偽アクアの旅路   作:詠むひと

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結局、一月以上掛かってしまいました。すみません……。

前半は前回の視点変更でマイムの視点からです。


信仰のカタチ

「私はゼスタ、このアクシズ教団の最高司祭を勤めるアークプリーストだ。私は数多の信者を導く者としてここに立っている。真偽の鈴もある、ここは互いに腹を割った話し合いと致しましょう。」

 

 

 この人がアクシズ教団で一番偉い人か、あぁ緊張するなぁ……。あの鈴って嘘吐くと鳴るやつだっけ。

 

 

 周りは誰も喋らない、皆が私の言葉を待ってるんだ。

 

 

「このような大騒動になってしまいすみません。私はマイム。女神アクアの導きによりこの世界にゅ…………この世界に降り立ちました。」

 

 

 

 ああ、肝心な所で噛んじゃった……。恥ずかしい……。

 

 

「では君も女神アクアが導く勇者候補の一人ということかね?」

 

 

「いえ、私は女神アクアの尊さを広める為に来ました。アクア様からも魔王の討伐は勇者に任せておけば良いと言われています。」

 

 

 勇者になれなんて言われて無いし、嘘じゃないよ。うん、鈴は鳴らないねセーフ。

 

 

「尊さを広める為?つまりはアクシズ教の布教の為であると?」

 

 

「うーん、微妙に違います。私はアクア様の尊さを広める為にアクア様の写し身となりこの地に来たのであって、アクシズ教の布教では無いです。なんと言えば良いのか、私はアクア様その人の素晴らしさを伝える為ですかね。」

 

 

 そもそも、アクシズ教の存在自体知らなかったし……。それにちょっとニュアンスが違うしね。でも、ここ(アルカンレティア)のアクシズ教徒の人達を見てたら、もしかしてそんなに違わない?なんかファンクラブみたいだし。

 

 

 

「分かりました。では次に何故このアルカンレティアにお越しになったのですか?」

 

 私の目を見ている、なんだか心を見透かす様に感じる。

 

 

「それは……。私は今辺境を拠点にして活動しています。ですがそこで、魔王軍の手先により水の精霊が捕らえられ精霊のバランスが崩され人々の生活が脅かされています。ですが辺境の戦力では対抗するのに難があるそうです、その為手を貸してくれる人を探しにこの国に来ました。」

 

 

 

 

「では戦力の無心にアクシズ教団を頼りこの遠く離れたアルカンレティアに来たと?国さえ違う遠く離れた地へ我等の同胞を送れと?」

 

 

 ゼスタさんは私を少し睨む様にして言いました。私、都合の良いことばかり言ってますよね……。ここの人達にも生活が有るよね、それに危険を冒せって言ってるんだし。

 

 ごめんなさい、でも引けないんです。引くわけにはいかないんです。ほんとうにごめんなさい……。

 

 

「っ否定はしません。虫の良いことを言っている自覚はあります。ここだけで無くギルド経由で他の都市や王都でも戦力を募る予定ですが、浄化魔法の使い手を求めているのも事実です。それと、私は……。」

 

 

 

「私はアクシズ教団とアクシズ教原始派との和解の橋渡しの為に来ました。」

 

 二兎を追うものはなんとやらだけど、追わなきゃいけないんです。どうしても為し遂げなきゃいけないから。

 

 

「ああ、あの異端者達ですか。もう五十年も経つのですがまだ生きていたんですか。彼等は来ていないのですか?橋渡しと言うなら、異端者達の代表なり何なりが居ないと話にならないのですが。あと戦力を募る事は別に構いませんよ、志願する本人達の意志次第ですから。」

 

 

 

「今回は来ていません。私とパーティーを組んでいる仲間だけです。」

 

 だって、偵察のつもりだったんだもん……。ここに来たのも予定外だったから。

 

 

「そうですか、私は五十年前の分断は痛ましい事だと思います。ですが、双方共に多数の暴力事件が起こり犠牲者も出ています。当時被害に遭った人達の感情まではフォローしませんが、教団としては受け入れても構わないでしょう。同じ神を信仰する者同士でいがみ合っても良いことは無いでしょう。ですが、そうする為にも代表者を連れて来てください。」

 

 

 

「分かりました、ありがとうございます。次に来る時に連れて来ます。」

 

 

 良かった、とりあえず話はまとまったかな。ちょっと肩の荷が下りた感じかな。

 

 

 

「さてと、だいたいの事情は分かりました。教団としては和解の協議次第ですが、協力しましょう。魔王しばくべしっ!です。魔王の手先を討伐することは教義的に正しいのですから。」

 

 

 

