NARUTO日向ネジ短篇集   作:風亜

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 二部の日向家、ヒナタとネジが入れ替わる話。


いたずらなお月様

「───あ、ハナビ…! ど、どうしよう、私っ…!?」

 

「おはよう姉さま、どうしたの? ……てゆうか、何で朝からネジ兄さまの姿に変化してるわけ? 声と姿がチグハグで、ちょっと笑えてくるんだけどっ」

 

「違うの、変化じゃないの…! 朝起きたら、何故か私、ネジ兄さんの姿になっちゃってて…! まさか寝ぼけて自分で変化しちゃったのかなって思って、変化を解こうとしたんだけど、元に戻れないの…っ!」

 

「はぁ…?! 何それっ、確かに声そのものは姉さまだけど、姿が兄さまのままって……??」

 

 

「───ハナビ様…と、俺の姿をしたヒナタ様……とでも呼べばいいのでしょうか」

 

「あ、ネジ兄さま───じゃない?! ヒナタ姉さまの姿してるのに、声が兄さまだっ!」

 

「ね、ネジ兄さん……もしかしてその姿、変化してるわけじゃないんです、か?」

 

「…そうおっしゃるという事は、ヒナタ様もただの変化ではないのですね」

 

「それじゃあ兄さまも、姉さまと同じく朝起きたら姿だけ変わっちゃってたのっ?」

 

「えぇ……何やら胸苦しさを感じて目が覚めたら、何故だかヒナタ様の姿に───。無意識の内に変化するという馬鹿な事をやらかしてしまったのかと思い、解こうとしたのですが……何度試しても元に戻れず、ならば自分の姿に変化してみようとしても、駄目でしたよ」

 

「わ、私と同じです…。どうなってるの、かな……??」

 

 中身がネジのヒナタは、クールな表情で組み辛そうに腕組みをし(胸のせい)、中身がヒナタのネジは首を傾げて胸板の前に握った片手を置き、女の子のように困った表情をしているのを見てハナビは、可笑しさを堪えつつ質問する。

 

「姉さま、兄さま……昨日何かあった? 変化じゃなくて、姿が入れ替わっちゃうなんてどういうこと??」

 

「何かって…、特別な事はなかったと思う、けど……ねぇ、兄さん?」

 

「───えぇ、特に何も」

 

「ほんとにぃ? てゆうか、その状態どうするの? 声と姿がチグハグじゃ、ごまかしきれないよね。病院行って、診てもらったら?」

 

「自然に戻るかどうかも判りませんし、ここは恥を忍んででも医療忍術のエキスパートに診てもらうべきでは───」

 

 と、ヒナタ姿の声はネジが話している所へ、日向家の塀を軽く飛び越えて来たナルトが唐突に現る。

 

「おーいネジ、昨日オレと修行の約束しただろ? 今すぐ外の修行場所行こうぜッ!」

 

 キラキラしたナルトスマイルを向けられたネジ姿の中身ヒナタは、顔を真っ赤にしてヒナタ姿の中身ネジの後ろに慌てて隠れた。

 

「あ? どうしたってばよ、ネジ??」

 

(───しまった、昨日半ば強引に修行の約束をさせられていたのを失念していたッ)

 

 ヒナタ姿の中身ネジはつい、少々無理のある裏声を駆使してナルトに愛想笑いをしながら答える。

 

「ヒナタさ…じゃなくて、ネジ兄、さんはちょっと調子が悪いみたいだから、修行はまた今度にしてくれるかな、ナルト…君?」

 

「へ? どっか具合悪ぃのかネジ。…てかヒナタ、なんか声おかしくね? いつもより低いっつーか……」

 

 怪訝そうに顔をのぞき込んでくるナルト。

 

「あ、あのね、今朝からちょっと喉の調子が悪くて……ネジ兄さんも、そうみたいなの」

 

「だからさっきから何もしゃべらねーのか? ヒナタの背中に隠れることねぇのによ。...大丈夫か、お前ッ?」

 

 ナルトはサッとネジの背後に回り込み、肩に片手を置いてこちらを向かせようとしたが、当のネジ姿の中身ヒナタは体をビクッとさせあからさまに動揺する。

 

「わたっ……お、お俺は?! だいじょぶ、だよ...! 気にしないで、ナルトく...ナルトっ」

 

「ん、確かにネジの声も変だな? いつもより高ぇっつーか...。まぁ二人して声の調子悪ぃなら仕方ねぇか!」

 

(ちょっと無理あるよ兄さま、姉さま……。なのにそれを真に受けとくナルトって、やっぱりバカっ?)

