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涼しいような、冷たいような…
そんな空気が身を包んでいた。
宵を彷彿とさせる薄暗い空。
だがそこに月はなく、かといって暗月でもない。
ただ、そこは闇であった。
そして目の前には、その闇の空を貫くように鎮座する石造りの登り階段。
その階段を縁取るように、蒼白い人魂のような火が灯っていた。
ここは冥界。
罪無き死者達の観光地。
結界の穴を抜け、その冥界にオレは降り立った。
「良い気分だなァ、適温だ。」
冒頭にあったように冥界の気温は低く、夏場などは特に過ごしやすいそうだ。
そのおかげで気分もよく、目の前の長い階段に気を落とすこともなかった。
とはいえ、長い階段をわざわざ登るのも面倒である。
「さァて、頂上までひとっ飛びだ。」
オレは魔力でスノーボードのような板を精製し、紅魔館を出発した時と同じように飛行した。
正直かなりの荒業だと思っているが、飛べればなんでもいいよな。
「ン〜、気持ちがいいなァ。おっ?」
死者達のように冥界を観光しつつ飛行していると、眼下に大きな日本庭園と屋敷が見えた。
その庭園はとても綺麗な枯山水で、よく手入れが行き届いているのが見て取れた。
このままその庭園に降り立つのも良いが、流石にそれは社会的によろしくない。
元反社会勢力のオレが言うのもなんだが、それこそ不法侵入というやつだ。
「よっこらセッター」
セッターとはセブンスターの略である。おいしいよ。
と、その大きな敷地の門前に降り立った。
目の前には木製の大きな門。
まさに富豪が住んでそうな家の門だ。
あれだけ大きな庭園を持っているわけだから、当然といえば当然なのだが。
「…おっ?」
じっくりと門を眺めていると、その門が大きな音を立てながらゆっくりと開きはじめた。
誰かが出てくるようだ。
今まさにゆっくりと開いている門。オレはその様をじっと見続けた。
???「怪しい気配がしたと思って来てみれば…」
開いた門から現れたのは、生気を感じない程に白い肌の白髪少女。
その白いおかっぱ髪に着けた黒いリボンとカチューシャがよく映えている。
そして何より目を引くのは帯刀されている二振りの刃。
片方は長く、もう片方は短い。剣道の二刀流と同じような感じだ。
あ、あとついでにその少女の脇には白い幽霊のようなものが浮かんでいる。
あれ?これイメージとしては一番大事じゃね?
…その少女は眉間にシワを寄せながら嘆いた。
???「如何にもな悪人面が待ち構えているとは…。」
「あァ〜?失礼な嬢ちゃんだなコラ。」
正直自覚はあったつもりだが…“悪人面”とストレートに言われたのは初めてだった。
ふむ、こうして受け止めてみるとなかなか来るものがあるな。
???「私は白玉楼の剣術指南役兼庭師として、侵入者を弾き返す“バウンサー”の…」
「待てやそれは作品が違ェだろ。」
すぐ他作品を頼るのは筆者の悪い癖だ。(治らないね)
小ボケのせいで危うく流すところだったが、ここはどうやら白玉楼というらしい。
随分と洒落た名だ。
まあ話の流れから察するに、オレはただの侵入者として扱われているらしい。
まァオレは怪しいからな。“悪人面”だもんな。そうだよな。ふん。
「ともかく…」と少女は呟く。
そして長い方の刀をゆっくりと抜き、刀を両手で持って姿勢よく構えた。
これも剣道でよくある構えだ。
少女は目付きを鋭くし、声高に叫んだ。
妖夢「私の名は魂魄妖夢!妖怪が鍛えたこの楼観剣に…斬れぬものなど、あんまり無い!」
あまり決まらないセリフを言い放った直後、その少女…妖夢は力強く地を蹴り、長い刀身の楼観剣をオレに振り下ろした。
オレは楼観剣の直撃に合わせて左腕を構えることでそれを防ぐ。
ガキンという甲高い金属音が冥界に響き渡る。
妖夢「ッ!?」
刀はオレの左腕と拮抗している。
もちろん、オレの左腕には魔力のガントレットで防護を施している。
反応されたのが予想外だったのか、防御されたことに対してか。
それはわからないが、妖夢は目を見開いていた。
「悪ィなァ…どうやらオレはその“あんまり”の中に含まれていたらしいワ。」
妖夢「くっ…!その顔で魔法を使うなんて…」
オレの扱い酷くねぇ?
