偽アクアの旅路   作:詠むひと

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理由はどうあれ、泣くとスッキリしますよね。


正直な気持ちで

 

 移動し、着いた先は会議室の様な場所でした。

 

 そこではきらびやかな法衣を纏ったり立派な髭を蓄えた老紳士達が唸りながら打ち合わせをしていました。机の上には資料やメモ書きの様な物が散らばっていて、洩れ聞こえる言葉からどうやら私の台本を打ち合わせしているようです。

 

「マイム様、ここで少々お待ち下さい。」

 

 私を引率してきたシスターさんは私にそう告げた後、ゼスタ様の元へ行き耳打ちしています。何か頷いたり私を見て小声で相談しているみたいですが私には聞こえません。

 

 周りの老人達も私の方を見て感嘆の声を上げたり、目頭を押さえて俯く人が居たりと様々な反応をされました。

 

 ゼスタ様達が相談している内容は私には聞こえないのですが、他の人達が頷いたりしているのが見えます。

 

 私は周りを見回しながらぼーっとしていると、やっと声を掛けられました。

 

「マイム様、こちらにお掛けください。」

 

 私はゼスタ様の横の席に着きました。

 

「マイム様。此度は此方の不手際の数々により多大なる心労をお掛けして誠に申し訳ありません。更に事態の解決の為にご協力頂きありがとうございます。つきましてはマイム様の演説の原稿を討議している最中ですが、マイム様のご意見を参考にさせて頂きたく思います。お手数ですが、何卒お力をお貸し頂きたく存じます。」

 

 何卒。と頭を深く下げられ、慌てて私も頭を下げました。私自身の責任の部分も結構な比重なのにそんな風に頭を下げられてはむしろこちらが申し訳無いとしか言えません。

 

「いえ、そんな。頭を上げて下さい。私の責任の部分も結構あると思うんです、だからどうか頭を上げて下さい。お願いします。」

 

 私がアワアワしながら言うと、では始めましょうと宣言され打ち合わせが始まりました。

 

 

 ゼスタ様達の提案した案に私の意見を追加したり削ったりしながら演説の内容が決まりました。

 

 ざっくりかいつまんで説明すると。

 

私はアクア様に導かれこの世界に降り立った。このアルカンレティアから遠く離れた辺境で魔王の配下の侵略により、人々の生活が脅かされている。

 

悪しき者が精霊を服従させ意のままに操り、本来護るべきか弱き者達をその手で虐げさせられている。

 

この様な悪行を許す訳には行かない。

 

そしてかの地には同胞たるアクシズ教徒の住まう集落がある。このままでは同胞達にも魔の手が伸びてしまう。

 

故に私はこの地へ来た。

 

同胞達の窮状を見て見ぬふりは出来ない、女神アクアの子であるアクシズ教徒ならば兄弟姉妹達を見捨てたりしてはならない。

 

過去に起こった事を忘れろとは言わない。ですが仲良く兄弟喧嘩しているなら兎も角、いがみ合ったりお互いを居ない物として扱う等。子供達同士がすれ違い続けるのをアクア様は嘆き悲しむでしょう。

 

お互いの全てを理解し合うなんて親子でも出来ない事です。

でも、歩み寄る事は出来る筈です。喧嘩別れのままでは、きっと何時か後悔する時が来るかも知れません。

後悔したときに、その相手はもうこの世に居ないかも知れません。

 

その後ずっと凝りを残したまま人生を送るのは悲しいです。

 

今ならまだ、間に合います。どうかお願いします。一歩で良いです。一歩だけでも踏み出して下さい。

 

あなたの一歩は小さいかも知れません、ですが皆の一歩が積み重なれば大きな前進になるでしょう。

 

そして別たれた兄弟姉妹で手を取り合い、共に闘いましょう。

 

魔王しばくべし!

 

未来なんて分かりません!分かり合えるかどうかなんてやってみなきゃ分からないんです。

 

だからこそ、信じる事を止めないで下さい。

 

信じる事すら止めてしまったら、良い未来なんて引き寄せられません。

 

だから、その未来を掴む為にあなた達の力を貸して下さい。

 

私の力なんて微々たる物です。とても足りません。だからあなた達の力を貸して下さい。

私達アクシズ教徒の力を合わせれば、どんな相手も退けられるでしょう。

 

女神アクア名代としてこの私、マイムと共に悪を討ちましょう。

 

アクシズ教徒はやれば出来る子なんです。今こそその力を示し、アクシズ教の存在感を示しましょう!