 話がまとまったからか、ゼスタさんの表情は幾らか和らいだと思う。

 

 

 

 

「さてさて、真面目な話はここまでにしましょう。これ以上は原始派の代表者との話次第ですからな。マイム様はアクア様の写し身という事ですが、つまりはアクア様と同じ容姿という事ですかな?」

 

 

 

「ほぼ、同じです。今の私の容姿はアクア様よりも少し幼いようです。修復部門に飾ってある勇者候補を導くアクア様の絵が、そのまんまです。あの絵はほんとにアクア様そのものでしたよ。」

 

 あの絵には驚いたなぁ、というか私も1枚欲しい。

 

 

「では、マイム様は妹系アクア様という事ですな。」

 

 

 

「えっと、妹系……ですか。そういうのはちょっとわからないですが。見た目はそんな感じだと思います。精霊様達もアクア様と似ていて私を含めて姉妹の様に見えるとは言われましたけど。」

 

 

 姉妹かぁ……。そう言われて悪い気はしないんだけど、でも何となく気分は晴れないんだよね。だって、本当の家族は……さ。

 

 さっきからゼスタさんは私や周りをキョロキョロ見ているようだけど、どうしたんだろう……。いやでも、この視線の先って……。

 

 

 

「なるほどなるほど。そのお隣にいらっしゃる精霊様と比べると確かに姉妹に見えますな。まるで長女の精霊様、次女のアクア様、三女のマイム様。美少女三姉妹ですな。」

 

 

「あ、えっと。お姉様の事見えてたんですか?」

 

 やっぱりあの視線はそうだったんだ。

 

 

「もちろんです。精霊様がお姉様ですか、これはますます……。精霊様が傍にいてしかもそっくりな容姿ですから疑う事も無くアクア様の眷族なのは分かりましたが、自ら見聞きする必要がありますから。」

 

 

 なんだかどっと疲れた……。でも、責任者だから自分で聞いて判断しないといけないんだろうかなとも思う。

 でも、なんか、こう。

 

 

「最初から分かってたんですか……。」

 

 

 うん、疲れたよ……。

 

 

 

「ほう、では分かっててマイム様に威圧的な態度を取っていたと?」

 

 

 

 団長さんの声に振り向くと団長さんが額に青筋を浮かべて一歩前に出つつ言った。

 

 

 

「アクア様の眷族に不敬な態度を分かってて取っていたのか、へー最高司祭ってそんなに偉いんだっけねえ。」

 

 

 

「ちょっと面貸して貰えんかゼスタ。」

 

 

 

「まずは牢屋にぶち込むべきは貴方ではないか?大量の苦情や訴えを精算する時が来たんじゃ無いか。」

 

 

 

 皆がイラつきを隠さず口々に言い出し始めました。後ろの信者の方達もひそひそしだして、なんだか雰囲気が悪くなってきました。

 

 

 

 僧兵達が音も無く次々に部屋に入りゼスタさんを取り囲みます。

 

 

 

「真面目な話は終わりだ、引っ捕らえろ!」

 

 

 

 僧兵が一斉に動きゼスタさんを捕まえ、縛り付けて担ぎ上げてあっという間に出て行ってしまいました。

 

 

 ゼスタさんの後ろに響夜君達が居るけど、とても話せる空気ではありません。

 

 彼等が出て行ったのを見送り、部屋にはミアさん達が入って来て部屋の扉を閉めました。

 まだ初対面の人も居るけど、ようやく少し落ち着けました。

 

 

「マイム、お疲れ様。」

 

「ミアさん……。」

 

 

 人混みに紛れてはぐれてから、ずっと人波に遮られて合流出来なかった事を謝られました。

 

「マイム、一人にしてごめんね。」

 

 

 大丈夫じゃないけど、もう大丈夫になりました。はぐれて心細かったけど、なんとかなったし。横目でマグナさんを見ると教団関係者との打ち合わせをしています。

 私じゃわからない事ばかりなので頭の下がる思いです。

 

 

「マグナから伝言だけど、私達は先に帰っててくれってさ。帰る時は出来るだけ目立たないようにしてくれってさ。」

 

 

 リナさんがこっちに来つつ教えてくれた。

 

 

 じゃあ、帰ろう!と思ったら……。

 

「マイム様!どうかお待ちを。」

 

 帰ろうとした私の前に何人もの信者の方が立ち塞がりました。

 

「せっかくアルカンレティアに来たのですからどうぞコレをお受け取り下さい。アクシズ教団謹製の石鹸と洗剤です。完全無添加で天然成分で作られていて、実はなんと。この石鹸と洗剤は飲めるんです。さあ、どうぞお近づきの印です。さぁ!どうぞ!」

 

 

 飲める、洗剤?

