偽アクアの旅路   作:詠むひと

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ずいぶんと期間が開いてしまいました。

私は今日も生きています。



蠢く野望

 

「あんな美少女が上司なら、セクハラクソジジイの相手なんてしなくて良いのになー。」

 

 ついさっきまでマイムが座っていた椅子の前で深呼吸しながら呟くセシリー。

 

「超絶美少女は空気まで美味しい。」

 

 何度も何度も深呼吸して恍惚とした表情を浮かべる彼女。見た目だけなら彼女も美人だし清楚な雰囲気を漂わせている、だがあまりにも残念な言動のせいで台無しである。

 

「あー、まじでマイム様にお仕えしたいわー。」

 

 椅子に残されたぬくもりを堪能するセシリー(変質者)。通報されても仕方ない光景だが、ここには彼女しか居ない。

 

「お偉いさん達はなーんか企んでるっぽいし、あんな純粋な娘が悲しい目に合うのは嫌よね。ちょっくら探り入れて来るかな。」

 

 セシリーは懺悔室を後にし、教団上層部が会合を行っている部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広くもない室内には教団上層部の面々が集まっていた。

 

「さて我らアクシズ教団にとっての福音の使者が現れたわけだが、対応を見誤ればマイム様(彼女)だけでなく精霊達からも見放されこのアルカンレティアも立ち行かなくなるだろう。」

 

 多くの一般教団員にとってはお祭り騒ぎで浮かれているだけでも赦されるが、教団の舵取りをする者達にとってはそうではない。

 いつの世も大きな組織にとって変革とは容易に受け入れられない物でもある。

 上が音頭を取ろうとしても、実際に人々を動かす人が動かなければ変革は進まず。逆に下が変革を起こそうとしても上が頑なに変わる事を拒んでも変革はならず。

 自らの椅子を守る為に見てみぬ振りを続ける者も居る。

 

 

 変革は大きなチャンスだが、同時に大きなリスクも孕んでいる。

 この場に集った者達も気持ちではこの大きな祭に加わり神輿(マイム)を担ぎ上げたいと思っている。アクシズ教徒たる者、騒ぎや祭を好むのは最早本能と言っても良いだろう。

 だが自らに課せられた重責がそれに待ったを掛ける。

 

 

「各々意見を聞かせて欲しい。」

 

 だからこそ会合を開き意思の統一を図らねば、アクシズ教団という組織その物の瓦解を招きかねないのである。

 

「聖女として大々的に取り上げ彼女に協力すべきだ。」

「アクア様の名代として教団の象徴に据えよう。」

「マイム様に協力し魔王の配下を討つのだ、そして辺境に於いてアクシズ教団の影響力を高めるべきだ。」

「精霊達が認めている以上ケチの付けようは無いはず。」

「これを機にアクシズ教団を盛り上げ、エリス教を国教から追い落とす助けになるのでは?」

 

 多くは当然の如く肯定的な意見である。彼等にとっての上位者とも言える水の精霊が認めた、女神アクアの眷族である為だ。人間よりもずっと女神に近しい彼女達の言葉だ、相応の重みがある。

 

 

「少し冷静になるべきだ。彼女はあの異端者達と繋がっている。」

 

 異端者。50年の時が経っても忘れる事は出来ない。

 

 嘗ては彼等もこのアルカンレティアに居た。解釈は違えど同じ女神アクアを信仰していた同胞。

 魔王軍との戦いの中ですれ違い、徐々に道を違えてしまった嘗ての同胞達。

 

 当時のアクシズ教団の有り様にも問題はあった。

 

 魔王軍に押され、国軍も勇者候補と呼ばれる者達も民も挙国一致で立ち向かおうとしていた。

 

 だが、アクシズ教徒達は自らの利益だけを考え足元を見た商売をし彼等の足を引っ張った。彼等が切り詰め前線に少しでも良いものを送り戦士達の助けになろうとしていたのに、浪費を繰り返し快楽を追及する振る舞いを続けた。

 

 当時アクシズ教団からも義勇兵を送っていたが、死に物狂いで戦う彼等を侮辱しドMと言い放った者も居た。どうして俺達が我慢しなきゃいけないんだ?面白おかしく暮らして何が悪いんだ?と。