 

 

ゆくゆくはエリス教をアクシズ教で塗り潰し、この世界全てをアクシズ教に染め上げましょう!

 

魔王をしばき、悪魔を倒し、この世界全てをアクシズ教で席巻したらきっとアクア様が褒めてくれるでしょう。

魔王を倒したご褒美に、この世界に降り立ってくれるかも知れません。

それでもダメなら世界全てのアクシズ教徒で祈るのです。

アクア様に一目お会いしたいと。

 

これはその第一歩です。

 

一人で踏み出すのは怖いかも知れません。

ですが皆で踏み出せば怖くはありません。

 

さあ、私の手を取り一緒に踏み出しましょう!

 

 

 

 という内容に決まりました。最初はお互いに探り探りでしたが最終的にお互いにヒートアップしてしまい途中で言い合いになってしまった部分も有るのが反省点です。あとはアドリブで好きにやって良いそうですけど、なんて無理難題を……。

 

 最初はもうちょっとフワッとした当たり障りの無い感じの内容だったのですが、後ろ向きな内容があったりでしっくり来ず思い付くままに発言してしまいました。これは反省ですね。

 

 

「マイム様、内省しているのも良いですがそろそろ行きますよ。」

 

 いけない、自分の世界に入り過ぎましたね。シスターさんに促され慌てて後に着いて行きます。

 

「マイム様。私、感動しました。」

 

 シスターさんにキラキラした目を向けられました。

 

「私達がずっと見てみぬふりをし続けた問題にバッサリ斬り込んで、アクア様の子供同士で憎しみ合うなんてアクア様を悲しませるだけだっ!って言い放った時なんて痛快でしたよ。老人達が臭い物に蓋で放置してるから自然消滅待ちだったのを解決に向けるのを見て感動しました。」

 

 あれは、まぁ。どっちもお年寄りだから今じゃないともう本当に手遅れに成ってしまうし。

 

「アクシズ教徒で世界を席巻するだなんて、言葉にしようとする人も居なかったんですよ。私達がエリス教徒に負けてるだなんて思って無いけど、どこか諦めている部分は有るんですよ……。ずーっと国教はエリス教。他国もエリス教徒がほとんどなんです。私達の言葉を受け止めてくれる人なんて居ないから、私達は大声で捲し立てるしかないんですよ。」

 

 笑顔から一転し、寂しそうな顔で言われました。

 

「そんな願望を持っても、同じアクシズ教徒でも叶いっこないって内心思ってるんです。ずっとそんな現実を見てきたから、私達はどんどん内側に向いていくんです。内側に向いて先鋭化して自分達でどんどんエリス教徒との溝を深くして行っちゃうんです。」

 

 

 でも、と。嬉しそうに微笑みました。

 

「なんだか、出来そうだって思えたんです。マイム様が言った様にアクア様と女神エリスは先輩後輩の関係だって。だから今のエリス教徒の繁栄はアクア様の指導のお蔭で女神エリスが育ったお蔭だって。そんな後輩の成功を妬むのは止めて、立派な後輩を育てたって思うべきだって。」

 

 私は思うんです。先輩であるアクア様が頑張ったからこそ、女神エリスは成功出来たんだって。アクア様はきっとちょっと疲れてしまったんじゃ無いかなって。

 

「後輩を妬むなんてそんな情けない事をアクア様がするはず無いって。教義を見返したって、前向きな考えが見えるのに私達がエリス教徒を僻んで難癖付けてイビるだなんて、私達自身でアクア様の功績を台無しにしてるだなんて。自分が情けないですよ。私達がアクア様を貶めているだなんて……。」

 

「私達はエリス教徒の成功はアクア様のお蔭だって思って誇らしく思うくらいで良いだなんて。そんな前向きに考えた事も無かったですから。」

 

 あんなにも前向きで振り返らない教義を持つアクシズ教が、そんな暗い感情で後輩を虐めちゃダメだと思ったんです。

 

「だから私は信じます。マイム様ならきっと叶えられるって。アクシズ教の重鎮達の顔を見ましたか?最初は面倒事が増えたなって顔してた人達も晴れやかな表情を浮かべていたのを。姿は勿論の事、マイム様の言葉は余計な飾りなんて付いてないからストンって心に入るんです。だから絶対に成功します。頑張りましょう!」

 

 私自身は迫り来る民衆の前での演説という試練に不安で押し潰されそうになっていましたが、シスターさんの言葉に勇気付けられました。

 