 

 は?え?ちょっと何言ってるのか分からない。

 

「え、あの石鹸や洗剤って飲んだら有害なはずではないんですか?」

 

「いえいえ、これは大丈夫です。ほら、この通り。」

 

 そういって隣の男性は洗剤の容器を一気飲みしだしました。

 

「え、っちょ。」

 

「大丈夫大丈夫、ほらこの通りピンピンしてます。マイム様の心配は無用です。アクシズ教団製洗剤は薬剤で洗浄しているのでは無く、浄化魔法で洗浄しているのです。これは云わば一種の聖水なのです。故に。」

 

「「「飲める、食べられる。非常食にもなります。さあ、どうぞ!」」」

 

 唖然とする私に石鹸と洗剤の入った袋を手渡してきます。受け取り中を覗くと、青い包みが幾つも入っていました。

 

 

「はあ、あ、ありがとうございます。」

 

 まあ、石鹸ならたくさんあって困る物でもないですし?

 

 

「次は私の番です。マイム様、せっかくですので懺悔室で悩める者達の悩みをお聞き戴けないでしょうか?」

 

 次に前に出て来たのは、長い金髪の若い女性でとても美人さんです。

 

「私なんかじゃ、話を聞いてもろくな答えなんて出来そうにないですよ。」

 

 私の人生経験は、ね。ほら。友達も居ないし、外にも出られ無かったし……。悲しくなってきた考えるのは止めよう……。

 

 

「大丈夫です。大半の相談者はただ悩みを他人に聞いて欲しいだけの寂しがりやです。残りは暇人かセクハラ親父か、ほんっとに僅かな本気の相談者ですから大丈夫ですって⁉️さぁ、信者達の生の声をどうかお聞き下さい。お願いします!」

 

 

 自信は全然無い。でも、私が聞くだけで安心して貰えるなら。

 

「わかりました。お引き受けします。」

 

 押しに弱い私は安請け合いしてしまいました。でも、その間ミアさん達は?

 

 

「じゃあマイムの用事が終わるまで、私達は見学してるから気にしなくていいよ。」

 

 

 二人は見学コースとかに行く事になりました。

 

「では、こちらです。」

 

 私はお姉さんに着いて行きました。

 お姉さんはセシリーさんというそうです、普段は事務作業や色々な雑務をしたり孤児院の子供と遊んだりしているそうで、時々懺悔を聞く事もあるとか。

 

 

 歩いて行くと壁際の少し薄暗い場所に懺悔室がありました。あまり明るい場所にあると懺悔をしにくいそうです。後ろめたい事や胸に秘めた思いを明るい場所でさらけ出すのは抵抗感があるためだそうです。

 

 

「ここにお入り下さい。中に椅子がありますのでそこに掛けてお待ちいただければ良いです。また、変質者が出た場合は椅子の横のレバーを引いて下さい。落とし穴が開き、下の留置場に直通になっています。」

 

 では、よろしくお願いします。と言ってセシリーさんは離れて行きました。

 

 どんな人が来るのか緊張してきます。せめてどもらないようにしないと……。顔が見えないから初対面の人と一対一でも多少は大丈夫かな、ううん。大丈夫、大丈夫、大丈夫。大丈夫にしないと。

 

 

 暫く待っていると、ドアのノックが聞こえ反対側の部屋に誰かが入って来ました。

 

 

 

 

「はぁ……。やはり後悔してもしきれんわ。」

 

 部屋に入ると同時に独り言の様に呟き出した誰か、声からするとお爺さんかな?

 

 

「今日はどうなさいましたか?」

 

 まずはこんな感じでいいかな?

 

「おや、聞き慣れない声じゃな。お嬢さんは新人さんかね?」

 

「はい、そうです。えーっと、初めてなので至らない事もあるかも知れないですけどよろしくお願いします。」

 

 向こうでなんとなく笑ったような気配がした。

 

「そうかね、まあ儂は実は毎日ここに来ておるんじゃ。暇な老人の戯言だと思って儂の話を聞いて貰えるかね?」

 

「はい。」

 

 

 お爺さんは咳払いして、話し出しました。

 

「儂は、とてもとても罪深いのだ。だが犯罪は犯してはおらん、犯罪は。な。教義にも有るが、犯罪以外なら何をしても良い。儂と仲間達は若い頃それを悪用したのだ……。」

 

 疲れ切った様に、深い深いため息を吐きました。

 

 

「儂はな、今は引退したが昔モンスターテイマーをしていたんだ。モンスターを従え冒険に出たり、護衛を行ったり。見世物にしたりして金を稼いでいたのだ。」

 