 もちろん、人類の未来の為にと節制して居た者の方が多い。だが悪目立ちするのだ、いつだって少数の馬鹿は目立つ。

 そして教義を理由にそういった者達を野放しにしていたアクシズ教団。

 

 身の内に居る無法者に敵意が向くのは必然。数々のアクシズ教内の宗派でも特に厳格で原点回帰を謳う原始派との衝突は必至だった。

 

 アルカンレティアで血が流れる事になった。

 

 当時の様々な宗派がアルカンレティアから次々に離脱していき、原始派も支持者を連れこの地を離れた。国を出て遥か辺境へと旅立って行った。

 教団本部との衝突でお互いに流れた血は少なくない。教団上層部の年代的に隔意を持つ物が居るのも仕方ない。

 

 歳を取ったからこそ、若い時の強烈な記憶が強調されるのだ。

 

 

「だが、時代は変わった。儂等ももう歳だ。次代に禍根を残すべきではない。」

 

 マイム(彼女)は原始派との橋渡しをすると。

 

「鉄拳のリムタス、覚えておるだろ?義勇兵で頭角を顕していたあのモンクを。」

 

 マグナが語るには現在の原始派の筆頭。50年前はその拳で多数の魔王軍を殴り殺したアクシズ教団有数のつわもの(強者)

 

「和解に向けて話し合うべきだ。少なくとも何らかのケジメは付けなければならん。」

 

 全てを無かった事には出来ない。だが、立ち止まったままで居る事ももう終わりにすべきだ。

 

「変革の時が来た。無理に一つになる必要も無いし関わらないなら、そうと決めるべきだ。」

 

「異端者の布告を解くかどうかは話し合い次第だ。少なくともリムタスはアルカンレティアでの事件には関わってないんだ、奴ならば話せば分かる。」

 

 否定派も態度を保留にし、異端者とマイムの件は分けて考える事になった。

 

「さてどうする。マイム様を大々的に聖女として認めるか、あくまでも眷族として水の精霊と同列に置くかだ。」

 

 口々に意見が出るが、大半は聖女として扱うというものだ。アクシズ教団の象徴として担ぎ上げ利用するというもの。

 

 そこに彼女の意思は無い。本人の意向を無視し、なし崩し的にアクシズ教団に巻き込もうとしていた。

 

 善意だけで組織は動かない。狡猾な老人達によって歳若い少女を利用しようとする思惑が見える。

 まるで善意の塊の様な純粋な少女では、激動の時代を越えた老人達に抗う術は無い。

 

 

 だが、そこに待ったを掛ける者も居る。

 

 

「アクア様の導きにより降臨した存在を私達の良いように動かそう等とは、アクア様への冒涜だとは思わんのかね?」

 

 上座に座った男は続ける。

 

「アクア様が地上に遣わした使徒なのだ、ならば何よりも優先すべきなのは彼女の意思だ。私達人間がその有り様を曲げるのは以ての外だ。聖女として地位と権力を渡すのは良い、だがまるで対価のように行動を縛ってはいけない。」

 

 

「ゼスタ、これはチャンスなのだ。アクア様が地上に使徒を遣わす等、少なくともこの数百年は無かった。アクア様に何らかの力を与えられてこの世界に来る者達は多々居る。だが、アクア様がその写し身を与えた者など聞いた事が無い。」

 

 数百年以上前には女神アクアの意向を伝える為に天使を伝令にする事はあったと言い伝えがある。だが、天使と女神アクアの姿その物の使徒では捉えようも違って来る。

 

「ゼスタ、彼女はアクア様の尊さの布教をしたいと言っただろう。ならばこちらの提案を拒む理由も無いだろう。」

 

「提案は良い、提案までならな。だがその先を要求すべきでは無い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔道具でこっそり盗み聞きしていたセシリーは冷や汗を流す。

 

「ヤバいもの聞いちゃったわね……。どうしよう。」

 

 セシリーはあんまり考えずに軽い気持ちで上層部の会合を盗み聞きした事を後悔した。自らの上司であるゼスタがマイムの自由を妨げない様に誘導しようとしているが、少々旗色が悪い。

 

 誰かに相談したくても、内容が内容だ。慎重に相手を選ばなければ自分の身柄が拘束されてしまうかもしれない。

 一人で抱え込んで解決出来るような内容でもない。

 

「決まっちゃったら覆せないよね。」

 

 セシリーの知り合いは多く伝は多い。権力とは無縁な人々ばかりだが数は多い。一人でダメならみんなで騒げば、きっと無視出来ないのでは?

