水神戦記伝   作:羽沢ちゅぐみ

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そういえばマナが着ている服はちゃんとした服に変えてます。


歯車

火山地帯という自然の要塞に囲まれた1つの国。その国の中央の城の一室で2人の男が話をしている。部屋の窓際には1人の美しくも妖しい雰囲気の女がじっと窓の外を眺めている。

「奇襲部隊の通信が途切れてもう2週間か...まさか2000人でもオーガ共に勝てないとなると、翼竜部隊を出すしかないのでは?」

1人は左目に龍の彫られた眼帯を付けた男。その眼帯の影には額から鼻元にかけて3本の痛々しい傷跡が見える。

「ふむ...だが何やら良くない噂があるらしいな。水を自在に操る少女...だとか」

そしてもう1人の男。腰には1本の金色の宝剣、青と赤を貴重とした派手な直垂を身につけ、もう一人の男より明らかに身分が上だということが見て分かる。

「なんだそれは?フェアリーかエルフの類か?いや、水を操るならウンディーネか」

「いや、容姿はわしらと同じ人間らしい。どうやらミズガルズの偵察の1人がその少女にやられたとか」

「どうせその辺の雑魚との戦闘中に水魔法が誤爆しただけだろう。そもそも子どもが魔法を使いこなせるとは到底思えん」

眼帯の男はおかしそうに笑う。確かに魔法が存在する世界とはいえ、まだ魔力が未熟な子供に人やモンスターを倒すほどの水魔法なんて普通は使えるわけがない。

「ゲンジョウよ、噂だからと油断していると足元を掬われるぞ。もしかしたらミズガルズの将の1人やもしれぬ」

「ふんっ、それなら叩き斬るだけだ」

そしてゲンジョウと呼ばれた男は部屋を出て行った。

「モウトク様、その女の子...災いを呼ぶ」

ずっと無言だった女が静かに口を開いた。細々とした声だが静かな音楽を思わせる。

「災い、か......はたしてそれがこの国になのか、それともこの世界に...か」

「どっちにしても、良くない存在」

「ブンキ、各将に準備は怠らないように伝えておけ」

ブンキと呼ばれた女は頷くと再び窓の外の景色を見る。この国は火山から吹き出る煙のせいで厚い雲に一年中覆われていて、火山熱で真夏のように暑い。 景色はいつもと変わらない殺風景な街と火山が見えているだけ。だが彼女の目は全く別のものを見ていた。

 

 

襲撃から2週間が過ぎた。私達は近くのオーガ族の村に入って共に生活を送っている。あの後元の村の様子を若とミーシャと共に見に行ったが、もはや地面に穴が残っているだけで村なんて跡形もなく消し飛んでいた。

「マナ様、流石にやり過ぎです。家が無くなってしまっただけならまだしも、こんな大穴開けてどうやって村を再建すればよろしいのですか」

当然、若にはこっぴどく叱られた。これからは爆発魔法は使いどころを考えなければならない。

その後、爺やのツテで近くのオーガ族に交渉し、村に入れてもらえることになった。村の村長は壮年で体つきはどのオーガ達よりも体が大きく腕や顔にたくさんの古傷が残っていた。

「大変だったでしょう、そんなに大きな村でもないけどゆっくりしていきなされ」

そう言って私たちを歓迎してくれた。大きな村ではないと言っていたが私たちがいた村の2倍は大きい村だった。村には無かった鍛冶屋や畑もあり、これを機にオーガ達にそれらを学ばせた。当然私もだけど。ちなみに私が契約者だというのは伏せてある。崇められるのはあまり好きではないからね。

しかし、当面の問題は人間がこの村も襲ってくる可能性がある事だ。それを未然に防ぐために若達と相談をした。

「とりあえず、また襲撃される可能性は極めて高いと言っていい。ミーシャ、貴女が知りうる情報をおしえて」

ミーシャは元は人間の兵士だ。それなら何か少しでも情報を知っていてもおかしくはない。

「はい、今の状況からご説明致します」

話の内容はこうだ。この村の北西部に位置する水の国ミズガルズ、そして南部に位置する火の国ムスペルスヘイムが開戦を宣言し、この区域一帯が戦地となっている。ムスペルスヘイム側がミズガルズの背後に周り奇襲をするルートを確保する為にオーガの村を襲撃している、という事だった。