「昔から魔王軍との戦いで、軍も民も冒険者もたくさんの人々がモンスターに殺されてきた。だが、力無き民にはその怨みを晴らす事は出来ないものだ。だから儂等は狂暴なモンスターを捕らえ、見世物にした。」

 

「モンスターに怯える者、怒りを露にする者、亡くした誰かを想い出し悲嘆に暮れる者と様々だ。だが、誰もが一度は復讐を胸に懐くものだ。」

 

「だから儂等は、見世物小屋で彼等に復讐の機会を与えたのだ。無論それらのモンスターは彼等の復讐の対象では無いが、モンスターには違いない。檻の外から石を投げる者、槍で突く者、皆思い思いの方法で復讐心のままにモンスターを残酷に殺害した。」

 

 話を聞いているだけで情景が目に浮かび、辛くなる。

 

「無抵抗なモンスターや悲痛な叫びを上げ苦しむモンスター。片言ではあれど言葉を話し命乞いをする魔獣、死の間際まで咆哮を上げ檻を揺さぶる悪魔。様々なモンスターを殺させてきた。」

 

「復讐に駆られた者達も様々だ。モンスター達の悲痛な叫びに我に返り自らの行為に恐怖する者、血に興奮し更に残虐になる者、スッキリして帰る者、後悔しつつも心に整理がつく者。本当に様々だ。」

 

「今にして思えば人間もモンスターも一皮剥けば等しくケダモノで等しく心あるモノだとな。」

 

「だが当時の儂等はエスカレートして行く客の要望を叶え、大金を得る為に……ほんとうに、ほんとうに罪深い事をした。犯罪では無い、モンスターが相手ならばどんな非道を働こうが、あの頃は犯罪では無かったのだ……。」

 

 私は何も言葉を掛けられなかった、何とかして声を掛けるべきだと思うけど。なんて言えばいいのか分からない。

 お爺さんは声を震わせ泣いている。荒く息を吐き嗚咽を漏らしている。

 

 

「儂等は、儂等は……。」

 

 

「美しい少女の外見を取るモンスター、ハーピーやサキュバス、アルラウネ、雪女といったモンスターを巣や群生地、隠れ里から拉致、誘拐したのだ……。金に目が眩み人を害していないモンスターすらも薄汚れた情欲を持つ者達の前に引き摺り出したのだ。」

 

「教義では悪魔殺すべし。ではある。サキュバスも悪魔だ。だが、だがな。ほんの子供だったんだ、まだ十代になったばかりとしか見えぬ少女達を儂等は騙して誘拐した。他のモンスターもそうだ、言葉の通じるモンスターは騙し、そうでないモノは誘き寄せ薬や暴力で従わせた。」

 

「儂等と悪魔、どっちが邪悪なんだろうな……。悪魔は邪悪と言うが、奴等は嘘をつかん。だが儂等人間は嘘を吐き騙し、時には暴力で以て欲望のままに振る舞う。」

 

「教義を疑うわけでは無い、だが。犯罪じゃなければ何をしても赦される、これは間違っていると思う。儂等の様な外道が何の罪も無く大手を振って歩き、罪も無き幼いモンスター少女が命を散らす。罪とはなんなんじゃろうな……。いかんな話が逸れてしまったわ。」

 

「幼い少女のモンスターを買い漁ったのは誰とは言えんが、地位も金もある者達だ。口では魔王との戦いを扇動し金を稼ぎ、裏では幼い少女達に残虐な……。顧客の何人かに無理矢理同席させられ、彼女達の最後を見せられたよ……。」

 

「口に出すのも憚られる惨い有り様だった。情欲のままに甚振り、最後は……。あの客達は嬉しそうに、心底楽しそうにしていたよ。まるで玩具で遊ぶ子供の様にな。」

 

「儂等は人の皮を被った悪魔に手を貸したのだ。あれは人間のやる事では無いっ!奴等は人間が想像する邪悪な悪魔その物だ、そして儂等は悪魔の手先になってしまった。」

 

 

 率直に言いますと、重い。あの、すっごく重いです。私じゃ、その。対応出来ないと言いますか。その。無理です。

 

 聞きながら想像して、私も涙が出て来たし、悲しいし恐ろしいと思います。でも、同時に私じゃなんて言えば良いのか全然分からないです。

 

 

「儂等はそれを見て、後悔した。今更遅いと知りつつもな。見世物小屋で復讐を遂げさせるだけならまだ、百歩譲って言い訳を通す自信がある。だが、アレは無理だ。儂等は越えてはならん一線を越えてしなったんだ。客の所から帰って、仲間の一人は嘔吐しながら泣き崩れたよ。そいつには同じ年頃の娘が居たんだ。娘と重なって見えたんだとさ。そいつは次の日に仕事を降りると言ったさ。儂はその頃は独身だったが気持ちは痛いほど分かったさ。だが同時に恐怖を感じた。」

