東方煙焔記   作:Amaryllis___

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遅くなってすまん。


悪魔の妹

レミリアとの戦いを終えて、オレはその足ですぐに地下へ向かった。

地下への行き方は知らなかったが、大凡の検討はついていた。

大図書館の中、普段パチュリーが座っている椅子の裏に金属製の大きな扉があるのだ。

それはまるで銀行の金庫のように大きく、宮殿の門のようの厳かであった。

 

 

「まァ、開け方はパチュリーに聞くしかねぇわな…」

 

 

それほど大きい扉なだけあって、簡単に開くようなものでは無かった。

レミリアから地下に行く許可(?)を貰ったのでパチュリーに聞きに行くことにした。

 

地下の話、レミリアとの戦いの話をパチュリーにすると呆れたような不機嫌なような、微妙な顔をされた。

 

 

パチュリー「…貴方ねぇ、私レミィに話すなって言わなかったかしら?」

 

 

「わりィ、あんまりにも気になったもんでよ。」

 

 

「呆れた…」とでも言わんばかりのため息をパチュリーにつかれたが、弁解しようとしても仕方ないので改めて聞くことにした。

 

 

「そういうわけでよ、地下に案内して欲しいんだわ。そこのデカい扉なんだろ?」

 

 

パチュリー「そうよ、貴方の馬鹿力なら無理矢理開けれる物だと思っていたけれど。」

 

 

「あんだけ厳重な扉を壊して、もし地下に通じる扉じゃなかったら滅茶苦茶無駄だろ?」

 

 

パチュリー「ふふっ、そうね。…いいわ、地下に案内してあげる。着いてきて。」

 

 

パチュリーに案内してもらい、地下に通じる扉の前に移動する。

 

目の前に立つと余計に大きく感じるこの扉。

開けてはならない。触れてはならない。

それはまるでパンドラの箱のように恐ろしいオーラを放っていた。

 

 

パチュリー「さて、今からこの扉を開けるわけだけど…ここで開けることは出来ないのよね。」

 

 

「あ?専用の鍵とか、強大な魔法とやらで開けるんじゃねェのか。」

 

 

パチュリー「鍵穴なんてどこにも無いでしょ。魔法に関しては創作小説の読みすぎね。扉を開けるのならこっちよ。」

 

 

オレの勘違いを簡単に一蹴し、パチュリーはスタスタと歩いていった。

今はパチュリーに着いて行くことしか出来ないので、反論はせずに大人しく着いていく。

 

…まぁ、反論できることもないのだが。

 

 

パチュリー「私も扉を開けるのは2、300年ぶりくらいなのよね。普段はメイド達に行かせるから。」

 

 

「っつーことは、パチュリーもそれぐらいフランドールに会ってないわけか。」

 

 

パチュリー「……そうね。…さて、たしか第21本棚のe列…5段目、だったかしら…」

 

 

フランドールの話を軽く流し、ブツブツ独り言を言うパチュリーにそのまま着いていく。

パチュリーは本棚を見ながら歩いている。

 

 

「なァ、扉開けんのになんで本棚に行くんだ?」

 

 

パチュリー「見てればわかるわ…e列5段目の赤い本…ん、4段目ね。赤い本…あった、これよ。」

 

 

そう言って、パチュリーは“第21本棚e列4段目の赤い本”を強く押し込んだ。

パチュリーが赤い本を押し込むと、地下への扉の方からガコン!と大きな音がした。

恐らく今の本が鍵になっていたのだろう。

 

 

「ゼルダの伝説やらドラクエやらにありそうだな…」

 

 

パチュリー「貴方って博識なのか単純に馬鹿なのか知らないけれど、たまに意味不明な単語使うわよね。」

 

 

「博識な馬鹿って事だよ。んで、今ので扉は開いたんだな?」

 

 

パチュリー「開いたのは鍵ね、あとはあの扉を強く押せば勝手に開くわよ。」

 

 

やはり先程の赤い本が鍵となっていたようだ。

にしても、ここまで大掛かりな解錠をしておいて最終的に自力で開けるとは…

本を鍵にするロマンを求めたかっただけだろうというのが丸わかりである。

 

 

「これの作者はレミリアか…。」

 

 

パチュリー「あら鋭いのね。って言っても結構わかりやすいかもしれないけれど。」

 

 

うん、結構わかりやすい。

 

…やっぱ500年生きてても子供なんだなと再確認。

とはいえ、この大掛かりな仕掛けに驚いたのも事実、ここはレミリアの顔を立てて何も言わないでおこう。

もう手遅れかもしれないが。

 

扉の解錠をしたので、パチュリーと地下への扉の前に戻った。

 

 

パチュリー「この扉から先は貴方一人で行くのよ。覚悟は出来ているの?」

 

 