 

 内心呆れ返るハナビ。

 

「声の調子悪ぃだけなら、修行できるよなッ? ネジだってさっき大丈夫だっつってたしよ!」

 

「いや、だからナルト君、それはまた今度と───」

 

「ネジ兄さ...じゃなくて?! ヒナタ、さま……お、俺なら平気ですっ。ナルトく...ナルトと、修行します...!」

 

 顔を赤らめたままのネジ姿のヒナタは、恥ずかしがりながらもナルトと修行したいらしい。

 

「し、仕方ないですね……。私も付き合います」

 

 自分の姿ではあれど、ヒナタの気持ちを汲んでおくネジ。

 

「はぁ...もう、こうなったらわたしも付き合うよ姉さま、兄さま、ナルトっ」

 

 ハナビも加わり、こうして四人は屋外の修行場所に向かう。

 

 

 

 

 ヒナタ姿の中身ネジとハナビは少し離れた所から二人を見守り、ナルトは早速ネジと修行を開始するが、ネジ姿の中身ヒナタはあたふたしっぱなしで、ナルトからの攻めを受け流すばかりだった。

 

「おいネジ! 避けてばっかいねーで、そっちからも攻めてくんねぇと修行になんねーだろ? 遠慮なく柔拳かまして来いっつのッ」

 

「えっ? あ、はい…!?」

 

 

「───あ~ぁ、ネジ兄さまってばナルト相手に戸惑い過ぎ…ってごめ~ん、中身ヒナタ姉さまだから仕方ないよねっ」

 

「…………」

 

 からかい気味なハナビにヒナタ姿の中身ネジは、本来のヒナタならしなそうな若干不機嫌な顔をしている。

 

 

「あっ...!」

 

 ネジ姿のヒナタが、しりもちをついた。

 

「お、おい、大丈夫かネジ?」

 

「へ、平気だよ……あはは」

 

 ちょっと笑ってごまかしたつもりが、ナルトには奇妙に見えたらしく、心配した様子で身を低めて顔を鼻先がくっつきそうなほど近づけ、そうされた当のネジ姿の中身ヒナタはしりもちをついた姿勢のまま身を引ききれず、間近のナルトを前に顔がまた熱くなるのを感じた。

 

「どうしたんだお前、いつもより動き鈍いし簡単にしりもちなんかついて……やっぱ調子悪ぃのか? 顔も赤ぇけど、熱でもあるんじゃねぇの?」

 

 ナルトはネジの額当てに片手を横向きにしてあてがってくるが、中身のヒナタは辛抱たまらん様子で顔を赤くし目をぎゅっとつむっている。

 

「───額当てからも伝わるくれぇ、熱がある気がするってばよ。調子悪かったのに、無理させちまったオレが悪ぃよな...」

 

 近づけていた顔を引き、つと後ろを向いたかと思えばそのまましゃがむナルト。

 

「ほら、家までおぶってやるってばよッ」

 

「えっ、あの、そんな、わるいよ…?」

 

 本当は嬉しいが、ネジの姿で戸惑うヒナタ。

 

「遠慮すんなって! 修行はまた今度にしようぜ、本調子のお前との方がやりやすいからよッ」

 

「あ...、ありがとう、ナルトく───」

 

 恥じらいながらもナルトの背におぶさろうとした途端、

 

「八卦空掌ッ!」が放たれ、ナルトだけ軽く吹っ飛んだ。

 

「どわぁッ……?!」

 

「ね、ネジ兄さ……ヒナタ、さま、いきなり何を...っ」

 

 驚いたネジ姿のヒナタが目を向けた先には、ヒナタの姿で八卦空掌を放ったネジが───

 

「……ナルト君、ネジ兄さんは後で私が家まで送るけど、その前に私と手合わせしてみない?」

 

 ヒナタにしては珍しいというより、今まで見た事のないような不敵顔で柔拳を構えている。

 

 

(ネジ兄さま怒らせちゃったわねぇナルト。ご愁傷様っ)

 

 内心面白くなってくるハナビ。

 

「ひ、ヒナタ……修行じゃなくて、ホントに手合わせでいいのかよ?」

 

 面食らった様子で立ち上がるナルト。

 

