水の都ミズガルズ、その名の通り水路がいくつも流れていてそこを名物のゴンドラに乗って移動することが出来る。私が生まれて見る初めての国はとても大きく、広く、全てが新しかった。初めて見る噴水、初めて見るゴンドラ、初めて見るお城、初めて見る石造りの大きな建物。私はそれら全てを目に焼き付ける。
「おやお嬢さん、ミズガルズははじめてかい?だったらこいつはおじさんからのサービスだ、名物の水饅頭だよ」
景観を楽しんでいると紫色の無精髭のおじさんから透明でスライムのようにぷるぷるとした手のひらサイズの饅頭を5つ貰った。どうやら食べれるらしい。パクッと口に入れた瞬間パッと弾けてひんやりとした冷たさと、何か甘い風味が口の中で広がった。とても美味しくてすぐにもう1つ口に入れると次はほろ苦い風味、どうやら一つ一つ味が違うらしい。ミーシャも幸せそうに食べている。
「へい綺麗なおねーちゃん、良かったら見てかない?今だったら安くしとくよー」
「あら可愛いお嬢ちゃんだこと、うちのお洋服見ていかない?きっと似合うわよ」
「職人が鍛えた特上の武器、見ていかない?今ちょうど良い剣入ってるよ!」
街は活気に溢れていて道行く武器を持った人や女の人、子どもにまで店の人はひっきりなしに声をかけている。オーガの村ではこんなのは見れなかったのでなんだか楽しい。
「ん?ミーシャ、あれ何?」
私はその中の一つのお店が気になって指をさした。
「あれは...お面、という物です。お祭りの時などに顔に被ったりしてファッションとして楽しんだりするのですよ」
「へぇー!ちょっと見てみようよ」
私はミーシャの手を引いてその店頭に並んだお面を眺める。動物やゴブリン、オーガの顔のお面など種類はいっぱいあった。
「おっ、これなんかいい感じ」
私はその中の一つのお面を手に取った。何かをモチーフにしてある訳では無いが、黒を基調に白い剣が描かれているお面だ。
「ほう、お嬢さんなかなか良い目をしているね」
店を出しているであろう妖狐のお面を被った人が声をかけてきた。声色からして女の人だということがわかる。
「うん、これなんだか不思議な感じがするから」
「そいつは魔攻の面というやつだよ。使用者の魔力と近接攻撃を上昇させる効果と探知スキルの索敵範囲を少し広げる効果が備わった魔法の面さ。効果は良いんだけど、何せお面は元々そこまで売れない上にその辛気臭いデザインだ、誰も買いやしない」
「えー、勿体ないよ...いくら?もし買えそうなら私これ買うよ」
「本当?優しいお嬢さんだね、特別価格にしてあげよう」
私は料金を払いそのお面を手に入れた。お金はミーシャの貯金がたんまりとあるので当面は困らない。はじめて購入した物だ、大事にしよう。
「ふんふんふーーんふんふんふん」
私は鼻歌混じりにスキップしながら街を歩く。潮風とぽかぽかとした太陽の光がとても心地良い。お面はそのまま被ると怪しい人に見られるかもとミーシャに言われたので顔が見えるように斜めに被っている。
「ミーシャ、この後どうする?」
「そうですね...先に今日寝る宿を探すのはいかがでしょうか?」
「ならあそこがいい!」
私が指さしたのは西側の水路の向こう側にある、一際大きな白い建物。先ほどおじさんから水饅頭を貰った後に通って目を付けていた。
「あそこ...ですか?あの白の?」
「うん!さっきいろんな人がここの宿にしようって話して入っていってたし私たちもあそこにしよー!」
「マナ様が仰るならあそこにいたしましょう」
「えぇー!空いてない!?」
来てみたはいいものの宿の部屋は満室だと言われてしまった。
「むぅ〜......」
私は頬を膨らませ、ムスッとした気分で街を歩く。
「ま、マナ様、またあそこには別の機会に行きましょう。別の宿もいい所かも知れませんし...」
「むむぅ〜...」
私がムスッとして歩いていると、
「お困りかい?お嬢ちゃん」
ダンディーな渋いおじさんから声をかけられた。
「誰?」
「おっと、これは失礼。俺はオスマン、ハンターをやっている」
