偽アクアの旅路   作:詠むひと

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あっという間に半月以上経ってしまった。


うん。知ってた。

 

「……であるから、金的というのは非常に危険なのは分かって貰えたかな。君も思い人を手に掛けたくはないだろう?」

 

 

 

 今僕は恩人であるゼスタ様の執務室に居る。

 

 彼は僕らに金的の危険性について熱く語っている、潰れたらショック死することもあるという話は日本でも聞いた覚えがある。そんな理由で死ななくてほんとに良かった……。

 

 

「……つまり、内臓に直接衝撃が加わるから……」

 

 ゼスタ様の講義は続く。要約すると股間への衝撃は男女共に危険性が高く、防御についてもっと考えた方が良いけど冒険者はそれを甘く見る傾向が強いと。クレメアの服装を例に上げ、露出が多いというのは動き易い反面防御が疎かになるのは常識として、酸や溶解液に対しては致命的だと言う。

 薄くても一枚着ていれば、仮に溶解液が掛かっても即座に脱ぎ捨てれば無傷または軽傷で済むだろうと。僕に対してもリーダーならばそれらを考えて防具を選ぶように言われた。

 

 僕は至らないことだらけだと、改めて思う。僕はリーダーなんだからもっと広い視野を持たなければいけない。今回の事もそもそも僕が悪い、ここでゼスタ様の講義を受ける事によって得られる知識を何とかして活用しなきゃ。

 

 

「君達は若い女性であるのだから意中の男性の気を引きたいのだろうが、君達が怪我を負えば誰が悲しむのかを少しだけ考えて欲しい。ミツルギ君、君も彼女達が傷付く所は見たく無いだろう?お互いがお互いを思うなら安全性を第一に考える事が最も大切だと私は思う。」

 

 

 ゼスタ様はクレメアの腕をとり、人差し指を立てて僕らに問を発する。

 

「失礼。では、具体的に何を装備すべきかだ。まずはクレメアさん、彼女は前衛で剣を使うが盾は使っていない。ならば軽戦士の機動力を生かしたままで……」

 

 

 

 僕達がゼスタ様の講義を受けていると、どこかから沢山の人の声というか騒ぎが聞こえて来る。何だろう?と思っていると、秘書的な事をしていた女性がノックも無く慌てた様子で部屋に入った。

 

「一体今度は何をやらかしたんですかっ!聖堂内で暴動みたいな事が起きてますよ!しかもこっちに向かって来てるみたいで、止まらないって!ああっ、来た!」

 

 女性がそう捲し立てていると、外からは……。

 

「おらぁ!ゼスタァ、エロジジイ出てこいやぁーー。」

「退けえ、さっさと開けろぉ!」

「この御方を何方と心得る、お前ら退け!」

「お前それでもアクシズ教徒か!この御方を見ろ!」

「まだ抜刀はするなぁーー!」「どけー」「抑え込めぇーー」「お前ら全員牢屋にぶち込むぞぉーー」「今なら見逃してやる!さっさと仕事に戻れっ!」「うおおおおお」「おらぁぁ」「」「」「」

 

 

 外では守衛をしている僧兵と揉み合いが起きているらしく、怒号が飛び交い壁やドアを叩く音が聞こえて来る。

 

「ああ……。もう来たぁ。」

 

 秘書の女性は震えて踞り、ゼスタ様の方を見ている。

 

 

「いったい何事なのだ、すまないが君達は彼女を頼む。」

 

 ゼスタ様は立ち上がり、杖を持ち扉の前に立つ。

 僕達も立ち上がり、秘書の女性を背に庇うようにして武器に手を掛けた。

 

 

 外の喧騒はますます激しくなり、抉じ開けようとしているのか扉がガタガタと揺れる。

 

 

 僕は固唾をのみ、いつでも動ける様に体勢を少し低くする。クレメアやフィオと目配せしつつ待機する。

 

 

 

 喧騒が続いていたが突然、外が静まり返った。

扉の外には依然として多数の人の気配があるが扉の前からはまるで音が消え去ったかの様に静寂が広がる。

 

 僕達が訝しんでいると外からは啜り泣くような声が聞こえて来た。一人一人の声は小さくとも重なり合い扉を越えて声は届く。啜り泣き赦しを請う声、ただただ謝罪を繰り返し床と硬い物の擦れ合う音。

 

「一体、何が起きたんだ……。二人とも、まだ気を抜かないように。」

 

 冷や汗が流れ落ちて行く。暴動かと思えば外からは啜り泣きが聞こえて来る始末。何か不気味な感じがして冷や汗が止まらない。何なんだ一体……。

 

「ガチャン」

 

 扉から重厚な音響く。

 

 扉の鍵が開かれたっ!来るかっ!