「んー、それは困ったねー。私たち関係ないのに巻き込まれちゃってるって感じかー」

実に迷惑極まりない話である。

「ここらには他のエルフやフェアリーといった種族の村も存在しています。もしかしたら既に戦に巻き込まれているやもしれませぬ」

「主、私から1つご提案が」

ミーシャが小さく手を挙げた。私は頷いてそれに答える。

「ムスペルスヘイムは国を4つの火山に囲まれた自然要塞があり、更にはそこに住み着いたリザードマンたちとも共存関係にある軍事国家です。国王のモウトクは武力、知能に長け配下からの信頼も厚い。そんな国から本気で攻め込まれれば私たちどころかこの森が壊滅してしまうでしょう」

なるほど、それは大変だ。

「ただ、弱点があるとすれば彼らは火山地帯さえ突破してしまえば逃げ場を失ったも同然になります。更に元来、水との関わりがないので兵のみならず国の者らは大半が泳げません。故に申し上げます。ミズガルズと手を組み、共闘するのがよろしいかと」

「ふんふん、よく知っているね。なるほど...共闘か、若と爺やはどう思う?」

私は2人に目を向ける。若も爺やも難しい顔をしている。

「マナ様、ミーシャ様のお話はとてもよく分かりました。しかし、恐れながら我らに人間と共闘できるかどうか...」

やはりまだ人間に対しては険悪感を抱いているのか提案に対して渋る。爺やも同調するかのように頷いている。

「もちろん別の国か村に逃げるってのも一つの手ではあるよ。けど

この村のように快く受け入れてくれる保証はない。それに私はまだこの世界のことをよく知らないけど他の国でも戦争が無いとは限らないよね」

「この娘さんの言う通りじゃと、わしは思いますぞ。それに、わしらは歴戦の戦士...人間だろうが火を噴くトカゲだろうが、背を向けるなんてできんじゃろう」

村長さんの声色は若を試しているようにも感じた。

「それにそこの、マナとやらは相当な実力者とお見受けする。いくら人間共が束になってかかって来ようがそう簡単には負けますまい」

「よく見ておられるな、年は衰えても見る目は衰えておらんということか。じゃが、こればかりはそう簡単な話じゃ-」

「じゃあこうしようよ、ミズガルズまで話をしに行って条件を提示する。その条件を飲むならこちらも協力する、飲めないなら仕方ないし別の平和な地域にでも移住する。それならいいでしょ?」

このままじゃ埒が明かないので無理矢理ではあるが案を提示する。

「わしはそれでいいと思うぞ」

村長さんは1番に頷いた。若と爺やも何か言いたげな顔だったが首を縦に振る。仕方ないがここはわかってもらうしかない。

「ミズガルズまでは私とミーシャが行くよ。若と爺やと村長さんはその間留守を頼んでいいかな」

「了解致しました」

一応の対策は決まった。翌日私とミーシャは黒炎に乗り、ミズガルズへと出発した。

 

 

黒炎を走らせること約1日半、私とミーシャは山を越えて海辺の道を進んでいた。珊瑚の海はとても綺麗で潮風が心地よい。黒炎の脚力は凄まじくあっという間にミズガルズ手前まで辿り着いていた。

「見えました!ミズガルズです!」

海の向こう側、大きな城壁がどこまでもそびえ立っているのが見えてきた。

「あれがミズガルズかー、大きな国だね」

「ミズガルズは7大国の1つですからね、国の中には美しい運河が流れているとも聞いたことがあります」

それは期待できそうだ、少しばかり観光もしてみようか。

潮風に吹かれながら歩いていると、私達はミズガルズの巨大な門の下に着いた。

「入国者ですね、観光でしょうか?」

門の前では青を基調とした鎧を纏った門番に入国の審査をされた。

「この国の国王様にお取り次ぎを願えますか?私はマナ=ミーシャ、こちらは主のマナ様、此度のムスペルスヘイムとの戦のことでお話をしたく参りました」

ミーシャが私の代わりに答える。とても優秀すぎて抱きしめてあげたくなる。

「国王様に...?失礼だがどこの国の者だ?」

当然だがそう簡単に通してもらえるわけがない。怪しまれているのが声色でわかった。

「私たちはオルカの森のオーガ族の村から参りました。先日、村をムスペルスヘイム兵に襲われ、今は別のオーガ族の村にいます」

「オーガ族の村だと?なぜ人間がオーガ族にいるのだ」

やはり聞かれたか...当然といえば当然の疑問ではある。

「私達はオーガの娘に命を救われました。その御恩に報いるため、村の発展に尽くしている所存です」

ミーシャは平然と嘘の話をでっちあげる。その方が都合が良いから私は特に何も言わずうんうんと頷く。

「ふむ...わかった。国王様には取り次いでおこう。だが時間がかかる故、今日中の面会は厳しい。決まり次第こちらから通達を出す、それまではしばし観光を楽しむといい」

ミーシャの機転で私達は無事にミズガルズへと入ることができた。

 

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