「私はマナ!えっと、ハンターって?」
「ハンターってのはモンスターを狩って稼いでる奴らのことさ。ほら、あそこの酒場にギルドがあってな、そこに依頼が来るからいいやつ選んで討伐しに行くのさ」
オスマンは少し先の木造の建物を指さす。その建物には鎧を身につけ武器を持った人達が多く出入りしていた。
「へえー!それって私でも行けるの?」
「そいつはどうかな...お嬢さん、ハンター登録してないだろ?このハンターズカードを持ってないと依頼は受けられないんだ」
オスマンはポケットから1枚のカードを取り出して私に見せた。そこには銀色のBという文字と26という数字が大きく書いてある他に色々と細かいことまで記されている。
「この文字と26っていうのはどういう意味?」
「このBってのは貢献ランクだ。倒したモンスターの数と強さによって決められる。26ってのはハンターランク、今までのハンターとしての実績みたいなもんだ。俺はまだまだ底辺さ、強いやつになると70を超える奴もいる」
話を聞いているととても面白そうに思えてきた。モンスターを倒すだけで稼げるなんて簡単そうだし、何よりとても楽しそうだ。
「そのハンター登録っていうのはどうやってするの?」
「ギルドの受付で適性審査に合格すれば登録できるぜ。審査って言っても本人のステータスを魔法で割り出して一定値かどうか見るだけなんだけどな」
「その...モンスターの討伐というのは1人だけで行くのですか?」
それまで私たちの様子を見ていたミーシャが口を開いた。興味があるのだろうか?
「いんや、最大5人までパーティーを組んで行くことが出来るぜ。知らない人と組むもよし、逆に一人で行くもよし。そこは本人の自由さ、ただな......」
そこでオスマンは一息入れ、それまでのふらっとした雰囲気から真剣な表情へと変わる。
「ハンターってのは常に生きるか死ぬかの仕事だ。半端な気持ちでなりたいと思ってんならやめときな、悪いことは言わん。昨日まで一緒に酒飲んでた奴が狩りに行ったきり二度と戻ってこなくなったなんてのはざらにある。モンスターに食われて死にたくなけりゃ、今まで通りの暮らしを送った方が幸せかもしれないぜ」
ミーシャが息を呑む音が聞こえた。オスマンは私の目を真剣にじっと見つめていて微動だにしない。
「なら、なんでおじさんはずっとハンターをやっているの?いつ死ぬかもわからないのに」
私は率直な疑問を投げかけた。その質問にオスマンはふっと笑って答える。
「そんなの、楽しいからに決まってんだろ。確かに俺は明日モンスターに丸呑みにされて死ぬかもしれねえな...だけどよ、それよりもモンスター狩ってそれで儲けた金で仲間たちとバカ騒ぎして酔いつぶれる楽しさの方が大きいんだよ。これだから、ハンターは辞められねえんだ」
「ふふっ、よっぽどハンターが好きなのね」
私は面白くてはにかんだ。それを聞くとますますハンターというものに興味が湧いた。
「まあな...それより話がズレちまったけど、何か困ってたようだがどうしたんだ?」
「今日泊まる宿を探してて、マナ様が希望した宿は断られてしまって」
「なるほどな...それなら酒場にも宿はあるぜ。夜はちょっとうるせえかもしれんが悪い場所じゃねえ。なんならお嬢さんのハンター登録も一緒にすりゃいい」
それは良いことを聞いた。私はミーシャの方を見てパッと目を輝かせる。
「では、酒場の方へ行ってみましょうか」
「やったぁ!」
「酒場へは俺も一緒に行こう。ちょうど酒も飲みたい気分だ」
私は駆け足で酒場へと向かった。ドキドキとワクワクで胸がいっぱいで、こんな気持ちは始めてだ。
「うわぁ〜!人がいっぱい!」
酒場に入ると笑い声や怒声といった喧騒に包まれる。屈強な男達が料理にがっついていたり酒の飲み比べをしていたり、それに混じって女の人も一緒に騒いでいたりと賑やかだ。
