偽アクアの旅路   作:詠むひと

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はじめてルビをふりました。おもったよりもかんたんでした。


戦士の魂

 

 

 ちょっとした疑問。

 

 別に知らなくてもなんとかなるとは思うけど、一度気になると知りたくなってしまうもの。

 

「詠唱の文言はどうやって決まっているのかだって?」

 

 今朝、ギルドで今日の予定を聞いている時にマグナさんに聞いてみた。

 

「特に決まりは無いが、使う者がイメージしやすいような文言を選ぶ事が多いな。例えば各属性ごとに、炎よ風よ水よ土よ等を基本として何を使おうとしているのか。次にどうしたいかを宣言し、最後にどう発動させるのかと言う順で詠唱しているな。」

 

 あくまでも基本は、と言う事で使う本人がやり易いように変えれば良いし。使い慣れてれば詠唱無しでも使えるし、詠唱するかしないかその辺は自由みたい。

 

「詠唱をすると言うのは精神の集中、味方への注意喚起と言う面もある。味方と連携する上で攻撃魔法に味方を巻き込む訳にはいかないだろう?それを防止する為に何をしようとしているのかを教えると言う意味でも私は詠唱をしている。詠唱無しでも屋外での戦いならまだ良いが、洞窟や遺跡等で戦うなら特に重要だと私は考えている。」

 

「遺跡…ですか?」

 

 遺跡、ロマンを刺激する言葉だ。

 

「そう遺跡だ。この乾燥地帯にはあちこちに古代の遺跡が点在している。今まで見つかっている遺跡もそれぞれで時代が違う物も多い。遺跡には古代文明の遺物や財宝、未知の技術が眠っている。この辺りで冒険者をしている者で開拓村の出身者以外はそういった遺跡の踏破を目的にしている者達も多い。」

 

 古代遺跡、財宝。おおぉ、ロマンを感じる。

 

「我ら、灼熱の風もその一つだ。私達は冒険者であり、トレジャーハンターでもあるのだよ。」

 

 きたきたきたー、これだよ。私は目を輝かせながら聞き入る。

 

「ここに灼熱の風が11人と言う大所帯である理由が有るんだ。遺跡が点在しているとは言え、その多くは埋もれていたり、入り口が隠されていたりする。地上を歩いているだけでは見付けるのは困難だろう?それも手掛かりは殆ど無い。見つかる遺跡の多くは依頼の途中で偶然に見付かった物が殆どだ。」

 

 マグナさんはテーブルの上で手を組みながら含み笑いをしながら言ってる。

 

「ならば、探索の専門チームを作ったらどうかと思ったんだ。だが、探索だけでは飯を食えない。資金も資材も只ではないんだ。だから私は仲間を集めた。大きなチームを組み、探索班を支えられるような枠組みを作る為にな。今、灼熱の風は通常3チームに別れて行動している。一つは私達だ、主に辺境でクエストをこなしつつ情報を収集しながら資金を貯め人材を集める班。二つ目は都市や村々を周りクエストをこなし人の流れや物の流れから遺跡の噂等を収集する班。そして三つ目が探索班だ、彼らは辺境中を渡り歩き文明や都市の痕跡を探し遺物や遺跡を探している。」

 

 マグナさんが、手招きして私の耳にだけ伝えた。「声を出すなよ、実は既に幾つかの遺物を発見している。我らが遺跡に踏みいる日も遠くないだろう。」と。

 

「!」

 

 口を押さえて声を出さないようにしながら聞いたけど、驚いた。古代遺跡、古代遺跡だよ。

 

 私が他の三人を見回すと、指を口の前に立てていた。ああ、そりゃ知ってるよね。私は興奮していた。未知の遺跡、冒険だよ。ねぇ!