 

「自らの仕出かした事に対してですか?」

 

 声が震えない様に、抑えて抑えて聞きました。

 

 

「それもあるが、客がどうして儂等にそんな物を見せたのか、だ。一蓮托生だぞ、とな。人として越えてはならん一線を越えたんだから、儂等だけ逃がしはしないと言う事だったんだ。仕事を降りると言った仲間は数日後に殺された。」

 

「証拠は無い、だが奴等の手の者に違いない。逃げ出す事も出来ず、儂等は従い続け罪を重ねていった。もう、儂等は終わりだと確信したさ。」

 

 口封じ、か。実際に聞くと恐ろしいと思う。逃げ出す事は出来ず、いつ殺されるのかと怯えてしまうと思う。お爺さん達は不安に押し潰されてしまいそうだったんだと思うと、胸が苦しくて悲しくなる。

 

 

 

「そこで仲間の一人が自棄になった。」

 

 

「そいつは悪魔召喚をしたのだ。」

 

 !!!

 

「悪魔のような人間に追われ、本当に悪魔を呼び出し悪魔同士で潰し合わせようと思ったそうだ。禁忌ではあるが、もうそんな事に気を割く余裕も無かったしな。そいつが悪魔召喚しなければ儂は不法侵入で殺されるのを覚悟で王族へ直談判しようとしていたよ。」

 

「儂がそれを知ったのは召喚の三日後、目が落ち窪みゲッソリ窶れたアイツを見たんだ。その側には件の悪魔が居た。悪魔は嗤っていたよ、アクシズ教徒が悪魔を召喚するだなんて聞いた事が無いってな。残機の無い幼い同胞を殺させた事に思う事もあるが、弱い者が食い物にされるのは仕方ないとも思う、と悪魔は言った。仲間は願いの代償を自身が持つ全てを懸けたそうだ。魂も持ち物も家も金も総てだとな。だが、悪魔はその申し出を断った。新人のシスターさんや、どうしてだと思う?」

 

 悪魔は願いの代償に人間の魂を奪うって聞いた事が有るんだけど、要らないっていうのはどうしてだろう。他に悪魔が喜ぶモノは……。

 

「ヒントをあげよう、悪魔は人間の様々な感情を糧にするんだよ。」

 

 悪魔嫌いのアクシズ教徒だったら……。

 

「悪魔が大嫌いのはずなのに、悪魔に頼ったからその気持ちが欲しいって事ですか?」

 

「うん、ほぼ正解だ。悪魔に頼った屈辱の感情が極上の美味だったそうだよ。だから、悪魔に頼ったアクシズ教徒として地獄に連れていって見世物にしながら死ぬまで感情を味わい続けたいと言ったんだ。それは、死ぬよりも苦しいとさえ言える。だが業が帰って来たとも言える。今度は自分が奴隷にされ見世物にされるっていうな。」

 

 その人は……一生苦しめられ死ぬまで悪魔に奴隷にされている。その人はもしかするとまだ生きてて今この瞬間も悪魔の奴隷にされているんだ。

 

 瞬間、ふと違和感を感じた。

 

 私の中にどこか私のじゃない様な感情が沸き上がる。悪魔殺すべし!「私」は正当な取引だと思う、理解は出来る。だって交換条件でお互いに契約したんだし。

 でも、悪魔殺すべし。悪魔殺すべし。悪魔殺すべし。悪魔殺すべし。

 

 私の中に私じゃない何かがある……?何、これ。

 

 

「その人は今も生きているんでしょうか?」

 

 お爺さんは唸りつつ答える。

 

「かもな。儂の五つ下だったしな。生きてても不思議では無い。もしくはもう憤死してしまったかだ。」

 

「その人の事を助けたいって思いますか?」

 

「思わぬ日は無いさ。儂がもっと早く直談判してればそいつは助かったのかもしれんし。」

 

 

 その時、抑えていたのに無意識に声に出てしまった。

 

「悪魔、殺すべし……。」

 

 私は今何をっ!

 

「悪魔だが儂等に取っては救世主だったので勘弁して貰えんか。」

 

「あっいえ、すみません。そんなつもりじゃ……。」

 

 じゃあ、どんなつもり?私は自問自答する。

 

 元日本人である私的には別に悪魔が憎いとかは無いんだけどな。でも、私のこの今の身体は……?

 

 神と悪魔は不倶戴天の敵。

 

 私の心と身体に解離がある?いや、身体に別の意志がある?