酒場はかなり広く、出入口とは別に奥にもいくつか扉が見える。1階と2階があり、2階には人は見当たらない。1階の中央には私たちよりも大きな巨大な青い水晶のようなものが置いてあるが誰も気にするような素振りは見えない。ハンターらしき人たちとは別に白のエプロンを着た女の人達が料理を持って席に置いたり酒を持ってハンターに渡したりと忙しなく動いている。
「とりあえず先に宿の手配だけしてこい。俺はあっちで待っとくからよ」
そう言ってオスマンは近くのお盆を持ったお姉さんに声をかけると人が少ない隅っこの席に腰掛けた。
私とミーシャは宿の予約だけして再びオスマンのところへ戻る。幸い部屋は2人部屋が見つかり、しかもかなり安かった。オスマンは私たちの姿を見ると席を立ち上がり店の奥の方へと案内した。
「ここがギルド受付だ。今はちょっとした理由で人が居ないが普段は依頼を求めるハンターもここに来るんだぜ」
奥の扉の先には酒場よりは少し狭いくらいの部屋。正面に2人の女の人が窓越しに座っていてこちらを見ると「こんにちは」と言って微笑んだ。
「とりあえずあの右側の黄色い服着た若いねーちゃんにハンター登録したいって言ってきな。そしたら説明してくれるからよ。後は言うこと聞いてればわかるだろ」
「うん!おじさん、ありがとう!」
「礼はいいさ。無事に登録出来たら今度1杯奢ってくれや」
それだけ言ってオスマンは部屋を出て行った。私とミーシャは教えられた通り黄色い服のお姉さんの元へと行った。
「こんにちは、ギルドへようこそ!本日はどのようなご要件でしょうか?」
髪はツインテールで声色もちょっと子どもっぽい。どうしても幼く見えてしまう。
「私たち2人ハンター登録をしたいのですが...」
ミーシャは私の方に両手を置くとお姉さんに言った。なんだかミーシャがお姉ちゃんみたいだ。
「ハンター登録ですね!名前をお願いします」
私たちはそれぞれ名前を名乗った。
「マナさんに、ミーシャさんですね、それでは一通りハンターの説明をさせていただきます。まずハンターはそちらのカウンターの左手と右手にある掲示板に張り出された依頼を受注して、指定のモンスターを討伐していただきます。報酬は帰ってきてクエスト達成が確認できた際、こちらから直接お渡しする形になります。もしクエストに失敗してしまった場合は報酬はお渡し出来ませんので自分のレベルに合った依頼を受けるよう気をつけてください。依頼は1人で受けるのも良いですし、最大5人まで受けることも可能です。こちらで依頼を受注する際にパーティー登録をするようお願いします。パーティーでの報酬は山分けとなります、金額はこちらで前もって均等に分けておきますのでご安心ください。あと、受注する際にハンターズカードを提示していただきます。提示されない場合依頼を受注できませんので注意してください。もし紛失してしまったら私か隣の受付に言っていただければまた発行できますのでご安心を。以上が大まかなハンターの説明となります、何か質問はありますか?」
長々と一気に喋りまくってきたのであまり頭に入ってこなかったがとりあえずオスマンの説明とほぼ同じだろう。私もミーシャも黙っているので受付のお姉さんは続けた。
「では無いみたいなので次に登録のご説明をさせていただきます。登録には適性審査をさせていただきます。この適性審査でお2人のステータスをお調べして一定値以上なら登録完了です。ステータスの方はハンターズカードに記載されますのでいつでもご確認可能です。一応登録したその日に依頼の受注は可能だったんですが、現在火の国ムスペルスヘイムとの戦争直前で依頼の受注を一時停止しております。また依頼の受注は再開されますのでそれまでお待ちいただく形になりますが...ご理解の程よろしくお願いします」
戦争のことは分かっていたので特に問題は無かった。私もミーシャも頷くとお姉さんはほっと胸を撫で下ろした。
「ありがとうございます。それでは早速適性審査の方へ参りましょう...こちらです」
お姉さんは受付から出てくると酒場へと続く扉の前で私たちを促す。
そのままお姉さんに付いていくと中央の水晶の前で立ち止まった。私たちが水晶の前まで来ると周りで騒いでいたハンター達がざわざわと私たちに注目し始めた。