 

 音を立てて両側の扉が開かれて行く。剣の柄に添えていた手は、今や柄を握りいつでも抜剣出来る様にする。

 

 だが、その一瞬後に見えた顔を見て、僕は虚をつかれた。

 

 

 開かれた扉の外には僧兵が整列し、扉を潜った彼女のすぐ後ろには屈強な僧兵と白いローブを着こんだ男性司祭や前掛けを付けた老紳士、煌びやかなローブを着こんだ男性等アクシズ教団の関係者が続く。

 

 

「こんな昼間に聖堂内を騒がせる大騒動とは一体如何なる要件ですかな?」

 

 ゼスタ様は一瞬僅かに声を震えさせながらも、落ち着いて声を発する。その視線は先頭に立つ彼女に釘付けとなっている。

 

 

「朦朧したか?ゼスタ。この御方を見てそんな事しか言えんとはな。」

 

 そう言い失望したと言ったのは白いローブの男性。大きなため息を吐き頭を抑える。

 

「私達は一目見てわかったというのにな。」

 

「久方ぶりに姿を現した精霊の言葉は貴方も聞いた筈だろう?」

 

 煌びやかなローブの男は信じられないコイツマジか?という目で見ている。

 

「私は数多の信者を導く者として、伝聞だけで判断するような軽卒な行動は取れん。自らの目で見て聞いて判断せねばならない。如何に精霊と言えどもそれだけを判断基準とする訳にはいくまい。」

 

 上に立つ者としての義務である。とピシャリと言い放つがその声は震えている。

 

 彼女から事情を聞いている僕には何となくわかった。

 彼は今、自らの信仰心と指導者としての立場で板挟みになっているのだと。先程から短い間隔で唾を飲み込む様子と絶え間なく流れる冷や汗から極度の緊張状態にあると見える。それでも自らの職務を果たさんとしている。

 

 

「私達アクシズ教団が真に守るべきは、教義を守り暮らす数多の民だ。民達を惑わせる真似は慎まねばならん、だがその手本となるべき立場の者がこの様な騒乱を引き起こすのは如何なものかと思うが?諸君申し開きは無いのかね?」

 

 

「っぐ……。」

 

 言葉に詰まるローブの男。そこへ僧兵が一歩前に出つつ言葉を続ける。

 

「騒乱を引き起こした下手人が邪悪な心を持つ者ならば、我等はこの命に換えても打ち倒したであろう。」

 

 壮年の僧兵は一度言葉を切り、ゼスタ様を見据えて続ける。

 

「だが、その下手人が我等が信仰するアクア様であればどうだ?先日アルカンレティアで開かれた、もしアクア様が○○だったらシリーズコンテストの妹後輩孫娘系アクア様と瓜二つであれば?しかも清純かつ心優しき美少女が眦に涙を浮かべて上目遣いで私を見上げてきたら?」

 

 冷徹に職務を遂行出来るのかね?

 

 

「私には無理だ、私は人間だ。私はアクシズ教徒であり自らの心に従う、私は理性と感情ある人間だ。例え職務を遂行すべきでも私の心はこの手を振り下ろす事を拒むだろう。ゼスタ様が自ら見聞きして判断するというならば、ここで我等が証人となって見聞きすればいい。アクシズ教団僧兵隊の前で、だ。私は常に真偽の鈴も持っている、ここなら偽証も出来ぬだろう。」

 

 

 

 さあ如何に?

