偽アクアの旅路   作:詠むひと

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寄り道ウィザード

 村長宅前は()せかえる程の血の匂いが立ち込めていた。

 

 

 

「あー、血抜きかー。新鮮だもんね。」

 

 鍋の中は血の海、そこかしこで倒した狼の血抜きをしていた。

 

 私はそういうのは詳しく知らないけど、首を切った狼を吊り上げたりして血抜きしていた。辺境の村々では狼肉を食べるのは一般的と言うか、ろくに家畜も育てられ無い村も多い。その為、必然的にモンスターを食べるしか無くなるらしい。

 

 ギルドの酒場で食べた狼ステーキ、美味しかったな…。

 

 そんな訳で、今日は村でご馳走になる事になりました。

 

 ブラッドソーセージと言う物も作るらしい。私は実物を食べた事無いのでちょっと楽しみ。今日調理する分だけでなく、干し肉や塩漬け肉も作ると聞いた。未知のご当地料理的に楽しみで仕方ない。

 

 

 私達を見ると子供達が駆け寄って来た。

 

「おねえちゃんたちありがとう。」「ありあとー」「ありがとうございます。」

 

 子供達は口々にお礼を言いながら抱きついてくる、可愛い。私のヴァルハラはここにあったのか。

 

 しゃがみ込み、子供達と目線を合わせた。

 

「お姉ちゃん達は村長さんに会いに来たんだけど、どこに居るかわかるかなぁ?」

 

「わかるー。」「こっちこっちー。」「村長さんはこっちだよ。」

 

 子供達は私達の両手を引いて行こうとする。

 

「じゃあ案内してくれると嬉しいな。」

 

 私達の両手に何人もの子供達が手を繋いだり握ったりして団子状態になって歩いて行く。

 

 

「おじいちゃん、冒険者のお姉ちゃん達が来たよー!」

 

 一人の女の子が大きな声で呼びながら駆けて行く。

 

「おお、こちらです。もうすぐ焼けますので少しお待ち頂けますかな。」

 

 肉の焼ける匂いに生唾を飲み込む。村長達は狼肉を焼いていた。そう言えば、お腹が減ったなぁ。

 

 周りでは子供達がキャッキャッと遊び回っている。和む。やけたー?まだー?と声がしている。

 

「お待たせしました。この度は誠にありがとうございます。」

 

 そう言いながら、皿に焼きたての肉を渡して来た。

 

「是非とも、お召し上がりください。まずは我らの村を救った英雄にこそ食べていただきたい。」

 

 私達は皿を受け取る。爪楊枝みたいな鉄の串が刺さっている。肉汁が滴り…ああいただきます。味付けは塩だけだけど、これだけで良い。むしろ塩だけが良い。

 

「今晩は細やかなれども宴とします。見てわかる通り食材は尽きる事も無いでしょう。肉ばかりですがお楽しみ戴けたら幸いです。」

 

 周囲では延々と血抜きや解体が行われている。

 

「マグナ殿からお聞きやも知れませが、今晩は我が家にお泊まりいただきます。」

 

 村長さんとの話はリナさんがしている。今日は村に泊まって明日は山に行くが、村をベースキャンプにして数日掛けて討伐を進める事になるみたい。私の手を子供が引っ張ってるけど、指でしーっとして子供の頭を撫でる事にした。

 

「とりあえずマグナ達が帰って来るまで待機ね。子供達の相手はよろしく。私は今のうちに武器の手入れしてくるね。」

 

 リナさんは村長さんに連れられていった。モンスターを一掃した後、剣の血を布で拭っただけでまだ血が付着しているので早めに手入れしたいそうだ。

 

「おねーちゃん、あそぼー?」

 

「うん、いいよ。」

 

 とりあえず私は子供達と遊んでおこう。

 

 

 

 

 

 1時間程してマグナさん達が帰って来た。村長宅の前には肉を焼く台やお酒の入った瓶などが準備されていった。村人が集まって来て、後は主賓が揃うのを待つのみだった。

 

 

「待たせてしまったな。」

 

「お帰りなさい。」

 