「ほう、適性審査か...こんな時期に珍しいじゃねえか」
「おいねーちゃんよ、もし受かったら俺たちとクエスト行こうや!」
ざわめきはどんどん広がっていく。ちらっと周りを確認すると酒場にいるハンターのほとんどが私たちの方に視線を向けていた。
「それでは!只今よりミーシャさんとマナさんの適性審査を開始致します!」
お姉さんの高らかな声が酒場に響いた。それに続いてハンター達の地面を震わせるような歓声が轟く。
「ではまずはミーシャ様、こちらへ」
お姉さんは一言二言何かを言うと、ミーシャは右手を自分の胸元に置き、左手を水晶の方へと伸ばし目を瞑った。すると水晶は光を放ち、その光は伸ばした左手を伝うようにミーシャを包んだかと思うとそのまま消えていった。そこでミーシャは目を開けると一息ついて私の元へと戻ってきた。
「ミーシャ様!......す、ステータス全て平均値以上!規定によりハンター登録完了です!おめでとうございます!」
酒場に再び歓声が沸き起こった。ミーシャはお姉さんからカードを渡されるとパッと私の側へと戻る。
「ミーシャ?どうしたの?」
「マナ様がまだ残っています。心配はいらないでしょうが主の結果を聞かないと...まだ喜べませんから」
ミーシャは緊張した面持ちで私を見つめた。そんなに心配することでもないのに、と心の中で囁く。
「では、続いてマナ様!こちらへ」
名前を呼ばれ、水晶の前まで歩み寄る。
「おいおい、あの子どももか?」
「お嬢ちゃんそんな貧相な体でモンスターなんて狩れると思ってんのかい?」
野次の声が聞こえてくるがそんなのは気にせずに私はミーシャと同様に水晶に手をかざす。目を瞑ると水流のように光が流れてくるのを感じた。一瞬目の前が真っ白になったがすぐにまた暗くなる。これで終わりだろう、私は目を開けて元の場所へと戻った。案外あっさりとしていて少しつまらなかったがとりあえず結果だけは聞いておこう。
「マナ様!......えっ...!?」
お姉さんはカードを見て言葉を失った。その手は震えていて今にもカードを取り落としそうだ。
「どうしたんだ?」
「なんだなんだ?」
周りのハンター達も再びざわつき始める。私はきょとんとして首をかしげた。
「す...す...ステータス、全て平均値を大幅に上回っています!!魔導力値はひ...1600000です!こんな数値、見たことありません!」
お姉さんの震え混じりの叫び声にざわめきは一転、静寂に包まれる。ミーシャもその数値には言葉を失っていて唖然としている。
「えっと、それで登録の方は?」
この場で私だけが、事の重大さに気づいていなかった。
「あ...おほん!マナ様、規定によりハンター登録完了です。これにて適性審査を終了致します!お二人ともおめでとうございます!」
私はお姉さんからカードを受け取るとそれをまじまじと見つめた。茶色のDという文字にランクは1。裏面には私のステータスが記載されていた。周りでは一瞬遅れて微妙な歓声とひそひそと話す声が入り交じる。
「マナ様、少し見せてもらってもよろしいでしょうか?」
カードを渡すとミーシャは私のステータスの記載されている面を確認する。
「な...なんですかこれは...常人じゃない...」
「そんなに凄いの?普通の人がどのくらいかわからないから実感がないんだけど」
「私のを確認ください、どれも私の5倍の数値はあります。所持スキル数も100超えなんてこの世にマナ様以外存在しません」
確かに見てみればミーシャのと見比べてみると圧倒的に私の数値の方が高かった。
「お、おい!俺にも見せてくれよ」
「俺も見たい!」
周りのハンター達も寄って集って私のカードを見ようと集まってきてちょっとした騒ぎとなってしまった。
その日、ミズガルズのギルドに化け物クラスのハンターが誕生したと世界中に激震が走った。その噂は当然、ムスペルスヘイム、そしてミズガルズの国王の耳にも届いた。
マナの戦闘力って多分フリーザ様超えてるよね(ξっ˘ω˘c)ネム