「遠慮はいらないよ? 私、ナルト君を本気で倒すつもりでやるから」

 

 真顔で冷たい視線のヒナタ姿のネジ。

 

「あ、あの、ヒナタさま……修行の方がよくないですか? 手合わせだと、勝ち負けになっちゃうし……」

 

「ほら兄さま、危ないから離れとこう? 本気の姉さまは怖いからっ」

 

 ハナビがネジ姿のヒナタの手をとり、離れた場所から二人の手合わせを見守る事にする。

 

 

「分かったってばよ……ヒナタがそのつもりなら、オレも本気で行くぜ! ───多重影分身の術ッ!!」

 

 多数のナルトが一斉に現れヒナタへと攻め込み、ヒナタは影分身のナルトからの攻撃を蝶が舞う如く両手のひらを駆使し、ひらひらと躱しつつ反撃を与えてゆき、次々と影分身を消失させていく。

 

(さ、さすがネジ兄さん……私の身体を、何の抵抗もなく扱ってる...! 私なんて、自分の身体じゃないってだけで勝手が分からなかったのに───あ、でも私だっていつも修行の時兄さんの動きを見てるから、その動きをそのまま真似てみれば良かったのかな)

 

 感心しつつ、自身を顧みるネジ姿のヒナタ。

 

影分身のナルトらは、中空から多勢でヒナタに覆いかぶさり動きを封じようとしてきたがその時、ヒナタの身体でネジは回天を繰り出し、綺麗な円を描くチャクラ放出で影分身のナルトらを一気に弾き飛ばしてゆく。

 

「わっ、すごい! 姉さまが回天使ってる...!? 中身は兄さまだから使えてもおかしくないけど、わたしも早くちゃんと扱えるようにならなきゃ...!」

 

 ヒナタ姿のネジの回天を、眼に焼き付けんばかりに見入るハナビだが、ヒナタ本人の内心は複雑だった。

 

(私の身体で回天が出来るって事は、私ほんとは、使えるって事? 私の、やる気が足りないだけ……?)

 

「───すげぇなヒナタ、いつの間にネジみてぇに回天使えるようになったんだッ?」

 

「私だって、やれば出来るんだよ。...何なら、八卦64掌も使ってあげようか。───128掌でもいいよね」

 

(うおッ、何かヒナタじゃねぇみてぇな殺気を感じるってばよ...?!)

 

 何をそんなに怒っているのか、ヒナタ姿のネジは腰を低く落として大輪の花を咲かせるかの如く両腕を広げ八卦の構えをとり、いつでも放てるようにしている。

 

「あなたは私の、八卦の領域内にいる……」

 

 

「───あれってきっと、中身が姉さまの自分の身体に変に近づき過ぎたナルトが気に食わないんじゃないかな。あのままだとナルト、64掌以上くらってただじゃ済まないかもねぇ」

 

 ハナビの言う事に、ヒナタは黙っていられなくなりネジの身体ですぐ様ナルトと自分の身体の間に割って入った。

 

「ナルトく...ナルト! 一楽のラーメン、食べ行こうっ!」

 

「へ...? 急に、どうしたってばよネジ」

 

「お、お腹、空いてきちゃって……だめ、かな?」

 

 ネジの中のヒナタがちらりと自分の方を見ると、納得いかなそうな表情をしていたが、とりあえず八卦の構えを解いてくれたのでほっとした。

 

「何だよ、だから調子悪かったのか? んじゃあヒナタとの手合わせは中断して、一楽にみんなしてラーメン食いに行こうってばよッ!」

 

 

 

 

 客席のカウンター前から見て左端から、ヒナタ姿の中身ネジ、ネジ姿の中身ヒナタ、ナルト、ハナビと並び、ふとナルトが隣を見ると、ネジ姿のヒナタが顔横を流れる長い片髪を掻き上げつつ一楽のラーメンを上品に啜っていて、その仕草に思わず見入っしまう。

 

───そして見る間に1杯目、2杯目、3杯目とクリアし、上品に食べている割にペースが早い。

 

「…ちょっとナルト、姉さ...じゃなくてネジ兄さまの食べっぷりに見とれてると、自分のラーメン伸びちゃうよっ?」

 

 ハナビの言葉で、我に返るナルト。

 

「うおッ、ネジに負けてらんねぇってばよ...!」

 

 急にペースを上げて2杯3杯4杯と食べ進めるが、ネジ姿の中身ヒナタは更にその上を行き、9杯目に達している。

 