まぁたしかに、ドラクエで武闘家がメラゾーマを唱えるようなもんだしそう考えるのも仕方ないのかもしれない。
オレは刀と拮抗している左腕を外側に大きく回して刀を弾き、その勢いのまま左足を軸に回し蹴りをキメる。
回し蹴りは妖夢の脇腹に命中し、妖夢はその衝撃で横に吹き飛んだ。
妖夢「ッ…まだまだ!」
「来なァ!!」
両拳に魔法のガントレットを装着し、ガシンガシンと打ち鳴らす。
オレなりの気合いの入れ方だ。
一方、妖夢は楼観剣を構え直し、此方を睨んだ。
刃の腹を上に向けて前方に突きつける。
そして刃の背を撫でるように指を添わせ、深く腰を落とした。
妖夢の纏うオーラが段々と濃密になっていくのが感じ取れる。
妖夢「…現世斬!」
その瞬間、背筋にゾクッとした寒いものを感じ、オレはとっさに右腕を横に薙いだ。
直感、本能、勘…きっとこれらは生きていく上でかなり重要な役割を担うのだろう。
不明瞭な感覚が日本刀のように研ぎ澄まされる。
オレが右腕を薙いだとほぼ同時ぐらい、妖夢の姿が突然消失し、ガキンという甲高い金属音が鳴り響いた。
だがもちろん、本当に消えたわけではない。すぐ真後ろを振り返ると、妖夢は低い姿勢でこちらに背を向けていた。
「居合か、流石に今のはビビったぜェ…」
オレが本能的に右腕を薙いだ時、妖夢は居合の要領で刀を振り抜いたようだ。
奇跡的に斬れてはいないが、刀の強烈な衝撃が腕に伝わっているのがよくわかる。
妖夢「今の…反応できるんですね。」
「ンあ?…あ〜、あたりめェよ。オレにかかりゃ余裕のよっちゃんさ。」
ほとんどマグレのようなものだが、折角なのでと強がりを言う。
先程、現世斬を去なした右腕のガントレットを見てみる。
特筆すべき大きな傷はついておらず、魔力の飛散も見当たらない。
「よし…」と一言、オレは再びガキンガキンとガントレットを打ち鳴らした。
「次はオレから行くぜェ…お嬢ちゃんよォ!!!」
両足にも鎧を装着し、オレは地を思いっきり蹴った。
妖夢に急接近し、勢いに任せて大きく振りかぶった右ストレート。
それに反応し、しっかりと防御の姿勢をとる妖夢だったが…
それはフェイク。右ストレートは当てずに身体を回転させ飛び回し蹴りを喰らわせた。
まともに不意打ちを喰らい、吹っ飛ぶ妖夢。
そして吹っ飛ばした先に魔力で壁を生成し、妖夢を叩きつけた。
受身も取れずに体を打ち付け、妖夢はその場に崩れ落ちた。
妖夢「…〜ッ!カハッ…!」
「…オメェよ、殺し合いした事ねェだろ。」
オレは、叩きつけられて硬直状態の妖夢に近づきながら無数のパイプを展開した。
妖夢の技は常軌を逸しているが、刀に覇気がない上、敵から受けた攻撃への防御が酷く脆い。
日頃の訓練は欠かさないが、実戦経験が乏しい奴によくあるケースだ。
妖夢「!な…なにを…ッ!」
「オメェの技はどれも一級品だァ、認めるよ。だが、殺し合いに置いちゃあ半人前だ。」
オレは展開したパイプのうち一つを手に取り、大きな刀の形に変えた。
その刀を肩にのせ、妖夢を見下ろす。
「死にたくなきゃ喰らい付いてこい。まァ、幽霊にとっちゃ死なんぞ恐ろしくはねェのか?」
妖夢「!!」
オレは刀を高く掲げ、崩れ落ちている妖夢に向けて容赦なく振り下ろした。
戦いってのは生きるか死ぬか、その駆け引きが楽しいんだ。
そんな死の恐怖を感じ取ったのか、妖夢はオレが振り下ろした刀を楼観剣で受け止めて横方向に跳躍した。
妖夢「確かに私は半人前…でも信念だけは誰にも負けません!」
その直後、オレは展開していた無数のパイプを妖夢に向けて全て投擲。
それに対して妖夢は腰に掛かっていた短めの刀を抜き、二刀流で全てのパイプを斬り捌いた。
その様を見たオレはヒュウと口笛を吹き、手に持っていた刀を妖夢に投げつける。
もちろんこれも弾かれ、妖夢は素早く体勢を立て直した。
そして妖夢は両手に持った刀をクロスさせ、竜巻を起こすかのような動きで体を回転させた。
妖夢「業風閃影陣…ッ!」
すると妖夢が回転した地点から大量の刃が円を描く様に放出された。