 

 

「そんなわけで悪魔が何か暗躍して儂等は人の皮を被った悪魔から逃げられたという訳じゃ。その後は心を入れ替え犯罪かどうかは問わず後ろめたい事はしなくなった。そして結婚して子供が出来て、幸せを感じたその時。儂は、自殺しようかと思った。時間が経ち後悔も苦しみそうも薄れて行ったが、娘を見た時に思ったのだ。儂にこの子を抱く資格等無いとな。」

 

 お爺さんは震える声で小さく呟いた。

 

「だってその子はな、誘拐した雪女の赤子の面影があったのだ。儂や妻にも似てるが、同時にあの子の面影があるように思えて儂は叫びを上げて気絶したのだ。」

 

 この世界にも輪廻転生はある。モンスターも命には違いない、だから生まれ変わる事も有るのかもしれない。でも、余りにも残酷だと思う。神様が意図してやったのなら私は支持出来ない。

 子供を見るたびに思い出して苦しんで後悔しろって?子供を愛する事も難しくするなんて、その子にとっては訳も分からずお父さんを苦しめてるって思って傷つくはず!どうして、どうしてそんな事を。

 

 

「気が付いたらベッドに寝かされていて、妻に何があったか聞かれたよ。だが言える訳が無い、こんな事言える訳が無いんだ。でも妻は根気よく儂を説得し、儂は総てを話した。」

 

「妻は怒り悲しんだ、儂や仲間達にケダモノの様な客達に。そして神にすら怒りを向けたのだ。」

 

「私とあなたの子になんて物を背負わせるんだ!そして儂に誓わせたよ、今後は子の前で絶対にそれを悟らせない様にしなさい。本当に後悔してるんだったら、自分自身を変えなさい。過去の自分を捨てて今ここで生まれ変わり、この子と私だけを愛しなさい。あなたが苦しむのはあなたの罪、私が一緒に背負ってあげる。でもこの子に罪は無い子供は親を選べないんだから、全力この子を愛せば良いの、分かった?分からない?じゃあ分かりなさい!」

 

「その言葉に儂は救われた。ああ、ちなみに妻はエリス教徒だ。本人は都合の良いときだけ神に頼る不信心者だと言っておるがな。その時の妻には惚れ直したさ。いつも儂を引っ張って行く気の強い女だ。儂がアクシズ教徒だと知っても、あんたはあんたでしょ?と言って気にしない奴なんだ。」

 

 こういうお互いに分かりあってる関係って憧れるものがある。信頼しあえる関係、か。

 

「それからは妻と一緒に小さな事でも善行を積んでいく事にした。いつしか娘も一緒にやり初め、それから息子も産まれた。時は経ち娘も息子も結婚し孫が出来た。たくさんたくさん後悔しつつも前に進んできた。でも今も思うのだ、あのモンスターの親達から子供や孫を奪ったのは儂だ。今、儂が感じている幸福を二度と得られなくしたのも儂だ。」

 

「だから思うのだ。人間もモンスターも同じだ。同じ命なのに憎しみ争う事は悲しい事だ。お互いの言い分がありお互いの正義の為に戦う。魔王しばくべし。会話が成り立つならしばき倒して引き摺ってでも交渉の席に着かせなければならん。この不毛な争いを1日でも早く終わらせねばと強く思う。」

 

 

 魔王、しばくべし。たしかに教義では殺せとは言っていない。魔王を倒さなければいけないけど、そうかアクア様は魔王が相手でも同じ命として対等に扱ってるんだね。同じ大地に生きる命って事か。

 

 

「ふう。話過ぎて疲れてしまったわ。普段はいつものシスターさん達に細々とした相談や反省を聞いて貰っとるんだ。新人さん相手だからつい熱が籠ってしまったわ。年寄りの長話に付き合わせて悪かったの。」

 

「そんな事は無いです。私には色々と経験が足りませんから、今回のお話には色々と考えさせられました。私はもっと広い視野を持たなくてはいけませんね。」

 

「新人さんの助けになったのなら何よりだ。」

 

 お爺さんが微笑んだ気配がする。

 たくさんの経験を積んで人間は成長していく、私はまだまだ。ほんとうに経験が足りない、見るもの全てが目新しくて楽しい。でもそれだけじゃダメ。いっぱい考える事が有るって気付かされた。私も意義のある人生を送りたいって思います。

 

 

「はーぁ、どっこらせ。長居し過ぎたようじゃ。新人さんも頑張りなさい、人生はまだまだ長いぞ?では失礼するよ。」

 

「お疲れ様でした、私も頑張ります!」

 

 

 お爺さんは懺悔室を出て行きました。うん、私も頑張ろう、もっともっと頑張らなきゃね。

 

 

 ノックの音が聞こえた。

 

「はーい、どうぞ。空いてますよ。」

 

 次はどんな人だろう。楽しみにしちゃいけないけど、少し楽しみ。

 

 

「失礼するよ。声で分かる!まだ十代の女の子だね?いやー若い女の子の声を聞くだけで癒されるわー。俺の直感が告げる、美少女だ。絶対に美少女だ。美少女臭がする、間違いないゾこれは。」

 

 

 なにこの人……。ヤバい人?