ナルトは5杯目を頼んだはいいが動きが鈍り、一方のハナビは2杯、ヒナタ姿の中身ネジは1杯のみで食べ終えていた。

 

 

「ナルトく...ナルト、そのラーメン食べてあげようか?」

 

 十杯目の苦もなく隣のナルトに屈託のない笑顔を向けるネジ姿のヒナタ。

 

「ま、負けた……。じゃあ、頼むってばよ。...つか、腹減ってたからっていくら何でも食いすぎじゃね? ネジってそんなに大食らいだったか?? ヒナタの方が食うイメージだったけどよ...?」

 

 二人の姿が何故だか入れ替わっていると未だに気づいていないナルトがヒナタの方に目を向けると、その中身のネジは黙ったまま不機嫌そうに視線を逸らす。

 

「あ、えっと……これ食べ終えたらもうやめておくから、気にしなくていいよ」

 

 上品な仕草はそのままに、十杯目を軽々平らげるネジ姿のヒナタ。

 

 

 

……一楽を出る際、ヒナタ姿のネジは自分の姿をした中身のヒナタに密やかに話し掛ける。

 

「(ヒナタ様……幾ら何でも俺の姿で食べ過ぎです)」

 

「(ご、ごめんなさいネジ兄さん……ほんとにお腹、空いちゃって)」

 

 普段ならそう簡単に笑顔にならないはずの自分が、中身がヒナタ故に照れ笑いをしているのが、我ながら奇妙に感じてしまうネジだった。

 

 

「───あ、ハナビ様! 見つけましたよ...!」

 

 ハナビの世話役の1人の女性が、こちらへやって来る。

 

「今日は午後から、宗主様との稽古ですよっ?」

 

「あ、いけない、忘れてた...! ごめん姉さま、兄さま、ナルト、そういうことだからわたし抜けるね! あとは三人でよろしくしててっ!」

 

 ハナビは世話役の女性と共に、日向家へ急いで戻って行った。

 

「よろしくしてろっつわれてもなぁ、あ”ーちょっと気持ち悪ぃ...ッ。腹ごなしにもういっぺん体動かしてぇ気分だってばよ」

 

「じゃあ……ナルト、今度はちゃんと私───じゃなくて俺と、手合わせしてみる...か?」

 

 ネジ姿のヒナタがそう持ちかけた。

 

「お? 飯食って調子よくなったんなら相手になるってばよ! そういう事ならもっかい修行場所に行こうぜッ!」

 

 嬉々として先に行くナルト。

 

「……ヒナタ様、いいのですか? 無理しなくとも、ナルトとの手合わせの続きなら俺が───」

 

「大丈夫。...私、ネジ兄さんの身体で回天や八卦64掌をちゃんと試してみたいの」

 

 自分の顔ではあれど、真剣な表情を向けてくる中身のヒナタにネジは応じる事にする。

 

「...判りました。俺の身体なら多少の無理は利くでしょうから、思う存分ナルト相手にやってみて下さい」

 

 ヒナタの顔で、ネジは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

────そうして修行場で手合わせを始めて間もなく、その場に異変が起きた。

 

それをいち早く察知したヒナタ姿のネジは、広範囲の地面に気を付けろとナルトとネジ姿のヒナタに警戒を促し、その直後幾つも鋭利に隆起した地面が突き上がって三人を襲い、それらを避けつつヒナタ姿のネジは白眼で木立向こうに三人の術者を発見すると同時に、更にその三人とは距離を置いた場所に二人潜んでいるのを見つける。

 

 白眼を狙って来た者達───? その可能性もあるとすれば、今ネジはヒナタの姿であって、その自分が無闇に敵方に向かって行けばヒナタの白眼が狙われる……。本来の自分の姿であれば、万一の事があっても日向の呪印により白眼の能力は封じられるが───ヒナタは今、"ネジの中"に居る。

 

 

「ネジ、敵の居場所教えてくれッ。オレらで蹴散らしちまおーぜ!」

 

「え、えっと……」

 

「ナルト、無闇に突っ込むな、まずは応援を呼ぶべきだ。ヒナタ様、俺の傍から離れないで下さ───」

 

 突如、周囲に黒煙のようなものが生じ、それに巻かれたナルトは視界を奪われ、ネジとヒナタの白眼までその透視能力を失う。

 