 マグナさんとミアさんが戻って来た。村の狩人達も一緒のようだ。さて、これで揃ったかな。

 

 

 村長の奥さんがマグナさん達に杯を渡し、お酒を次いでいった。私?私は薬草茶だよ。ミント系の何かでスッとするやつ。待ってる間にも戴いて、後で茶葉を分けて貰える事になった。

 

 村長さんが杯を手に持ち、口上を述べる。

 

「皆の者よ静かに。まずは村を代表して、お礼を申し上げる。灼熱の風の皆さん、風の導きの皆さん。この村をお救いいただき誠に誠にありがとうございます。今この瞬間を迎える事が出来たのも皆さんのお陰です。そして村の同胞達よ、お前達も諦めずよく頑張ってくれた。皆の働きが有ったからこそ、今私達は生きている。そして、マイム殿。あなたのお陰で村人が一人も欠ける事無く生き延びられた。あなたはこの村にとって女神と言っても過言ではありません。ほんとうにありがとうございます!」

 

 村長さんはそう言い頭を下げた。面と向かって言われ気恥ずかしいけれど、誇らしくも思う。

 

「さて、皆の者よ。腹は減っているな?私達の前には充分に焼かれた肉と酒が有る。言わずとも分かるな?今宵は宴だ。皆の健闘を祝う宴だ。存分に楽しめ!」

 

「乾杯!」

 

 村長さんの乾杯と共に皆が杯を掲げ乾杯した。乾杯するとお酒を飲む者、肉を取りに行く者、隣合う者と歓声を上げながら抱き合う者。様々だけど誰も彼もが嬉しさを表していた。私も肉を取りに行こっと。

 

 

「俺がよそってやるよ。」

 

 村の男の人が肉を皿によそってくれた。他にもいっぱい食べろよとか、あんたは村の恩人だとか。子供達がドライフルーツを渡して来たりとかで人に囲まれた。知らない人に囲まれるのは苦手だったけど、今日は大丈夫だった。みんなと一緒に作業したり遊んだりして打ち解けられたからだろうか。

 

 でも、

 

「うちの息子を婿にどうだ?」

 

 これはいただけない。丁重にお断りしました。もっとも、言ってきたおじさんも冗談だったようで。周りから、お前の倅とじゃ釣り合わねえって。とか言われて笑ってた。私も自然に笑えてた。

 

 元の場所へ戻ると、ミアさんは村の狩人達と罠がどうだ痺れ草がどうとか杯を片手に盛り上がってる。

 

 リナさんは杯片手に村の男衆と腕相撲をしていた。負けたら2杯飲むんだとかで、酔い潰れるまで往くぞーって声も聞こえる。

 

 マグナさんは肉が山盛りになった皿を前にチビチビと飲んでた。私に気付くと片手を上げた。

 

「マグナさん、今日もお疲れでした。」

 

「ああ、お疲れさん。」

 

 お互い喋らずに、山盛りの肉と格闘する。塩加減が絶妙でうっま!付け合わせに貰ったピクルスもさっぱしてて良いし、時々ドライフルーツで口直ししてまた肉を食べてと。お互いに大変忙しい。

 

 私は肉が半分くらいに減った所で口を開く。

 

「レベルが上がったんですけど、今後はどういうスキルを取っていったら良いでしょうか?」

 

 そう、今日の戦いでまたレベルが上がった。レベルは5に上がった。相変わらず、知力と幸運は上がらない…。

 

「そうだな。今日の戦いで不足を感じた所を補う様なスキルを取っていくのが良いだろう。俊敏性や器用度の向上等がいいのではないかな?」

 

 確かにそうかも。もっと速ければ敵に攻撃される前に反撃出来るかも知れないし、もっと器用なら的確に攻撃出来たかも知れない。

 

「そうですね、そっちの方を上げてみます。魔法はどうしましょうか?ヒールだと広範囲の治癒だと魔力を大きく消費するので、エリアヒールを取ろうかと思うんです。」

 

 今回みたいに村人の治療が必要な事も有るかもしれない。

 