 

 

 

「良いだろう、この件は不問としよう。アクシズ教徒として自らの心に従うならばそれを責める事は出来ぬ。」

 

 ゼスタ様の声はもう震えていなかった。

 

「では、このギャラリーの中で悠長にソファーに座って問答するものでも無かろう。このまま立ったままで良いかね?」

 

 

 彼女は頷き、ゼスタ様の正面に立つ。その距離は僅か2メートル程だった。

 

「私はゼスタ、このアクシズ教団の最高司祭を勤めるアークプリーストだ。私は数多の信者を導く者としてここに立っている。真偽の鈴もある、ここは互いに腹を割った話し合いと致しましょう。」

 

 

 周囲は皆、固唾を飲んで彼女の言葉を待つ。一言足りとも決して聞き逃すものかと言う強い意志を感じる。

 

 

「このような大騒動になってしまいすみません。私はマイム。女神アクアの導きによりこの世界にゅ…………この世界に降り立ちました。」

 

 ああ、泣きそうになっている。彼女は顔を赤くしながら必死に堪えている、頑張れ。みんな応援しているよ。

 

 壮年の僧兵が持つ鈴に皆の視線が集まるが鈴は鳴らない。

 

「では君も女神アクアが導く勇者候補の一人ということかね?」

 

 そういえばマイムが日本人だったのか聞いて無かったな。たぶん彼女も僕と同じく元日本人なんだろうと思うけど、その容姿は……。

 

「いえ、私は女神アクアの尊さを広める為に来ました。アクア様からも魔王の討伐は勇者に任せておけば良いと言われています。」

 

 これにも鈴は鳴らない。彼女は勇者候補では無い?じゃあ、日本人でも無いのか?

 

 

「尊さを広める為?つまりはアクシズ教の布教の為であると?」

 

「うーん、微妙に違います。私はアクア様の尊さを広める為にアクア様の写し身となりこの地に来たのであって、アクシズ教の布教では無いです。なんと言えば良いのか、私はアクア様その人の素晴らしさを伝える為ですかね。」

 

 曖昧では有るけど何となく意味はわかる。僕もアクア様に感謝し憧れは持ってもアクシズ教徒になろうとは思ってないし、微妙なニュアンスの違いだろうかと。

 

「分かりました。では次に何故このアルカンレティアにお越しになったのですか?」

 

 

「それは……。私は今辺境を拠点にして活動しています。ですがそこで、魔王軍の手先により水の精霊が捕らえられ精霊のバランスが崩され人々の生活が脅かされています。ですが辺境の戦力では対抗するのに難があるそうです、その為手を貸してくれる人を探しにこの国に来ました。」

 

「では戦力の無心にアクシズ教団を頼りこの遠く離れたアルカンレティアに来たと?国さえ違う遠く離れた地へ我等の同胞を送れと?」

 

「否定はしません。虫の良いことを言っている自覚はあります。ここだけで無くギルド経由で他の都市や王都でも戦力を募る予定ですが、浄化魔法の使い手を求めているのも事実です。それと、私は……。」

 

 彼女は言い淀み、何かを迷っているようだった。

 

「私はアクシズ教団とアクシズ教原始派との和解の橋渡しの為に来ました。」

 

「ああ、あの異端者達ですか。もう五十年も経つのですがまだ生きていたんですか。彼等は来て居ないのですか?橋渡しと言うなら、異端者達の代表なり何なりが居ないと話にならないのですが。あと戦力を募る事は別に構いませんよ、志願する本人達の意志次第ですから。」

 

「今回は来ていません。私とパーティーを組んでいる仲間だけです。」

 

「そうですか、私は五十年前の分断は痛ましい事だと思います。ですが、双方共に多数の暴力事件が起こり犠牲者も出ています。当時被害に遭った人達の感情まではフォローしませんが、教団としては受け入れても構わないでしょう。同じ神を信仰する者同士でいがみ合っても良いことは無いでしょう。ですが、そうする為にも代表者を連れて来てください。」

 

「分かりました、ありがとうございます。次に来る時に連れて来ます。」

 

 彼女は勢いよく頭を下げてお礼を言った。ずっと神妙な顔をしていたけれど、その時の彼女は笑顔だった。

 

 

「さてと、だいたいの事情は分かりました。教団としては和解の協議次第ですが、協力しましょう。魔王しばくべしっ!です。魔王の手先を討伐することは教義的に正しいのですから。」

 

 雨降って地固まる、かな。話し合いの雰囲気も和らぎ漸く重い空気も払拭されて来た。横目でクレメアとフィオを見ると二人もほっとしていた。

 

 

「さてさて、真面目な話はここまでにしましょう。これ以上は原始派の代表者との話次第ですからな。マイム様はアクア様の写し身という事ですが、つまりはアクア様と同じ容姿という事ですかな?」