 深呼吸を繰り返すと少しだけ落ち着きました。絶対に逃げられないし逃げちゃダメだ。でも逃げられるなら逃げたい。

 

 不安だし怖いし、落ち着かないし手も震えてる。

 

「あの、手を繋いでも良いですか?」

 

 手の震えが収まらなくて我慢出来なくなった。藁にもすがる気持ちで少しでも気を紛らわせられたなら、って。

 

「マイム様、大丈夫ですから。私が付いてます。こんなにも緊張して顔が真っ青でお可愛そうに、大丈夫です。貴女の言葉は誰もを惹き付けます。大丈夫ですから、ね?」

 

 シスターさんは両手で私の頬を挟み、私の顔を正面から覗き込んで言いました。

 

「風に乗って聞こえて来ましたね?皆がマイム様を待っているんです。貴女の言葉を聞き漏らさない様にって皆思ってるんです。大丈夫ですよ。」

 

 シスターさんに手を引かれ部屋に入りました。

 

 窓の外はバルコニーになっていて、ざわめきが聞こえて来ます。

 

 窓の両側で機材の準備をしているのが見えます。シスターさんが小声で拡声の魔道具と投影の魔道具だと教えてくれました。

 

 私の声と姿を街の何処からでも見聞き出来る様にと。ここだけではない、街の全ての人に届くようにと。

 

 何千、何万の人が居るかだなんて知りません。普通に生きていたら決して出会う事の無い人の数。

 

 限界を超えた緊張で一周して逆に落ち着いて来ました。

 

やるしかない。

 

やるしかないんです。

 

あああああああああーーーーー嫌だーーーーーー。

 

 

 だなんて、今さら言えません。だからやります。

 

 上手くいくかだなんて、やってみるまで分からないんです。

 

 神様だって未来の事が分からないんだから、こんな所でうじうじしてても仕方ないんです。

 

 だからせめて、私を信じて送り出してくれた人達の為に頑張ります。

 

 

 最終チェックを済ましバルコニーに出ます。

 

 あとは私の言葉で私の想いを伝えるだけです。

 

 窓の両側の魔道具の操作係の方が頷き、私は前に歩きます。

 

 私の一歩は小さいけれど、私の一歩が皆の一歩を呼び込む第一歩。

 

 バルコニーから見下ろし眺めます。

 

 聖堂の前の道は人で埋め尽くされ、そこにつながり道々にも人が溢れています。その人達は皆私を見て口々に好き勝手に歓声を上げています。

 

 私の声を聞いて貰うにはどうすればいいか。私の思い浮かんだのはコレ。

 

「しーーー。」

 

 人差し指を口の前に立ててやるアレ。

 

 通じるかとか何にも考えずにやったけど、通じたようです。だんだんと静かになっていき、30秒を超える頃には辺りは静まり却っていました。

 

 

 

「今、この場に集まっている人達。誰もが様々な疑問を抱えていると思います。ですが、先に少しだけ私の話を聞いて下さい。」

 

 

「私は」

 

 

 

 

 私の名前はマイム。

 

 アクア様に導かれ、この世界に来ました。水の精霊達は私も同じ女神アクアの眷属だと言いました。

 ですが私自身は今の自分が何者なのか、正しくは把握していません。ただ、アクア様に遣わされた者とだけ。

 

 私が降り立ったのは辺境、乾燥地帯です。アクア様の恩恵の薄い過酷な大地。そんな場所でも人々は助け合い生きています。

 私はこの世界では右も左も危ういほど無知です。そんな私に手を差し伸べてくれた方々が居ます。

 彼等はかの地で活動する冒険者達です。助け合わねば生きていけない地で、無力な私を導いてくれました。私は彼等と共に冒険者として活動し村々を見て回りました。

 

 乾ききった大地で僅かな恵みに感謝し、争わず分かち合う人々。モンスターの脅威に晒されても村を守る為に立ち向かった人々。幼くも剣を取りか弱き人々を助ける為に戦士になった少年。

 

 私が見たのはほんの僅かです。

 

 その中でも輝きを失わない人々が住む土地です。ですが、その地は魔王の魔の手が迫って来ていました。

 

 一般に魔王軍は人類の最前線である、このベルゼルグに軍を差し向けています。ですが魔王は卑劣にも、生きるだけで精一杯のか弱き人々を狙ったのです。辺境には各地を追われ行き場を無くした人々が辿り着く事が有ります。

