東方煙焔記   作:Amaryllis___

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双賢の潜む屋敷

竹林に響く異形共の咆哮、相反して長閑さを感じさせる梟の鳴き声、竹林を抜けてゆく冷風達……

完全なる暗黒の中でそれらの音が不規則に響く中、草を踏みしめる音だけが唯一規則的に響いていた。

 

オレは煙草を吸いながら視界の悪い竹林の草土をただひたすら踏みしめていく。

 

 

 

「高純度の闇でしかねェな。」

 

 

 

足音に反応してか、煙の匂いに反応してかは定かでは無いが、時々襲い来る異形の妖怪共を殴り飛ばしながらオレは闇をひたすら進んでいた。

 

しかし歩めど歩めど無尽蔵な闇が広がり続けるばかりで、永遠亭についての手掛かりを全く掴めずにいたオレは止めどなく煙を煽るばかりで何の進展もない。

 

 

 

「ったく、人っ子一人居やしねェ…っても当然か。」

 

 

 

こんな闇の竹林で人が居たら居たで寧ろ警戒物である。

仮に力のある人間がいたとして、相当な用事が無ければこんな妖怪だらけの暗黒に包まれた竹林になんぞ入るわけが無い。

居たとしたら単なる物好きか、呆れ返る程のドM…または自殺志願者くらいだろうか。

 

それにしても、こんな暗黒じゃ見えるモンも見えやしない。

どうにかして灯りを確保できないものか。

カグツチのような質量を持った炎を生み出す事は可能であるが、アレは仄かな光を放つばかりで何の視界補助にもなりゃしない。

我ながらしょーもない事しか出来ないものだ。

 

だからオレは能力で見えざる無数の手を操って周囲をペタペタ触り、その感触で周囲の物体や地形を確認しながら歩いているわけだ。

非常に効率が悪い、生産性を高めろって倉庫のおっちゃんもよく言ってんだろ?オレにゃそれが足りんのだ。

 

 

 

「ま、ンな事はどーでも良いワ。」

 

 

 

そんな事を考えたとしても、所詮オレに出来ることなんぞ限定的なわけで。

結局は今可能な事を続け、虱潰しに永遠亭を探すしかないのだ。

全く以て気が遠くなる難題である。

 

と、ふと草土を踏みしめる規則的な音が変容し始めた事に気付いた。

先程まではズシャ、ズシャ、ズシャといった音だったのが、今はズズシャ、ズズシャ、ズズシャといった音へ変わっているのだ。

 

あからさまにオレ一人の足音ではない。

 

 

 

「妖怪…ってわけじゃあ無さそうだがなァ。」

 

 

 

オレと同じような規則性を持った二足歩行の足音。

ほぼ確実に人間の足音であろう、違ったとしても二足歩行である事に間違いは無い。

段々と近づいてくるその足音に多少の警戒を備えつつ、オレはなるべく平静を装った素振りで進み続けた。

 

 

 

「フン、人だったとしても可笑しいんだがよ。」

 

 

 

警戒しつつ、そのまま歩みを進めていくオレ。

近づきつつある足音の主が、前方からゆっくりと姿を現す。

その主は白いシャツに赤いもんぺ、長い白髪に赤いリボンのようなものを着けた少女であった。

 

オレに気づいた紅い瞳の少女は、肩に掛けた剣をゆっくりと引き抜く。

その刀身は灼けた鉄のような色をしており、節々に見える溝からは溶岩のような光を放っていた。

 

剣を抜いても尚、オレはポケットに手を突っ込んだまま平然と歩き続ける。

そんなオレの様子に苛立ちを覚えたのか、少女は舌を打ってオレに斬りかかってきた。

人では無いのだろう、少女のそれは人を遥かに凌駕した速度であった。

 

しかしポケットに手を突っ込んだまま、能力で彼岸剣を抜刀して斬撃を防ぐオレ。

何に驚いたのかは定かではないが、その少女は目を見開いた。

 

 

 

「………勘弁してくれや、姉ちゃんよォ…。」

 

 

 

?「アンタ…もしかして、真っ当な奴なの?」

 

 

 

「真っ当だァ?…そりゃ無ェな。」

 

 

 

オレは元々は任侠モンだし、幻想郷に来てからも許されざる罪を犯した。

真っ当かと聞かれれば、お世辞にも「はいそうです」とは答えられない。

 

しかし、その少女は歯切れの悪いオレの返答を聞くと静かに紅い剣を納めた。

 

 

 

?「悪かった、先日の異変で皆イカレちまったからさ。」

 

 

 

「そうかい…あれ程の異形共が闊歩してたんだ、そりゃ仕方無ェかもな。」

 

 

 

話を聞く限り、妹紅は“マトモな奴”なようだ。

いや、いきなり襲いかかってくる奴は本来マトモじゃあないんだが、今は状況が状況だから仕方が無いのかもしれない。

妹紅はもんぺのポケットから煙草を取り出すと、指先を発火させて煙草に火を灯した。

 

こんな白くて美麗な少女が煙草を吸うなんぞおかしな事だとは思ったが、煙草を吸う彼女の姿は意外にも様になっており、その常識を覆さんとしていた。

 