 

「ほぼ、同じです。今の私の容姿はアクア様よりも少し幼いようです。修復部門に飾ってある勇者候補を導くアクア様の絵が、そのまんまです。あの絵はほんとにアクア様そのものでしたよ。」

 

「では、マイム様は妹系アクア様という事ですな。」

 

「えっと、妹系……ですか。そういうのはちょっとわからないですが。見た目はそんな感じだと思います。精霊様達もアクア様と似ていて私を含めて姉妹の様に見えるとは言われましたけど。」

 

 さっきからゼスタ様の視線は何も無い空間をみたりマイムを見たりしているんだけど、何か有るんだろうか。

 

「なるほどなるほど。そのお隣にいらっしゃる精霊様と比べると確かに姉妹に見えますな。」

 

 隣?精霊?ダメだ、僕には何も見えない。

 

「長女の精霊様、次女のアクア様、三女のマイム様。美少女三姉妹ですな。」

 

 

「あ、えっと。お姉様の事見えてたんですか?」

 

「もちろんです。精霊様がお姉様ですか、これはますます……。精霊様が傍にいてしかもそっくりな容姿ですから疑う事も無くアクア様の眷族なのは分かりましたが、自ら見聞きする必要がありますから。」

 

 じゃあ最初から分かってたのに、マイムを詰問していたのかと思うといくらゼスタ様でも少し腹立たしい。

 

 

「最初から分かってたんですか……。」

 

 ちょっと疲れた様にマイムが頭を抑えた、他の人達もげんなりした顔をしている。

 

 

「ほう、では分かっててマイム様に威圧的な態度を取っていたと?」

 

 壮年の僧兵が額に青筋を浮かべて言った。

 

「アクア様の眷族に不敬な態度を分かってて取っていたのか、へー最高司祭ってそんなに偉いんだっけねえ。」

 

「ちょっと面貸して貰えんかゼスタ。」

 

「まずは牢屋にぶち込むべきは貴方ではないか?大量の苦情や訴えを精算する時が来たんじゃ無いか。」

 

 白いローブの男、前掛けの老紳士、僧兵が言う

 

 僧兵達が音も無く部屋に進みゼスタ様を包囲した。

 

「真面目な話は終わりだ、引っ捕らえろ!」

 

 僧兵が一斉に動きゼスタ様を捕まえ、ロープでぐるぐる巻きにしてしまった。何か喋ろうとした所を口に布を押し込まれ、連行されて行ってしまった。

 

 壮年の僧兵が僕の前来る。

 

「君達、大丈夫か?ゼスタ様に何かされなかったか?」

 

 どういう事かと問うとゼスタ様はセクハラの常習犯の上、両刀使いで異常に広いストライクゾーンとメスオークにすら興奮出来る異常性癖者で要注意人物だと言われた。油断させて巧妙なセクハラと自然なボディタッチをする危険人物だと言われた。正直、心当たりは有るけど今回は恩が有るし黙っておこうと思う。

 何か言おうとしたクレメアを引っ張って僕達は執務室から出て、宿に帰る事にした。

 本当はマイムと話したかったけどそんな空気じゃ無かったし、教団関係者からも無言の圧力を感じた。

 

 

「ねえ。キョウヤー、何で黙ってたの。」

 

「言いたい事はわかるけど、僕達はあの人に恩が有るんだ。今回だけはそれで相殺にしたんだ。でも、次からは遠慮しなくて良いよ。」

 

「はぁ、わかったわ。でも!セクハラはキョウヤにもしてたんだからね!」

 

 !?いつ。いや意識が無い時か?

 

「クレメア、それはもしかして……。」

 

「触診って言ってたわ。でもやけに長いし、その……タマ以外も触ってたんだから。」

 

 うん、要注意人物だ。忘れないようにしよう。

 

 

 

 僕達は勧誘合戦を避けながら宿に戻って行った。

 

 

 ああ、マイムと話したかったなぁ。

 

 

 





ゼスタ様はセクハラジジイでもそこまでの地位にいる以上は能力的にはあるんだろうなと。

今回はミツルギ視点でお送りしました。
次回はマイム視点でいこうと思います。

嘘発見器の魔道具ですが、同じ機能で色々な形が有ってもいいんじゃないかと。
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