 

 

「はっはー、暗視を極めた俺には見える!そのほっそりとした指先が、柔らかそうな唇が!顔が見えないのは残念だが美少女だ。はぁーはぁー、肺が歓喜しているぞ。」

 

 絶対にヤバい人だ。深呼吸してるよ、鳥肌立ってきた。レバー引こうかな?いやでも、ハイテンションで誤魔化してるだけで何か悩みが有るのかもしれないし。

 

「いきり勃つボルテージ!うぉっしゃ見えたぁ!」

 

 もうレバー引こうかな。何が見えたのか分からないけど、聞きたくないし。

 

「俺の透視は見抜いたぜぇ!美少女シスターちゃんの今日のパンツの色はぁぁぁぁぁーーーー。」

 

 言葉の途中で無言でレバーを引きました。もっと早く引けば良かった。

 最悪見られた、ほんと最悪。マッチョ軍団に囲まれてどうぞ。

 

 

 私の感動を返して。もう台無しだよ。見られちゃったか。僕であった時ならどうでも良いけど、今はアクア様似の美少女なんだし絶対に見せる訳にはいかないのに。

 

 

「あーあ、見られちゃったかぁ。」

 

 すごく嫌な気分。透視対策って出来ないかな。自分でチラッと捲ってみた。薄暗くても私にははっきり見える。細く引き締まった脚、その付け根には……。

 

 今日は白。興奮はしないけど、女の子の白パンツって良いよね清楚って感じで。水色も良いけどね。

 

 あーーあ、あんな変態に見られたのかー。うわぁーー。

 

 床を転げ回りたい衝動が起こる。ああーーちっくしょーー!

 

 

「コンコン!」

 

 ノック、いや違う口で言ったやつだ。でもとりあえず。

 

 

「はーい、どうぞ。空いてますよ。」

 

 次は変質者じゃありませんように。口で言ってる段階で変な人なのは確定だろうけど。

 

 

「失礼しまーす。突然ですが、シスターさん、女神エリスのパッド疑惑についてどう思いますか?」

 

 レバーに手を掛けながら答えました。

 

「アクア様は仰いました。エリスの胸はパッド入り。疑惑でもなんでもありません。以上。」

 

 アクア様が言ったんです。疑惑?どこに疑う必要があるって言うんですか?アクア様の言葉は絶対の真実です。

 

 

「女神ともあろう者がパッドを盛って世の男性諸氏を惑わせているのです、自らを偽る神等言語道断ではありませんか?」

 

「パッドの何が悪いんですか?身嗜みの一つじゃ無いですか?ハゲ隠しに髪型を変えたりカツラを被ったり。化粧をし身体を磨き、筋トレでボディメイクをしていく。人前に出るのですから、身嗜みを整えるのは当然じゃないですか?」

 

 

 寝癖だらけで一日中寝てた僕じゃ説得力無いけど、完璧美少女のアクア様ボディは違う。常に可愛く美しく保たないと、頑張らなきゃいけない!

 

「で、ですが。」あなたが何を言いたいのかはわかりません。でも、女神エリスはアクア様の後輩なんですよ。女神エリスがみっともない格好をしていたら、アクア様の評価にも傷が付くんじゃ無いですか?」

 

 後輩の指導も出来ず、人間を導くなんて出来ないって言われちゃう。きっと部活の嫌な先輩みたいにネチネチ言われちゃうよ。

 

 

「たとえもし女神エリスがどんなにズボラでもアクア様の指導の元で成長されたんでしょう。女神か男神か分からないから女神らしく見える様に身嗜みを調える様にしたか、もしくは胸にコンプレックスが有るから憧れのアクア様の様になりたいって思ってパッドを盛ったのかもしれませんよ。」

 

「それは、そうですが。」

 

「いいですか、アクア様は完璧なのです。完璧なプロポーションなんですよ。全ての人々の目を惹き付ける美の化身です。そんなアクア様に憧れない後輩なんてあり得ません。女神エリスは恥じたのでしょう、そして形だけでも近付けようと努力したのです。遥かな高みに居る神々が更なる向上をせんとしているのです。」

 

 女神様も努力してるんだから、私も負けたくない。

 

「アクア様の後輩だなんてたとえどんなに望んでも得られる立場では無いんです。女神エリスは幸運を司る女神。だからアクア様の後輩という幸運を掴み取ったんです。」

 

「でも、エリスの胸はパッド入り。だなんて言葉は女神エリスを批判してるからこそでは無いのですか?」

 

 可愛い後輩を批判、あり得ません。慈悲深きアクア様がそんな事するなんて!