 

 マイムが帰ってしばらく経ったが、幸い今日の騒ぎで興奮冷めやらない人々がまだたくさん聖堂無いに残っている。

 

 お祭り騒ぎが大好きで、いつだって偉い人達に文句をぶつけたいと思ってる熱狂的なアクシズ教徒達が。

 

 

「これならイケるかも。」

 

 セシリーは思った、大量のアクシズ教徒を巻き込んで騒ぎ立てればいくら上層部でも数で押しきれるのでは?街全体を巻き込んでしまえば、もう誰にも止められない。

 

 大人しくて健気で初なあの子(マイム)を思うと少し心が痛む。新人キラーのクソ重モンスターテイマーの懺悔室の常連の話に心を傷め、パッド女神の逸話を感動の物語に変えた彼女を守る為に使える伝を全て使おうと心に決めた。

 

 

 そして、老人達の野望を打ち砕く為に走り出した。

 

 街中を混乱の渦に巻き込み、噂に尾びれ背鰭胸鰭どころか頭生えて進化するほどの混乱を生み出した元凶が走り出してしまった。

 

 

 誰が悪かった訳でもない。老人の野望も大元を正せば善意から生まれでた物、混乱の元凶も純粋な少女を助ける為だった。

 

 善意だからこそ、余計に質が悪く責める事も出来ない。

 

 ま、運が無かった。そういう事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見学コースで見てきた物の話等を聞きながら宿へと帰って来ました。

 

 今日は色々と急に事態が動いて行き当たりばったりでした。顔見せ程度にしかならなかったと思いますが、偉い人達と会えたのは今後の交渉にもきっと役に立つと思います。

 難しい話は全部マグナさんに任せっきりなので、ちょっと申し訳ないかなって思います。でもわからない物はわからない。餅は餅屋ってことです。

 

 今日も宿で美味しいご飯を食べて温泉に入ってゆっくりしましょう。響夜君ともうちょっと話たかったけど、また今度会った時に取っておきます。

 

 

 明日は教団からの返答を聞いてから一度水の村に帰り、後日リムタスさん達を連れて来る事になりました。

 

 今日は宿での夕食時にちょっとした騒ぎになったので大変でした。

 

 

 

 

「アクア様……。」

「アクア様だ。」

「ほんとうにそっくり。」

「超美少女だなぁ。」

「アルカンレティアに来て良かった。」

 

 実は、聖堂での騒ぎの時に居た人達が何人か同じ宿だったみたいで。

 

「あの、お願いがあります!どうか!握手してください!」

 

「えっ。」

 

「お願いします!マイム様、どうかお願いします!」

 

 目の前に居るのは、商談で聖堂に行ったらしい商人のおじさん。女神アクアの眷族に会えるなんて一生に一度も無いような幸運だから、記念にと。

 戸惑ったけど、握手した。

 

「おおおー、ありがとうございます!ありがとうございます!一生の思い出になります。地元に帰ったら部下達に自慢してやります!」

 

 すっごい嬉しそうで何度もお礼を言われて、少しこそばゆかったです。

 でも、そうしたら。俺も私も、と次々に握手をして欲しいとせがまれ断り切れず宿の食堂のお客さんや宿の従業員の方達とも握手する事になり困惑しました。

 

 でもみんな、ほんとうに嬉しそうでした。

 アクア様の偽物の私、言うなれば偽アクアとも言える様な私なんかで良いのかなって思いましたが嬉し泣きする人も居る中ではとても言えません。

 

 ほんとうに握手したいのはアクア様なんでしょうが、叶わないから眷族で代わりにって事ですよね。

 だから、私を求められているわけでは無いんです。少しだけ寂しく思います。

 

 いつかほんとうに、私を求められるような存在になりたいです。

 誰かの身代わりじゃなく、「私」を見て欲しい。

 

 いつかその日の為に明日も頑張ろう。

 

 借り物じゃなく「私」の力で何か出来るように。

 

 先は、まだまだ長いなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 




仕事と責任は増えるのに給料は増えない。ストレスは増えるのに時間は減る一方。

6割くらいコロナが悪い。

早く不要不急の外出が出来るような世の中に戻って欲しいですね。
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