お餅は食べましたか?お仕事や学校は休めましたか?
そうですか、まぁ皆さんそれぞれのお正月があったことでしょう。
え?私ですか?
私は腰が痛くて引きこもってました。FFタノシイ
車でしばらく走っていると、瑠美がトイレに行きたいと言い出したので近くのコンビニに車を停めた。
「オラ、漏らさんうちにはよ行ってこい。」
瑠美「うんありがとう行ってくる!」
早口で礼を言って小走りでコンビニのトイレに入っていった瑠美。
家を出る前に済ませておけば良いものを…と思いつつ、煙草に火をつける。
ふと、窓の外にある深緑色の山が目に入った。
「…結構走ったなァ。随分と辺境まで来ちまったようだ。」
瑠美はかなりの田舎好きだが、実はオレも都会よりは田舎の方が落ち着いていて好きなのだ。
前職はずっと都会で過ごしていたからこそ、都会に対しての苦手意識が少しあるのかもしれない。
「変わっちまったな、オレも。」
車のスピーカーから流暢な曲調に合わせて渋い歌声が聴こえてくる。
窓を開けているので音量は少し下げている。
「…聴く曲だけは昔から変わらねェんだがねぇ…」
フゥーっと煙を吐きながら外の景色を眺めていると、真っ黒なロングコートを着て仮面を付けている人がいることに気がついた。
「このクソ暑い日に変な奴だな…」
すると突然視界が影に覆われた。
瑠美「ただいま、龍二が好きなホットコーヒー買ってきたよ!」
「おう、ありがとな。」
目の前に瑠美が来たことによってロングコートの人は自然と視界から外れた。
そして瑠美が助手席に戻った時にはもうその人は居なくなっていた。
「…白昼夢、みてェなもんか。陽炎が見せた幻、とかな。」
瑠美「どしたの?27歳にして厨二病発症した?」
「今すぐ家に帰ってもいいんだぞ。」
瑠美「ごめんなさいナンデモナイデス。」
タラリと汗を流しながら謝る瑠美を横目にエンジンをかけ、再出発した。
目的地にはもう間もなく到着するだろう。
フィルターぎりぎりまで燃えた煙草を灰皿で押し潰して、ハンドルを握りながら器用に片手で二本目の煙草に火をつけた。
瑠美「龍二ってホント煙草が似合うよね。健康には悪いけど。健康には悪いけど。」
そう言って瑠美は先程買ったアイスコーヒーを飲む。
褒められるのは悪い気分ではない。むしろ嬉しいもんだ。
「…2回言わんでもわかってらァ…」
しかし褒められたことよりも煙草そのものに関しての言葉が気になってしまった。
健康に悪いのは百も承知なのだ。
万病の特効薬だとか言いながら煙草を吸っているが、煙草は所詮害煙。
百害あって一利なしとはよく言ったものだ。
「まぁ…それでも辞められねェんだけどな。」
そう呟いてオレは潰し忘れていたブリザードブラストのカプセルをパキリと噛み潰した。
○
「この辺だよな?瑠美が言ってた森っつーのは。」
カーナビを見る限り、現在地が目的地周辺を指していた。
遠くから電車の走る音が聞こえてくる。
瑠美「そうそう、あれ見て!あの如何にも怪しげな森!近くに駐車場もあるみたい!」
瑠美がそう言いながら指をさした先には本当に怪しげな、本当に怪しげな(強調)森が佇んでいた。
「如何にもだなァ…なんか出るんじゃねェか?」
瑠美「や、やめてよ…お化けとかもぉマヂ無理…」
「…おめぇは幾つだよ…」
いい歳こいてお化けを怖がる瑠美を横目にオレは駐車場へ走った。
ふと目に入った森の入口に、さっきコンビニで見たロングコートのシルエットが見えたような気がした。
「この辺は森ばっかで涼しいなァ、瑠美よ。」
瑠美「ね!だからこそ真夏の田舎はいいのよ!」
先程の恐怖はどこへやら、数秒でいつもの調子に戻った瑠美は誇らしげに言った。
「…別におめぇの土地ではないんだがな…」
そんなこんなで駐車場に着いたオレ達は駐車して車から出た。
もちろん煙草とジッポライターはポケットに入れてある。絶対に忘れない。そう、絶対にだ。
瑠美「森の中は結構涼しいから一応上着持っていった方がいいよ?」
「そんな涼しいのか。車ン中革ジャンしかねェぞ。」
瑠美「ま、まぁそれでいいんじゃない…?」
仕方が無いので車から古ぼけた革ジャンを引っ張り出し、手に持つのも面倒なので羽織っておく。
いくら森が涼しいとはいえ、やはり少し暑い。
暑いので煙草に火をつける。
メンソールがかなり強いので暑い時にはとてもありがたい。寒くても構わず吸うが。
「うっし、行くかァ。」
瑠美「はーい!レッツゴー!」
陰陽師かな?とかしょうもないことを思いながら車の鍵が閉まっていることを確認し、オレ達は森の中に足を踏み入れた。
先程見えたロングコートのシルエットは無くなっていた。
やはり気の所為だったのだろう。
「流石だな。こんな厳かな森になるとここまで涼しいもんなのか。」
瑠美「そうそう。快適でしょ?」
「違ェねぇ。」
煙草を吸いながら森の涼しさに感動する。
道は整備されておらず、誰かが草刈りをしている様子も見受けられない。
木には苔がびっしりと生えている。
ちなみに入口には看板があったが、赤褐色に錆び付いていて何が書いてあるか読めなかった。
瑠美「やっぱ自然は良いなぁ。実家のような安心感!」
「親の声より聞いたセリフだな。」
瑠美「もっと親の声を聞いて?」
もう居ねェけどな。と言いながら少し前方を見据えると、古びた鳥居が目に入った。
「信仰が集まらなさそうな神社だな。」
古ぼけた神社に大して感想(嫌味)を述べながら鳥居をくぐった。
だが瑠美が鳥居の下で突然立ち止まった。
瑠美「…この鳥居、単に朽ちてるだけじゃない…」
「…?どうした?瑠美……ッ!」
珍しく真剣な瑠美の表情に若干戸惑いながらも、瑠美が見ている鳥居を近くでよく見てみる。
かなり朽ちているが、それに加えて尋常じゃない量の傷。
それもサバイバルナイフで付く程度の傷ではない。
日本刀で力強く切りつけて漸く付くようなデカい傷痕だ。 それが幾つもある。
「…この傷、新しいな。」
鳥居に付いた傷が新しいことに気づいたオレは確かに見た。
瑠美の後ろの暗い森に佇む黒いシルエットを確かに見た。
背丈程の長い刀を持っているそのシルエットを確かに見た。
刀を構えたそのシルエットが、今にもその凶器を瑠美に振り下ろさんとしている所を確かに見た。