立派な扉を開けた先には、それに相応しい威厳に満ちた玉座の間が広がっていた。
月明かりは美しいステンドグラスを通して七色の光を玉座の主を照らしていた。
レミリア「初めまして、葛城龍二。歓迎するわ、ようこそ紅魔館へ。」
薄いピンクのナイトキャップを被った少女が黒き翼を大きく広げ、スカートの裾を持って優雅にお辞儀した。
その主は水色の髪をしていて、何も知らない者が見たら単に綺麗な少女としか思わないだろう。
「見た目に反して優雅なお嬢ちゃんだな。」
レミリア「ふふっ…正直ね、やはり面白そうな人間だわ。」
吸血鬼って言ったらもっとおぞましくて恐ろしいもんだと思っていたが、全くそんなことはないようだ。
寧ろ、そこらに居る女性よりよっぽど美しいだろう。
「遠慮が無ェだけよ。だがなぜオレの名前を知ってンだ?咲夜にもオレの名前は言ってねェぞ。」
レミリア「それは私が紅魔の王だからよ。」
「…??全く繋がりが見えねェな。勿体ぶらずに教えてくれよ、能力っつーのが関係あったりすんのか?」
レミリア「あら、なかなか鋭いのね。咲夜のナイフを弾いただけあるわね。」
むしろ能力でもなきゃ怖ェよ…と呟いてオレは疑問に思った。
咲夜の能力は「時間を操る程度の能力」だった。
従者がそんな大それた能力なんだ。その主が名前がわかるだけの能力なんてショボすぎる。
だとしたら心でも読めるのか?それはいくらなんでもチートすぎねェか?
「なァ、お前の能力はなんだ?まさか名前がわかるだけの能力とかじゃねェよな?」
レミリア「私の能力は『運命を操る程度の能力』、様々な運命を視て操ることが出来るわ。もちろん、色々な条件があるのだけど。」
「運命を操る程度の能力」…か。
簡単に言えば未来を視たり変えたり出来るのだろう。
流石紅魔の王と言うべきか、恐ろしい能力を持ってやがる。
だがそこでオレは素朴な疑問が浮かんだ。
「その能力じゃオレの名前を知ることは出来なくないか?」
運命を操る、逆に言えばそれだけだ。
名前を知るのは不可能なはずでは?と思ったが簡単に一蹴された。
レミリア「誰かの運命を視るなら、名前がわからなきゃ仕方ないでしょう?」
「お、おう…まぁ確かにな…」
随分とアバウトだが間違ってはいない。
誰かの運命を見れたとしても、それが誰かわからなければただの夢だ。
「どいつもこいつも能力持ってて羨ましいぜ…強いて言うなら、オレは筋肉が能力だな。」
レミリア「あら、面白いことを言うのね。貴方にもちゃんとした能力があるわよ。」
「…あん?『ダジャレを言う程度の能力』とかそんなもんじゃねェだろうな?」
レミリア「あ、ダジャレが得意なのね…?ってそうじゃなくて貴方、咲夜のナイフを弾いたじゃない?」
しょうもないことを言ったら、ダジャレが得意だと思われてしまった。
確かにダジャレは好きだが。ほっとけない仏(微笑)
「そうだな。だがあれは弾いたわけじゃなくて、当たる前に落ちた感じだったぜ? 」
レミリア「成程ね…貴方、ちょっとこれを手で触れずに取ってみて頂戴。」
そう言って、レミリアは徐ろに小さなペンダントを取り出した。
悪魔を象って作られたのだろう、禍々しいながらもやはり美しい赤いペンダントだ。
「触れないでって、念を送って動かせって事か?オレはMr.マリックじゃねェんだぞ。」
レミリア「誰よそれ…いいからやってみなさい。」
「ういうい…動け動け…」
レミリアの掌の上にあるペンダントを睨みつけて念じてみるが動かない。
やっぱり無駄なんじゃねぇかと思って、短気なオレはイラッとしてきた。
「〜ッ!動けオラァッ!!」
レミリア「うるさいわねもう…あら?」
ついイラッとして叫んでしまった。
だがその瞬間、ペンダントはとんでもない勢いでオレに向かって飛んできた。
顔に直撃、およそ時速100kmほどの速度でオレの顔に攻撃を加えてから落下したペンダント。
悪魔を象ったそれは嘲笑うようにオレを見つめていた。
「クッソ痛ェ…」
レミリア「できたじゃない!私の推理通りね。」
咲夜「流石です、お嬢様。」
痛む顔を擦りながらオレは先程飛んできたペンダントを拾いあげた。
あんな勢いで飛んでくることねェだろ…ペンダントに軽いデコピンを食らわせて、ペンダントをレミリアに投げ返した。
「…物を動かす能力か…?」
レミリア「そうね…近からず遠からず、と言ったところかしら。」
「あん?どういうことだ?」
レミリア「名前まではわからないわ。ただ、私の推理では貴方は空間に自分の手を何本も持っている。それを駆使して色々な物を動かしたり、破壊したり出来るんじゃないかしら。」
「空間に手を持ってるだァ…?」
分かりづらいな…ペテ公みたいなもんか?
