NARUTO日向ネジ短篇集   作:風亜

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 寂しさに抱(いだ)かれて、です。二部ネジ←ヒナ。


寂しさに抱かれて

「ネジ兄さん、花火……見に行きませんか?」

 

 

 ヒナタは別段浴衣を着たわけでもなく、普段の忍服姿で従兄を誘った。

 

ネジも普段と変わらぬ格好でヒナタに付き添う。

 

河川敷には流石に人が沢山いて、ヒナタはなるべく人目を避けたいのか、打ち上げられる花火から遠ざかるようにして従兄の手を引き、河川敷から距離を置いて人がまばらな高台に向かった。

 

 

ネジの手を引く為に自分から片手を自然と握ったとはいえ、ヒナタは今さら恥ずかしくなって顔が熱くなるが、その手を離そうとはしない。

 

しかし当のネジは、握り返すでもなく無表情にされるがままだった。

 

じんわりと、自分の手が汗ばんでいるような気がして、それが変に従兄に伝わってはいないかとヒナタは内心案じる。

 

 

「私……何だかその、寂しくて……とても」

 

 ぽつりと呟くように言ってヒナタは俯く。

 

──ネジはそこで漸くヒナタの右手を軽く握り返すが、それ以上どうするわけでもなく遠目から打ち上げられる花火を何とも言えない表情で見つめている。

 

「ごめんさい……何のことか、分からないですよね。自分でも、よく分からなくて」

 

 

「──俺がこうして傍に居ても、寂しいままですか」

 

 

 花火が少しの間打ち上がらずに間を置き、辺りが暗い中ネジはヒナタに顔を向けずに静かに口を開く。

 

 

「あなたは俺に、どうしてほしいのですか」

 

 

「それを、言ったら……ネジ兄さんは、その通りにしてくれるんです、か?」

 

 ネジの左手を握る手に、ヒナタはきゅっと力を込める。

 

 

「……あなたがそれを、望むのであれば」

 

 

「宗家としては、望みません……。ネジ兄さんの、従妹として望んでいいなら──」

 

 ヒナタは言いかけて一度口を噤む。

 

 

「やっぱり……やめておきます。こうして一緒に花火を見に来れただけでも十分だから──おかしな事を言って、ごめんさい」

 

 ネジはそれに対し何も言う事はなく、ヒナタは握っていた従兄の左手をふと離す。

 

……二人は隣合って黙ったまま、遠目から次々に打ち上げられては散る様々な色彩の大輪の花を、思い思いに見つめていた。

 

 

 

「──⋯終わったようですね、戻りましょうか」

 

 帰り際、少し前を行くネジの袖の裾を掴んで歩みを止めるヒナタ。

 

……少し間を置き、後ろから両腕を胴体に回してそっと抱きつく。

 

 

「ほんの……少しの間だけで、いいんです。このままで……いさせて下さい」

 

 微かに震えた従妹の声にネジは何も言わず、されるがまま微動だにしなかった。

 

──従兄の背中を流れる滑らかな髪に顔をうずめ、得も言われぬ香りの中ヒナタは不意に、言い知れぬ寂しさと涙がこみ上げ、僅かながらネジの背中の髪を濡らす。

 

 

……それから、どれくらい経ったのか。

 

ネジは、ヒナタが心の内で望むようには抱き返してくれなかった。

 

ただじっと黙って、啜り泣くヒナタの息遣いを背中で感じていた。

 

 

「──⋯ごめんさい……もう、大丈夫です」

 

 自分で言っておいて何が大丈夫なのか分からなかったが、そう言うしかなかったヒナタはネジの背中からおもむろに離れた。

 

その時ふとネジが振り向き、ヒナタがハッとして顔を上げると、ネジの右手がヒナタの左頬を撫でるようにそっと触れ、親指で涙の跡をスっ…と拭う。

 

 

── 一瞬、時が止まったかのようだった。

 

 

 暗がりの中でも垣間見える間近の従兄の表情は、哀しみともとれる憂いを帯びている。

 

 

(ネジ兄さんも……、寂しいの……?)

 

 

 しかしその言葉は、口にする事は出来なかった。

 

ヒナタの心の内を知ってか知らずか、ネジはゆっくりとヒナタの左頬から右手を離し、それ以上何をどうするでもなく再び背を向ける。

 

「戻りましょう、……ヒナタ様」

 

 

 

 

 

 ──⋯あの時従兄に触れられた頬がしばらくの間熱を持っているかのうに冷めなかった事を、ヒナタは今でもよく覚えている。

 

大戦で自分とナルトを命懸けで庇い、死したネジの右手をとって自分の左頬に触れさせてみた時は、酷く冷たく感じたのを今でも忘れはしない。

 

ヒナタの言い知れぬ寂しさは、ネジを失った事で増したのは言うまでもない。

 

 あの時……抱き返してもらっていたら、自分の言い知れぬ寂しさを払拭出来たのだろうか。従兄が抱き返してくれなかったのは、そうしたところでヒナタ自身の寂しさを拭う事は出来ないと感じていたからだろうか。

 

互いの寂しさを共有出来なかったのは、やはり従兄の父の死のきっかけを作ってしまった自分自身にあるのかと、ヒナタは思う。

 

……自問自答を繰り返しても、答えは出なかった。

 

 

 

 大戦が終結して数年、ヒナタはあの時従兄のネジと共に見た場所で花火を遠目に見つめていた。

 

 

(大丈夫……、大丈夫なわけ……ないのに。本当は)

 

 

 打ち上げられる花火を目にしながら胸を締め付けられる想いで、涙が頬に伝う。

 

そして一際大きな花火が、ドンッと音を立て夜空を彩った。

 

──それでも尚、心の穴は埋まらない。

 

 

(やっぱり……寂しいよ、ネジ兄さん)

 

 

 

《終》

 

 

 

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