「けほっ、けほ…っ(何なの、これ……急に、白眼が利かなくなった...?! ナルト君と、ネジ兄さんはどこ───あっ)」

 

 ネジ姿のヒナタは、右肩に鋭い痛みを感じた。背後から何者かに、細い突起のようなもので刺されたらしい。

 

───急激に、意識が遠のいてゆく。

 

 

(これは、ただの目眩しではない…! 白眼の透視能力すら封じるとは───とにかくこの黒煙を晴らさなければ)

 

 近くに居るはずのナルトとネジ姿のヒナタを巻き込まない程度に、ヒナタ姿のネジは回天を繰り出し黒煙を晴らすのを試みた。

 

…すると思惑通りに黒煙は晴れたが、少し離れた所で咽せているナルトは居ても、ネジ姿の中身ヒナタが見当たらない。

 

まさかと思いヒナタ姿のネジが白眼を凝らして周囲を探ると、先程の黒煙で透視能力を封じられたのは一時的だったらしく、すぐにまた視野を広げた先にぐったりした自分の姿をしたヒナタを抱え連れ去る1人と他二人を捉えた。

 

 

「ヒナタ、ネジ、無事か…ッ!? って、ネジいねぇ?!」

 

「───攫われた」

 

「はッ? マジかよ!? ヒナタなら分かっけど、何でネジが……」

 

「姿は俺でも中身はヒナタ様なんだ、説明している時間は無い…!」

 

「あ、おいヒナタ...?! つか何でネジの声になってんだ? ネジの姿で中身はヒナタって……変化してたのか?? じゃあヒナタの姿してんのにネジの声って事は────あぁッ、よく分かんねぇってばよ!? とにかくオレも追いかけねぇとッ」

 

 誤魔化す必要の無くなったヒナタ姿のネジは、高めに発していた声を地声に戻して先を行き、ナルトは混乱しつつもネジ姿のヒナタを取り返すため、攫った敵を追う。

 

 

 

 

 

────・・・ヒナタは夢を見る。

 

  とても苦しく、辛い夢を。

 

 

 大きく翼を開いた鳥のように両腕を広げ、従兄のネジが敵の攻撃からヒナタを庇い、身体のあらゆる箇所を鋭利な物で貫かれ、その場にくずおれてうつ伏せに倒れ、死んでしまった。

 

ヒナタは眼を疑った。

 

 

そんなはずない。ネジ兄さんは、とても強い人だ。

 

こんな、簡単に死んでしまうはずがない。

 

私が、弱いから、死んでしまったの?

 

兄さんを守る事も出来ずに、守られて、死なせてしまうなんて。

 

 

医療班の助けを呼ぼうとしても、声が出せない。

 

地面にへたり込んだまま、立ち上がる事も出来ない。

 

ネジ兄さんを抱き起こして、死んだりしてないって、確認したいのに、身体が動かない。

 

とめどなく流れる涙だけが、頬を伝う。

 

いくら泣いても、ネジ兄さんはうつ伏せに倒れたままだった。

 

もう二度と、言葉を交わす事も、微笑みを向けてくれる事もないんだ。

 

 

 

────胸が張り裂けそうになって、目が覚めた。

 

頬が、涙に濡れている。

 

身体が、小刻みに震える。

 

自分の身体が自分のものでないかのように重く、身を裂かれたような痛みすら覚えた。

 

 

夢……、ただの、夢だったんだ。

 

落ち着こう、落ち着かなきゃ────

 

 

ヒナタは上半身を起こして胸に両手を当て、浅くなっていた呼吸を落ち着かせる。

 

それからつと思い立ち、白眼を使用してネジが居るはずの家の部屋を透視した。

 

ネジは昨日、任務を終えたばかりで里に戻っているからこの夜分にはきっと自分の部屋で眠っているはず……なのに、

 

その姿が無い。

 

ヒナタは耐え難い不安に襲われ、更に視野を広げる。

 

 

───すると、里からほど近い川辺に1人佇んでいるネジを見つけ、居ても立ってもいられなくなり急いでその場へと向かう。

 

 

 

 

「……ヒナタ様、こんな夜更けにどうしました?」

 

 

 雲一つない、白く煌々とした満月の元、ネジはヒナタの気配に気づいてこちらを向き少し驚いた表情をしたが、特に変わった様子は見られなかった。

 

目の前で、ちゃんと生きていてくれていると感じたヒナタは安堵と共に、堪えきれずすすり泣いて顔を覆う。

 