 

 

妹紅「私は藤原妹紅(ふじわらのもこう)、妹紅って呼んでくれ。ところでこんな所に何の用だい?」

 

 

 

「オレは葛城龍二ってんだ、賢者に会う為に永遠亭ってのを探しに来たんだがよ…。」

 

 

 

煙をフーっと吐いて「なるほど」と呟く妹紅。

妹紅の吐いた煙は天高く昇ってゆき、暗黒の空へと消えていく。

 

 

 

妹紅「このタイミングで永遠亭…ね、運命かもな。」

 

 

 

「…運命っつったか今」

 

 

 

“運命”という単語につい食いついてしまったオレだが、妹紅はそれに「あぁ」とだけ返して再度煙を吸い込んだ。

目を瞑ってスゥーっと煙を肺に入れ、目を開けた妹紅はオレに背を向けて歩き出す。

 

 

 

妹紅「着いて来な、案内するよ。」

 

 

 

「助かる、サンキューな。」

 

 

 

妹紅の好意に感謝を示し、オレは妹紅に案内されて永遠亭へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳かな闇夜の竹林にひっそりと佇む日本家屋、それは家主が大いなる富を手にしていることが外装だけで理解出来る程度には立派であった。

 

その建物の名は永遠亭。

月を追われた賢者の隠れ処であり、八雲が身を隠しているであろう拠点でもある。

運命を司る吸血鬼のレミリアが言うならばきっと間違いはないだろうが、それは決して確定されたものではない。

 

運命もまた、気紛れなのだ。

 

 

 

妹紅「着いたよ、ここが永遠亭だ。」

 

 

 

「随分とまぁ立派な屋敷だなァ。」

 

 

 

妹紅に案内されて永遠亭に辿り着いたオレは、その外観に感心した。

賢者が貧乏であるイメージは無いが、逆に裕福であるというイメージも無い。

外門の閂を手慣れた手つきで外し、そのまま門を開けて敷地内へと足を踏み入れる妹紅。

 

 

 

妹紅「龍二だっけ、きっと八雲紫に会いたいんだろ?ここに居るよ。」

 

 

 

「……心でも読めンのか?」

 

 

 

妹紅「そんな妖怪も居るらしいけどね、アンタの場合は顔に書いてあるよ。」

 

 

 

妹紅のあまりにも的確な発言に本気で読心が可能な能力を持っているのではと疑ったオレだが、それは勘違いだったようだ。

どうやらオレは随分と分かりやすい人間のようである、あまりにも不本意であるが。

 

妹紅に連れられて永遠亭内に入ると、ブレザーを着たうさ耳の少女が現れた。

その少女は紅い瞳を携えており、ストレートな紫色の髪を下ろしている。

 

 

 

うさ耳「妹紅おかえり、その人は?」

 

 

 

妹紅「あぁ、どうやら紫に会いたいらしい。」

 

 

 

「葛城龍二だ、よろしくな。」

 

 

 

茶の満たされた椀を二つ持っている事から、恐らく永遠亭内での使用人といったところだろうか。

軽い自己紹介をしたオレに礼儀正しく頭を下げ、彼女は同じく返してくれた。

礼儀正しいのは良い事だが、オレはあまり下からペコペコされる話し方が得意ではない。

 

 

 

鈴仙「はじめまして、私は鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバといいます。長いので鈴仙と呼んでください。」

 

 

 

「こりゃ丁寧に悪いな。覚えたぜ、うさ耳の鈴仙。」

 

 

 

鈴仙「…まぁ間違ってはないです。」

 

 

 

鈴仙を和ませようと軽いジョークを言ったオレだが、苦笑いしている鈴仙の様子を見るに、あまり有効では無かったように思う。かなしい。

 

ひとまずオレは簡潔に事の顛末を話し、改めて八雲の所へ案内してもらうことにした。

勿論、紅魔館が襲撃されて酷い有様になった事は話していない。

話すべきなのかもしれんが、それはどうしても気が進まなかった。

 

決して忘れてはならないが、思い出したくない。

そんなオレの、弱いところかもしれない。

 

八雲が居るという居間の障子の前で立ち止まった鈴仙は大きすぎず、しかし障子の向こうに届く程度の声を出した。

 

 

 

鈴仙「紫様、失礼します。」

 

 

 

八雲「えぇ、どうぞ。」

 

 

 

紫と呼ばれたその女性の声は思っていたよりも若かったが、それでいて大人びたような落ち着いているような雰囲気を醸し出していた。

八雲紫…幻想郷を創造した大妖怪であり、賢者でもある存在。

 

さて、オレの“運命”を左右する程のそれは果たしてどんな存在なのか。

 

木材の擦れる音と共に開かれた障子が見せたその解答に、オレは衝撃を受けた。

 

 

 

「な………」

 

 

 

八雲「はじめまして、貴方が葛城龍二ね。」

 

 

 

多量のリボンを着けた長い金髪をたなびかせるその存在は、女性というよりは少女であった。

完全に大人の女性だと思い込んでいたので、先入観というのは恐ろしいものである。

 

数秒間の沈黙が、その空間を支配したのであった。

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