「悪くは無いが、効率化や消費軽減系のスキルが有るはずだ。そっちの方がスキルでの魔力消費も抑えられるはずだ。」

 

 なるほど。そっちは気が付かなかった。魔力効率が上がればヒールでの範囲治療も消費が落ちるし。

 

「私の経験上だが、ある程度レベルが上がったら一度冒険者に転職して色々なスキルを習得するのも手だぞ。」

 

「冒険者ですか?」

 

「職としての冒険者だ。アレはステータス補正が無いが、その代わりにあらゆるスキルや魔法を習得する事が出来るんだ。転職には手数料が掛かるが色々と便利なスキルを取っておいても良いだろ。私はプリースト系、盗賊系、狩人系と幾つか習得しているんだ。まあ、そのせいで着いた渾名が寄り道ウィザードなんだがな。そんな寄り道してるからアークウィザードに成れないんだとか言われるよ。」

 

 マグナさんは苦笑しつつ言った。そんな手も有るんだ、そのうちやってみよう。

 

「後はそうだな。私の場合だが、いつまでもハイウィザードなのにはちゃんとした理由がある。職業は上位ほど専門性が上がり成長補正が大きくなる代わりに補正が下がる物もある。アークウィザードはハイウィザードに比べ知力と魔力が上がり易いが、生命力や筋力は上がり難いんだ。私はある程度接近戦にも対応する為に筋力等も上げる必要が有ったからハイウィザードのままにしていたんだ。」

 

 私は脳裏に浮かぶ事がある。モンクとグラップラーは上級職、つまり。知力が上がらない原因はそれなのでは…。

 

「だが、マイムが入った事で前提が変わった。マイムがもう少し成長したら、私が接近戦をする必要も減るだろう。そうしたらアークウィザードに転職するのも良いかも知れないな。」

 

 確かにそうだろう。私がもっと強くなればマグナさんは魔法に専念できる。

 

「私達はパーティーを組んでいるんだ。お互いがお互いの長所を伸ばして、穴を埋め合うように出来れば良いと思ってるよ。それに便利なスキルを習得してれば、いつかマイムが別の地域や国へ行きたいと思った時にきっと役に立つだろう。」

 

 私は、どうしたいんだろう。マグナさん達と遺跡に行きたいと思う気持ちと、この世界を見てみたい気持ちもある。でも少なくとも今はマグナさん達と同じパーティーで居たい。私はそれをマグナさんに伝えた。

 

「いつか、その時が来てしまうまでは頼りにさせて貰うよ。まあ、私としてはこのまま居てくれるのが望ましいがな。それに私もその気持ちは分かる。自分の知らない土地への冒険ってのは心躍るものだからな。」

 

 やっぱり、マグナさんは優しいと思う。

 

「さ、重い話はここまでだ。今は楽しもう。」

 

 そして、肉との格闘に戻る私達。

 

 肉を食べるとしあわせ、はーと。

 

 

 

  途中で子供達が何人か来て、私はあやとりを教えた。指を動かす事に慣れてると器用になるとかなんとかで、一時期嵌まってて色々出来る。

 

 少し遅い時間になり子供達は帰って行き、辺りには酔っぱらいで溢れた。リナさんの方からは相変わらず、オッシャーとか負け犬ーとか叫びが聞こえる。明日、大丈夫なのかな。

 

 ちょっと前からマグナさんは村長さんや村人と話しに行ってて私は暇だったので肉焼き台のお手伝いをしていた。

 

「嬢ちゃん、俺にも肉くれよ。」

 

 村人達とも打ち解けて雑談しながら、肉を焼きつつ自分も食べる。少し眠くなってきたので肉焼きを変わり、宛がわれた部屋に行く。部屋に行くとミアさんはもう寝てた。私も寝よう。

 

 外ではまだガヤガヤと騒いでいるけど、寝るのには支障は無い。

 

 今日も1日が終わります。アクア様今日も楽しく過ごせました。そして村を助けられたのもアクア様のお陰です、ありがとうございます。

 

 私は日課の女神アクアへの感謝を告げて眠りについた。

 

 




肉を食べるとしあわせ。
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