その様はまさに竜巻。今までとは打って変わって派手な技である。
その刃は、容赦なくオレの体を切り刻みに迫ってきた。
「いいねいいねェ!!いいよオメェ!!」
もう完全に下衆な悪役っぽくなっている気がするが、オレは元々ヤクザなのだ。
それこそ当然というものだろう。
オレは再び無数のパイプを展開し、眼前に迫る大量の刃にぶつけて打ち消した
…と思っていたのだが、先程とは打って変わって純度が高くなった妖夢の技の圧に押し負けてしまった。
「クククッ…やるじゃねェか」
仕方が無いので1枚1枚殴って打ち消すが、流石にこれでは物量で敵わない。
迫る刃を裁き切ることも出来ず、かまいたちに襲われたかのような傷を体に刻んでしまった。
妖夢「これで終わらせます…ッ!」
「チィッ…!終わらせねェよ、カグツチィ!!!」
妖夢の口振りからして、この盤面でかなりの大技を叩き込む気だろう。
これでは今出せる全力を出さなければやられるのは必然。
今度は魔力の密度を高めた無数の刀を精製し、フランとの戦いで生み出した“カグツチ”を両手足に発動した。
驚く程に鋭さの増した妖夢の刀が、今にもオレの首を刈り取らんとうねっている。
それに対してオレは妖夢を睨み、全ての刀の切っ先を妖夢に向けた。
妖夢は両手に持った二刀をオレに向け、腰を低く構えている。
おそらく、現世斬と同じような居合だろう。
一瞬でも気を抜けば喉元を貫かれるのではないかと錯覚する程に、その空間は張り詰めていた。
時が止まったようなその世界を動かしたのはとても軽い事象であった。
───ひたっ
妖夢「未来永劫斬ッ!!」
「オラァ!!!」
滴る汗が落ちただけの小さな音。
その汗はどちらのものか、それを聞くのは野暮というものだ。
その小さな音を合図に、2人は同時に地を蹴った。
覇気に満ち溢れ、気温が10数度ほど上がったように錯覚する空間が生まれる。
冥界中に轟く金属音。
刹那の居合はどうにか凌いだ。
しかし妖夢の技はそこでは終わらない。
楼観剣を振り抜いた勢いで体を拗らせ、白楼剣の追い討ち。
一瞬の虚をつかれたが、ギリギリで刀を操作してどうにか弾いた。
妖夢「ッ!」
白楼剣を弾かれるのは予想外だったのか、妖夢は一瞬の隙を見せた。
修羅場をくぐり抜けてきた数でいえば確実にオレが上だろう。
その経験が生きたのか、オレはその隙を見逃さずに渾身のアッパーをキメた。
「もらったァ!!!」
渾身のアッパーは見事に妖夢の顎に命中し、妖夢は後ろに吹っ飛んだ。
モロに顎に入ったのだ、人間ならば暫くは立ち上がれないだろう。
そう、人間ならば。
妖夢「はぁっ!!」
妖夢は吹っ飛びながら白楼剣を地面に突き刺し、その勢いのまま体を回転させて楼観剣で斬りかかってきた。
「ぐゥッ!!」
完全に虚をつかれ、オレの腹に赤い線が走る。
傷はそこまで深くはないが、ダメージを受けたという事実が追い込まれているという錯覚を起こす。
ダメージを与えたことで勢いづいた妖夢は振り抜いた楼観剣を回し、追い打ちの横薙ぎを放つ。
「チィ……ッ!」
これはなんとかガードしたが、バランスを崩したオレは地面に片膝を付いてしまった。
その隙を妖夢は見逃さず、飛び上がって楼観剣を振り下ろした。
直撃すれば間違いなく死は免れない大きな一撃。
それにこの体勢だ、避けることは不可能だろう。
妖夢「とどめですッ!」
振り下ろされる一撃。
ガキィンと響く金属音。
─── 宙を舞う楼観剣。
「よォ…欲張りすぎたなァ。」
妖夢「なん……ッ」
オレは瞬間的に魔力を左腕のガントレットに集中させ、無理矢理左腕を振り上げることで妖夢の楼観剣を弾いた。
強烈な“パリィ”をくらった妖夢は、衝撃が体中に響いたのかガクリと膝を崩してしまった。
その大きな隙をオレが見逃すはずもなく、妖夢のみぞおちに痛烈な打撃を放つ。
妖夢「うぐッ…」
「痺れるような良い戦いだったぜ…しばらく眠ってな。」
そのまま倒れ伏した妖夢に素直な賞賛を送り、オレはその場をあとにした。