覚悟…

たしかにレミリアの妹、フランドールは恐ろしい能力を持っているらしい。

オレがいくら能力を使いこなせていようと、たちうちできないのかもしれない。

勿論、死ぬことだってありえる。

 

(…レミリア、心の中で泣いてたんだろうな。)

 

オレが「地下に行く」と言った時のレミリアの顔が記憶から呼び起こされる。

 

 

(覚悟…ね、そんなもん…)

 

 

「とっくに出来てらァ。語るまでもねェわな。」

 

 

レミリアへの恩義の為。

レミリアの妹の為。

姉妹が、いや、紅魔館が笑顔でいれるように。

 

───オレはオレの仁義を通す。

 

 

パチュリー「そう、でも油断しないことよ。」

 

 

「おうよ。」

 

 

オレは目の前の大きな扉に手を当てて、強く押し開けた。

ゴゴゴゴゴ…という地震のような重低音を立てて、その大きな扉はオレに道をあけた。

 

扉を開けると、地下に続くものであろう石造りの階段が闇の中でオレを待ち構えていた。

 

 

「夕飯までに帰るって咲夜に伝えといてくれよ。」

 

 

パチュリー「呑気ね…はいはい、気をつけて。」

 

 

重要な場面の前に、少し緊張をほぐそうと軽いジョークを言う。

フフッ、と笑ってオレは地下への階段に足を踏み入れたのであった。

 

 

パチュリー「……レミィが貴方に拘る理由、少し分かった気がするわ。」

 

 

オレが地下への階段に足を踏み入れたあと、パチュリーの呟きがオレの耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

地下へ続く階段はとても暗く、壁に等間隔で設置されている蝋燭が無ければ一寸先も見えないほどだ。

とはいえ、蝋燭があっても足元が微かに見える程度だが。

 

 

「…嫌な空気だなァ、煙草でも吸うかね。」

 

 

地下へ続く階段というだけあって気温が低いという理由もあるだろうが、この階段に足を踏み入れてから妙に心臓が圧迫されるような感覚に襲われていた。

 

ソワソワする気持ちを落ち着かせるためにポケットから煙草とジッポライターを取り出し、煙草に火をつけて煙を大きく吸い込む。

 

 

「ッ…!さみィ!?けどやっぱり……」

 

 

落ち着く。

 

非喫煙者などの通常の人間がオレを見たなら「末期だ。」と言うのであろうが、他の喫煙者もだいたい同じだ。これが普通なのである。

 

煙草の煙があまりにも冷たすぎてこの空間の気温が下がったような気がするが、二呼吸目は全く気にならなくなった。

 

 

「それにして長ェ階段だな、終わりがあるのかも怪しいくらいだぜ…ッと?」

 

 

ブツブツと独り言を呟いていると、長い下り階段が終わり、鉄製の扉に到達した。

サビだらけの片開きのドアだ。

この先にレミリアの妹、フランドール・スカーレットがいるのだろう。

 

オレは煙を吸い込み、瞼を閉じた。

 

ずっと感じていた悲しい魔力の主と漸く対面できるのだが、レミリアは「彼女との“遊び”には痛みが伴う」と言っていた。

まぁ簡単に言うと戦いになるのだろうが…

 

煙を吐き、目を開けて扉を再び見やる。

と、ここであることに気づいた。

 

 

「…よく見たら半開きじゃねェか。まぁもう一個バカでかい扉あるし、そこまで厳重にする必要はないのかもな。」

 

 

ここまで厳重に幽閉しているのだ、半開きなのは少々警備が緩いような気もするが…

外に出るにはもうひとつの大きな扉も突破しなければならない。

だから部屋の扉は開いてても別段問題がある訳では無いのだろう。

 

そう勝手に納得し、オレは錆び付いた扉を押し開けた。

ギィィィ…と不快な金属音を立てて開いた扉の先は階段に比べると大分明るく、部屋の大まかな全体像を把握することが出来た。

 

 

「広いな…」

 

 

まず第一印象、広い。

天井はドーム状で、どデカいシャンデリアがぶら下がっている。

レミリアがいつも過ごしている玉座の間に比べてもだいぶ広い。

ここまで広い空間を作るのは結構難しいだろう。

 

そしてもうひとつ、ツンと鼻に来る嫌な臭いが漂っていた。

これはオレも嗅いだことがあり、普通ならば漂うはずのない、いや、漂ってはならないはずの臭いだ。

 

 

「…腐乱死体、だろうな。部屋中にこびり付いた血の臭いも微かに混ざってる。」

 

 

元々ヤクザだったオレからすれば、ある程度は嗅いだことがある臭いだ。

とはいえ、それでもこの臭いに慣れることはできない。

 

吸い込んだ煙を鼻から吐いて、鼻の臭いを煙草で洗浄する。

すると、まだ腐乱臭は残っているが、鼻呼吸が出来ないほどの臭いはしなくなった。

 

 

「…腐乱臭漂わせやがって…これぞまさに腐乱ドールってか?」

 

 

は?

