「フランを…愛してるってよ。」
フラン「うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!もう壊れちゃえ!!!!!」
フランの叫び声と共にドカン!という音と共に目の前が爆発した。
どうやら吸っていた煙草を爆発させたらしい。
勿体ない………じゃなくてとても危険だ、下手したら顔面が爆発してたかもしれない。
そうすればオレは一発KOだ。
フラン「ッ!……こいつの“目”はどれ…?」
「あん?どうしたよ。」
フラン(こいつの“目”、どれを壊せばいいの…試しに一個壊したけど何も起こらないし…)
フラン「…まぁ直接壊せばいいだけね。おじさんは喋んないで、うるさいから。」
そこまで言う?ちょっと傷ついた。
“目”がどうとか言ってたみたいだが、オレの目は顔についてる2つのたまっコロだ。他に何があるのか。
と、考えている暇もなくフランの掌から無数の赤い弾が超速で発射された。
「オイオイ…こりゃあレミリアも手に負えないわけだ、速すぎるぜ。」
フラン「当たってよッ!!壊れてよッ!!!」
「無茶言うな。」
オレは魔力で精製した無数のパイプを能力で飛ばし、レミリアの時と同じように弾を相殺した。
相殺しなかった弾は床や壁に当たって爆発した。
レミリア戦で多少慣れたのもあるが、日頃の訓練の甲斐あってある程度は無意識にいなせるようになった。
見た目が子供とはいえ、油断は禁物だ。
あのレミリアが手に負えない程の能力。警戒するに越したことはない。
ちなみにフランは未だ休む間もなく魔弾を放ち続けている。
「どんだけ連射できんだよ…とんでもねェ弾倉だな。」
フラン「だんそう…男装…?」
普通に通じなかった。
そういえば幻想郷に銃はないのだろうか。
いや、恐らくは存在するのだろう。紅魔館の造りから見て、元いた世界で例えるなら中世ほどである。
海賊とかが使ってそうな銃はありそうだ。
そもそも幻想郷の奴らは魔法使えるから要らねぇのか。
フラン「あ…短小?」
やめろ。
フラン「こんだけ連射してもバテないなら撃たなくていいか。」
そう言って、ずっと魔弾を連射していたフランが攻撃をやめた。
攻撃が止んだのでオレも周囲に展開していた魔力のパイプを消した。
バテはしないけど普通に疲れたぞ。
「…なンだよ、話を聞く気になったか?」
フラン「ううん?臟えぐろうと思って。」
そう言ってニコリと天使のように笑った悪魔は突然、瞳孔をガン開きにして殴りかかってきた。
レミリアとは比べ物にならない程のスピードだ。
だが殴られる手前の一瞬、ほんの一瞬だけオレにとっての時間がゆっくりになった。
フランの翼に装飾されている7色の宝石がオレを嘲笑うように煌めく。
(“ゾーン”…ってやつか。)
フランの攻撃は確かに速い。もはや音を置き去りにしているのではないかという程にそれは速かった。
だが命を賭した戦いというのは感覚、第六感も養うものだ。
その第六感が生み出す究極、その1つが“ゾーン”。
だが世界がゆっくりになると言っても、その間は約1秒程度だ。
悠長に構えていられるほどの時間はない。
今まさに、フランの拳がオレの腹を貫く寸前なのだ。
なのでオレはフランの腕を上から強く殴り、フランごと床に叩きつけた。
「ゾーンね…まさかオレも習得していたとはなァ。」
フランの腕は叩きつけられた衝撃で床に埋まってしまった。
一瞬フランは目を驚愕とともに見開いたが、すぐに口角をあげた
フラン「アハッ、そうこなくっちゃ…おじさんには苦しみながら死んでもらうんだからァ…!」
床に埋まった腕を乱暴に引き抜き、フランはユラユラとオレに微笑んだ。
もはや狂気しか感じないほどの邪悪さを孕んだ笑みである。
フランは妙な方向にねじ曲がった右腕を忌々しそうに見つめ、左の手で強引に元の方向にバキリと戻した。
「オォウ、良い音。」
強引に戻した右腕をグルグル回して具合を確かめると、フランは両の手を広げて力んだ。
すると真っ赤な長い爪がフランの指先から伸び、フランは口角を吊り上げてその場から消えた。
恐ろしい程の悪寒を感じて横に跳んだが、その瞬間、左腕に激痛と共に赤い華が散った。
「…ッ痛ぇなァ…!」
左腕を見ると大量の血が出ており、血みどろになりながらも視認できるほどの深い切傷がついていた。
単純な事だ、フランの爪に切り裂かれたのだろう。
油断はしていなかった。
だがあまりの速さと爪の鋭さに吃驚したと同時に、元の世界で最強だったはずの自分がそれを受け止めれなかった事実に段々とイライラが募ってきた。
フラン「おじさんの臟抉って撒き散らしてあげるよ。」
「…やってみィやバカ助がァ!」