 

「踏み入ったならば、私達は集結し。一丸となって踏破と探索を行う。マイム、君の能力は稀有だ。前衛と支援回復をこなせ、高い機動力と攻防に優れた人材なんだ。まだレベルは低いが私達が君を育て上げる、だから私達の力となってくれ。君を信頼し期待しているからこそ話したんだ。」

 

 出会ってまだ三日目。でも私はとても濃い三日だったと思う。とても大切な秘密を打ち明け、私をこんなにも必要としてくれた。嬉しい、今涙が出ているだろう。こっちに来てから涙腺が緩いと思う。でも仕方ないよね。私の答えは決まっている。

 

「もちろんです。私を、こんなにも信用と期待してくれてありがとうございます。私、頑張ります!」

 

 ここで引くとか出来るわけ無いじゃん。

 

「そう言ってくれると信じていた。ありがとうマイム。」

 

 マグナさんは柔らかく笑った。こう、なんとも言えない感覚がした。嬉しいとはちょっと違うようなでも、こう胸が高鳴るって言うかなんだろうこの感覚。

 

 マグナさんと握手をした。大きくて力強い手。まるでお父さんみたい。

 

 秘密を共有した四人は微笑み、より深く繋がった。

 

「さて、そろそろ行こうか。今日はマイムの胸甲を受け取り、クエストへ行こう。」

 

 今日のクエストは隣の村周辺で目撃されている砂狼の群の討伐と群のボスで上位種のモンスターの討伐だ。

 砂狼よりも大きく素早い上に歳を経た個体は魔法を使うという魔獣デザートファング。本来の生息地から流入し幾つもの群を従えているそうで手強いらしい。私に出来る事は全力で戦う事だけ。仲間を信じこの手に勝利を!

 

 ちょっと格好付けました。頑張ります。

 

 この脳内一人モノローグ、ちょっとヤバいクセなのは分かってるけど辞められない。だって、寂しいじゃん。ほら、内なる私達が聞いてるって思うと一人じゃないって思えるって言うか。

 

 

 

 (マイムは少々ボッチを拗らせ過ぎている。どこかのボッチアークウィザードとは仲良く出来るかもしれない。見知らぬ人に話し掛ける勇気が出ればだが。)

 

 

 

 ギルドを出た私達は村の鍛冶屋に来ていた。40代のおじさんとその家族で経営している村で唯一の鍛冶屋だ。マグナさんが言うには元々は領都で営業していた鍛冶屋だそうで、腕は良いそうだ。

 そこで私は胸甲を受け取った。

 

 私には胸甲と言うと、肩から腰の上くらいまでを覆う分厚い板金鎧と言うイメージがあった。史実で言うと徳川家康の南蛮胴具足かな。歴史の資料集とかで写真を見た覚えがある。ああ言うゴツいのを想像していて、重そうだなと思っていた。

 

 私が受け取ったのは、胸を覆う部分は黒く染められた金属製のプレートが付いているけれど、横や背中は茶色で分厚く硬い革が重なったような板札(いたざね)で作られていて身体の動きを制限しにくくなっていた。鎧を着る以上動きに制限が出るのは仕方ないけれど、これならあまり重く無いし動き易そうだ。

 胸部から下は薄手の革と厚手の革が重ねられていた。上から被るように着用するみたい。

 

 鍛冶屋さんに着せられ細かい調整を行ってから受け取り鎧についての説明を受けた。

 

「胸部は衝撃と矢や鉄杭を受け止め弾くように鋼で作ってある、背中と横は動きを妨げ難く衝撃にも耐えられるだろう。腹の部分は革を重ねることにより動きやすく衝撃と刺突に対してもある程度の防御を持たせてある。お前さんら冒険者なら防御系のスキルと合わせれば充分な防御力になるだろう。」

 

 鍛冶屋のおじさんの説明は続く。

 

「俺に言わせりゃ鎧は壊れてなんぼだ、壊れてでも中身が無事ならそれで良い。鋼で全て覆えばそりゃ硬い。だが衝撃は鎧を貫き身体に届くだろう。防御スキルを使えば身体は斬擊や刺突に強くなる、だが衝撃は内臓に響く。だったら鎧が衝撃を緩和すれば丁度良いだろう。お嬢ちゃんは前衛だ、衝撃で呼吸が乱れりゃ一瞬でも隙が生まれちまう。それを補うのが防具だって覚えときな。」

