夕方の襲撃がまるで嘘だったかのような静寂に包まれた真っ暗な世界。
広大な闇の世界の中では砂のようにちっぽけに感じる火が、天高く煙を上らせていた。
家族の亡骸が火に包まれている様を見て、心に大きな穴が空いたような、そんな気持ちになった。
亡骸とはいえ、やはり火をつけるまでにもかなり葛藤があった。
だが、あのまま腐敗してしまうよりはこうして焼いてしまった方が彼女らも報われるのではないかと考え、今に至るわけだ。
オレはその場にしゃがみこみ、煙草に火をつけて大きく煙を吸い込んだ。
紅魔館での日常を思い出し、肺に充満した冷たい煙をフーッと吐き出す。
「いい加減、吹っ切れねェと、か……」
名残惜しいが、本当なら今すぐにでも八雲を探しに旅立たなければならない
だがせめて今日だけでも、オレ自身の気持ちにしっかりとケジメを付ける時間が欲しい。
オレはひとまず、自分の寝室に戻ったのだった。
ほんのひとときの微睡みに負を投げ込んで……
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「ン……。」
窓から射し込む黄昏が俺の意識を覚醒させた。
こんな早朝に起きてしまったのかと外を見ると、かまぼこ型の太陽が西の空にて煌々と光を放っていた。
「チッ……寝すぎたな。」
沈みかけた太陽を横目にいそいそと身支度を始める。
季節外れの薄汚れた革ジャンを羽織り、彼岸剣を抜いた。
先の戦闘であれほど乱雑に使ったにも関わらず、一点の陰りも無い緋が刀身を妖艶に煌めかせている。
「アイツはヤったが、まだ暫く世話になりそうだな。」
ボソっと呟いて彼岸剣を鞘に納め、オレは紅魔館の門へと歩き出した。
まずはレミリアの言っていた竹林に行く道を人里まで聞き込みに行く必要がありそうだ。
…だが、あれ程の化け物が溢れていたのだ、人里がほぼ壊滅状態になっていてもおかしくない。
その場合は空から竹林を探しながら飛ぶしか無さそうだ。
「なんにせよ、ちゃんとやんねェとな。」
紅魔館の門を開け、後ろに振り返る。
これが最後だ。今までの礼を込めて深く頭を下げた。
世界の再構築…長い道になりそうだが、もしかしたらまた会えるのかもしれない。
絶対に果たしてみせる。その決意を胸に、オレは歩き出した。
「いつかまた、きっと会いに来るからな。」
まずは人里に向かわなければならない。
冥界から紅魔館に帰る途中で見かけたものが恐らく人里であろう。
だから何となくの位置は分かっているので、お得意のぶん投げ飛行法で跳躍する。
既に宵闇、薄暗い空を眺めながら冷たい風を頬に感じた。
とはいえ、思ってたよりも紅魔館から人里は近かったようで、すぐにそれらしき集落を見つけた。
「こんな近かったか…?」
オレは訝しんだ。
だが冥界からの帰り道に通った時は、一刻も早く紅魔館に着いて欲しいという願望が大きくあったので、それで時間が長く感じていただけなのかもしれない。
人間とは不思議なものだ。
「よっと…こんな薄暗さじゃ外に出ている人間なぞそう居ねェか。」
人里に着陸し、ぐるりと辺りを見渡す。
人の気配はするが、既に住民はそれぞれの家に引きこもっているようだ。
仕方ないので、ひとまず暗い人里を歩き回る事にする。
「あの事件で全壊した建物も少なくねェんだな。」
歩きながら煙草に火をつけ、1つ大きく吸い込んだ。
冷たい煙が肺に充満する。
そして味わってからフゥゥっと煙を吐き出すと、吐いた煙の先から住民らしき影が歩いてきた。
痩せ型の人間…妖怪?どちらとも言えぬその雰囲気に戸惑うが、その男から敵意は感じなかった。
「ちょっといいかい。」
?「なんでしょう…」
その男は暗い声で返答した。
如何にも幸の薄そうな男は暗い声に恥じない暗い顔でオレを見据える。
あまりの暗さに一瞬ギョッとしたが、オレは負けじと渋い声でその男に質問した。
「迷いの竹林って…知ってるかな?」
?「知wらwなwいwよw」
真面目な質問に半笑いで答えられて些か苛立ちが募るが、これはおそらく作者の陰謀だろう。
何となくそんな気がする、オレは詳しいんだ。
?「冗談ですよ、竹林はここから南に行ったところにあります。」
「おぉ、ありがとな。」
?「ところで貴方…恐ろしい程に易の無い方だ、今までもこれからも災難に溢れていそうです。」
「……否定は、出来ねェわな。」
突如“易”だとかいう意味不明な言葉を用いてオレを困惑させるこの男は名を易者というらしく、その名の通り人の易を見ることが出来るそうだ。
そもそも易がよく分からないが、災難がどうとか言っているんだ、運気とかそういう感じだろう。
本来ならオレはそんなオカルトめいた話は全く信じないのだが、今回ばかりは説得力があった。
つい昨日の悲劇を忘れる事などできるはずもなく、オレは眉間に皺を寄せながら南の方を睨んだ。
「オレは行くぜ、ありがとな易者の兄ちゃん。」
易者「えぇ、易があればまた。」
易者に別れを告げ、オレは早速南に向かって飛行を始めた。
竹は非常に背が高いため、恐らく竹林の上空から永遠亭を見つけるのは至難の業だろう。
そのため、竹林に着いてからは徒歩になりそうだ。
八雲…今頼れるのはソイツしか居ない。
どうにか早急にコンタクトを取りたいものである。
「…ん?アレか?」
竹林は思っていたよりも距離が短かったらしく、人里から程なくして到着した。
竹林の入口前に着陸すると、暗闇に包まれた厳かな竹林がオレを偉そうに見下ろしていた。
竹林入口には看板が設置されており、そこには“立ち入るべからず”の一文。
看板は随分と古ぼけており、相応に文字も風化していた。
「誰かが住んでるようには思えねェけどな。」
まるで生物の気配を感じない至高の闇。
そんな竹林に賢者が居るなど、レミリアの言葉でなければ到底信じられないだろう。
「RPGじゃねェんだからよ…」
オレは訝しげに思いながらも、躊躇うこと無く竹林の中へ歩みを進めていくのであった。