オレが叫ぶとフランの姿が再び消失し、それと同時にオレは周囲に魔力のパイプを展開、そして両腕に魔力の篭手を装着して構えた。
その出来事からコンマ数秒後
左方からの殺気を感じ、その方向にパイプを飛ばして右ストレートを放った。
「オラァッ!!!」
フラン「…っ!」
左方に飛ばしたパイプはフランの右腕を貫き、動きの止まったフランの頬に右ストレートが決まった。
顔面に衝撃を受け、狂気的な圧力を孕んだフランは成すすべもなく吹き飛んだ。
やった本人が言うのもなんだが、ちょっとばかり心がいたい。
「死んじゃ…いねェな、ほんの一握りの情けもいらねェか。」
吹き飛んだフランは壁を砕き、砂煙と瓦礫を生み出した。
砂煙で見えないが、フランが居るであろう点に目掛けてその瓦礫を能力で飛ばした。
よくある言い方をすれば“オーバーキル”である。
すると予想通り、飛ばした瓦礫は粉々になってオレの方向に返ってきた。
フラン「どうして反応できるの?人間が反応できる速度じゃないと思うけど。」
やっぱり死ぬわけがないのだ。
というより死んでいたら流石に困る。殺すことが目的ではないのだ。
「人間特有の本能がそうさせるのさ。」
フラン「ふぅん…」
聞いた割には心底興味無さそうである。
それにしても、彼女に痛覚は無いのだろうか。
いくら吸血鬼とはいえ、流石にあれほどの衝撃を受ければかなりの痛みがあると思うのだが。
そんなことを考えていると、フランは雲を掴むような動きで右手を前方にかざしだした。
「あァ?」
フラン「私のステキな“玩具”を見せてあげる」
かざしたフランの右手から赤黒い魔力が温泉のように湧き出てくる。
その湧き出た魔力はフランの右手から棒状に伸びてゆき、やがて赤黒い大剣となった。
その赤黒い剣は妖艶に煌めき、その柄からは鎖が垂れている。
この剣がRPGにあるのなら、ラストダンジョンで手に入るレベルの呪われた武器だろう。
そんな印象を持てるビジュアルだった。
フラン「…かつて神話では“魔法の剣”として崇められ、あるいは“禁忌”として恐れられ…悠久に語り継がれる剣…」
フランは淡々と語りつつ、その刀身を愛でるように指を優しく添わせた。
すると指で撫でられた刀身から、突如血のように赤い火炎が発生した。
フラン「“レーヴァテイン”」
フランは“レーヴァテイン”を横に薙ぎ、地下室の壁に大きな水平線を描いた。
瓦礫が崩れ、砂埃が舞う世界。
フランの姿は見えずとも、レーヴァテインの火炎によりその位置は明確である。
「……それが“玩具”、ねェ。」
きっと模倣品なのだろうが、神話の産物を飽くまでも“玩具”と言い張るフランに多少の呆れを覚える。
レーヴァテインによって、寒く冷たい地下室の温度が上がってゆく。
「サウナにしては湿度が低いんじゃねェのかァ?」
フラン「サウナ…?湿度…?何言ってるかよくわからないけど、ちゃんと避けないと…」
フランがオレにむかってレーヴァテインを強く振り下ろす。
反射的に身体を捻り、これを回避した。
今度は縦の線が壁に刻まれ、先程の水平線と重なって十字を創造した。
頬に伝うのは冷汗か、この空間に満ちる熱気によるものか。自分でも分からない。
フラン「壊れるよ。」
「吸血鬼が十字を描くたァ随分な冒涜だな。つってもオレは神なんざ信じちゃいねェが。」
フラン「神様が存在してるなら、私は迷いなくそいつを壊すなぁ。」
随分お怒りのご様子で…と呟き、オレは床を強く蹴ってフランに迫る。
単なる正面突破。流石のフランもこれを嘲笑うかのような表情をし、レーヴァテインの切っ先をオレに向けた。
このままではオレはレーヴァテインに貫かれ、残酷な死を遂げる。
なによりも、フランとレミリアはすれ違ったままだ。
まぁ…
「そんな事はわかってらァよ。」
右腕にありったけの“力”を集中させる。
オレは左手を前に突き出し、右腕を強く後ろに引いた。
所謂“パンチ”だ。
その全速力のパンチをフランではなく、あえて“レーヴァテインに”放つ。
「オッ──ラァッ!!!」
衝突する剣と拳。
バリンという音とともに真っ赤な粒が飛び散った。
オレは右手を突き出した状態で数秒間、静止する。
その右手に握るのは拳──
だがそれは拳であって拳ではない。
その右腕に纏うは緋色のガントレット…
今まで使っていた魔力の篭手とは似て非なるもの。
そのガントレットは燃えたぎる焔を彷彿とさせるような形状をしていた。
「“カグツチ”とでも名付けておくかァ・・・!」
フラン「…ッ!」
目を見開き、動揺を隠せないフラン
その手に握られている物は“レーヴァテインだったもの”。
オレが図書館で初めて魔法を使った時、炎を出そうとして“炎の形をした物体”を生み出したことを覚えているだろうか。
