれらを作った人達にとって貶されるよりも悲しい事だと思うから。せめて、せめて手にとって見てくれたら。欲を言えば誉めて欲しい。そういう事だと思うから。

 

 

 

「ほら見ろ!このお嬢さんはちゃーんと、価値が分かっとるだろ!お前と違ってな!お前の話は聞くが聞くだけだ、儂はこのお嬢さんから話を聞く。このお嬢さんから聞いた事を上に相談するぞ。」

 

「ささ、お嬢さん方、こちらへ。ああ、アイツは放って置けばいい。」

 

 私達はおじいさんに促され応接間に通されました。

 

 

 

 

 窓から射し込む光を背にしておじいさんがソファーに座り、テーブルを挟んで私達もソファーに座りました。

 

「では、自己紹介をしよう。儂は修復再現課の責任者をしておるレパラティオンだ。お嬢さんが女神の眷族と聞くが、フードを取って顔を見せてくれないか?水の精霊しかり眷族とは主たる神の似姿を取ると聞くからな。」

 

 

「わかりました。」

 

 そうして私はフードを脱ぎました。フードを脱ぐと彼と目が合います。思わず目を反らしそうになるのを我慢して、じっと堪えます。

 

 私の顔を見たレパラティオンさんは息を呑み、私の顔を凝視します。30秒程経った頃、漸く顔を反らし口を開きます。

 

 

「私はマイム。女神アクアの導きにより、この世界に降り立ちました。」

 

 

「なるほど、否定の材料は見つからぬ。儂は十にもならん頃から工房に出入りし毎日アクア様の肖像画や像を目にし、数多の資料を読み解いてきた。アクア様の真の姿を再現する為にな。そして辿り着いたのは勇者サトウの遺した女神の肖像画だ。アレが女神アクアの真の姿を写し取っていると言えるだろう。」

 

 ため息を一つ吐き、私の顔を眺めながら言葉を紡ぐ。

 

「儂は職業柄、骨董を扱う商人と長年やり合って来ましてな。人が嘘を吐いているかを見抜く目には自信が有るのです。そんな儂の目から見ても、マイム様。貴女は、貴女は本当に眷族なのか?女神アクア本人ではなく?儂はこの胸に渦巻く感動を上手く伝えられそうには無い。貴女自身が眷族だと言うなら眷族なのだろう。だが、他の者達が貴女を見たら僅かに幼いなど誤差でしか無い。確実に貴女を女神アクアとして奉り上げるだろう。ああ、儂はこうしている今にも貴女の元に跪きたい衝動に駆られそうになる。だが、儂は研究者として真実を見極める義務がある。」

 

 レパラティオンさんは少し顔を赤くしながらそわそわして何かをグッと堪えるようにしている。

 

「私の事を信じて下さるなら。私が伝える危機の事も聞いてくれますか?」

 

「もちろんです。さあ、貴女の心を苦しめる原因を教えて下さい!」

 

 クワッと目を見開きながら身を乗り出し気味にして促された。ちょっとビクッとしました。

 

 私は辺境の現状と魔王の手先と戦う為の戦力と浄化の使える人員が足りない事を切り出します。

 

 

「なるほど、なるほど。浄化なら、我々アクシズ教団に打ってつけですな。戦力も各地のアクシズ教徒達の伝を頼ればそれなりに居るでしょう。それに、このアルカンレティアには浄化の使い手も高レベルな戦士もプリーストもわんさか居ます。ですが万全を期すならより層を厚くした方が良いでしょうな。」

 

 うんうん頷き、手をポンっと打ち顔を上げました。

 

「これから、教団本部に直談判に行きましょう。なあに、心配は要りません。マイム様が同行して下されば自然と道は開かれるでしょう。そのお顔を見れば味方が増える事は有れど道を塞ごうとする者は皆無でしょう。」

 

 善は急げ、とばかりにレパラティオンさんは立ち上がります。

 

「さあ!行きましょう!」

 

 扉を勢いよく開き通路に出ていってしまいました。私達は唖然とした顔でそれを見送り、お互いに顔を見合せ急いで後を追いました。

 

 

 通路の向こうから声がします。

 

 

「馬鹿息子!とっとと教団本部に行くぞ!さっさと支度しろ。」

 

 声を頼りに追いマグナさんと合流します。マグナさんに軽く事情を説明し教団本部へ向かいます。周りに居た修復部署の職員さんは何事かと顔を見回し、私に気付くと目を見開きそして私に近付いてきます。

 

「あ、あ、あの。アクア様ですか?私は疲れ過ぎて幻覚を見ているんですか?でも幻覚でもアクア様にお会い出来て、あああ、うわぁ。アクア様!アクア様ぁ!お会い出来て光栄です。アクア様ぁ、お慕いしています。私達はいつだってずっとずっとアクア様をアクア様ぉぉぉぉ。アクア様ーーーー!」

 

 

 こんなテンションの職員数人に囲まれギョッとして萎縮してしまいますが、彼等の興奮は収まりませんでした。ミアさん達は私を暴徒と化した職員から護衛してくれています。

 声に釣られて他の職員も集まって来て収集が着かなくなってきました。

 もう、30人近いでしょうか。私があうあうしているとレパラティオンさんが一喝し注目を集めます。

 

「鎮まれぇぇぇ!!これより、女神アクア様の眷族たるマイム様を伴い教団本部に殴り込みに行く!お前達の醜態はぁ!マイム様を通してアクア様にも伝わっていると思えっ!!教団本部に向かうにつれ邪魔者達も居るだろう、お前達はマイム様の道を遮る愚か者が居たら蹴散らせ!行くぞ者共ぉ!!!」

 

  雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!

 

 時間と共に増えていく教団員達が上げる雄叫びが建物を震わし響き渡る。

 

 

 

 私は辛うじて統制の取れた暴徒手前な集団を引き連れ、何故か殴り込みに行く事になりました。

 

 

 

 ああ、平穏に。平穏に行きましょう!聞いて!ねえ!聞いてぇぇぇぇ!

 

 

 私の叫びは雄叫びに掻き消され誰にも届きません。

 

 

 

 そうして気炎を上げる集団に囲まれ大聖堂内を練り歩き続々と人が増え続けていきます。私の事が見えていない人達の声が時々届きます。

 

「オーラだ!アクア様のオーラを感じるぅぅぅぅ!うおぉぉぉぉ!」

「おっ!なんだ?なんだ?なんだか知らねえけど面白そうだ。えっ!アクア様!アクア様が居るの?マジで?マジなの!よっしゃぁぁぁーーー。」

「よっしゃぁぁぁーーー。仕事サボれるぜぇぇぇ!」

「今チラッと見えた!アクア様ぁぁぁぁぁぁーーーー!」

「」「」「」「」・・・・・・

 

 

 どんどん増えて行きます……。

 

 どうなっちゃうんだろ……。ああ、どうか。怪我人が出ませんように。

 

 

 

 




スペイン語で修理⇒Reparación
レパラティオン

狂信者の坩堝で素顔を晒したらまあ、大混乱でしょうなぁ……。

ところで、行間の空白ってこれぐらいでいいんですかね?
色々な人のを見てると結構行間が広めなのが多い気がするんですよね。
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