 

 その中には、あなた方と同じアクシズ教徒の姿も有ります。

 

 長い長い旅をし、やっと見つけた安住の地。彼等はそこでアクシズ教徒の村を作りました。川辺を開墾し、1から村を作ったのです。彼等は川の畔に住み、アルカンレティアを模した村を作ったのです。故郷を想い記憶を手繰り、やっと作り上げたその村にも危機が迫っています。

 

 魔王の配下が炎の精霊を服従させ意のままに操り、大地を枯らそうとしているのです。

 

 大地から女神アクアの恵みである水を奪い、水の大精霊の半身を閉じ込めたのです。水を汚染し、その水にすがる人々の未来を奪おうとしているのです。

 

 アクシズ教徒の村である水の村もその水を頼りにしています、アルカンレティアにおける温泉のように。あなた方はこの街の温泉に魔王の魔の手が迫ったらどうしますか?戦いますか?逃げられるなら逃げますか?

 

 辺境の人々は戦う事を選びました。ですが、余りに無力です。彼等は第2の故郷を守る為に命を賭けて戦うでしょう。文字通り全滅するまで。

 

 魔王しばくべし!

 

 女神アクアの子供達よ。同胞の危機を指を咥えて見ているだけで何もせず見て見ぬふりをし続けますか?

 

 辺境に落ち延びたアクシズ教徒達は、数十年前の派閥闘争の折りに放逐された者達です。

 ですが、解釈は違えど同じ女神アクアを信仰する同胞なのです。

 

 兄弟姉妹で意見が合わず喧嘩する事もあるでしょう。ただ喧嘩しているだけならアクア様も見守っているでしょうが、兄弟姉妹でいがみ合い居ない事にして無視し合うのを見れば嘆き悲しむでしょう。

 

 今まさにそれは起こっているのです。そして今、手を差し伸べてなければ兄弟姉妹が……この世から居なくなるでしょう。

 

 親子でも完全に分かり合う事は出来ません。他人である以上、違いはあります。ですが、お互いに歩み合う事は出来ると思います。違う事を無理に受け入れずとも、そういうものとして考える事は出来ませんか?

 

 危機に晒されている兄弟を助けなければ、もう2度と分かり合う機会は無いでしょう……。

 

 上手くいくかは分かりません。神様だって未来の事は分からないんですからですやってみなきゃ分かりません。

 

 信じる事すら諦めてしまえば、良い未来を掴みとる事も出来ません。だから、良い未来を信じて見ませんか?

 

 アクシズ教徒は出来る子なんです。

 

 兄弟姉妹で力を合わせれば、きっとどんな困難にも打ち勝てるでしょう。

 

 そして、アクシズ教徒ここに在りと存在感を示しましょう。

 

 魔王の魔の手を打ち払い、人々を救いアクシズ教の影響力を拡大するのです。

 

 同胞が増えれば増えるだけ影響力も大きくなり、もっと強くなれます。いつの日かアクシズ教徒で埋めつくし、国教をアクシズ教に!他国も全てアクシズ教にするのです。

 

 この世界を全てアクシズ教に染め上げ、魔王を打ち倒すのです!そうしたらきっとアクア様がご褒美に降臨してくれます。

 

 さあ、この第一歩を踏み出しましょう!

 

 一人の一歩は小さいけれど、皆の一歩ならきっと届くはず。

 

 一人で踏み出すのが怖いなら、皆で踏み出せば怖くないです。

 

 それでも怖いなら、私が一歩を踏み出します。私の手をとり一緒に行きましょう!

 

 

 私の名前はマイム。女神アクアの遣いにしてアクシズ教団の名代。

 

 アクシズ教徒達よ私の手を取りなさい!一緒に行きましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終わった。

 

 

 

 

 ビシッと決めて、サッと部屋に逃げ出しました。

 

 

ああああああーーーーー言っちゃった言っちゃった。もうあと戻り出来ないよ!!!しかも言おうと思ってた所が頭から飛んじゃったよーーーーうわーーー。

 

 頭の中はこんな感じ。枕に顔を埋めて転げ回りたい。

 

 

 

「お疲れ様でした。今はゆっくり休憩して下さい。ほんとうにお疲れ様でした。」

 

 

 

 疲れた。ほんとうに疲れたよ……。

 

 

「あー……。これからどうなるんだろ。」

 

 

 




月日があっという間に経ってしまう。
今年ももうあと一週間ですね。お疲れ様でした。
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