だが、どちらにせよ離れた物を動かせる事は証明された。
オレにも能力があったという事だ。
「オレにも能力があったのか…だが今までそんな事はできなかったぞ?ガキの頃、超能力に憧れて物を動かそうとしたことは何回もあるしな。」
レミリア「別世界から幻想郷に来たタイミングで能力が発現するのは珍しくないわ。能力だけじゃなくても何かしらの恩恵があったりなかったり…ね。」
「なるほどなァ…」
わけがわからなくて早く戻りたいと思っていたが、どうやら幻想郷に来たことで能力を発現することが出来たらしい。
悪い事ばかりでも無いんだな。
レミリア「さて…咲夜、少し席を外してもらっても良いかしら?」
咲夜「…?かしこまりました。」
レミリアが咲夜に退出を願うと、咲夜は音もなく一瞬で消えた。
能力で時間を止めて退出したのだろう、便利な女だ。悪い意味ではない。
少し間を置いてからレミリアが言葉を発した。
その顔からは先程までの妖艶な笑みが消え、真面目な表情になっていた。
レミリア「龍二、貴方はたしか煙草を吸うわよね。煙草を吸いながらでも良いから聞いて欲しいことがあるの。」
「お、おう?ありがとな、ちょっと待ってくれよ。」
なんとも不思議な事を言うレミリアに少し困惑したが、ポケットから煙草を取り出し、ジッポライターで火をつける。
紅が七色に照らされている美しい空間に冷たい煙が広がってゆく。
不思議な感覚だ、こんな綺麗な空間で煙草を吸っていいものかと疑うくらいに。
「……それで、話ってのは?」
レミリア「龍二、私が貴方を迎えた理由を咲夜から聞いたかしら?」
「あぁ、たしか『咲夜のナイフが効かないオレを面白そうだと思ったから』だったか?」
レミリア「えぇ、そうね。でも本当は違うの。」
「…あぁん?」
従者に嘘をついてまで、会ったことも無い人間のオレを迎える必要性が全くわからない。
まさかどこかで会ったことがあるのか?
…いや、無いな。こんな特徴的な奴をオレが忘れるはずがない。
「じゃあ、なんなんだよ?心当たりが全く無いぞ。」
レミリア「………」
レミリアが少し俯いて何かを言おうとしている。
オレは煙草の煙を吸っては吐いてを繰り返し、急かすことなくレミリアの発言を待った。
吸っては吐いてを4回ほど繰り返したところでレミリアがゆっくりと口を開いた。
レミリア「葛城龍二、貴方は果てしなく永く苦しい運命を背負っている。」
「あぁ…?永く苦しい運命だァ…?」
少し声を低くして『運命』だとかいう大層な事を言いだしたレミリアに少し驚いたが、彼女は『運命を操る程度の能力』を持っていたはずだ。
だからつまり、レミリアはオレの運命を視たということなのだろう。
レミリア「えぇ…でも大丈夫よ。貴方の運命は私がきっと変えてみせるわ。」
そして顔を上げたレミリアの目は紅く光っており、妖しい雰囲気を漂わせていた。