 

 

……………場を和ませたところで、肝心のフランドールを探す。

一部屋とはいえ、ここまで広いとどこかに隠れていてもおかしくはない。

 

だが、腐乱臭漂う部屋を歩きながらキョロキョロしていると幼い声が聞こえた。

 

 

?「おじさん、ここに何の用?」

 

 

突然かかった声に少し吃驚したが、周りを見ても声の主は見当たらない。

だが、声の感じからしてフランドールだろう。

吸っていた煙草を床に落とし、踏み消した。

 

 

「お兄さん、な。お前はフランドールだろ?遊びに来たぜ。」

 

 

?「…そう、フランでいいよ。」

 

 

呼び方の訂正は完全にスルーされたが、思っていたよりちゃんと話はできるようだ。

すると背後からタンッという音がしたので振り向くと、そこに金髪の吸血鬼、フランが姿を現した。

フランの手には赤いふにょふにょした物が握られていた。臓器…恐らく脳漿辺りだろう。

 

 

「随分とマブいスケさんだな。オレは葛城龍二、レミリアに頼まれてな。フランと遊びに来たぜ。」

 

 

フラン「ふぅん…お姉様ね………。」

 

 

レミリアの名前を出すとさっきとは打って変わって暗い顔になった。

いや、憎悪や恨みと言うべきか。

フランは手に持っていた臓器を握り潰し、投げ捨てた。

投げられた臓器は木っ端微塵になっていた。恐ろしい程の握力だ。

 

 

フラン「人間って飲み物の形でしか見たこと

無いの。貴方も飲んでみる?」

 

 

「いや、オレはコーヒーがいいな。とびっきり苦いやつで頼むわ。」

 

 

フラン「こんなに図々しい人間初めてよ。貴方ほんとに人間?」

 

 

やはり普通ではない。とはいえ吸血鬼ならば当たり前なのかもしれないが、カニバリズムは遠慮したい。

それにしても、どいつもこいつもオレを人外扱いしやがって。

確かに前とは違い、今のオレは魔法や能力が使える上に筋力がインフレーションしているので人間を辞めていると言っても過言ではないが。

 

 

「話は変わるけどよ、フランはレミリアについてどう思ってンだ?」

 

 

「どうって何。」

 

 

やはりレミリアの名前を出すと不機嫌そうだ。

“踏み込んでくるな殺すぞ”というオーラが凄い。

たしかに仲は険悪…なのかもしれない。

だがオレはレミリアと約束したので、ここで引き下がることは出来ない。

 

ポケットから煙草を取り出し、火をつけて気持ちを落ち着かせる。

 

 

「まァ…なんさな。レミリアはお前の事を大事に思ってるのは知ってるか?」

 

 

フラン「ふざけてるの?私は495年も地下に閉じ込められてたのよ?」

 

 

「…その理由は知ってるか?」

 

 

フラン「質問ばっかでつまんない。お姉様は私の事が嫌いなの、だから私を閉じ込めるのよ。」

 

 

やはりそうか。

レミリアはフランに幽閉の理由を伝えていない。もしくは伝わっていないのだろう。

ということはレミリアの気持ちを伝えてやれば、あるいは…

 

 

「レミリアがフランを閉じ込めてた理由はな、フランの能力が大きな原因だ。フランの能力は危険で、仮に外で何かあって能力が暴走したらフランの身も危ない。だから外に出したくても出せない。って言ってたぞ。」

 

 

フラン「……そんなの知らない。おじさんの嘘つき。」

 

 

少し動揺しているようだ。

未だにオレをおじさんと呼んでいるのはこの際おいておこう。

ただ動揺しているとはいえ、495年分の恨みが溜まっているはずだ。

それを簡単な会話で消すことは出来ないだろう。

 

そこで恨みの置き所が無くなった場合、ターゲットになるのは確実にオレだ。

そうなったらオレはフランの怒りを命懸けで受け止める事になる。

 

もちろん命の保証はないが、全て覚悟の上である。

 

 

「嘘じゃねェよ。レミリアはな、ずっとお前のためだけに生きてきたんだ。それが間違ってたとしてもな。」

 

 

フラン「…うるさいな。もう黙ってよ、壊すよ。」

 

 

「レミリアはフランとまた一緒に笑えるような生活をしたいって願ってるぞ。」

 

 

フラン「黙って……黙れ。」

 

 

「フランを…愛してるってよ。」

 

 

我慢が効かなくなったのか、フランは憎悪の宿った瞳を真っ赤にさせてオレを睨みつけた。

目からは涙が流れている。

 

するとフランはオレに掌を向けた。

 

その顔は“絶対に殺す”と言わんとばかりの殺意に満ちた顔だった。




ちなみに、「マブいスケさん」というのは「可愛らしいお嬢さん」みたいな意味やで。
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