 

「───何か、あったのですか?」

 

 

 案じてくれるネジに対し、申し訳ない気持ちとほっとしたのとでヒナタは言葉をうまく紡げない。

 

「ご、ごめんなさっ……ネジ兄さん、私...の、為に…っ。でも、生きてくれていて、よかった……」

 

「謝られても、困るのですが……。それに俺なら、何ともありませんよ。月を、眺めていただけですし」

 

「う、うん……そうだ、よね。ごめんなさい、困らせてしまって…。邪魔、しちゃったよね」

 

 

 勝手に泣いた自分が情けなくなったヒナタは涙を拭い、ネジの顔をまともに見れずに下向く。

 

「ヒナタ様、下を向いていては勿体無い。───今宵は、月がとても綺麗ですよ」

 

 その優しい声音に誘われるように見上げると、満月の月明かりが雲一つない夜空を煌々と照らし出す静寂の中、月は普段より大きく美しく思えた。

 

 

……ふと横に居るネジに目を向けると、満月を見上げて月明かりに目を細め、微笑を浮かべている姿に美しさすら覚え、ヒナタは従兄を恍惚と見つめる。

 

その視線に気づいたネジは、少し困ったような微笑を浮かべたままヒナタに静かな口調で話しかける。

 

「もしや……、俺に関しておかしな夢でも見ましたか? 満月の夜は、妙な夢を見やすいようですからね」

 

「え……? あ、もしかして、ネジ兄さんも怖い夢を見たから眠れなくなって、こんな夜更けに外の川辺に……?」

 

「いえ…、単純に寝つけなくて気晴らしに月夜を眺めに来ただけです。───ヒナタ様は、怖い夢を見たのですね。俺が夢であなたに怖い思いをさせたのなら、謝ります」

 

 そう述べてネジは頭を下げてきたので、ヒナタは慌てて本当の事を話した。

 

 

「違うの、そういう事じゃなくて...! ネジ兄、さんが……夢の中で、私を守る為に……亡くなって、しまって」

 

「そうでしたか。……あなたを守って死ねるなら、分家として本望ですよ」

 

 微笑んだままで言うネジが、ヒナタにとっては堪らなく哀しかった。

 

「やめて、そんな事言わないでネジ兄さん。分家とか宗家とか、どうでもいいの。兄さんが私の為に、死んでしまう必要なんてない...っ」

 

 

「───そうかもしれません。だが俺は、そう簡単に死ぬつもりは無い。あなただけでなく、生きている上で守り続けたいものが多くある。死んでしまったら、直に守れなくなりますし、他の者に任せるしかなくなりますからね」

 

(ネジ兄さん……)

 

 月明かりの元の真摯な眼差しのネジに、ヒナタは安心感を覚えて微笑み返した。

 

 

「……そろそろ戻りましょうヒナタ様、身体が冷えてしまいますよ」

 

「あ...うん、そうだね……ふわぁ」

 

 ヒナタは急な眠気を覚え、思わず小さくあくびをする。

 

「はっ、ごめんなさい...! 兄さんの前で、はしたない事を───あれ、どうしたのネジ兄さん?」

 

 ヒナタが目を向けると、ネジは片手を口元に宛がっていた。

 

 

「───・・・いや、あの、ヒナタ様の欠伸が、移ってしまったようで」

 

「あ、じゃあ兄さんもあくびをしたのね? ふふっ、どうりでちょっと涙目になってるよ」

 

「それは、あなたもでしょうに……」

 

 互いにフフっと笑い合うヒナタとネジ。

 

「眠気がある内に、お互い寝床に戻った方がいいよね」

 

「そうですね、では屋敷前まで送ります」

 

「1人で戻れるし、私なら大丈夫だよ」

 

「いえ、それでは俺の気が済みません。───では、戻りましょうか」

 

 

 

 ヒナタとネジは、日向邸の前で別れる前に一言交わした。

 

「それじゃあネジ兄さん、おやすみなさい」

 

「えぇ、お休みなさい……ヒナタ様」

 

 

 

 

 

─────「…………ぁ」

 

「あっ、ヒナタ姉さまが目を覚ました!って...、今は中身ネジ兄さまなんだっけ」

 

 ヒナタが意識を戻すと、妹のハナビとナルトが心配そうにこちらを上からのぞき込むように見つめていた。

 

どうやら、病室のベッドに寝かされているらしい。

 