 

 私は鎧に詳しくないし、そんな風に考えて作られてたんだ…。硬ければ強いって思ってた。

 

「ありがとうございます!」

 

 職人は使う人の事も考えて物造りをするって、どこかで聞いた覚えある。誰に聞いたんだっけ…。

 

「おう、頑張んなお嬢ちゃん。」

 

 

 鍛冶屋を離れ、村から出て依頼先の村へ向かった。道中は一度の戦闘で砂狼が20頭も居た。今回は昨日と違ってマグナさんの魔法を主力として討伐した。

 

 魔法って凄い、でも同時に恐ろしい。私は戦闘の様子を思い起こしていた。

 

 

「マグナ、この先の曲がり角の向こうの崖下の日影に狼が20。半数が寝てて残りが警戒態勢を取ってる。」

 

 例によってミアさんが先行して偵察をしていた。

 

「20か。例の群の一部かな。私がまとめて殺る。ミアは崖の上で奇襲の警戒と追い立てを。二人は私の直衛についてくれ。」

 

 マグナさんの指示で私達は配置に就く。ミアさんが弓で狼を追い立てて私達に向かわせ、私達は狼を引き付け時間を稼ぎつつ出来るだけ一塊に追いやる役だった。

 

 寝ていた所に急に射掛けられ混乱している所に、私達が分かりやすい敵として引き付けて、斬り伏せ殴り殺し狼達をマグナさんに近付けないようにしていた。そして、詠唱が聞こえ私達は待避した。

 

 

火精(サラマンダー)の如き、灼熱の吐息よ。我が眼前の獣共(けだものども)()き尽くせ。」

 

「ヒートウェイブ!」

 

 マグナさんのタクトの先の景色が揺らいでいた。目には見えないけれど待避した私達も熱気を感じた。

 揺らぎは瞬く間に狼達を飲み込み、口から断末魔と泡を吹き倒れていった。

 

 私達が倒した分を抜いて残り14頭の狼が二秒程で死んでいった。

 

 倒れた狼達からは少し湯気が立ち上っていた、初めて見る範囲攻撃魔法。凄いと同時に恐ろしさも感じる。

 目に見えない力が命を奪う。熱気。サウナどころじゃない猛烈な熱量で、身体を蒸されて殺される。目の前で見て震えた。殺さなければ殺されるこの世界は残酷だけど美しい。全力で生き、全力で殺し合っている。

 

 私は全力で生きる。死なない為に。仲間を殺させない為に。モンスターも一緒なんだろう、でも私が勝つ。

 私がこの拳で殺す。この世界が厳しいなら、私も立ち向かう。

 

 

 狼を討伐し、道の脇に死体を固めマグナさんがまとめて焼いた。

 

「炎よ、死せる戦士達を天に送り届けよ。」

 

「フレイム!」

 

 マグナさんは言った。モンスターとは言え死体と怨念でアンデッド化することがある、だから焼くんだ。

 その後ちょっとだけ悲しそうな表情で言った。コイツ等も生きていて家族が居た。私はそれらを殺すんだこれからも、だから戦った相手はたとえモンスターでも戦士なんだ。勇敢な戦士の魂を地上でさ迷わせる訳にはいかない。だから私が亡骸を焼き天に届けるんだ。本当に天に行ったかはわからない。だが生まれ変わるなら、今度は肩を並べて戦いたいものだ。

 

 この世界の死生観の事はよく知らない。でも私もそうだったら良いなと思った。

 

 

 焼き終え、ミアさんが警戒を解いて戻ってきた。全員装備と負傷の有無を確認して村へ向けて再出発した。

 

 




皆さんは脳内一人モノローグってやりませんか?
やりませんか、そうですか…。

ファザコン(?)を発症。

マイムの一人称だと割りと中2的に暴走して文が書けます。他人から見て面白いかどうかは兎も角。

マグナなら
「勝利かソブンガルデかだ。」
とか言ってても様になりそうだと思った、書かんけど。



狼20討伐

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