実はあの魔法が生み出した物体にはしっかりと炎の大きな要素、“熱”が生まれていたのだ。
言うなれば“炎の結晶”のような感じだ。
フラン「どうして…」
「質量のある炎と無い炎なら、質量のある炎の方が強いよなァ〜!?ガハハハハハハ!」
フラン「なんて単純……」
予想通りの威力にゲラゲラと笑っていると、フランがため息混じりにオレを睨んできた。
“495歳児”にすら呆れられるオレってなんなんだろうな。
フランの“玩具”が壊れたことで“遊び”が一時停止されたので、オレはすかさず煙草を取り出し火を付けた。
上昇した室温が冷たい煙で冷却されてゆく。
フラン「…はぁ……」
フランは少し俯いて何か考え事をしているようだ。
もしかしたら話を聞く気になったのかもしれないのでオレはフランを待つことにした。
煙を吸って
吐いて
また吸って
また吐いて
………しばしの沈黙。
オレが二本目の煙草に火を付けた数秒後、フランが漸く口を開いた。
フラン「私は…495年間ずっと独りだったの、この暗い部屋で。」
「……知ってるぜ。」
フラン「お姉様がどう思ってるかは知らないけど、私はずっと独り。」
オレはまだ28だ。もし28年ずっと独りだったならオレは発狂できる自信すらある。
それを約495年…
どれほど辛く、どれほど寂しかったなど
語るまでもないだろう。
フラン「私だって…妖精メイドが持ってきてくれた本に書いてあったような家族みたいになりたかった…っ!」
「…………ッ」
フラン「それなのに…っお姉様はいつも私を独りにしてっ…私を置いて…家族で幸せになって……っ………」
何も言えなかった。
今まで生きてきて色々な苦労があったが、それでもオレの周りには人が居た。家族が居た。
フラン「私も……っ、入れてよ…!家族に…っしてよッッ!!」
叫び、魔弾を放つフラン。
その魔弾をオレは避けようともせずに直撃した。
腹に強烈な衝撃を受け、流血した。
フラン「何も知らないくせに…ッ、知ったようなこと言わないでよッッッ!!!!」
フランの言っていることは最もだ。
495年間の孤独、実の姉は別の家族と笑顔。
オレはフランとレミリアがまた笑い合えるようにするなどと大層な事を言っていたが、フランの事を理解しているようで全く理解できていなかったのだ。
それは、“孤独”を知らないから。
ならば、今のフランに必要なのは何か……
フラン「わかったらさっさと…ッ壊れてッッ!!」
叫びと共にフランが地を蹴った。
フランが居たところの床はドカンという音と同時に砕けた。
オレに向かって突進してくるフラン、その右手には真っ赤な爪が五本伸びている。
今にもフランはその鋭い爪をオレの腹に貫通させるだろう。
それでもオレは動かない。
こんな“遊び”はもうやめだ。
(オレが、フランにできること……)
オレは煙草を床に吐き捨てた。
その瞬間、真っ赤な飛沫が部屋中に飛び散った。
広い部屋の壁にまで散った紅い百合。
その広い部屋の中心で、オレはフランを抱きしめた。
フランの右手はオレの背から突き出ている。
真っ赤な鋭い爪で貫かれたのだ。腹からは大量の血が流れている。
それでもオレはフランを離さなかった。
フラン「…何…して…ッ」
「今のオメェに必要なのは…愛情、親だと思ったんでなァ……」
ゴボッと吐血し、小さなフランの頭を撫でる。
どんなに力が強かろうと、どれほど恐ろしかろうと、やはりフランは子供なのだ。
何がなんでもフランを“普通の子供”として生きさせてやらねば報われないじゃないか。
ならば、オレが親になればいい。
“親になる”というとどうも暴力団時代を思い出してしまう。
あの時の“親父”とはよく口喧嘩をしていたものだ。
フラン「何…それ…っ、壊れる寸前のくせにそんなこと…っやめてよ…っ」
「ガッハッハ……漢 葛城龍二、そう簡単には死なねェよ…。」
フランの目から涙が流れた。
先程までの狂気的な目は面影もない。
オレがフランの親になるってことは、相乗効果でレミリアの親にもなるってことか。
どうも激しい親子喧嘩をしてしまったらしい。
だが、これで充分に目的は達成できるだろう。
「…これでフランも“家族”の一員…だな……」
だんだんと視界が霞み、意識が朦朧としてきた。
あとは誰かが何とかしてくれるだろう。
(少し、休むか…)
フラン「……お父さん…」
フランがオレの顔を見つめ、心配そうに呟く。
オレはニシシっと笑い、安心して意識を手放した。
ちなみにフランが龍二の“目”をうまく掌握できなかったのは、龍二の能力が“無数の不可視の手”を持ってるからです。
つまりフランにはその手の数だけ“目”が見えてたってことやね、こわぁ〜