 

「あ、れ……私、どうして────」

 

「お...? ヒナタの姿で、ヒナタの声になってるってばよ! 作り声じゃねぇよな、元に戻ったのかッ?」

 

「ナルト、君...? 何を言って……」

 

「ヒナタ姉さま、忘れちゃったの? 昨日の朝、ネジ兄さまの姿でヒナタ姉さまの声になってたでしょ! 兄さまはその逆で────ああっ、言っててややこしくなってきた!」

 

 1人混乱し出すハナビ。

 

「あ……そういえば私、ネジ兄さんの姿から戻れなくて、その上誰かに襲われて────あれ、ちょっと待って、ネジ兄さんは...!?」

 

 どんな状況だったか思い出してきたヒナタは、上半身を起こしてネジの姿を目で探したが見当たらない。

 

「兄さまは、別室だよ。さっき様子見て来たけど、まだ眠ってる。───わたしはその場にいなかったけど、姉さま達を襲った奴らが兄さま姿の姉さまに何かの毒を与えたみたいで意識なくて、医療忍者の人が毒を抜いてくれたからもうすぐ目を覚ますんじゃないかな。...てゆうか、姉さまの中身が元に戻ったってことは、兄さまの方も中身戻ってるかもよっ?」

 

「オレとヒナタ姿のネジで力合わして黒ずくめヤロー共から、ネジ姿のヒナタを助け出したんだけどよ……、ヒナタの姿したネジが、急に胸に手ぇ当てて苦しみ出して、意識失ったままのネジ姿のヒナタに折り重なるみてぇに倒れちまったんだ。オレは意識の無ぇ二人担いで、急いで病院に連れてったんだってばよ」

 

 ハナビとナルトがそう話し、ヒナタとしては元に戻れた事よりネジの身体を守れていなかった事を悔やんだ。

 

自分が意識を失っていた間になぜ元に戻れたのか、それ以前にどうして姿が入れ替わってしまったのか疑問も残る。

 

 

(私が目を覚ます前に見ていたのは夢……じゃなくて、姿が入れ替わる前の夜にあったほんとの事……。あの時、確かに私はネジ兄さんと、夜更けの雲一つない綺麗な満月の元に一緒に居て、お話して、小さくあくびをし合って────)

 

 

「...ヒナタ様、無事でしたか?」

 

 ネジが、ヒナタの病室へとやって来た。

 

「ネジ兄さん...! 身体、大丈夫?」

 

「問題ありませんよ。ヒナタ様の方は、身体に違和感などないですか? 妙な連中との戦闘で、あなたの身体を傷つかせまいと戦いましたが……敵を退けた後、身体に異変が起きて意識が途絶えてしまい、先程目を覚ました時に自分の身体に戻っていたのでもしやと思い様子を伺いに来ましたが…、どうやらあなたも、ちゃんと元に戻っているようで安心しました」

 

 ほっとした様子でネジはヒナタに微笑を向けた。

 

「でもネジ兄さん…、私は、兄さんの身体を守れてなかった。ごめんなさい、傷を負わせてしまって……それに、簡単に敵の手に落ちてしまって」

 

「気になさらないで下さい。...大体、何故ヒナタ様ではなく俺の身体が持って行かれようとしたのか疑問ですが、結果的にあなたが無事で良かったです」

 

「良くないでしょ! 身体が入れ替わった原因が分からないんじゃ、またなっちゃうかもしれないよっ?」

 

「だよなぁ。けどオレってば、二人が入れ替わってたのマジで気づかなかったんだけどよッ。...つーかネジ、ヒナタ、入れ替わっちまった原因思い当たらねぇのか?」

 

 ハナビとナルトの言葉を受けて、目を見合わせるヒナタとネジ。

 

「うーん...、もしかしたら、いつもより大きかったお月様のいたずら……だったのかな」

 

「───そうかもしれませんね」

 

「何それっ、ちゃんと説明してよ姉さま、兄さま~」

 

「そうだぜ、二人だけで分かった気になってんじゃねぇっばよぉ!」

 

「まぁ、要するに……秘密だ」

 

「うん、私とネジ兄さんの……ちょっとした秘密だよ」

 

 真相を知りたがるハナビとナルトをよそに、もしやと思う節はあれど、ネジとヒナタにもよく分かっていなかったとはいえ、顔を見合わせ互いに小さく笑った。

 

 

 

《終》

 

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