 

「違います!エリスの胸はパッド入り。その言葉は女神すらも努力しているのだから、私達人間もより上を目指す様に叱咤激励しているのです。その言葉が女神エリスに直接向けられたとしても、それはきっと自らが憎まれ役になる事で女神エリスを奮起させようとしているに違いありません。全てはアクア様の深い愛情によるものです。私はそう、確信しています。」

 

 アクア様が後輩を嘲笑い貶すだなんて、そんな事あり得ません!

 

「ぐ、分かりました。でも納得出来ました。長年、疑問だったんです。女神が自らを偽り、疑惑が付きまとっていることに対して。エリス教徒は頑なにパッド入りである事を認めず、アクシズ教徒の妄言だと切り捨て自分達が正しいのだと主張しています。だから、そうか。思考停止じゃ前には進めない。」

 

 

「ええ、だからこそ。」

 

 

「そうか。そうだったんですね。叱咤激励をしているんですね。人間に前を向けと。」

 

 足踏みして喚いていても何も変わらない。変えられないなら、強い刺激を与える必要がある。

 

「「エリスの胸はパッド入り」」

 

「この言葉を胸に一緒に前に進みましょう。」

 

 厳しい言葉でも、その裏にはきっと愛がある。そう、ですよね?アクア様。アクア様は人を傷付ける言葉を無責任に吐き出したりしませんよね?

 

 私は内心では不安でした。でもこうやって言葉にしたら安心出来ました。

 

 同じ言葉でも受け取り方で変わります。今の私には信じる事しか出来ません。

 

 生きているうちにアクア様に会える事は無いでしょう。でもいつか会えたならば、伝えたい。考える機会をくれた感謝を。世界は広いと教えてくれた感謝を。

 

 貴女に、伝えたい。

 

 

「ありがとうございました。今後もこの言葉を広めて行きます。」

 

「はい、是非とも私の解釈もお願いしますね。」

 

「もちろんです!では失礼します。」

 

 

 ちょっと熱くなり過ぎたかな。ボーッとしてたら、私の側の扉がノックされました。

 

「マイム様、お仲間の方々が迎えに来られました。」

 

 思ったより結構時間経ってたんだ……。

 

 

 

「マイム様お疲れ様でした。今日はどうだったでしょうか?」

 

「色々な人が居るんだって分かりました。聞くばかりだったり変質者だったり、私の言葉で疑問を解決する手助けになったりと私も考えさせられました。」

 

 濃い時間だったと思います。そう、すごく。

 

「またこちらに来られた時にはお願い出来ますでしょうか?」

 

「うーん、暇があれば良いですよ。」

 

 変質者以外は聞いて良かったと思うし。変質者は死ぬべき。

 

 

「マイムー、怖い顔してるよ?大丈夫。さ、一緒に帰ろ?」

 

 リナさんが差し出した手を掴み、私も笑顔で答えます。

 

「大丈夫です。ちょっと変な人も居たけど、他の人は良い経験になりましたから。」

 

「そっか。」

 

「帰りましょう。」

 

 

「ではお気をつけて。」

 

 セシリーさんが手を振り、私達も振り返します。

 

 

 

 

 帰りは様々な事を聞きました、聖堂内の見学ツアーか。普通に楽しそう、良いなぁ。

 

 守秘義務が有るから言えない事も有るけど、変質者とパッドの事は良いよね。

 

 変質者には我が身の如く怒ったり、私を心配してくれました。

 

 

 今の私には仲間が居る。これから先、苦難の道のりもあるでしょう。

 

 でも、支えあっていけたら良いと思います。いえ、支えあい助けあいます。だって、かけがえの無い仲間なんだから……。

 

 

 

 




モンスターテイマーには黒い需要も寄せられているはずという妄想。

変質者しばくべし。


魔王はしばくだけで、殺せって言ってない辺りにアクア様の優しさを感じる。しばき倒してアクシズ教に改宗させるべき。

邪神ウォルバクを討滅し全てをアクシズ教に染め上げるべき。割りとマジで思ってそうな感。

パッドの件の好意的な解釈です。
でも、恥じらいながらもパッドを入れるエリス様は尊い。コンプレックスは尊さの源。


年内にあと一回なんとか更新出来るように頑張ります。
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